年長さんの夏休みに打つワクチン―「就学前の1年間」が指すMR第2期
第119回医師国家試験 C問題 第53問
国試問題にチャレンジ
医師と保護者との会話を以下に示す。 父親:「5歳の男の子です。幼稚園の先生から『4月から年長組になったので,小学校に入学するまでに接種すべき予防接種があります。夏休みに接種に行ってください』と言われたので,来ました」 医師:「これまでの予防接種歴はどうですか」 父親:「定期接種はすべて接種しています」 医師:「直近の予防接種はいつですか」 父親:「昨年の夏休みです」 この児に接種すべき予防接種はどれか。
- a.MRワクチン
- b.水痘ワクチン
- c.髄膜炎菌ワクチン
- d.小児用肺炎球菌ワクチン
- e.インフルエンザ桿菌ワクチン
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
幼稚園の年長組、すなわち小学校就学前の1年間(5歳以上7歳未満)に接種する定期接種は、麻疹・風疹混合(MR)ワクチンの第2期です。MRワクチンを2回接種するのは、1回では免疫がつかない一次性ワクチン不全と、時間とともに免疫が低下する二次性ワクチン不全に対応し、集団生活の場での流行を防ぐためです。水痘ワクチンは1〜3歳未満で2回、小児用肺炎球菌ワクチンとHibワクチン(現在は五種混合)は生後2か月から計4回で乳幼児期に完了し、髄膜炎菌ワクチンは渡航者や補体欠損・補体阻害薬使用者などに勧められる任意接種です。年齢ごとの接種スケジュールと定期・任意の区別を整理しておくことは、保護者への説明やキャッチアップ接種の判断など、日常の小児診療に直結します。
解答・解説
正解はaです
会話から読み取れること
・5歳の男児で、4月から幼稚園の年長組 → 翌年4月に小学校へ入学する「就学前の1年間」にいる。 ・幼稚園から「小学校入学までに接種すべき予防接種がある」と言われている → この時期を接種期間とする定期接種がある。 ・定期接種はすべて済んでいる → 接種漏れを補う(キャッチアップ)必要はなく、年齢に応じて新たに対象となる接種を考えればよい。 ・直近の接種は昨年の夏休み(4歳時) → 4歳ごろに標準的に行う日本脳炎ワクチン第1期追加接種などが該当すると考えられ、それ以降は未接種である。
考え方
日本の定期接種のスケジュールのうち、「小学校就学前の1年間(5歳以上7歳未満で、就学する年の前年度の4月1日から3月31日まで)」が接種期間として定められているのは、麻疹風疹混合(MR)ワクチンの第2期である。年長組の1年間がちょうどこの期間にあたるため、幼稚園から接種を促されたと考えられる。 これ以外の選択肢は、乳幼児期に接種を完了するワクチン(水痘、小児用肺炎球菌、Hib)か、定期接種に含まれない任意接種のワクチン(髄膜炎菌)であり、定期接種をすべて済ませている5歳児に、この時期に接種すべきものではない。 MRワクチンを2回接種する理由は、1回の接種では一定の割合(数%程度)で免疫が十分につかない者(一次性ワクチン不全)がいること、および接種後に時間がたって免疫が弱まる者(二次性ワクチン不全)がいることである。集団生活が始まる就学前に2回目を接種することで、麻疹・風疹に対する免疫を確実にし、学校での流行を防ぐ。
選択肢考察
- ○a. MRワクチン
麻疹(measles)と風疹(rubella)の弱毒生ワクチンを混合したもので、2006年度から定期接種で2回接種となった。第1期は1歳以上2歳未満、第2期は5歳以上7歳未満で小学校就学前の1年間に接種する。本児は年長組で、就学前1年間にあたるため、第2期の対象である。1歳で第1期を受けていても、確実な免疫獲得のために第2期が必要であり、まさに今接種すべきワクチンである。
- ×b. 水痘ワクチン
水痘ワクチン(弱毒生ワクチン)は2014年10月から定期接種となり、対象は1歳以上3歳未満で、計2回接種する。標準的には1回目を生後12〜15か月に、2回目を1回目から6〜12か月あけて接種する(最低3か月の間隔が必要)。定期接種をすべて受けている本児はすでに2回の接種を済ませており、就学前に追加で接種する定期接種はない。
