StudyMed医師国家試験

どこを刺せば安全か―動脈採血の部位選びは「浅い・硬い床・逃げ道」で決まる

第119回医師国家試験 B問題 第18問

国試問題にチャレンジ

第119回 B問題 第18問

動脈採血に最も適しているのはどれか。

  1. a.総頸動脈
  2. b.鎖骨下動脈
  3. c.尺骨動脈
  4. d.大腿動脈
  5. e.膝窩動脈

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、動脈採血をどの動脈で行うかという、手技の基本を問う問題だ。動脈は静脈より内圧が高いから、刺した後に出血や血腫をつくりやすい。だから「刺しやすさ」だけでなく「止めやすさ」と「傷つけたときの安全性」で部位を選ぶ、という視点で考えてみよう。
医学生医学生
動脈血ガスというと、救急外来で研修医の先生が手首から採っているのをよく見ました。橈骨動脈ですよね。
ドクタードクター
そう、実際に一番よく使うのは橈骨動脈だ。ただ今回の選択肢には入っていない。そこで、なぜ橈骨動脈が選ばれるのかを分解してみよう。条件は4つ。浅くて拍動を触れやすいこと、背側に骨があって上から圧迫止血できること、周りに危険な臓器や神経が少ないこと、そして詰まっても側副血行で末梢の血流が保たれやすいことだ。
医学生医学生
その4つで選択肢を見ると、総頸動脈は浅くて触れやすいので、刺せそうに思えます。
ドクタードクター
確かに触れやすいね。でも残りの条件を満たさない。頸部は軟らかい組織ばかりで骨で支えにくく、確実な圧迫ができない。血腫ができれば気道を圧迫して窒息のおそれがある。さらに内膜損傷やプラークの剝離は脳梗塞につながりうるし、頸動脈洞を刺激すれば徐脈や血圧低下も起こしうる。
医学生医学生
OSCEの脈拍測定の練習で、頸動脈は左右同時に触れないように言われたのを思い出しました。それだけデリケートな場所なんですね。
ドクタードクター
いい連想だね。次の鎖骨下動脈はどうだろう。
医学生医学生
鎖骨の裏を走るので深いですし、鎖骨が邪魔で上から押さえられない気がします。
ドクタードクター
その通り。しかも直下に胸膜と肺尖があるから、誤って刺すと気胸の危険がある。出血すれば血胸になりうるし、腕神経叢も近い。採血部位としては使わない。では尺骨動脈。手首で橈骨動脈と並んでいるけれど、どうかな。
医学生医学生
橈骨動脈と同じ手首なら、どちらでもよさそうに思ってしまいました。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。尺骨動脈は橈骨動脈より細く拍動を触れにくい。さらに手掌動脈弓を介して両者は手の血流を補い合っているけれど、一般に尺骨動脈の寄与が大きいとされていて、こちらを傷つけると手の虚血を起こす心配がある。尺骨神経も近い。手首で採るなら橈骨動脈、が原則だ。
医学生医学生
だから橈骨動脈を穿刺する前にアレンテストで尺骨動脈側の血流を確認するんですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。橈骨・尺骨動脈を同時に圧迫して手を白くし、尺骨動脈側だけ解除して色が戻るかを見る。膝窩動脈はどうだろう。
医学生医学生
膝の裏の深いところで、解剖実習でも脂肪に埋もれていて探すのが大変でした。
ドクタードクター
まさにそれが理由だ。触れにくく、うつ伏せにしないと刺せないので重症患者には向かない。膝窩静脈や脛骨神経もすぐ横にあるし、下腿への主要な血流路だから損傷すると下腿虚血の危険がある。
医学生医学生
消去法で残るのは大腿動脈ですね。太くて鼠径部で触れやすいですし、背側に骨もあります。
ドクタードクター
正解。鼠径靱帯のすぐ下では比較的浅く、背側の大腿骨頭や恥骨に向かって押さえられるから圧迫止血しやすい。ショックで血圧が低く橈骨動脈が触れにくいときにも頼りになる部位だ。
医学生医学生
鼠径部の並びは、外側から神経・動脈・静脈でしたよね。
ドクタードクター
そう、拍動の位置をしっかり確かめれば、外側の大腿神経や内側の大腿静脈を避けやすい。もう一つ大事なのは、必ず鼠径靱帯より下で刺すこと。靱帯より上だと背側に押さえる骨がなく、後腹膜出血を起こしても気づきにくい。太い血管だから、止血が不十分なら大きな血腫になるし、仮性動脈瘤や下肢虚血にも注意が必要だ。
医学生医学生
採血後の扱いで気をつけることはありますか。
ドクタードクター
ヘパリン加シリンジを使い、気泡を抜いて速やかに測定すること。気泡が混じるとPaO2やPaCO2が変わってしまう。穿刺後は5分程度、抗凝固療法中ならさらに長くしっかり圧迫する。頻回に測るなら橈骨動脈に動脈ラインを留置する選択肢もある。

