「やっていない診療」を請求した代償―保険医登録取消しが問うもの
第119回医師国家試験 B問題 第25問
国試問題にチャレンジ
診療所長の医師が,実際には行っていない従業員への診療の報酬を繰り返し請求していたことが発覚した。厚生労働大臣はこの医師の保険医登録を取り消す処分を行った。 処分にあたって最も問題とされたのはどれか。
- a.情報開示
- b.法の遵守
- c.労働者保護
- d.経営の健全性
- e.情報セキュリティ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
実際に行っていない診療の報酬を請求する架空請求は、健康保険法や療養担当規則に反する不正請求であり、刑法の詐欺罪にも当たりうる違法行為です。保険診療を行うには医師免許とは別に厚生労働大臣による保険医登録が必要で、不正請求は登録取消しの対象となり、原則5年間は再登録できません。したがって本問の処分で最も問題とされたのは法の遵守(コンプライアンス)であり、情報開示、労働者保護、経営の健全性、情報セキュリティは本事例の論点ではありません。刑事で有罪となれば医道審議会を経て医師免許への処分が別途行われることもあります。保険診療が国民の保険料と公費で支えられていることを理解し、正確な記録と適正な請求を習慣づけることは、医師としての信頼を守る基本です。
解答・解説
正解はbです
状況の整理
診療所長である医師が、実際には行っていない診療について、診療報酬を繰り返し請求していた。これは診療の事実がないのに報酬を請求する「架空請求」であり、診療報酬の不正請求の典型例である。その結果、厚生労働大臣が保険医登録を取り消した。
保険医とは
我が国の公的医療保険(健康保険など)で診療を行うには、医師免許とは別に、健康保険法に基づいて厚生労働大臣の登録を受けた「保険医」である必要がある。保険医は「保険医療機関及び保険医療養担当規則(療養担当規則)」などのルールに従って保険診療を行い、診療報酬を正しく請求する義務を負う。
考え方
架空請求は、健康保険法や療養担当規則に反するだけでなく、保険者(健康保険組合など)から金銭をだまし取る行為として刑法の詐欺罪にも当たりうる。したがって、この処分で最も問題とされたのは、医師として、また保険医として守るべき法令を守っていなかったこと、すなわち「法の遵守(コンプライアンス)」の欠如である。問題文には情報の公開、従業員の権利、経営状態、情報管理に関する問題をうかがわせる記載はない。
選択肢考察
- ×a. 情報開示
情報開示は、診療録の開示請求への対応や、医療機関の情報を患者に公表することなどに関する論点である。本問では医療情報の開示を拒んだり怠ったりした事実は示されておらず、処分の主な理由ではない。
- ○b. 法の遵守
行っていない診療の報酬を請求することは、健康保険法や療養担当規則に定められた保険医の義務に反し、刑法上も詐欺罪に相当しうる違法行為である。保険医登録の取消しは、こうした重大な法令違反に対する行政処分である。したがって、最も問題とされたのは法の遵守(コンプライアンス)である。
- ×c. 労働者保護
架空請求の名目として従業員が使われているが、従業員の労働条件や健康・安全が損なわれたという内容ではない。問題となったのは公的医療保険制度を不正に利用したことであり、労働基準法などの労働者保護の論点ではない。
- ×d. 経営の健全性
不正請求の動機として経営上の事情があった可能性はあるが、問題文には経営が悪化していたことを示す記載はない。処分の根拠は経営状態ではなく、不正な請求という違法行為そのものである。
- ×e. 情報セキュリティ
情報セキュリティは、患者情報の漏洩や不正アクセスの防止などに関する論点である。本問は不正行為が発覚したという事例であり、情報管理の不備が問われているわけではない。
保険医と保険医療機関
・保険医:健康保険法に基づき、厚生労働大臣の登録を受けた医師。保険診療を行うには医師免許に加えてこの登録が必要である。 ・保険医療機関:厚生労働大臣の指定を受けた病院・診療所。保険診療を行う医療機関側の資格である。 ・医師は「保険医」、医療機関は「保険医療機関」という二重の仕組み(二重指定制)になっている。
不正請求に対する処分
・不正請求が明らかになると、指導・監査を経て、保険医登録の取消しや保険医療機関の指定取消しなどの行政処分が行われる。取り消されると、原則として一定期間(5年間)は再登録・再指定を受けられない。 ・不正に受け取った診療報酬は返還を求められ、加算金が課されることもある。 ・刑事事件として詐欺罪で有罪となった場合などには、医師法に基づき、医道審議会の意見を聴いて医業停止や免許取消しといった医師免許に対する処分が別途行われることもある。
医療におけるコンプライアンス
医師は、医師法・医療法・健康保険法・医薬品医療機器等法(旧薬事法)などの法令を守ることを前提に診療を行う。保険診療は国民の保険料や公費で成り立つ制度であり、その信頼を損なう不正請求は厳しく処分される。
POINT
・行っていない診療の報酬を請求する架空請求は診療報酬の不正請求であり、法令違反である。 ・保険医の登録は健康保険法に基づき厚生労働大臣が行い、不正請求は登録取消しの対象となる。 ・架空請求は刑法の詐欺罪にも当たりうる。 ・本問の処分で問題とされたのは「法の遵守(コンプライアンス)」である。
