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「現代版ヒポクラテスの誓い」はどれ?―ジュネーブ宣言と医の倫理の国際宣言を整理する

第120回医師国家試験 B問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第120回 B問題 第15問

ジュネーブ宣言で正しいのはどれか。

  1. a.医師の倫理に関する宣言
  2. b.患者の権利と責任に関する宣言
  3. c.プライマリヘルスケアに関する宣言
  4. d.ヒトを対象とする医療研究の倫理に関する宣言
  5. e.ヘルスデータベースとバイオバンクの倫理に関する宣言

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は医の倫理に関する国際宣言の問題だ。宣言の名前だけでは区別しにくいけれど、それぞれ「何をテーマにしているか」「どの組織が出したか」「なぜ生まれたか」をセットにすると一気に覚えやすくなる。まずはジュネーブ宣言について、知っていることはあるかな。
医学生医学生
医学概論の講義で聞いた気がしますが、ヘルシンキ宣言と混ざってしまいます。どちらも研究倫理だったような……。
ドクタードクター
そこが一番よくある混同だね。ヘルシンキ宣言はヒトを対象とする医学研究の倫理原則で、ジュネーブ宣言は医師そのものの倫理、つまり医師として何を誓うかを定めたものなんだ。1948年に世界医師会が採択していて、「現代版ヒポクラテスの誓い」とも呼ばれている。
医学生医学生
1948年というと、第二次世界大戦の直後ですね。
ドクタードクター
鋭いね。戦時中、ナチス・ドイツなどで医師が非人道的な人体実験や虐殺に加担した。その反省から、古代ギリシャのヒポクラテスの誓いを現代にふさわしい形に改めたのがジュネーブ宣言だ。今でも世界各地の医学校で、医師になるときの誓いの言葉として使われているよ。
医学生医学生
白衣式で読み上げた誓いの文言も、もしかしてこれがもとになっていたんでしょうか。
ドクタードクター
大学によってはそうだね。中身を見ると、人類への奉仕に生涯を捧げること、患者の健康と安寧を第一に考えること、守秘義務、年齢・疾病・障害・信条・性別・国籍・人種・性的指向・社会的地位などで患者を差別しないこと、人命を最大限に尊重すること、脅されても医学の知識を人権侵害に使わないこと、などが並んでいる。2017年の改訂では患者の自律と尊厳の尊重や、医師自身の健康への配慮も加わった。だから正解は「医師の倫理に関する宣言」だ。
医学生医学生
では「患者の権利と責任に関する宣言」は、患者側から見た宣言ということですか。
ドクタードクター
その通り。患者の権利を扱うのは1981年に世界医師会が採択したリスボン宣言だ。良質の医療を受ける権利、医師を自由に選ぶ権利、自己決定権、情報を得る権利などを掲げている。ジュネーブ宣言が医師の側の誓い、リスボン宣言が患者の側の権利、と対にして覚えるといい。
医学生医学生
プライマリヘルスケアは公衆衛生の講義で出てきました。アルマ・アタ宣言ですよね。
ドクタードクター
正解。1978年、旧ソ連のアルマ・アタでWHOとUNICEFが開いた国際会議で採択された。「2000年までにすべての人に健康を」を掲げ、住民参加や地域資源の活用を重視した身近な保健医療を求めたものだ。ここで大事なのは、世界医師会ではなくWHOとUNICEFが出した宣言だという点だね。
医学生医学生
研究倫理がヘルシンキ宣言だとすると、ヘルスデータベースとバイオバンクの宣言はどこに入るんでしょう。研究室配属のとき、検体を使う研究で包括的な同意書があって不思議に思っていました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。それが2016年に世界医師会が採択した台北宣言だ。ヘルシンキ宣言は個々の研究ごとに同意を得ることが前提だけれど、大量の健康データや生体試料を将来のさまざまな研究に繰り返し使う場面が増えて、それだけでは対応しきれなくなった。そこで、同意のあり方、管理体制、プライバシー保護を補う宣言として定められたんだ。
医学生医学生
ヘルシンキ宣言の前身はニュルンベルク綱領でしたっけ。
ドクタードクター
そう。ナチスの人体実験を裁いた医師裁判から生まれた1947年のニュルンベルク綱領が、被験者の自発的同意を絶対条件として示した。それを医学研究全体の倫理原則として発展させたのが1964年のヘルシンキ宣言で、インフォームド・コンセントや倫理委員会の審査、弱い立場にある人の保護などを定め、今も改訂が続いている。
医学生医学生
整理すると、医師の誓いがジュネーブ、患者の権利がリスボン、研究がヘルシンキ、データとバイオバンクが台北、プライマリヘルスケアがアルマ・アタですね。
ドクタードクター
完璧だ。さらに、ヘルスプロモーションのオタワ憲章もWHOによるものとして一緒に押さえておこう。そしてこれらの宣言の土台にあるのが、自律尊重・善行・無危害・正義という医療倫理の4原則だ。
医学生医学生
年号や都市名を丸暗記するより、どんな反省や必要性から生まれたかを考えるほうが頭に入りそうです。
ドクタードクター
まさにそれが大事なんだ。臨床に出ると、守秘義務、患者の自己決定、研究への協力依頼など、こうした宣言の考え方に直面する場面が日常的にある。迷ったときに立ち返る原点として、知識だけでなく自分の姿勢として身につけておいてほしいね。

