StudyMed医師国家試験

見えない動脈は「触れて」「垂直に」刺す―静脈採血の常識が通用しない大腿動脈穿刺

第117回医師国家試験 E問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第117回 E問題 第12問

成人の動脈血ガス分析を目的とした大腿動脈からの採血について正しいのはどれか。

  1. a.穿刺針の太さは18 Gを選択する。
  2. b.動脈の走行は目視で確認する。
  3. c.皮膚に対して直角に穿刺する。
  4. d.シリンジに十分な陰圧をかける。
  5. e.抜針後に穿刺部位をよく揉む。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、動脈血ガス分析のための大腿動脈穿刺の基本手技を問う問題だ。ポイントは、普段なじみのある静脈採血と何が違うのかを意識すること。「どこを、どの針で、どの角度で刺し、どう採って、どう止血するか」の順に整理していこう。
医学生医学生
静脈採血ならOSCEの練習で何度もやりました。駆血して、血管を見て、浅い角度で刺して、陰圧で引く……という流れですよね。
ドクタードクター
そう、その静脈採血の常識をそのまま持ち込むと、この問題では引っかかる。まず部位の確認から。大腿動脈は皮膚から見えると思う?
医学生医学生
鼠径部は皮下脂肪もありますし、さすがに見えないですよね。でも、静脈みたいに浮き出ることはないんでしょうか。
ドクタードクター
大腿動脈は皮下脂肪や筋膜に覆われた深い位置を走るから、目視で走行を確認することはできない。示指と中指で拍動を触れて、最も強く触れる点と走行の向きを確かめるのが基本だ。ショックや肥満で拍動が触れにくければ、超音波で確認しながら穿刺する方法もある。
医学生医学生
解剖実習で大腿三角を剖出したとき、外側から神経・動脈・静脈の順に並んでいて、NAVと覚えました。
ドクタードクター
いいね、それがそのまま安全な穿刺の知識になる。動脈のすぐ内側に静脈、外側に神経がある。だから針先がずれると静脈や神経を誤穿刺してしまう。ここで角度の話だ。深いところにある動脈に最短で届かせるには、どう刺すのがいいと思う?
医学生医学生
静脈採血の感覚だと15〜30度くらいで寝かせて刺したくなりますが……深いなら、立てて刺すほうが近いですね。
ドクタードクター
その通り。拍動を触れる2本の指の間、拍動の真上から皮膚に対してほぼ垂直、おおむね60〜90度で刺入する。これが正解だ。角度を浅くすると皮下を長く進むことになり、動脈を捉えにくいうえに、隣の静脈や神経を刺す危険が増えるんだ。
医学生医学生
針の太さはどうですか。動脈は圧が高いから、太い針でしっかり採るほうが確実な気もします。
ドクタードクター
そこは逆なんだ。ゲージは数字が大きいほど細い針で、18 Gは輸血や急速輸液に使う太い針。動脈ガスに必要な血液はごく少量だから、22〜25 G程度の細い針が付いた、ヘパリン入りの専用シリンジを使うのが一般的だ。圧の高い動脈に太い針で大きな穴を開けると、血腫や仮性動脈瘤のリスクが上がってしまう。
医学生医学生
なるほど、圧が高いからこそ細い針、なんですね。では採取するときは、シリンジを引いて陰圧をかけるんでしょうか。
ドクタードクター
ここも静脈採血との大きな違いだ。針先が動脈内腔に入れば、動脈圧で血液は自然にシリンジへ押し上がってくる。陰圧は不要で、この拍動性の自然な逆流が「動脈に入った」ことの確認にもなる。逆に強く引くと、誤って静脈血を吸っても気づきにくいし、気泡の混入やガスの遊離でPaO2やPaCO2の値が狂うおそれもある。
医学生医学生
救急科の実習で、研修医の先生がシリンジに血液がふわっと上がってくるのを見て「入った」と言っていたのを思い出しました。あれが動脈圧だったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。最後は止血だ。抜針後に穿刺部位を揉むのはどうだろう。
医学生医学生
予防接種のあとに揉むイメージがありますけど……動脈だと出血が止まりにくくなりそうです。
ドクタードクター
正しい感覚だね。揉むと血栓による止血が妨げられて、皮下血腫や仮性動脈瘤の原因になる。抜針後は揉まずに、ガーゼで5分程度以上しっかり圧迫して止血を確認する。抗凝固薬や抗血小板薬を飲んでいる人、出血傾向のある人ではさらに長く圧迫が必要だ。これは患者に害を及ぼしうる操作だから、確実に避けたい。
医学生医学生
まとめると、触れて位置を確認、細い針で垂直に刺す、陰圧はかけない、揉まずに圧迫、ですね。全部、静脈採血と逆に近いです。
ドクタードクター
よく整理できたね。発展として部位の選び方も押さえておこう。動脈血採血では、表在性で圧迫止血しやすく、尺骨動脈との側副血行がある橈骨動脈が第一選択とされることが多い。大腿動脈は太くて血圧が下がっても触れやすいから、ショックや心肺蘇生中など緊急時に重宝する。ただし深くて圧迫止血がやや難しく、鼠径靱帯より中枢で刺すと後腹膜出血を起こしうるので、穿刺は靱帯より末梢側で行う。
医学生医学生
検体の扱いで気をつけることはありますか。
ドクタードクター
気泡が入ると空気とのガス交換で値がずれるから、すぐに気泡を抜いて密封し、速やかに測定する。時間が経つと血球の代謝で酸素が消費されるからね。ヘパリンが多すぎると希釈で誤差が出ることも覚えておくといい。手技は安全に採ることと、正確な値を得ることの両方がそろって初めて意味を持つんだ。

