めまいは「お供」で見分ける―脳幹出血に視力低下が似合わない理由
第119回医師国家試験 B問題 第19問
国試問題にチャレンジ
めまいを呈する疾患とその特徴の組合せで誤っているのはどれか。
- a.Ménière病 ―― 難聴
- b.小脳梗塞 ―― 運動失調
- c.聴神経腫瘍 ―― 聴力低下
- d.脳幹出血 ―― 視力低下
- e.パニック症 ―― 動悸
対話形式の解説
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ドクターまとめ
めまいの原因は末梢性(内耳・前庭神経)、中枢性(脳幹・小脳)、心因性、循環器性などに分かれ、鑑別には随伴症状が手がかりになります。Ménière病や聴神経腫瘍では難聴・耳鳴などの蝸牛症状、小脳梗塞では体幹失調などの運動失調、パニック症では動悸・発汗などの自律神経症状を伴います。一方、視力を担う視覚路は網膜から後頭葉に至り脳幹を通らないため、脳幹出血で視力低下は通常起こらず、眼症状は眼球運動障害・複視・眼振、橋出血ならpinpoint pupilやocular bobbingが特徴です。症状を神経解剖の部位に結びつけて考える習慣は、見逃すと危険な中枢性めまいを早期に拾い上げる力につながります。
解答・解説
正解はdです
めまいは、内耳や前庭神経の障害による「末梢性めまい」、脳幹・小脳など中枢神経の障害による「中枢性めまい」、さらに心因性・循環器性(起立性低血圧、不整脈など)など、さまざまな原因で起こる。原因を見分けるには、めまいそのものよりも「随伴症状」が手がかりになる。 ・内耳(蝸牛)や第8脳神経(内耳神経)の障害 → 難聴・耳鳴・耳閉感などの蝸牛症状を伴う。 ・小脳の障害 → 運動失調(歩行時のふらつき、協調運動障害)を伴う。 ・脳幹の障害 → 脳幹から出る脳神経の症状(複視・眼球運動障害、顔面のしびれ・麻痺、構音障害・嚥下障害)や、脳幹を通る長い伝導路の症状(片麻痺、感覚障害)を伴う。 ・不安障害 → 動悸、発汗、ふるえ、息苦しさなどの自律神経症状を伴う。 本問は「誤っている組合せ」を選ぶ問題である。ポイントは、視力が「どの経路」で決まるかである。視力は眼球(網膜)→視神経→視交叉→視索→外側膝状体→視放線→後頭葉視覚野という視覚路で担われ、この経路は脳幹を通らない。したがって、脳幹出血で生じる眼の症状は眼球運動障害・複視・眼振・瞳孔異常などであり、視力低下は特徴とはいえない。
選択肢考察
- ×a. Ménière病 ―― 難聴
正しい組合せである。Ménière病は内耳のリンパ液が過剰になる内リンパ水腫を本態とし、回転性めまい発作に、耳鳴・難聴・耳閉感といった蝸牛症状が同時に起こり、これを反復するのが特徴である。難聴は感音難聴で、初期には低音域が障害されやすく、発作を繰り返すうちに進行・固定化していく。めまい発作は数十分〜数時間続き、吐き気・嘔吐を伴うことが多い。
- ×b. 小脳梗塞 ―― 運動失調
正しい組合せである。小脳は運動の協調やバランスの調整を担っており、障害されると運動失調(小脳失調)が出現する。具体的には、体幹失調による起立・歩行障害(ふらつき、開脚歩行)、四肢の協調運動障害(指鼻試験・踵膝試験の拙劣)、構音障害、眼振などがみられる。小脳梗塞はめまい・嘔吐で発症し、手足の麻痺が目立たないこともあるため末梢性めまいと誤られやすい。体幹失調で立てない・歩けないことは重要な手がかりである。浮腫による脳幹圧迫や水頭症で急速に悪化することがあり、早期の画像診断(MRI)が重要である。
- ×c. 聴神経腫瘍 ―― 聴力低下
