StudyMed医師国家試験

O157のあとに来る腎不全―溶血性尿毒症症候群の検査所見を病態から読み解く

第117回医師国家試験 A問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第6問

溶血性尿毒症症候群でみられるのはどれか。2つ選べ。

  1. a.LD高値
  2. b.破砕赤血球
  3. c.血清補体価低値
  4. d.網赤血球数低値
  5. e.抗ADAMTS-13抗体陽性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は溶血性尿毒症症候群、HUSでみられる検査所見を問う問題だ。丸暗記ではなく、「血管の中で何が起きているか」から考えると自然に答えが出る。似た病気であるTTPとの区別もポイントになるよ。
医学生医学生
HUSは、腸管出血性大腸菌の感染のあとに子どもが腎不全になる病気、というイメージです。
ドクタードクター
その理解で出発していい。典型的なHUSは、O157などが産生する志賀毒素によって起こり、血性下痢から1週間前後で発症することが多い。3主徴は微小血管症性溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害だ。志賀毒素が腎糸球体などの血管内皮を傷つけ、そこに血小板血栓がたくさんできる。
医学生医学生
血栓で血管が狭くなると、赤血球はどうなるんですか。
ドクタードクター
狭くなった微小血管を無理やり通ろうとして、物理的に引き裂かれてしまう。その断片が破砕赤血球で、ヘルメット型や三角形の形をしている。末梢血塗抹でこれを見つけることが、HUSのような血栓性微小血管症を疑う重要な手がかりになるんだ。
医学生医学生
血液内科の実習で塗抹標本を見せてもらいましたが、ヘルメット型の赤血球は印象に残っています。では、赤血球が壊れるからLDも上がりますね。
ドクタードクター
そう。LDは赤血球の中に豊富に含まれているから、血管内で赤血球が壊れると血中に漏れて高値になる。臓器の虚血による組織傷害も上昇に寄与する。だから破砕赤血球とLD高値の2つが正解だ。LDは治療効果や病勢の指標としても使われるよ。
医学生医学生
溶血性貧血なら網赤血球も減るのでは、と一瞬思いました。貧血だから材料が足りない気がして。
ドクタードクター
よくある誤解だね。網赤血球は骨髄の産生能を反映する。溶血性貧血では骨髄自体は元気だから、壊された分を補おうと産生が亢進して、網赤血球はむしろ増える。網赤血球が減るのは再生不良性貧血や赤芽球癆、腎性貧血など、作る側が障害されたときだ。
医学生医学生
「壊れる貧血」は網赤血球が増えて、「作れない貧血」は減る、と覚えればいいですね。補体価の低下はどうでしょう。腎臓の講義で、補体が下がる腎炎を覚えさせられました。
ドクタードクター
補体価が下がる代表は、SLE、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症だったね。典型的なHUSは毒素による内皮障害が主体なので、補体価は通常下がらない。ただし、補体を制御する因子の異常で起こる非典型HUS、aHUSでは一部でC3が低くなることがあるので、その区別は頭に入れておこう。
医学生医学生
抗ADAMTS13抗体は、TTPのほうの検査ですよね。
ドクタードクター
その通り。ADAMTS13はvon Willebrand因子の超高分子量多量体を切る酵素で、これが働かないと巨大なVWFが血小板をどんどん集めて全身に血栓を作る。それがTTPで、後天性TTPではADAMTS13に対する自己抗体が陽性になる。HUSではADAMTS13活性は保たれていて抗体も陰性だから、ここが両者の鑑別点になるんだ。
医学生医学生
HUSとTTPとaHUSは、どれも血栓性微小血管症の仲間で、原因がそれぞれ志賀毒素、ADAMTS13、補体ということですね。
ドクタードクター
きれいに整理できたね。ほかに溶血性貧血に共通する所見として、間接ビリルビン上昇とハプトグロビン低下もある。免疫が関与する溶血ではないので直接Coombs試験は陰性だ。もう一つ大事なのがDICとの違い。DICは凝固因子が消費されるのでPTやAPTTが延長し、フィブリノゲンが下がるけれど、HUSやTTPは血小板血栓が主体なので、凝固系検査は通常ほぼ正常なんだ。
医学生医学生
治療はどうなりますか。小児科の実習で、O157の子に下痢止めは使わないと教わりました。
ドクタードクター
いい経験をしているね。STEC-HUSの治療は、輸液や電解質管理、必要なら透析といった支持療法が中心で、止痢薬は毒素の排出を遅らせるので避ける。脳症の合併は予後に関わるので、けいれんや意識障害に注意する。一方、aHUSには抗C5抗体のエクリズマブなど、後天性TTPには血漿交換が第一選択と、原因ごとに治療が大きく変わる。TTPでの血小板輸血は血栓を助長するおそれがあり原則避けるべきとされている。
医学生医学生
同じような検査値に見えても、原因を見極めないと治療を間違えてしまうんですね。
ドクタードクター
その通り。だからこそ、破砕赤血球とLD上昇でTMAに気づき、ADAMTS13や補体、先行する下痢の有無で病型を分ける、という順番で考える習慣をつけておこう。