まとめ

大腿動脈からの動脈血採血では、深部を走る動脈を目視ではなく拍動の触知(必要に応じて超音波)で確認し、拍動の真上から皮膚に対してほぼ垂直に穿刺します。針は22〜25 G程度の細い針付きヘパリン入りシリンジを用い、陰圧はかけず動脈圧による自然な流入で採取し、抜針後は揉まずに5分程度以上圧迫止血します。大腿三角では外側から神経・動脈・静脈の順に並ぶため、角度が浅いと隣接する静脈や神経の誤穿刺につながり、鼠径靱帯より中枢での穿刺は後腹膜出血の危険があります。検体は気泡を除いて密封し速やかに測定することも、正確なPaO2・PaCO2を得るうえで欠かせません。静脈採血との違いを一つずつ理由とともに理解しておくことが、救急や病棟で安全に動脈穿刺を行うための土台になります。

解答・解説

正解はcです

本問は、動脈血ガス分析のための動脈穿刺(ここでは大腿動脈)の基本手技を問う問題である。静脈採血との違いを意識しながら、「どこを・どの針で・どの角度で刺し、どう採取し、どう止血するか」を整理すると正解を導きやすい。

大腿動脈穿刺の手順の要点

・部位の確認:患者を仰臥位とし、鼠径靱帯(上前腸骨棘と恥骨結節を結ぶ線)のやや末梢側で大腿動脈の拍動を指で触れ、走行を確かめる。大腿三角では外側から大腿神経・大腿動脈・大腿静脈の順に並ぶため、動脈の内側には静脈がある。 ・器具:抗凝固薬(ヘパリン)があらかじめ入った動脈血採血用シリンジ(細めの針が付いたキット)を用いる。 ・穿刺:拍動を触れる2本の指の間で、拍動の最も強い点の真上から、皮膚に対してほぼ垂直(60〜90度)に針を進める。 ・採取:針先が動脈内腔に入ると、動脈圧によって血液が自然にシリンジ内へ流入してくる。 ・抜針後:穿刺部位をガーゼで5分程度以上しっかり圧迫して止血する(抗凝固療法中や出血傾向がある場合はさらに長く)。 ・検体処理:気泡を除いて密封し、速やかに測定する。 静脈採血は浅いところを走る静脈に対して浅い角度(15〜30度程度)で刺し、シリンジや真空管の陰圧で血液を引くのに対し、大腿動脈穿刺では深部の動脈を拍動で探り、垂直に近い角度で刺入して動脈圧で血液を得るという点が大きな違いである。

選択肢考察

  1. ×a.  穿刺針の太さは18 Gを選択する。

    動脈血ガス分析の採血には、22〜25 G程度の細い針が用いられ、通常はヘパリン入りシリンジと一体となった専用キットを使う。G(ゲージ)は数字が大きいほど細い針を表し、18 Gは輸血や急速輸液に用いるかなり太い針である。動脈は圧が高いため、太い針で穿刺すると動脈壁の穴が大きくなり、血腫・出血や仮性動脈瘤などの合併症の危険が増す。血液ガス分析に必要な血液量はごく少量であり、太い針を使う利点はない。