正しい組合せである。聴神経腫瘍は、内耳神経(第8脳神経)のうち多くは前庭神経から発生する神経鞘腫(前庭神経鞘腫)である。前庭神経と並走する蝸牛神経が圧迫されるため、片側性の進行性の感音難聴と耳鳴が初発症状として多い。前庭神経由来でありながら、ゆっくり大きくなるため反対側の前庭や中枢が代償し、強い回転性めまいは目立たず、ふらつき程度のことが多い。腫瘍が大きくなると小脳橋角部で三叉神経・顔面神経・小脳・脳幹を圧迫し、顔面のしびれ、角膜反射の低下、小脳症状などを生じる。神経線維腫症2型では両側に発生する。
- ○d. 脳幹出血 ―― 視力低下
誤った組合せであり、これが正解である。視力は網膜から視神経・視交叉・視索・外側膝状体・視放線を経て後頭葉に至る視覚路で担われており、視神経(第2脳神経)は脳幹から出る神経ではないため、脳幹出血で視力が低下することは通常ない。脳幹出血で生じる眼症状は、動眼神経(中脳)・滑車神経(中脳)・外転神経(橋)や、眼球運動を連携させる内側縦束(MLF)、橋の側方注視中枢(傍正中橋網様体:PPRF)の障害による眼球運動障害・複視・注視麻痺・眼振などである。特に橋出血では、両側の著しい縮瞳(pinpoint pupil)、眼球の正中固定、ocular bobbing(眼球が下方へ速く沈み、ゆっくり戻る運動)、四肢麻痺、意識障害、中枢性高熱などが特徴的である。
- ×e. パニック症 ―― 動悸
正しい組合せである。パニック症は、予期しないパニック発作を繰り返し、「また起きるのではないか」という予期不安や、発作が起きそうな場所を避ける回避行動を伴う不安症である。パニック発作では交感神経が過剰に興奮し、動悸・頻脈、発汗、ふるえ、息切れ・息苦しさ、胸痛、吐き気、めまい感・ふらつき、現実感の消失、死への恐怖などが突然出現し、通常数分以内にピークに達する。めまいはふわふわした浮動感として訴えられることが多い。
末梢性めまいと中枢性めまいの見分け方
・末梢性(内耳・前庭神経):回転性のことが多く、蝸牛症状(難聴・耳鳴)を伴うことがある。眼振は一方向性の水平回旋混合性で、固視により抑制される。歩行は可能なことが多い。代表疾患は良性発作性頭位めまい症(BPPV)、Ménière病、前庭神経炎、突発性難聴に伴うめまい。 ・中枢性(脳幹・小脳):浮動性のこともあり、眼振は方向が変わる、純粋な垂直性・回旋性などのことがある。体幹失調のため立位・歩行が困難なことが多い。脳神経症状、四肢の麻痺・感覚障害、構音障害などを伴えば強く疑う。代表疾患は小脳梗塞・小脳出血、脳幹梗塞(Wallenberg症候群など)、脳幹出血。
脳幹と脳神経の対応
・中脳:動眼神経(III)、滑車神経(IV) ・橋:三叉神経(V)、外転神経(VI)、顔面神経(VII)、内耳神経(VIII) ・延髄:舌咽神経(IX)、迷走神経(X)、副神経(XI)、舌下神経(XII) 嗅神経(I)は終脳、視神経(II)は間脳から出ており、脳幹からは出ない。
視力低下をきたす主な部位
眼球(角膜・水晶体・網膜)や視神経の障害(視神経炎、緑内障、網膜疾患など)で視力が低下する。視交叉より後方の障害は主に視野欠損(同名半盲など)として現れる。
POINT
・めまいの鑑別は随伴症状で行う:蝸牛症状(Ménière病、聴神経腫瘍)、運動失調(小脳)、脳神経症状・麻痺(脳幹)、動悸・発汗(パニック症)。 ・視神経は脳幹を通らないため、脳幹出血で視力低下は起こらない。脳幹病変の眼症状は眼球運動障害・複視・眼振。 ・橋出血の特徴:pinpoint pupil、意識障害、四肢麻痺、眼球正中固定、中枢性高熱。 ・聴神経腫瘍は前庭神経由来でも、初発は片側の難聴・耳鳴が多く、めまいは軽い。