まとめ

溶血性尿毒症症候群(HUS)は、微小血管症性溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害を3主徴とする血栓性微小血管症で、典型例は腸管出血性大腸菌の志賀毒素による血管内皮障害から小児に起こります。血栓で狭くなった微小血管を赤血球が通過する際に壊されるため、破砕赤血球が出現し、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下を伴い、骨髄は代償的に働くので網赤血球は増加します。抗ADAMTS13抗体陽性はTTPの所見、補体価低下は典型HUSではみられず補体制御異常によるaHUSの一部で認めうる所見であり、これらが鑑別の軸になります。またHUSやTTPはDICと異なり凝固系検査が通常ほぼ正常である点も重要です。病態から検査所見を導く考え方は、原因によって治療が大きく異なるTMAを正しく見分けるための基盤となります。

解答・解説

正解はa, bです

溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)の検査所見を問う問題である。 HUSは、「微小血管症性溶血性貧血」「消費性血小板減少」「急性腎障害」を3主徴とする血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy:TMA)の一つである。最も多いのは、腸管出血性大腸菌(O157:H7など)が産生する志賀毒素(ベロ毒素)によるもの(STEC-HUS)で、主に小児が、血性下痢を伴う腸炎の発症から約1週間前後で発症する。志賀毒素は腎糸球体などの血管内皮細胞を傷害し、そこに血小板血栓が多発する。 検査所見は次の2つの病態から考えると整理しやすい。 1. 機械的な血管内溶血:赤血球が血栓で狭くなった微小血管を通過する際に物理的に壊され、破砕赤血球(ヘルメット型、三角形など)が出現する。赤血球内のLD(乳酸脱水素酵素)が血中に漏れてLDが上昇し、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下を伴う。骨髄は正常に反応するため、代償性に網赤血球は増加する。直接Coombs試験は陰性である(免疫性溶血ではないため)。 2. 血小板の消費と腎障害:微小血栓形成で血小板が消費されて減少し、腎の微小循環障害によりBUN・クレアチニンが上昇する。 鑑別上重要なのが、同じTMAに属する血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と、補体制御異常による非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)である。TTPはADAMTS13活性の著減(後天性では抗ADAMTS13自己抗体による)、aHUSは補体第二経路の制御異常が原因であり、典型的なSTEC-HUSではADAMTS13活性は保たれ、補体価にも大きな異常はない。

選択肢考察

  1. ○a.  LD高値

    LD(乳酸脱水素酵素)は赤血球内に豊富に含まれる酵素であり、血管内で赤血球が破壊されると血中に放出されて高値となる。HUSでは微小血栓による機械的な血管内溶血が起こるため、LDは著明に上昇する。加えて、臓器の虚血による組織傷害もLD上昇に寄与する。LDはHUSやTTPなどTMAの活動性や治療効果を評価する指標としても用いられる。

  2. ○b.  破砕赤血球

    破砕赤血球(schistocyte)は、血栓やフィブリン網で狭くなった微小血管を赤血球が通過する際に物理的に引き裂かれて生じる断片状の赤血球で、ヘルメット型、三角形、半月状などの形態を示す。HUSの病態である微小血管症性溶血性貧血を直接反映する所見であり、末梢血塗抹標本でこれを確認することがTMAを疑う重要な手がかりとなる。TTPや播種性血管内凝固(DIC)、人工弁による機械的溶血などでもみられる。

