StudyMed医師国家試験

「会社から病状を聞かれたら?」―診療情報を第三者に渡せるときの境界線

第119回医師国家試験 B問題 第22問

国試問題にチャレンジ

第119回 B問題 第22問

個人情報の医療機関から第三者への提供で,本人の同意が必要なのはどれか。

  1. a.患者の職場からの照会への回答
  2. b.調剤薬局からの疑義照会への回答
  3. c.健康保険の審査支払機関からの照会への回答
  4. d.市役所からの生活保護受給者に係る病状調査への回答
  5. e.医療事故発生時の医療事故調査・支援センターへの報告

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、医療機関が持っている患者さんの個人情報を外部に提供するとき、本人の同意が必要になるのはどんな場面かを問う問題だ。ポイントは「原則」と「例外」の構造をつかむこと。それぞれの照会や報告に、法令上の根拠があるかどうかに注目しよう。
医学生医学生
医療者には守秘義務があるので、基本的には全部同意が必要なのかと思ってしまいます。
ドクタードクター
出発点としてはその感覚で正しい。個人情報保護法では、本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供してはならない、というのが原則だ。しかも病歴や診療情報は「要配慮個人情報」にあたり、差別や偏見につながりうるため特に慎重な扱いが求められる。さらに医師には刑法上の秘密漏示罪という守秘義務もかかっている。
医学生医学生
公衆衛生の講義で要配慮個人情報という言葉は聞きました。でも、それだと日常診療が回らない気がします。
ドクタードクター
そこで例外がある。代表的なのは4つ。法令に基づく場合、人の生命・身体・財産の保護のために必要で同意を得るのが難しい場合、公衆衛生の向上や児童の健全育成のためにとくに必要で同意を得るのが難しい場合、そして国や地方公共団体の法定事務に協力する必要がある場合だ。
医学生医学生
感染症法の届出が、本人の同意なしでできるのも「法令に基づく場合」だからですね。
ドクタードクター
その通り。ではこの枠組みで選択肢を見ていこう。まず患者さんの職場からの照会はどうかな。
医学生医学生
会社が従業員の病状を知りたいのは理解できますが、それに答えるよう定めた法律は思いつきません。
ドクタードクター
そう、ここが正解だ。勤務先からの問い合わせには法令上の根拠がなく、生命の危険が迫っているような緊急性もない。本人の同意なく病名を伝えれば、個人情報保護法違反になるうえ、守秘義務違反にも問われうる。職場に情報が必要なときは、本人の同意を得るか、本人に診断書を渡して自分で提出してもらう形をとるんだ。
医学生医学生
調剤薬局からの疑義照会はどうでしょう。臨床実習中、処方について薬剤師さんから病棟に電話がかかってくるのをよく見ました。
ドクタードクター
あれは薬剤師法に基づくもので、薬剤師は処方箋に疑わしい点があれば医師に確認してからでないと調剤してはならないと定められている。それに、患者さん自身が処方箋を持って薬局に行っているわけだから、処方をめぐる医師と薬剤師のやり取りは患者さんの安全な治療のための通常の連携だ。改めて同意を取る必要はない。
医学生医学生
審査支払機関からの照会も、保険診療の仕組みの一部ですよね。
ドクタードクター
そうだね。社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会はレセプトを審査し、必要に応じて医療機関に照会する。レセプトには氏名や傷病名が含まれるから個人情報にはあたるけれど、健康保険法などに基づく業務への対応なので同意は不要だ。
医学生医学生
市役所の生活保護の病状調査は、地方公共団体の事務への協力という例外にあたりそうです。
ドクタードクター
いい読みだ。生活保護法には、福祉事務所が保護の決定や実施のために関係機関に報告を求められる規定がある。病状は就労指導や医療扶助の判断に直結するから、法令に基づく提供として同意なしで回答できる。
医学生医学生
医療事故調査・支援センターへの報告は、医療法で決まった義務でしたよね。
ドクタードクター
その通り。医療に起因する予期しなかった死亡・死産が起きた場合、病院などの管理者は医療事故調査・支援センターへ報告しなければならない。法令上の義務だから同意は不要だけど、報告前に遺族へ説明することは求められている。正確な情報がなければ再発防止のための調査も成り立たないからね。
医学生医学生
「法律で決まっているか」「患者さん自身の医療の一部か」で分けると、職場だけが浮いて見えますね。
ドクタードクター
その整理がまさに大事だ。同じように、学校や民間保険会社からの照会、家族以外の知人への病状説明も原則として同意が必要になる。一方で、裁判所の令状による差押えや児童虐待の通告は、法令に基づき同意なしで対応できる。
医学生医学生
病棟で「会社の上司です」と電話がかかってきたら、うっかり答えてしまいそうで怖いです。
ドクタードクター
現場では本当に起こりうることだよ。電話口では相手の身元も確認しにくいから、たとえ善意の問い合わせでも、本人の同意を確認するまでは「お答えできません」と対応するのが基本だ。それから、亡くなった方の情報は法律上の個人情報には含まれないけれど、医療・介護関係事業者向けのガイダンスでは生存者と同様に安全管理するよう求めている点も覚えておこう。

