焼き肉のあとに来た「三つの異常」―血便から始まる溶血性尿毒症症候群を見抜く
第119回医師国家試験 D問題 第51問
国試問題にチャレンジ
26歳の女性。血便と腹痛を主訴に来院した。1週間前に家族で焼き肉を食べた。3日前から血便と腹痛が出現し,自宅で様子を見ていたが改善せず,反応が乏しくなったことを心配した家族に連れられて来院した。健康診断で異常を指摘されたことはない。意識レベルはJCSⅠ-2。身長163cm,体重52kg。体温38.2℃。脈拍96/分,整。血圧96/60mmHg。SpO2 96%(room air)。皮膚は乾燥している。腹部は平坦で,腸雑音は減弱している。下腹部正中に軽度の圧痛を認めるが,筋性防御は認めない。尿所見:蛋白(-),糖(-),ケトン体2+,潜血1+。血液所見:赤血球325万,Hb 9.4g/dL,白血球8,700,血小板5.2万。血液生化学所見:総蛋白7.2g/dL,アルブミン3.8g/dL,総ビリルビン1.0mg/dL,AST 19U/L,ALT 19U/L,LD 326U/L(基準124~222),尿素窒素50mg/dL,クレアチニン4.2mg/dL,Na 138mEq/L,K 3.1mEq/L,Cl 102mEq/L。CRP 5.0mg/dL。末梢血塗抹標本で破砕赤血球を認める。 診断はどれか。
- a.感染後糸球体腎炎
- b.溶血性尿毒症症候群
- c.急速進行性糸球体腎炎
- d.播種性血管内凝固〈DIC〉
- e.全身性エリテマトーデス〈SLE〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
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ドクターまとめ
微小血管障害性溶血性貧血(破砕赤血球、LD上昇を伴う貧血)、血小板減少、急性腎障害の三つがそろえば血栓性微小血管症(TMA)を考え、肉類の摂取後に血便を伴う腸炎が先行していれば、志賀毒素産生性大腸菌による溶血性尿毒症症候群と診断できます。糸球体腎炎は溶血や血小板減少を伴わず、DICは凝固・線溶系の異常と基礎疾患が中心、SLEはCoombs陽性の溶血と慢性の多臓器障害が特徴であり、これらとの鑑別がポイントです。治療は輸液や透析などの支持療法が中心で、止痢薬は避け、抗菌薬については見解が分かれています。意識障害やけいれんは脳症の合併を示唆して予後に直結し、腸管出血性大腸菌感染症は3類感染症として直ちに届け出が必要です。三主徴からTMAを想起し、病歴で病型を絞る思考は、救急外来で重症例を見逃さないための基本になります。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
・26歳の女性。これまで健康診断で異常を指摘されたことはない。 ・1週間前に家族で焼き肉を食べ、その数日後(3日前)から血便と腹痛が出ている → 加熱が不十分な牛肉などを介した腸管出血性大腸菌(EHEC:enterohemorrhagic Escherichia coli、O157など)による出血性腸炎を強く疑う。EHECの潜伏期は通常3〜5日程度である。 ・反応が乏しくなり、JCS(Japan Coma Scale)Ⅰ-2(覚醒しているが見当識障害がある) → 軽い意識障害。中枢神経障害(脳症)の始まりを示唆する。 ・発熱38.2℃、血圧96/60mmHg、皮膚乾燥、尿ケトン体2+、K 3.1 mEq/L → 下痢と経口摂取の低下による脱水と低カリウム血症。 ・Hb 9.4 g/dLの貧血、LD 326 U/Lの上昇、末梢血の破砕赤血球 → 赤血球が微小血管内で機械的に壊される溶血(微小血管障害性溶血性貧血)。 ・血小板5.2万/μLと低下。 ・尿素窒素50 mg/dL、クレアチニン4.2 mg/dL → 急性腎障害(健診で異常がなかったので急性発症と判断できる)。尿潜血1+。 ・AST・ALT・総ビリルビンは正常で、肝障害はない。