  3. ×c.  血清補体価低値

    血清補体価(CH50やC3、C4)は、補体が免疫複合体などにより活性化・消費される疾患で低下する。代表例は全身性エリテマトーデス(SLE)、溶連菌感染後急性糸球体腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、クリオグロブリン血症などである。典型的なHUS(志賀毒素によるSTEC-HUS)は毒素による血管内皮傷害が主病態であり、補体価の低下は通常みられない。ただし、補体H因子などの補体制御因子の遺伝子異常や自己抗体による非典型HUS(aHUS)では、一部の症例でC3低値を示すことがある。HUSの所見として一般的なものではない。

  4. ×d.  網赤血球数低値

    網赤血球は骨髄から放出されたばかりの幼若な赤血球であり、その数は骨髄の赤血球産生能を反映する。HUSのような溶血性貧血では、骨髄の造血能そのものは保たれているため、赤血球の破壊を補おうとして産生が亢進し、網赤血球数は増加する。網赤血球数が低値となるのは、再生不良性貧血、赤芽球癆、鉄欠乏性貧血・巨赤芽球性貧血の未治療時、腎性貧血など、産生が障害される病態である。

  5. ×e.  抗ADAMTS-13抗体陽性

    ADAMTS13はvon Willebrand因子(VWF)の超高分子量多量体を切断する酵素である。この活性が低下すると、超高分子量VWFが血中に残って血小板凝集を強く促し、全身の微小血管に血小板血栓が形成される。これが血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)であり、後天性TTPではADAMTS13に対する自己抗体(インヒビター)が陽性となる。先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群)は遺伝子変異による。HUSではADAMTS13活性は通常保たれ(一般に10%以上)、抗ADAMTS13抗体は陰性であり、この点がTTPとの重要な鑑別点となる。

血栓性微小血管症(TMA)の分類

・STEC-HUS(典型HUS):志賀毒素産生性大腸菌(腸管出血性大腸菌O157など)感染に続発。小児に多く、腸管出血性大腸菌感染者の一部(数%〜10数%程度)に発症する。治療は輸液・電解質管理、必要に応じて透析などの支持療法が中心で、止痢薬(腸管運動抑制薬)は毒素の排出を遅らせるため避ける。抗菌薬の使用については議論がある。脳症(けいれん、意識障害)の合併は予後に関わる。 ・aHUS(非典型HUS):補体H因子・I因子・MCP(CD46)・C3などの遺伝子異常や抗H因子抗体による補体第二経路の制御異常が原因。抗C5モノクローナル抗体(エクリズマブ、ラブリズマブ)が用いられる。 ・TTP:ADAMTS13活性著減(10%未満)。古典的5徴は溶血性貧血、血小板減少、腎障害、発熱、動揺性精神神経症状。後天性TTPには血漿交換(ADAMTS13補充と抗体除去)が第一選択で、副腎皮質ステロイド、リツキシマブ、カプラシズマブ(抗VWF抗体薬)なども用いられる。血小板輸血は血栓形成を助長するおそれがあるため原則禁忌とされる。 ・二次性TMA:薬剤、悪性腫瘍、自己免疫疾患、造血幹細胞移植、妊娠関連(HELLP症候群)など。

溶血性貧血に共通する検査所見

LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加。血管内溶血ではヘモグロビン尿、尿中ヘモジデリンもみられる。

TMAとDICの違い

DICでは凝固系が活性化して消費されるため、PT・APTTの延長、フィブリノゲン低下、FDP・Dダイマーの著増がみられる。HUSやTTPは血小板血栓が主体であり、凝固系検査は通常ほぼ正常である。

POINT

・HUSの3主徴:微小血管症性溶血性貧血、血小板減少、急性腎障害。 ・機械的溶血を反映して、破砕赤血球出現、LD上昇、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、網赤血球増加がみられ、直接Coombs試験は陰性。 ・抗ADAMTS13抗体陽性(ADAMTS13活性著減)はTTPの所見であり、HUSとの鑑別点となる。 ・補体価低下は典型HUSではみられない(補体制御異常によるaHUSの一部でC3低値を示しうる)。 ・TMAではDICと異なり凝固系検査は通常ほぼ正常である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。