StudyMed医師国家試験

「何人と?」をためらわない―性感染症診療の第一歩は性交渉歴の聴き方にある

第119回医師国家試験 E問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第119回 E問題 第4問

性感染症が疑われる患者に対して,性交渉歴に関する病歴聴取を行う場合に正しいのはどれか。

  1. a.初診時には聴取をしない。
  2. b.性交渉相手の人数を確認する。
  3. c.未成年の患者では保護者を同席させる。
  4. d.配偶者との性交渉については聴取しない。
  5. e.経口避妊薬を服用している患者には聴取しない。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、性感染症が疑われる患者さんから性交渉歴をどう聴き取るか、という医療面接の問題だよ。知識というより「診療の姿勢」が問われている。ポイントは、何のために聴くのか、そしてどうすれば正直に答えてもらえるのか、の2つだ。
医学生医学生
正直、性の話は聞きにくいです。OSCEの医療面接の練習でも、性交渉歴のところで言葉に詰まってしまいました。
ドクタードクター
多くの人がそうだと思う。でも性感染症では、性交渉歴が感染リスクの評価、どの検査を出すかの判断、さらにパートナーの検査・治療につながる大事な情報なんだ。だから、聞きにくいから後回しにする、というのは診療上の損失になる。
医学生医学生
じゃあ、初診のときは信頼関係ができていないので控える、というのも違うんですね。
ドクタードクター
そう。性感染症は早く診断・治療するほど、骨盤内炎症性疾患や不妊症、神経梅毒といった合併症を防げるし、周囲への感染拡大も止められる。初診時から、聴く理由と秘密が守られることを説明したうえで、率直に尋ねるのが基本だ。
医学生医学生
そうすると、性交渉相手の人数を確認するのが正しい対応でしょうか。人数が多いほどリスクが高い、と感染症の講義で習いました。
ドクタードクター
正解。相手の人数はリスク評価の基本中の基本だ。それに、相手を把握できれば、その人たちにも検査や治療を勧めるパートナー治療につなげられる。クラミジアや淋菌感染症では、本人だけ治しても無症状のパートナーからまたうつる、いわゆるピンポン感染が起こりやすいからね。
医学生医学生
未成年の患者さんなら、保護者に同席してもらった方が安心な気もするんですが。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。保護者の前で、自分の性行動を正直に話せる若い人はほとんどいない。性交渉歴は原則として本人だけから、個室などプライバシーが守られる環境で聴く。付き添いがいる場合は、まず本人と二人で話し、同伴者にどこまで伝えてよいかも本人に確認する。治療方針の同意などで保護者の関与が必要になる場面はあるけれど、それは聴取の段階とは別の話だ。
医学生医学生
配偶者との性交渉は聞かなくていい、というのも違和感があります。夫婦間でもうつりますよね。
ドクタードクター
その通り。配偶者がほかの相手から感染して患者さんにうつした可能性も、逆に患者さんが配偶者にうつしている可能性もある。結婚しているから安全、という思い込みで聴取を省くと、治療後に再感染を繰り返すことになる。
医学生医学生
経口避妊薬を飲んでいる人は、きちんと避妊しているから聞かなくていい……というわけでもないですよね。
ドクタードクター
むしろ逆だよ。低用量ピルは排卵を抑えて妊娠を防ぐ薬で、病原体の伝播は防げない。ピルで避妊できるからとコンドームを使わなくなれば、性感染症のリスクはかえって上がる。服用していること自体が性交渉があることを示しているから、コンドームの使用状況も含めてしっかり聴くべきなんだ。
医学生医学生
結局、年齢や婚姻関係、服薬内容で「この人には不要」と決めつけないことが大事なんですね。
ドクタードクター
まさにそこが核心だ。聴取の枠組みとして、米国CDCが提唱している「5つのP」が参考になる。Partners(相手の人数・性別・新しい相手の有無)、Practices(性器・口腔・肛門など性行為の種類)、Protection(コンドームの使用)、Past history(性感染症の既往)、Pregnancy intention(妊娠の希望と避妊)だ。
医学生医学生
性行為の種類まで聞くのは、咽頭や直腸の感染を考えるためですか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。淋菌やクラミジアは咽頭や直腸にも感染するから、性行為の種類によって検体を採る部位が変わる。もう一つ大事なのは言葉選びで、「ご結婚されていますか」ではなく「現在、性交渉の相手はいますか」のように、婚姻や性的指向を前提にしない中立的な聞き方をすること。「皆さんに同じことをお聞きしています」と添えると、ぐっと答えやすくなるよ。
医学生医学生
産婦人科の実習で、先生が問診の前に必ずカーテンを閉めて「ここでの話は外に出ません」と伝えていたのを思い出しました。
ドクタードクター
それがまさに実践だね。最近は日本でも梅毒の報告数が大きく増えていて、性感染症はどの診療科でも出会いうる。聴き方ひとつで得られる情報が大きく変わることを、ぜひ覚えておいてほしい。