まとめ

ジュネーブ宣言は1948年に世界医師会が採択した医師の倫理に関する宣言で、ナチスの人体実験などへの反省から生まれた「現代版ヒポクラテスの誓い」です。患者の健康を第一に考えること、守秘義務、差別の禁止、人命の尊重などを誓う内容となっています。患者の権利はリスボン宣言、ヒトを対象とする医学研究はヘルシンキ宣言(前身はニュルンベルク綱領)、ヘルスデータベースとバイオバンクは台北宣言、プライマリヘルスケアはWHO・UNICEFによるアルマ・アタ宣言と、テーマと採択組織をセットで整理しておくと混同を防げます。これらの宣言は医療倫理の4原則と結びついており、日常診療や研究で倫理的判断を迫られたときの拠り所になります。

解答・解説

正解はaです

医の倫理に関わる主な国際宣言を、内容と結びつけて覚えているかを問う問題である。 ジュネーブ宣言は、1948年に世界医師会(World Medical Association:WMA)が採択した、医師として守るべき倫理を誓う宣言である。第二次世界大戦中、ナチス・ドイツなどで医師が非人道的な人体実験や虐殺に加担した。この反省を受けて、古代ギリシャの「ヒポクラテスの誓い」を現代にふさわしい形に改めたもので、「現代版ヒポクラテスの誓い」とも呼ばれる。医師の資格を得る際の誓いの言葉として、世界各地の医学校で用いられている。 設問では、選択肢に並んだ宣言の主題から、それぞれどの宣言に当たるかを考える。 ・医師の倫理(医師の誓い):ジュネーブ宣言 ・患者の権利:リスボン宣言 ・プライマリヘルスケア:アルマ・アタ宣言 ・ヒトを対象とする医学研究の倫理:ヘルシンキ宣言 ・ヘルスデータベースとバイオバンクの倫理:台北宣言 この対応から、ジュネーブ宣言にあたるのは「医師の倫理に関する宣言」である。

選択肢考察

  1. ○a.  医師の倫理に関する宣言

    ジュネーブ宣言の内容そのものであり、正しい。1948年に世界医師会の第2回総会(ジュネーブ)で採択され、その後何度も改訂されている。主な内容は、人類への奉仕に生涯を捧げること、患者の健康と安寧を第一に考えること、患者の秘密を守ること(守秘義務)、年齢・疾病・障害・信条・民族・性別・国籍・政治的所属・人種・性的指向・社会的地位などによって患者を差別しないこと、人命を最大限に尊重すること、脅迫されても医学の知識を人権や市民の自由を侵すために使わないこと、である。2017年の改訂では、患者の自律と尊厳の尊重や、医師自身の健康と能力への配慮が加えられた。

