削るもの、削ってはいけないもの―保存期腎不全の食事療法は「エネルギー確保」が鍵
第119回医師国家試験 B問題 第17問
国試問題にチャレンジ
透析導入されていない保存期末期腎不全患者の食事療法で制限が必要ないのはどれか。
- a.リン
- b.食塩
- c.蛋白質
- d.カリウム
- e.エネルギー
対話形式の解説
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ドクターまとめ
保存期末期腎不全の食事療法では、腎臓から排泄されにくくなる食塩・カリウム・リンと、窒素代謝産物を生み糸球体に負担をかける蛋白質を制限します。一方、エネルギーは25〜35kcal/kg標準体重/日を確保すべきで制限の対象ではなく、不足すると体蛋白の異化が亢進して尿素窒素やカリウムが上昇し、低栄養やサルコペニアを招きます。目安として食塩は3g以上6g未満、蛋白質は0.6〜0.8g/kg標準体重/日とし、減らした分のエネルギーは糖質や脂質で補います。透析導入後は蛋白質の目安が増える一方、食塩・カリウム・リン・水分の管理は継続されます。「何を減らし、何を守るか」を病態から説明できることが、腎臓病患者の栄養指導の基本となります。
解答・解説
正解はeです
保存期とは、慢性腎臓病(CKD)が進行しているが、まだ透析や腎移植などの腎代替療法を始めていない時期をいう。保存期末期腎不全(おおむねCKDステージG4〜G5)では、腎臓が処理しきれなくなった物質が体内に溜まるため、食事でそれらの摂取を減らすことが治療の柱の一つとなる。 考え方の軸は「腎臓が排泄できなくなって溜まるもの(あるいは腎臓に負担をかけるもの)は制限し、体を維持するために必要なものは十分にとる」である。 ・溜まるもの・負担になるもの:食塩(ナトリウム)→体液過剰・高血圧、カリウム→高カリウム血症、リン→高リン血症・CKD-MBD、蛋白質→窒素代謝産物(尿素窒素など)の蓄積と糸球体の過剰ろ過。 ・十分にとるべきもの:エネルギー。蛋白質を制限する分、エネルギーが不足すると、体は筋肉などの蛋白質を分解してエネルギー源にしてしまう(異化亢進)。その結果、尿素窒素やカリウムがかえって増え、低栄養・サルコペニアも進む。 したがって、エネルギーは健常者と同程度(25〜35kcal/kg標準体重/日)を確保することが推奨され、制限の対象ではない。ただし肥満や糖尿病を合併する場合は、それぞれの病態に応じた調整を行う。
選択肢考察
- ×a. リン
リンは主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下すると高リン血症が顕在化する。高リン血症は二次性副甲状腺機能亢進症や血管石灰化を招き、慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の中心的な病態となる。末期腎不全では血清リン値を定期的に測定し、食事からのリン摂取を制限するとともに、必要に応じてリン吸着薬を用いる。リンは蛋白質を多く含む食品に多いため、蛋白制限によってもリン摂取は減る。加工食品に添加される無機リンは吸収率が高く、特に注意が必要である。よって制限が必要である。
- ×b. 食塩
腎機能が低下するとナトリウムの排泄能が落ち、体液量の増加、高血圧、浮腫をきたしやすくなる。高血圧はさらに腎機能を悪化させる。CKDではステージを問わず、食塩摂取量を3g/日以上6g/日未満とすることが基本である。減塩によって血圧が下がり、蛋白尿の減少や降圧薬(特にレニン・アンジオテンシン系阻害薬)の効果の増強も期待できる。よって制限が必要である。なお、3g/日未満の過度の減塩は脱水や低ナトリウム血症などのリスクがあり推奨されない。
- ×c. 蛋白質
蛋白質の代謝で生じる尿素などの窒素化合物は腎臓から排泄されるため、腎機能が落ちると蓄積して尿毒症の原因となる。また、蛋白質の過剰摂取は糸球体の過剰ろ過を招き、腎障害の進行を早める。CKDステージG3b以降(保存期末期腎不全を含む)では、0.6〜0.8g/kg標準体重/日の蛋白制限が目安とされる。蛋白制限は高窒素血症の是正に加え、リン・カリウム・尿酸・酸の摂取量も減らす効果がある。制限下でも必須アミノ酸を確保するため、アミノ酸スコアの高い良質な蛋白質(肉、魚、卵、乳製品など)を選ぶ。ただし高齢者やサルコペニアのある患者では、過度の制限で低栄養にならないよう個別に判断する。
- ×d. カリウム
摂取したカリウムの大部分は腎臓から排泄されるため、末期腎不全では高カリウム血症をきたしやすい。高カリウム血症は心室細動などの致死的不整脈や心停止の原因となりうる。目安としてCKDステージG3bでは2,000mg/日以下、G4〜G5では1,500mg/日以下に制限する。カリウムは野菜、果物、芋類、豆類などに多く、野菜を茹でこぼすことで減らせる。代謝性アシドーシスやレニン・アンジオテンシン系阻害薬の使用も高カリウム血症を助長するため注意する。よって制限が必要である。
- ○e. エネルギー
保存期CKDでも、エネルギーは健常者と同程度の25〜35kcal/kg標準体重/日を確保することが推奨され、制限は必要ない。蛋白制限を行う際にエネルギーが不足すると、体は筋肉などの体蛋白を分解してアミノ酸を糖新生に使うようになる(異化亢進)。その結果、尿素窒素の上昇や筋肉からのカリウム放出が起こり、尿毒症や高カリウム血症がむしろ悪化し、低栄養やサルコペニアも進む。そこで、蛋白質を減らした分は糖質(でんぷん製品など)や脂質で補い、十分なエネルギーを確保する。肥満や糖尿病を合併する場合には、性別・年齢・身体活動量に応じて適宜調整する。
CKDの食事療法の目安(ステージG3b〜G5、保存期)
・エネルギー:25〜35kcal/kg標準体重/日(制限しない。十分に確保する) ・蛋白質:0.6〜0.8g/kg標準体重/日(G3aでは0.8〜1.0g/kg標準体重/日) ・食塩:3g/日以上6g/日未満(全ステージ共通) ・カリウム:G3bで2,000mg/日以下、G4〜G5で1,500mg/日以下 ・リン:血清リン値をみながら制限し、必要に応じてリン吸着薬を併用する ※標準体重は身長(m)×身長(m)×22で求める。
蛋白制限の意義と注意点
蛋白制限は高窒素血症の是正、高リン血症・高カリウム血症・高尿酸血症・代謝性アシドーシスの改善、糸球体過剰ろ過の軽減による腎保護を目的とする。一方、エネルギー不足や過度の制限は異化亢進と低栄養(protein-energy wasting:PEW)を招くため、エネルギーの確保と良質な蛋白質の選択が不可欠である。高齢者ではフレイル・サルコペニア予防の観点から、蛋白制限を緩めることもある。
透析導入後との違い
透析導入後は蛋白質が透析で失われることもあり、蛋白摂取量の目安は0.9〜1.2g/kg標準体重/日程度に増える。一方、食塩・カリウム・リン・水分の管理は引き続き必要である。
POINT
・保存期CKDの食事療法で制限するのは、食塩・蛋白質・カリウム・リン(腎臓から排泄されにくくなるもの)。 ・エネルギーは制限せず、25〜35kcal/kg標準体重/日を確保する。 ・エネルギー不足は体蛋白の異化を招き、尿素窒素やカリウムの上昇、低栄養を悪化させる。 ・食塩は3g/日以上6g/日未満、蛋白質はG3b以降で0.6〜0.8g/kg標準体重/日が目安。