まとめ

性感染症が疑われる患者では、性交渉歴は感染リスクの評価、検査の選択、パートナー治療による感染拡大防止に欠かせない情報であり、初診時から目的と守秘を説明したうえで率直に聴取します。性交渉相手の人数はリスク評価の基本で、相手の性別や新しい相手の有無、性行為の種類、コンドーム使用、既往歴とあわせて確認します。聴取は本人のみ・プライバシーが守られる環境で行い、未成年でも保護者を同席させず、配偶者との性交渉や経口避妊薬服用者についても省略してはいけません。米国CDCの「5つのP」や中立的な言葉選びを身につけることは、梅毒が増加している現在、どの診療科でも役立つ医療面接の基本技術です。

解答・解説

正解はbです

性感染症(sexually transmitted infection:STI)は、性的接触によって病原体が伝播する感染症の総称であり、梅毒、淋菌感染症、性器クラミジア感染症、性器ヘルペス、尖圭コンジローマ、HIV感染症、B型肝炎などが含まれる。STIが疑われる患者では、性交渉歴は感染リスクの評価、検査項目の選択、パートナーの検査・治療(感染拡大の防止)のために欠かせない情報である。 一方で、性に関する話題は患者にとって話しにくく、聴取の仕方を誤ると正確な情報が得られない。そのため、聴取にあたっては次の姿勢が基本となる。 ・必要性を説明したうえで、初診時から積極的かつ率直に聴取する。 ・プライバシーが守られる環境(原則として本人のみ)で聴取し、守秘を保証する。 ・偏見や価値判断を交えず、婚姻関係・年齢・性別・性的指向などで「この人には不要」と決めつけない。 ・具体的な事項(相手の人数・性別、性行為の種類、コンドームの使用状況、STIの既往、最後の性交渉の時期など)を確認する。 この考え方に沿って選択肢をみると、リスク評価に直結する「性交渉相手の人数」を確認するbが正しく、そのほかは聴取の機会を逃す、あるいは正直な回答を妨げる対応である。

選択肢考察

  1. ×a.  初診時には聴取をしない。

    誤り。STIが疑われる場合、性交渉歴は診断の方向づけに直結する情報であり、初診時から聴取すべきである。STIは早期に診断・治療するほど本人の合併症(不妊症、骨盤内炎症性疾患、神経梅毒など)を防ぎ、パートナーへの感染拡大も防ぐことができる。聴取の目的と必要性、秘密が守られることを説明し、患者の了解を得てためらわずに尋ねる。

  2. ○b.  性交渉相手の人数を確認する。

    正しい。性交渉相手の人数が多いほどSTIに罹患するリスクは高まるため、人数はリスク評価の基本となる情報である。また、相手が特定できれば、感染経路をたどってパートナーにも検査・治療を勧めることができ(パートナー治療)、再感染(いわゆるピンポン感染)や地域での感染拡大の防止にもつながる。人数とあわせて、相手の性別、新しい相手の有無、性行為の種類(性器・口腔・肛門)、コンドームの使用状況なども確認する。