  2. ×b.  患者の権利と責任に関する宣言

    ジュネーブ宣言ではない。患者の権利を主題とする国際宣言は、1981年に世界医師会が採択したリスボン宣言(患者の権利に関するWMAリスボン宣言)である。良質の医療を受ける権利、医師などを自由に選ぶ権利、自己決定の権利、情報を得る権利、守秘義務に関する権利、健康教育を受ける権利、尊厳への権利などを掲げている。ジュネーブ宣言が医師の側の誓いであるのに対し、リスボン宣言は患者の側の権利を示した点が異なる。

  3. ×c.  プライマリヘルスケアに関する宣言

    ジュネーブ宣言ではない。プライマリヘルスケアに関する宣言は、1978年に世界保健機関(WHO)と国連児童基金(UNICEF)が、旧ソ連のアルマ・アタ(現カザフスタンのアルマティ)で開いた国際会議で採択したアルマ・アタ宣言である。「2000年までにすべての人に健康を(Health for All by the year 2000)」を目標に掲げ、住民の参加や地域の資源の活用を重視した、身近で基本的な保健医療の推進を求めた。2018年には、その理念を再確認するアスタナ宣言が採択されている。世界医師会ではなくWHOとUNICEFによる宣言である点も押さえておく。

  4. ×d.  ヒトを対象とする医療研究の倫理に関する宣言

    ジュネーブ宣言ではない。ヒトを対象とする医学研究の倫理原則は、1964年に世界医師会が採択したヘルシンキ宣言である。被験者の福利を科学や社会の利益より優先すること、十分な説明に基づく自由意思による同意(インフォームド・コンセント)、倫理委員会による審査、プラセボの使用条件、弱い立場にある人々の保護などを定めている。何度も改訂されており、直近では2024年に改訂された。前身として、ナチスの人体実験を裁いた医師裁判から生まれたニュルンベルク綱領(1947年)がある。

  5. ×e.  ヘルスデータベースとバイオバンクの倫理に関する宣言

    ジュネーブ宣言ではない。ヘルスデータベースとバイオバンク(生体試料とその関連情報を集めて保管し、研究に利用する仕組み)の倫理に関する宣言は、2016年に世界医師会が採択した台北宣言である。大量の健康データや試料を、将来のさまざまな研究に繰り返し使う場面が増えた。個々の研究ごとに同意を得ることを前提とするヘルシンキ宣言だけでは十分に対応できないため、それを補うものとして定められた。データの収集・保管・利用における同意のあり方、ガバナンス(管理体制)、プライバシーの保護などを扱っている。

医の倫理に関わる主な宣言・綱領

・ヒポクラテスの誓い(古代ギリシャ):医師の職業倫理の原点。患者の利益を優先すること、害をなさないこと、秘密を守ることなどを誓う。 ・ニュルンベルク綱領(1947年):ナチスの人体実験への反省から生まれた。被験者の自発的同意が絶対に必要であるとする、人体実験に関する10項目の原則。 ・ジュネーブ宣言(1948年、WMA):医師の倫理。現代版ヒポクラテスの誓い。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、WMA):ヒトを対象とする医学研究の倫理原則。 ・アルマ・アタ宣言(1978年、WHO・UNICEF):プライマリヘルスケア。 ・リスボン宣言(1981年、WMA):患者の権利。 ・オタワ憲章(1986年、WHO):ヘルスプロモーション。 ・台北宣言(2016年、WMA):ヘルスデータベースとバイオバンクの倫理。

医療倫理の4原則(Beauchamp & Childress)

自律尊重、善行(与益)、無危害、正義(公正)の4つである。これらの宣言の背景にある基本的な考え方として、あわせて理解しておくとよい。

POINT

・ジュネーブ宣言=医師の倫理(現代版ヒポクラテスの誓い)。1948年、世界医師会。 ・リスボン宣言=患者の権利、ヘルシンキ宣言=ヒトを対象とする医学研究、台北宣言=ヘルスデータベース・バイオバンク、アルマ・アタ宣言=プライマリヘルスケア。 ・アルマ・アタ宣言(とオタワ憲章)はWHOによるもので、それ以外は世界医師会による宣言である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。