まとめ

動脈採血の部位は、浅く拍動を触れやすいこと、背側に骨があり圧迫止血できること、周囲に危険な構造が少ないこと、側副血行があり虚血を起こしにくいことを基準に選びます。実際には橈骨動脈が最もよく使われ、ほかに大腿動脈、上腕動脈、足背動脈が用いられ、大腿動脈は太く触れやすいためショック時にも有用です。総頸動脈・鎖骨下動脈・膝窩動脈は深さや周囲の重要構造、圧迫止血の困難さから用いず、尺骨動脈は細く手の血流への寄与が大きいため避けます。大腿動脈では外側から神経・動脈・静脈の並びを意識し、鼠径靱帯より下で穿刺して後腹膜出血を防ぐことが重要です。解剖の知識を手技の安全性に結びつけて理解することは、臨床実習や研修での確実な手技につながります。

解答・解説

正解はdです

動脈採血は、主に動脈血ガス分析(PaO2、PaCO2、pH、HCO3-、乳酸など)のために行う手技である。動脈は静脈より内圧が高く、穿刺後に出血・血腫をつくりやすいため、穿刺部位は次の条件を満たす動脈から選ぶ。 ①体表から浅い位置にあり、拍動を触れやすいこと。 ②穿刺部の背側に骨などの硬い構造があり、上から圧迫して確実に止血できること。 ③近くに損傷すると危険な臓器・神経が少ないこと。 ④その動脈が詰まったり傷ついたりしても、末梢への血流が別の経路(側副血行)で保たれやすいこと。 実際によく用いられるのは橈骨動脈、大腿動脈、上腕動脈、足背動脈である。選択肢の中では大腿動脈がこれらの条件を最もよく満たしており、特に血圧が低いときなど橈骨動脈で拍動を触れにくい場面でも、太いので穿刺しやすい。一方、総頸動脈・鎖骨下動脈・膝窩動脈は深い位置にある、あるいは周囲に重要な構造があり圧迫止血も難しく、尺骨動脈は細く触れにくいため、通常は採血部位として選ばない。

選択肢考察

  1. ×a.  総頸動脈

    総頸動脈は脳へ血液を送る動脈であり、採血目的の穿刺は行わない。頸部は柔らかい組織に囲まれ骨で支えにくいため確実な圧迫止血が難しく、血腫ができると気道を圧迫して窒息を招くおそれがある。また、強い圧迫や穿刺による内膜損傷・プラークの剝離は脳梗塞の原因となりうるうえ、頸動脈洞を刺激すると徐脈や血圧低下(頸動脈洞反射)を起こすこともある。周囲には内頸静脈や迷走神経も走行する。

  2. ×b.  鎖骨下動脈

    鎖骨下動脈は鎖骨の裏側の深い位置を走るため、拍動を触れにくく、鎖骨が邪魔をして体表から圧迫止血できない。そのため出血すると血腫や血胸を生じやすい。さらに直下に胸膜・肺尖があり、誤って穿刺すると気胸を起こす危険もある。腕神経叢も近接しており、採血部位としては用いない。