- ×c. 髄膜炎菌ワクチン
髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)に対するワクチンは日本では定期接種に含まれず、任意接種である。国内での侵襲性髄膜炎菌感染症の発生は少ないが、アフリカの「髄膜炎ベルト」などの流行地への渡航者、接種を求められる海外の学校・寮への留学者、補体欠損症や無脾症、補体阻害薬(エクリズマブなど)使用中の患者などのハイリスク者に接種が勧められる。小学校入学前に全員が接種するワクチンではない。
- ×d. 小児用肺炎球菌ワクチン
肺炎球菌結合型ワクチン(不活化ワクチン)で、2013年4月から定期接種となった。標準的には生後2か月から7か月未満で接種を開始し、27日以上の間隔で3回(初回接種)、その後生後12〜15か月に1回追加接種し、計4回で完了する。定期接種の対象は5歳未満であり、本児はすでに接種を完了しているため、就学前に接種するものではない。
- ×e. インフルエンザ桿菌ワクチン
インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b:Hib)による細菌性髄膜炎や急性喉頭蓋炎を予防する不活化ワクチンで、2013年4月から定期接種となった。小児用肺炎球菌ワクチンと同様、生後2か月から初回3回、生後12か月以降に追加1回の計4回を乳幼児期に接種する(定期接種の対象は5歳未満)。2024年4月からは、ジフテリア・百日咳・破傷風・不活化ポリオの四種混合ワクチンとHibワクチンを合わせた五種混合ワクチンが定期接種に導入された。本児は年齢的にHib単独ワクチンで接種を完了していると考えられ、就学前の追加接種はない。
日本の主な定期接種(小児)のスケジュール概要
・B型肝炎(不活化):生後2か月から、計3回(1歳未満) ・ロタウイルス(経口生ワクチン):生後6週から、1価は2回・5価は3回。初回は生後14週6日までに行う ・小児用肺炎球菌(不活化):生後2か月から、計4回 ・五種混合(DPT-IPV-Hib、不活化):生後2か月から、計4回(2024年4月から。それ以前は四種混合+Hib) ・BCG(生):1歳未満に1回(標準的には生後5〜8か月) ・MR(生):第1期 1歳以上2歳未満、第2期 就学前1年間 ・水痘(生):1歳以上3歳未満に2回 ・日本脳炎(不活化):第1期は標準的に3歳で2回、4歳で追加1回。第2期は9〜12歳 ・二種混合(DT):11〜12歳(第2期) ・ヒトパピローマウイルス(HPV):小学6年〜高校1年相当の女子
就学前に関連する任意接種
日本小児科学会は、学童期の百日咳増加を受けて、就学前に三種混合ワクチン(DPT)と不活化ポリオワクチン(IPV)の追加接種を推奨している。また、おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)ワクチンは任意接種であり、1歳時と就学前の2回接種が推奨されている。これらは定期接種ではないため、本問の「定期接種」とは区別して理解する。
生ワクチンと不活化ワクチン
・生ワクチン:MR、水痘、BCG、ロタウイルス、おたふくかぜ など。注射生ワクチン同士を別の日に接種する場合は27日以上の間隔をあける必要がある。 ・不活化ワクチン:肺炎球菌、Hib、五種混合、B型肝炎、日本脳炎、HPV など。不活化ワクチン同士の接種間隔の制限はない。 ・同時接種は医師が必要と認めれば可能である。
有害事象と副反応
ワクチン接種後に起きた好ましくない出来事全体を「有害事象」と呼び、そのうちワクチンが原因となって起こるものを「副反応」という。両者の区別は個々の症例では難しいことが多く、正確な情報提供とリスクコミュニケーションが重要である。
POINT
・就学前1年間(年長組)に接種する定期接種はMRワクチン第2期。 ・MRワクチン:第1期 1歳以上2歳未満、第2期 5歳以上7歳未満の就学前1年間。 ・水痘は1〜3歳未満で2回、肺炎球菌・Hib(五種混合)は生後2か月から計4回で乳幼児期に完了する。 ・髄膜炎菌ワクチンは任意接種(流行地渡航者、補体欠損・補体阻害薬使用者、無脾症などに推奨)。
