クレアチニンが正常でも安心できない―糖尿病性腎症は尿中アルブミンで早期に見つける
第119回医師国家試験 D問題 第42問
国試問題にチャレンジ
68歳の男性。血糖コントロール及び合併症の精査のため紹介受診した。糖尿病は55歳時に指摘され,自宅近くの医療機関で血糖降下薬を処方されており,3年前からは注射薬への変更を勧められていたが,内服薬を継続していた。眼科で単純網膜症を指摘されており,歯科で歯周病の治療を行っている。身長168cm,体重64kg。体温36.4℃。脈拍60/分,整。血圧132/80mmHg。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟。四肢に浮腫を認めない。腱反射はアキレス腱反射のみ両側で減弱を認め,両下肢内顆の振動覚の低下を認める。血液所見:赤血球468万,Hb 13.9g/dL,Ht 42%,白血球12,300,血小板21万。血液生化学所見:アルブミン3.9g/dL,AST 28U/L,ALT 26U/L,γ-GT 62U/L(基準13~64),尿素窒素12mg/dL,クレアチニン0.9mg/dL,尿酸6.9mg/dL,血糖168mg/dL,HbA1c 7.8%(基準4.9~6.0),総コレステロール216mg/dL,トリグリセリド160mg/dL,HDLコレステロール42mg/dL,Na 136mEq/L,K 4.4mEq/L,Cl 97mEq/L。心電図に異常を認めない。 この患者の腎合併症評価に必要な尿検査項目はどれか。
- a.尿潜血
- b.尿比重
- c.尿ケトン体
- d.尿中アルブミン
- e.尿中β2-マイクログロブリン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
糖尿病性腎症は細小血管障害の一つで、網膜症や神経障害がすでにある患者では腎症の合併も強く疑われます。早期には血清クレアチニンやeGFRがほとんど変化せず、試験紙法の尿蛋白も陰性になりやすいため、随時尿の尿中アルブミン/クレアチニン比による定量が早期診断と病期判定に不可欠です(30〜299mg/gCrが微量、300以上が顕性アルブミン尿で、日を変えた3回中2回以上で判定)。尿潜血は糸球体腎炎や尿路疾患、尿ケトン体はケトアシドーシス、尿中β2-マイクログロブリンは近位尿細管障害の指標であり、腎症評価の標準ではありません。微量アルブミン尿の段階で見つけて血糖・血圧・脂質管理と腎保護薬を導入すれば進行抑制が期待できるため、尿中アルブミンとeGFRを組み合わせた定期評価は、透析導入を防ぐ糖尿病診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・68歳男性。55歳で糖尿病を指摘され13年が経過している。中年以降の発症で経口血糖降下薬により治療されてきた経過から2型糖尿病と考えられる。3年前から注射薬(インスリンやGLP-1受容体作動薬)への変更を勧められながら内服を続けており、HbA1c 7.8%、血糖168mg/dLと血糖コントロールは不十分である。合併症予防のためのHbA1c目標は7.0%未満であり、これを満たしていない。 ・身長168cm、体重64kgからBMIは約22.7kg/m²で、肥満もやせもない。 ・細小血管障害(糖尿病の三大合併症)について確認すると、 網膜症:眼科で単純網膜症を指摘されている。 神経障害:両側アキレス腱反射の減弱と両下肢内果の振動覚低下があり、左右対称性の多発神経障害(糖尿病性神経障害)に合致する。糖尿病性神経障害は下肢末端から始まることが多く、アキレス腱反射低下と振動覚低下は早期から現れる所見である。 腎症:尿素窒素12mg/dL、クレアチニン0.9mg/dLで、推算糸球体濾過量(eGFR)は約65mL/分/1.73m²と大きな低下はない。浮腫もない。ただし、血清クレアチニンやeGFRが正常に近くても、早期の糖尿病性腎症は否定できない。 ・その他、歯周病(糖尿病と相互に悪化させ合う関係にある)、白血球12,300/μLの軽度増多(喫煙なども原因となりうる)、脂質異常(Friedewald式でLDLコレステロール=216-42-160/5=142mg/dL、空腹時であればトリグリセリドも高め)を認める。血圧132/80mmHgは糖尿病患者の降圧目標(130/80mmHg未満)をわずかに上回る。
設問の考え方
網膜症と神経障害がすでに出現していることから、同じ細小血管障害である腎症も進行している可能性が高い。糖尿病性腎症では、最初に糸球体の障害を反映して尿中に少量のアルブミンが漏れ出る(微量アルブミン尿)。この段階は試験紙法による尿蛋白検査ではまだ陰性~弱陽性にとどまることが多く、血清クレアチニンも上昇しないため、尿中アルブミンを定量しなければ見逃される。日本の糖尿病性腎症病期分類でも、第1~3期は尿中アルブミン(または尿蛋白)の量で区分され、eGFRと組み合わせて病期を判定する。したがって、本例の腎合併症の評価に必要な尿検査は尿中アルブミンの定量である。早期に見つけて血糖・血圧・脂質の管理を強化し、腎保護作用のある薬剤を用いることで、腎症の進行を抑えたり微量アルブミン尿を正常化させたりすることが期待できる。