診断へのプロセス
①微小血管障害性溶血性貧血(破砕赤血球+LD上昇+貧血)、②血小板減少、③急性腎障害の3つがそろっている。これは血栓性微小血管症(TMA:thrombotic microangiopathy)の病像であり、微小血管内に血小板血栓ができ、そこを通る赤血球が壊され、血栓で臓器(ここでは腎臓)の血流が障害される。 TMAの代表的疾患には溶血性尿毒症症候群(HUS)と血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)がある。本例は、焼き肉の摂取後に血便を伴う腸炎が先行し、その後に腎障害が前面に出ているため、志賀毒素(ベロ毒素)産生性大腸菌による典型的なHUS(STEC-HUS)と考えられる。意識障害はHUSの重要な合併症である脳症の可能性があり、注意を要する。
設問の考え方
「血便を伴う腸炎の後に、溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害」という組み合わせからHUSを想起できるかが問われている。糸球体腎炎やDIC、SLEとの区別は、破砕赤血球を伴う溶血と血小板減少があるか、凝固異常があるか、病歴(先行する出血性腸炎)がどうかに注目して行う。
選択肢考察
- ×a. 感染後糸球体腎炎
感染後糸球体腎炎の代表は溶連菌感染後急性糸球体腎炎で、咽頭炎から1〜2週後(皮膚感染では3〜6週後)に、血尿、蛋白尿、浮腫、高血圧で発症し、血清補体価(C3)が低下する。免疫複合体による糸球体の炎症であり、破砕赤血球を伴う溶血性貧血や血小板減少は通常みられない。本例は尿蛋白が陰性で、浮腫や高血圧もなく(むしろ脱水で血圧は低め)、先行するのも咽頭炎ではなく出血性腸炎であり、合致しない。
- ○b. 溶血性尿毒症症候群
HUSは、微小血管障害性溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害を三主徴とするTMAである。本例では、破砕赤血球・LD上昇を伴う貧血(Hb 9.4 g/dL)、血小板5.2万/μL、クレアチニン4.2 mg/dLの急性腎障害がそろっている。焼き肉の摂取後に血便と腹痛が先行していることから、EHECが産生する志賀毒素が腸管から吸収され、腎糸球体などの血管内皮細胞を傷害して発症した典型的HUSと考えられる。HUSは一般に下痢の発症から1週間前後で起こりやすく、本例の経過にも合う。意識障害は、HUSに合併する脳症の可能性を示唆し、生命予後に関わる。
- ×c. 急速進行性糸球体腎炎
急速進行性糸球体腎炎(RPGN)は、数週〜数か月の経過で腎機能が急速に悪化する腎炎症候群で、病理学的には半月体形成性糸球体腎炎を呈する。ANCA関連血管炎、抗GBM抗体病、免疫複合体型(ループス腎炎など)が原因となる。尿所見では蛋白尿や変形赤血球を伴う血尿、赤血球円柱が目立ち、破砕赤血球を伴う溶血性貧血や著明な血小板減少は通常伴わない。本例は数日の急性経過で、蛋白尿もなく、出血性腸炎に続く溶血と血小板減少があるため、合致しない。
- ×d. 播種性血管内凝固〈DIC〉
DICは、敗血症、急性白血病(特に急性前骨髄球性白血病)、固形癌、産科合併症、重症外傷などの基礎疾患によって凝固系が全身で過剰に活性化される病態である。血小板減少に加え、凝固因子の消費によるPT延長、フィブリノゲン低下、線溶亢進を反映したFDP・Dダイマーの上昇がみられる。破砕赤血球がみられることもあるが、診断の中心は凝固・線溶系の異常である。本例では凝固検査の異常は示されておらず、重篤な基礎疾患もない。腸炎の後に溶血・血小板減少・腎障害が前面に出る経過はHUSに典型的である。HUSでは凝固系検査は通常、ほぼ正常に保たれる点がDICとの鑑別になる。