まとめ

医療機関が患者の個人情報を第三者に提供するには本人の同意が原則として必要で、とくに病歴などの診療情報は要配慮個人情報としてオプトアウトによる提供も認められていません。例外として、法令に基づく場合、生命・身体・財産の保護や公衆衛生のために必要で同意取得が困難な場合、国や地方公共団体の法定事務に協力する場合などは同意なく提供できます。審査支払機関への回答、生活保護法に基づく病状調査への回答、医療事故調査・支援センターへの報告はいずれも法令に根拠があり、薬局からの疑義照会も薬剤師法に基づく患者の医療のための連携です。これに対し患者の勤務先からの照会には法的根拠がなく、本人の同意を得るか、診断書を本人経由で提出する形をとる必要があります。「法令上の根拠があるか」「患者自身の医療の一部か」という視点は、日々の電話対応や書類作成で患者の信頼を守るための基本となります。

解答・解説

正解はaです

医療機関が保有する患者の個人情報を外部(第三者)に提供する際、どのような場合に本人の同意が必要で、どのような場合に同意なしで提供できるかを問う問題である。

原則

個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)では、個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないとされている(第27条第1項)。とくに病歴や診療情報は、不当な差別や偏見につながりうる「要配慮個人情報」にあたり、本人が拒否しない限り提供できるとするオプトアウト方式による提供も認められていない。また医師には刑法上の守秘義務(秘密漏示罪)もかかっている。

同意が不要となる例外

同条は、次のような場合には本人の同意なしに提供できると定めている。 1. 法令に基づく場合 2. 人の生命・身体・財産の保護のために必要で、本人の同意を得ることが困難な場合 3. 公衆衛生の向上や児童の健全な育成のためにとくに必要で、本人の同意を得ることが困難な場合 4. 国の機関や地方公共団体などが法令の定める事務を行うことに協力する必要があり、同意を得ることでその事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある場合 (このほか学術研究目的の例外などがある)

本問の考え方

各選択肢について「その照会・報告に法令上の根拠があるか」「公的な事務への協力か」「患者自身の医療の一環として当然に予定されているものか」を検討する。審査支払機関への回答、生活保護に関する福祉事務所の調査への回答、医療事故調査・支援センターへの報告は、いずれも法令に根拠があり例外にあたる。調剤薬局からの疑義照会も、薬剤師法に基づく照会であり、患者自身の安全な薬物治療のために不可欠である。これに対し、患者の勤務先からの照会には法令上の根拠がなく、患者の医療とも直接関係しないため、例外のどれにも該当せず、本人の同意が必要となる。

選択肢考察

  1. ○a.  患者の職場からの照会への回答

    正しい(本人の同意が必要)。勤務先(事業者)が従業員の病名や病状を問い合わせてきても、それに応じることを義務づける法令はなく、公衆衛生上の緊急性や生命・身体の保護のための例外にも該当しない。診断名や病状は要配慮個人情報であり、本人の同意を得ずに回答すれば個人情報保護法違反となるうえ、医師の守秘義務違反(刑法の秘密漏示罪)にも問われうる。職場への情報提供が必要な場合は、患者本人の同意を得たうえで行うか、患者本人に診断書を交付して本人から提出してもらう形をとる。