選択肢考察
- ×a. 尿潜血
尿潜血は尿中の赤血球(ヘモグロビン)を検出する検査で、糸球体腎炎(IgA腎症など)の評価や、尿路結石、膀胱癌・腎細胞癌などの尿路悪性腫瘍のスクリーニングに用いられる。糖尿病性腎症では血尿は目立たないのが一般的で、病期判定にも用いない。むしろ糖尿病患者で明らかな血尿がみられる場合は、糖尿病性腎症以外の腎疾患(糸球体腎炎など)や尿路疾患の合併を疑う手がかりとなる。腎症の評価に必須の項目ではない。
- ×b. 尿比重
尿比重は尿の濃さを示し、腎臓の尿濃縮能や体液量(脱水など)の評価に用いられる。尿糖や尿蛋白が多量に含まれると高値になるなど影響を受けるが、糖尿病性腎症の存在や病期を評価する指標ではない。
- ×c. 尿ケトン体
ケトン体(アセト酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、アセトン)は、インスリン作用が不足して糖を利用できず脂肪分解が亢進したときに肝臓で産生される。尿ケトン体は糖尿病ケトアシドーシスの診断や、インスリン作用不足の程度、飢餓状態の評価に用いる。代謝状態を反映する検査であり、腎合併症の評価には用いない。本例は意識障害や脱水などケトアシドーシスを疑う所見もない。
- ○d. 尿中アルブミン
尿中アルブミンは糖尿病性腎症の早期診断と病期判定に不可欠な検査である。通常は随時尿で尿中アルブミンと尿中クレアチニンを同時に測定し、尿中アルブミン/クレアチニン比(mg/gCr)として評価する。30mg/gCr未満が正常アルブミン尿、30~299mg/gCrが微量アルブミン尿、300mg/gCr以上が顕性アルブミン尿である。尿中アルブミンは運動、発熱、尿路感染症、高血圧、心不全などでも一時的に増えるため、日を変えて3回測定し、2回以上で基準を満たした場合に判定する。微量アルブミン尿の段階で見つければ、血糖・血圧管理の強化やレニン-アンジオテンシン系阻害薬、SGLT2阻害薬などの使用により腎症の進行抑制が期待できる。また、アルブミン尿は腎症だけでなく心血管疾患のリスク因子でもある。
- ×e. 尿中β2-マイクログロブリン
β2-マイクログロブリンは低分子量の蛋白で、糸球体で自由に濾過された後、大部分が近位尿細管で再吸収される。そのため尿中で増加するのは近位尿細管の再吸収が障害された場合であり、尿細管間質性腎炎、薬剤(アミノグリコシド系抗菌薬、シスプラチンなど)や重金属(カドミウムなど)による尿細管障害、Fanconi症候群などの評価に用いられる。糖尿病性腎症でも尿細管障害を伴って上昇することはあるが、病期分類や早期診断の基準には用いられず、腎合併症評価の標準的検査ではない。
糖尿病性腎症病期分類(2023年改訂)
・第1期(正常アルブミン尿期):尿中アルブミン30mg/gCr未満、eGFR 30以上 ・第2期(微量アルブミン尿期):尿中アルブミン30~299mg/gCr、eGFR 30以上 ・第3期(顕性アルブミン尿期):尿中アルブミン300mg/gCr以上または尿蛋白0.5g/gCr以上、eGFR 30以上 ・第4期(GFR高度低下・末期腎不全期):eGFR 30mL/分/1.73m²未満(アルブミン尿の程度を問わない) ・第5期(腎代替療法期):透析療法・腎移植中 ※かつては第2期を「早期腎症期」、第3期を「顕性腎症期」、第4期を「腎不全期」と呼んでいた。顕性アルブミン尿以降は尿蛋白の定量で代用できるが、第1期と第2期の区別には尿中アルブミンの測定が必要である。
糖尿病性腎症の自然経過
高血糖により糸球体内圧の上昇(過剰濾過)とメサンギウム領域の拡大、糸球体基底膜の肥厚が起こる。初期にはGFRがむしろ上昇し、微量アルブミン尿が現れ、やがて顕性蛋白尿・ネフローゼ症候群に至り、GFRが低下して末期腎不全に進む。日本では透析導入の原因疾患の第1位である。病理では結節性病変(Kimmelstiel-Wilson結節)が特徴的である。
糖尿病関連腎臓病(DKD)
近年、アルブミン尿が目立たないままeGFRが低下する例が増えており、典型的な糖尿病性腎症に加え、動脈硬化による腎硬化症なども含めた広い概念として糖尿病関連腎臓病(DKD)と呼ばれる。そのため、腎機能評価では尿中アルブミンとeGFRの両方を定期的に確認することが重要である。
糖尿病性細小血管障害の目安
一般に神経障害が最も早く出現し、網膜症、腎症の順に続くとされる(覚え方「し・め・じ」)。網膜症と神経障害がある患者では腎症も合併している可能性が高い。
POINT
・糖尿病性腎症の早期診断には尿中アルブミン定量(随時尿のアルブミン/クレアチニン比)が必須である。 ・正常<30mg/gCr、微量アルブミン尿30~299mg/gCr、顕性アルブミン尿≧300mg/gCr。日を変えて3回中2回以上で判定する。 ・血清クレアチニン・eGFRが正常でも早期腎症は否定できない。 ・病期分類はアルブミン尿(蛋白尿)とeGFRの組み合わせで行い、eGFR 30未満は第4期。 ・尿潜血は糸球体腎炎・尿路疾患、尿ケトン体はケトアシドーシス、尿中β2-マイクログロブリンは近位尿細管障害の指標である。