- ×e. 全身性エリテマトーデス〈SLE〉
SLEは若い女性に多い自己免疫疾患で、抗核抗体・抗dsDNA抗体などが作られ、免疫複合体が沈着することで皮膚(蝶形紅斑)、関節、腎(ループス腎炎)、血液(Coombs陽性の自己免疫性溶血性貧血、白血球減少、血小板減少)、中枢神経などの多臓器が障害される慢性の疾患である。SLEにTMAが合併することもまれにあるが、本例は焼き肉の摂取後に血便と腹痛で急性に発症しており、皮疹・関節痛などSLEを示す所見もない。SLEでよくみられる白血球減少もなく、本例には合わない。
血栓性微小血管症(TMA)
微小血管障害性溶血性貧血、消費性の血小板減少、微小血管内の血小板血栓による臓器障害を特徴とする病態の総称である。 ・STEC-HUS(典型的HUS):志賀毒素産生性大腸菌(O157が最多で、O26、O111なども原因となる)による。小児に多いが成人にも起こる。出血性腸炎の患者のうち数%〜十数%程度がHUSを発症し、下痢の発症から1週間前後で起こることが多い。 ・非典型HUS(aHUS):補体の制御因子(H因子、I因子など)の遺伝子異常や自己抗体によって補体の第二経路が過剰に活性化される。抗C5モノクローナル抗体(エクリズマブ、ラブリズマブ)で治療する。 ・TTP:ADAMTS13(von Willebrand因子を切断する酵素)の活性が著しく低下する(多くは自己抗体による後天性)。古典的には、溶血性貧血、血小板減少、腎障害、発熱、動揺する精神神経症状の5徴候で知られる。血漿交換が治療の柱であり、ステロイドやリツキシマブ、カプラシズマブを併用する。 ・二次性TMA:薬剤(カルシニューリン阻害薬、抗癌薬など)、造血幹細胞移植、悪性腫瘍、膠原病、妊娠などに伴う。
HUSの検査所見
・破砕赤血球の出現、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下(溶血の指標)。直接Coombs試験は陰性。 ・血小板減少。 ・BUN・クレアチニンの上昇、血尿、蛋白尿。 ・凝固系(PT、APTT、フィブリノゲン)は基本的にほぼ正常で、DICとの鑑別点となる。 ・便培養、便中志賀毒素の検出、O157抗原、血清のO157 LPS抗体などで原因菌を確認する。
STEC-HUSの治療
・支持療法が中心となる。輸液・電解質の管理を行い、急性腎障害には必要に応じて透析を行う。重度の貧血には赤血球輸血を行う。血小板輸血は血栓形成を助長するおそれがあるため、活動性出血や侵襲的処置の際に限るのが原則である。 ・止痢薬(腸管運動抑制薬)は毒素の吸収を増やすおそれがあるため使わない。 ・抗菌薬の投与については、菌が壊れて毒素が放出されHUSのリスクが高まるという懸念もあり、効果について一致した見解は得られていない。 ・脳症(意識障害、けいれん)を合併した重症例では、血漿交換などを検討することがある。 ・腸管出血性大腸菌感染症は感染症法の3類感染症であり、診断した医師は直ちに届け出る。家族内の二次感染や食中毒としての調査にも注意する。
POINT
・TMAの三主徴:微小血管障害性溶血性貧血(破砕赤血球、LD上昇)、血小板減少、臓器障害(HUSでは急性腎障害)。 ・肉類の摂取 → 数日後に血便・腹痛 → 約1週間後に溶血、血小板減少、腎障害 → 腸管出血性大腸菌(O157など)によるHUS。 ・HUSでは凝固系は概ね正常で、DICとの鑑別点になる。 ・意識障害やけいれんは脳症の合併を示唆し、予後に直結する。 ・止痢薬は使わない。抗菌薬の使用については見解が分かれている。 ・腸管出血性大腸菌感染症は3類感染症で、直ちに届け出る。