  2. ×b.  動脈の走行は目視で確認する。

    大腿動脈は皮下脂肪や筋膜に覆われた深い位置を走るため、皮膚の上から目で見て走行を確認することはできない。示指と中指で拍動を触知し、拍動の最も強い部位とその走行の向きを確かめてから穿刺する。拍動が触れにくい場合(ショック、肥満など)は、超音波で動脈を確認しながら穿刺する方法も有用である。なお、皮膚表面から透けて見える血管を目印にするのは主に静脈採血の場合である。

  3. ○c.  皮膚に対して直角に穿刺する。

    大腿動脈は皮膚から深い位置にあるため、拍動を触れる点の真上から皮膚に対して垂直(おおむね60〜90度)に針を刺入し、最短距離で動脈に到達させる。角度を浅くすると、針が皮下を長く進むことになり、動脈を捉えにくくなるうえ、針先の位置がずれて隣接する大腿静脈や大腿神経を誤って穿刺する危険が増す。浅い角度で刺入する静脈採血とは異なる点として押さえておく。

  4. ×d.  シリンジに十分な陰圧をかける。

    動脈内は圧が高いので、針先が内腔に入れば陰圧をかけなくても血液は動脈圧で自然にシリンジ内へ押し上げられてくる。この拍動に伴う自然な逆流は、静脈ではなく動脈を穿刺できたことの確認にも役立つ。逆に強い陰圧をかけると、静脈血を誤って吸引しても気づきにくくなるほか、陰圧によって気泡が混入したり血液から気体が抜けたりして、酸素分圧・二酸化炭素分圧の値が不正確になるおそれがある。陰圧をかけて採取するのは静脈採血の方法である。

  5. ×e.  抜針後に穿刺部位をよく揉む。

    動脈は圧が高いため、抜針後の穿刺孔からは出血しやすい。穿刺部位を揉むと止血のための血栓形成が妨げられ、皮下血腫や仮性動脈瘤の原因となる。抜針後は揉まずに、穿刺部をガーゼで5分程度以上確実に圧迫して止血を確認する。抗凝固薬・抗血小板薬の内服中や出血傾向のある患者では、さらに長く圧迫する。患者に危険を及ぼしうる誤った処置であり、禁忌に相当する選択肢である。

動脈血採血の主な穿刺部位

・橈骨動脈:表在性で圧迫止血しやすく、尺骨動脈との側副血行があるため、第一選択とされることが多い。穿刺前にAllen試験などで尺骨動脈からの血流を確認する方法が知られている。 ・上腕動脈:肘窩の内側で触知する。近くに正中神経が走行する。 ・大腿動脈:太く、血圧低下時でも触知しやすいため、ショックや心肺蘇生中などの緊急時に用いられる。一方で、深部にあり圧迫止血がやや難しく、隣接する大腿静脈・大腿神経の誤穿刺や後腹膜出血(鼠径靱帯より中枢で穿刺した場合)に注意が必要である。

大腿三角(スカルパ三角)の位置関係

外側から大腿神経(Nerve)・大腿動脈(Artery)・大腿静脈(Vein)の順に並ぶ(英語の頭文字でNAVと覚える)。穿刺は鼠径靱帯より末梢側で行う。

血液ガス検体の取り扱い

・気泡が混入すると、室内空気との間でガスの移動が起こり、PaO2やPaCO2が実際とずれるため、採取後は速やかに気泡を除去して密封する。 ・採取後は時間とともに血球の代謝で酸素が消費されるため、速やかに測定する。 ・ヘパリンの量が多すぎると希釈によって測定値に誤差が生じる。

POINT

・動脈血ガス採血:細い針(22〜25 G程度)+ヘパリン入りシリンジを用いる。 ・動脈の位置は拍動の触知で確認する(大腿動脈は深部で見えない)。必要に応じて超音波ガイドを用いる。 ・大腿動脈は拍動の真上から皮膚に対してほぼ垂直(60〜90度)に穿刺する。 ・陰圧は不要で、動脈圧により血液が自然に流入する(静脈採血との違い)。 ・抜針後は揉まずに5分程度以上の圧迫止血を行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。