  3. ×c.  尺骨動脈

    手首付近では尺骨動脈は橈骨動脈より細く、拍動も触れにくいため穿刺が難しい。また、手掌への血流は橈骨動脈と尺骨動脈が手掌動脈弓で互いに補い合っているが、一般に尺骨動脈の寄与が大きいとされ、尺骨動脈を損傷すると手の虚血を起こす危険がある。すぐ近くを尺骨神経が走ることも穿刺に向かない理由である。手首で動脈採血を行うなら、尺骨動脈ではなく橈骨動脈を選ぶ。

  4. ○d.  大腿動脈

    大腿動脈は鼠径靱帯のすぐ下(鼠径部)で比較的浅い位置を走り、太いため拍動を触れやすく穿刺が容易である。この部位では背側に大腿骨頭・恥骨があるため、穿刺後に上から押さえて圧迫止血しやすい。ショックなど血圧が低く橈骨動脈を触れにくい場合にも用いやすい。注意点として、大腿動脈の外側に大腿神経、内側に大腿静脈が並ぶため(外側から神経・動脈・静脈の順)、拍動の位置を確かめて穿刺する。また鼠径靱帯より上で穿刺すると、圧迫が効かず後腹膜出血を起こす危険がある。太い血管であるため、止血不十分による大きな血腫や、血栓などによる下肢虚血といった重い合併症にも注意する。

  5. ×e.  膝窩動脈

    膝窩動脈は膝の裏(膝窩)の深い位置を走り、脂肪組織に囲まれていて拍動を触れにくい。穿刺や止血の間は患者にうつ伏せになってもらう必要があり、重症患者では体位をとること自体が難しい。すぐそばを膝窩静脈や脛骨神経が走り、損傷の危険もある。さらに膝窩動脈は下腿への血流の主要な経路であり、損傷すると下腿の虚血をきたすおそれがあるため、採血部位としては用いない。

動脈採血でよく用いる部位

・橈骨動脈:最もよく用いられる。浅く、背側に橈骨があり圧迫止血しやすい。手は尺骨動脈からも血流を受けるため、虚血のリスクが低い。穿刺前にアレンテスト(橈骨・尺骨動脈を同時に圧迫して手を白くし、尺骨動脈側だけ解除して手の色が戻るかをみる)で尺骨動脈からの側副血行を確認することがある。 ・大腿動脈:太く触れやすく、ショック時にも用いやすい。鼠径靱帯より下で穿刺する。 ・上腕動脈:肘窩で触れる。すぐ近くに正中神経がある点に注意する。 ・足背動脈:他の部位が使えないときに用いられる。

動脈採血の手技と注意点

・ヘパリン加シリンジを用い、気泡を除いて速やかに測定する(気泡が混入するとPaO2・PaCO2が変化する)。 ・穿刺後は5分程度(抗凝固療法中などではさらに長く)しっかり圧迫して止血を確認する。 ・合併症として、血腫、出血、動脈の閉塞・虚血、神経損傷、感染、仮性動脈瘤などがある。

静脈採血との違い

静脈血では酸素化の評価ができないため、呼吸不全や酸塩基平衡の評価には動脈血ガス分析が必要となる。継続的な測定が必要な場合は、橈骨動脈などに動脈ラインを留置する。

POINT

・動脈採血の部位は、浅い・触れやすい・背側に骨があり圧迫止血できる・周囲に危険な構造が少ない・側副血行がある、の条件で選ぶ。 ・よく用いるのは橈骨動脈、大腿動脈、上腕動脈、足背動脈。 ・総頸動脈・鎖骨下動脈・膝窩動脈は深い位置や周囲の重要構造のため採血には用いない。尺骨動脈は細く、手の血流への寄与が大きいので避ける。 ・大腿動脈は鼠径靱帯より下で穿刺する(上だと後腹膜出血の危険)。外側から神経・動脈・静脈の順に並ぶ。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。