  3. ×c.  未成年の患者では保護者を同席させる。

    誤り。保護者、配偶者、パートナーなどが同席していると、患者は自分の性交渉について正直に話しにくく、特に未成年者が保護者の前で性行動を打ち明ける可能性は低い。性交渉歴の聴取は、原則として本人のみを診察室に入れ、プライバシーに配慮した環境で行う。付き添いがいる場合は、まず本人だけから話を聞き、同伴者にどこまで伝えてよいかも本人に確認する。なお、未成年者の治療方針の同意などで保護者の関与が必要な場面はあるが、病歴聴取の段階で保護者を同席させるのは適切でない。

  4. ×d.  配偶者との性交渉については聴取しない。

    誤り。配偶者との間でもSTIは伝播しうる。配偶者が他の相手から感染してそれを患者にうつした可能性も、逆に患者が配偶者に感染させている可能性もある。配偶者を含めたすべての性交渉相手について聴取し、必要に応じて配偶者の検査・治療につなげなければ、治療後に再感染を繰り返すことになる。婚姻関係があるから安全だという思い込みで聴取を省略してはならない。

  5. ×e.  経口避妊薬を服用している患者には聴取しない。

    誤り。経口避妊薬(低用量ピル)は排卵を抑えて妊娠を防ぐ薬であり、STIの病原体の伝播を防ぐ効果はない。むしろ経口避妊薬で避妊ができることからコンドームを使わなくなると、STIのリスクは高くなる。経口避妊薬を服用していること自体が性交渉があることを示唆しており、性交渉歴とコンドームの使用状況をしっかり聴取すべきである。

性交渉歴聴取の枠組み「5つのP」(米国CDCの提唱)

・Partners(パートナー): 相手の人数、性別、新しい相手の有無、相手のSTIリスク ・Practices(性行為の内容): 性器・口腔・肛門などの性交渉の種類 ・Protection from STIs(STI予防): コンドームの使用状況 ・Past history of STIs(STIの既往): 過去のSTI罹患や治療歴、パートナーの既往 ・Pregnancy intention(妊娠の希望・避妊): 妊娠の希望、避妊方法

聴取時の配慮

・個室など他人に聞かれない場所で、本人のみから聴取する。 ・守秘義務があること、診療に必要な質問であることを伝える。 ・「ご結婚されていますか」ではなく「現在、性交渉の相手はいますか」のように、婚姻や性的指向を前提としない中立的な言葉を選ぶ。 ・すべての患者に同じように尋ねていることを伝えると、患者は答えやすくなる。

主な性感染症

・細菌: 梅毒、淋菌感染症、性器クラミジア感染症(わが国で最も多いSTIの一つ) ・ウイルス: 性器ヘルペス、尖圭コンジローマ(ヒトパピローマウイルス)、HIV感染症、B型肝炎 ・原虫: 腟トリコモナス症 近年わが国では梅毒の報告数が大きく増加しており、注意が必要である。

パートナー治療

クラミジアや淋菌などでは、患者だけを治療しても無症状のパートナーから再感染することがあるため、パートナーにも検査・治療を勧めることが重要である。

POINT

・性感染症が疑われる患者では、初診時から性交渉歴を積極的に聴取する。 ・性交渉相手の人数はSTIリスク評価の基本であり、パートナーの検査・治療にもつながる。 ・聴取は本人のみ・プライバシーが守られる環境で行い、保護者や配偶者を同席させない。 ・配偶者との性交渉も感染源・感染先となりうるため聴取する。 ・経口避妊薬にSTI予防効果はなく、コンドーム不使用につながればむしろハイリスクとなる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。