最後の一手で事故は起きる―末梢静脈路確保と「リキャップ禁止」の理由
第118回医師国家試験 B問題 第5問
国試問題にチャレンジ
静脈留置針による末梢静脈路の確保手技で誤っているのはどれか。
- a.穿刺前に皮膚を消毒する。
- b.皮膚面に15~30度の角度で穿刺する。
- c.血液の流出を確認後に内針とカテーテル(外筒)を少し進める。
- d.駆血帯を外してから内針を抜去する。
- e.抜去した内針はリキャップをする。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
静脈留置針による末梢静脈路確保では、皮膚消毒と乾燥、浅い角度(おおむね15〜30度)での穿刺、逆血確認後に内針と外筒を一体で少し進めてから外筒のみを送り込む操作、駆血帯を外し中枢側を圧迫してからの内針抜去、という流れが基本です。抜去した内針をリキャップする操作は針刺し事故の主な原因であり、HBV・HCV・HIVなどの血液媒介感染を防ぐため禁止されていて、使用済みの針はただちに耐貫通性の針捨て容器に廃棄します。針刺し事故が起きた場合は、流水で洗浄し速やかに報告して、必要に応じて曝露後予防を行います。部位選択では関節部・麻痺側・シャント側・リンパ節郭清側を避け、失敗時は中枢側で再穿刺します。各操作の理由(血管外漏出・出血・感染の防止)を理解しておくことが、安全で確実な手技と医療者自身を守ることにつながります。
解答・解説
正解はeです
静脈留置針(プラスチック製の外筒カテーテルの中に金属の内針が通っている二重構造の針)を用いた末梢静脈路確保の基本手技を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、手技として不適切なものを一つ選ぶ。 手技の流れを押さえておけば判断できる。 ①適切な静脈の選択:駆血して、まっすぐで弾力があり、可動性の少ない静脈を選ぶ。 ②皮膚消毒:穿刺部位を中心から外側へ向けて消毒し、乾燥を待つ。 ③穿刺:皮膚を軽く牽引して静脈を固定し、刃面(ベベル)を上に向けて浅い角度で刺入する。 ④逆血の確認と留置針の前進:フラッシュバック(逆血)を確認したら角度を寝かせ、内針と外筒を一体のまま数mm進めて外筒の先端も血管内に入れる。 ⑤外筒のみ進める:内針を固定したまま外筒を血管内に送り込む。 ⑥駆血帯を外す→カテーテル先端より中枢側の静脈を指で圧迫して血液の逆流を止める→内針を抜去する。 ⑦輸液ラインを接続し、テープ・ドレッシング材で固定する。 ⑧抜いた内針はリキャップせず、そのまま針捨て容器(耐貫通性容器)に捨てる。 手技の各段階の理由(血管外漏出を防ぐ、出血を防ぐ、針刺し事故を防ぐ)とあわせて理解することが大切である。
選択肢考察
- ×a. 穿刺前に皮膚を消毒する。
記述は正しい手技である。皮膚の常在菌を減らし、穿刺に伴う局所感染やカテーテル関連血流感染を防ぐため、穿刺前に必ず皮膚を消毒する。消毒薬にはアルコール綿や、アルコール含有クロルヘキシジンなどが用いられる。穿刺予定部位から外側へ円を描くように拭き、消毒薬が乾燥するのを待ってから穿刺する(乾燥することで殺菌効果が十分に発揮され、刺入時の痛みも軽減する)。消毒後に穿刺部位を素手で触り直すことは避ける。
- ×b. 皮膚面に15~30度の角度で穿刺する。
記述は正しい手技である。末梢静脈は皮下の浅い位置を走るため、皮膚に対して浅い角度(おおむね10〜30度程度)で、刃面を上に向けて刺入する。角度が急すぎると血管の後壁まで貫いてしまい、血腫や留置失敗の原因となる。刺入点は、血管に入れたい部位より1〜2cm程度末梢側の皮膚とする。