  2. ×b.  調剤薬局からの疑義照会への回答

    誤り(同意は不要)。薬剤師は処方箋の内容に疑わしい点があれば、処方した医師に問い合わせて確認した後でなければ調剤してはならないと薬剤師法(第24条)で定められている。疑義照会はこの法律上の義務に基づくものであり、医療機関の回答は法令に基づく情報提供と位置づけられる。また、患者自身が処方箋を薬局に持参して調剤を依頼している以上、処方内容をめぐる医師と薬剤師のやり取りは患者自身の安全な治療のための通常の連携であり、本人の個別の同意を改めて得る必要はない。

  3. ×c.  健康保険の審査支払機関からの照会への回答

    誤り(同意は不要)。社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会などの審査支払機関は、医療機関が提出した診療報酬明細書(レセプト)の内容を審査し、必要に応じて医療機関に照会する。これは健康保険法などの法令に基づく業務であり、保険医療機関はこれに応じる立場にある。レセプトには患者の氏名や傷病名が含まれるため回答内容は個人情報に該当するが、法令に基づく提供として本人の同意なしに行うことができる。

  4. ×d.  市役所からの生活保護受給者に係る病状調査への回答

    誤り(同意は不要)。生活保護法では、保護の実施機関(福祉事務所)が、保護の決定や実施のために必要な場合に、被保護者の状況について関係機関に資料の提供や報告を求めることができると定められている(第29条)。病状は保護の要否や就労指導、医療扶助の判断に直結するため、医療機関の回答は法令に基づく提供、あるいは地方公共団体の法定事務への協力にあたり、本人の同意は不要である。

  5. ×e.  医療事故発生時の医療事故調査・支援センターへの報告

    誤り(同意は不要)。2015年に始まった医療事故調査制度では、医療に起因する(または起因すると疑われる)死亡・死産で、管理者がその発生を予期しなかったものを「医療事故」と定義し、病院などの管理者は遅滞なく医療事故調査・支援センターへ報告しなければならないと医療法(第6条の10)で定めている。法令上の義務に基づく報告であるため、本人や遺族の同意は不要である(なお、報告にあたってはあらかじめ遺族へ説明することが求められている)。正確な患者情報がなければ再発防止につながる調査も成り立たない。

個人情報保護法の基本

・個人情報:生存する個人に関する情報で、氏名、生年月日、顔写真などにより特定の個人を識別できるもの。他の情報と容易に照合でき、それによって特定の個人を識別できるものも含む。個人識別符号(マイナンバー、被保険者証の記号・番号など)もこれに含まれる。 ・要配慮個人情報:人種、信条、病歴、犯罪歴など、本人に対する不当な差別や偏見が生じないよう取扱いにとくに配慮を要する情報。取得にも原則として本人の同意が必要で、オプトアウト方式による第三者提供はできない。診療録、検査結果、処方内容などの診療情報はこれにあたる。 ・死者の情報は法律上の個人情報には含まれないが、医療・介護関係事業者向けのガイダンスでは、生存者と同様に安全管理を行うよう求めている。

医療現場での第三者提供の整理

・同意が必要な例:勤務先・学校・民間保険会社からの照会、家族以外の知人への病状説明など。 ・法令に基づき同意不要となる例:感染症法に基づく届出、審査支払機関への対応、生活保護法に基づく福祉事務所の調査、医療事故調査制度に基づく報告、裁判所の令状による捜索・差押え、児童虐待の通告など。 ・院内掲示等による黙示の同意で扱える例:患者への医療提供のための他の医療機関・薬局との連携など、患者が通常想定している範囲の情報共有。

守秘義務

医師が正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏らすと、刑法の秘密漏示罪に問われる。個人情報保護法とは別に課される義務であり、法令に基づく報告など正当な理由がある場合には違法とならない。

POINT

・第三者提供は原則として本人の同意が必要。例外は「法令に基づく」「生命・身体・財産の保護で同意取得困難」「公衆衛生・児童の健全育成で同意取得困難」「国・地方公共団体の法定事務への協力」。 ・病歴などの診療情報は要配慮個人情報であり、オプトアウトでの提供は不可。 ・患者の勤務先からの病状照会には法的根拠がなく、本人の同意が必要。 ・審査支払機関、生活保護の病状調査、医療事故調査・支援センターへの報告、薬局からの疑義照会は同意なしで対応できる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。