- ×c. 血液の流出を確認後に内針とカテーテル(外筒)を少し進める。
記述は正しい手技である。留置針は内針の先端が外筒の先端より数mm先に出ている構造であるため、内針の先端が静脈内に入ってフラッシュバックチャンバーに逆血がみられた時点では、外筒の先端はまだ血管外にあることがある。そのまま外筒だけを進めると血管外に留置されてしまうため、針の角度を少し寝かせて血管の走行に沿わせ、内針と外筒を一体のまま1〜2mm程度進めて外筒の先端も確実に血管内に入れる。その後、内針を固定して外筒のみを進めていく。
- ×d. 駆血帯を外してから内針を抜去する。
記述は正しい手技である。駆血したまま内針を抜くと、静脈圧が高い状態で外筒のハブから血液が勢いよく流出してしまう。そのため、外筒を十分に留置したら先に駆血帯を外し、さらにカテーテル先端より中枢側の皮膚を指で圧迫して静脈を閉塞させてから内針を抜去し、すぐに輸液ラインを接続する。こうすることで出血と血液汚染(医療者の血液曝露)を最小限にできる。
- ○e. 抜去した内針はリキャップをする。
誤った手技であり、本問の正解である。使用済みの針にキャップを両手で付け直す操作(リキャップ)は、針先が外れて自分の指を刺す針刺し事故の主要な原因であり、原則として禁止されている。針刺し事故はB型肝炎ウイルス〈HBV〉、C型肝炎ウイルス〈HCV〉、ヒト免疫不全ウイルス〈HIV〉などの血液媒介感染症の感染経路となる。抜去した内針はリキャップせず、ただちに手元に用意した針捨て容器(耐貫通性の専用廃棄容器)に捨てる。近年は、内針を抜くと針先が自動的に覆われる安全装置付き留置針の使用も広く推奨されている。
末梢静脈路確保の部位選択
・一般に上肢の前腕の静脈(橈側皮静脈、尺側皮静脈、前腕正中皮静脈など)や手背静脈を用いる。 ・関節の屈曲部(肘窩など)は体動でカテーテルが折れたり抜けたりしやすいため、長期留置には避けることが多い。 ・下肢の静脈は血栓性静脈炎を起こしやすいため、成人では原則として避ける。 ・麻痺側、透析用シャント側、乳癌術後でリンパ節郭清を行った側、感染・熱傷・皮膚病変のある部位は避ける。 ・一度穿刺に失敗した場合は、その部位より中枢側で穿刺し直す(末梢側で再穿刺すると、先の穿刺部から輸液が漏れるおそれがある)。
静脈を怒張させる工夫
・駆血帯を穿刺部位より中枢側に巻く(動脈血流は保たれ、静脈還流のみを遮る程度の圧で)。 ・手を握ってもらう、腕を心臓より低く下げる、穿刺部位を軽く叩く、温める。
合併症
・血管外漏出(特に抗がん薬など組織障害性の強い薬剤では皮膚壊死の危険) ・静脈炎、カテーテル関連血流感染 ・血腫、神経損傷(肘窩や手関節橈側では正中神経・橈骨神経浅枝に注意)
針刺し事故の予防と対応
・標準予防策(スタンダードプリコーション)として、手袋を着用する。 ・リキャップをしない、使用後の針は直ちに耐貫通性容器へ廃棄する、容器は満杯にしない。 ・針刺し事故が起きたら、直ちに流水と石けんで十分に洗浄し、速やかに上司・感染対策部門へ報告する。患者と受傷者の感染症(HBV、HCV、HIV)の状況を確認し、必要に応じてHBV免疫グロブリンやワクチン、HIVの曝露後予防内服を行う(HIVの予防内服はできるだけ早く開始する)。
POINT
・留置針は浅い角度(10〜30度程度)で、刃面を上にして穿刺する。 ・逆血を確認したら、内針と外筒を一体のまま少し進めてから外筒のみを進める。 ・内針は、駆血帯を外し、カテーテル先端の中枢側を圧迫してから抜去する。 ・使用済みの針はリキャップせず、直ちに針捨て容器へ廃棄する(針刺し事故防止)。
