StudyMed医師国家試験

削るもの、削ってはいけないもの―保存期腎不全の食事療法は「エネルギー確保」が鍵

第119回医師国家試験 B問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第119回 B問題 第17問

透析導入されていない保存期末期腎不全患者の食事療法で制限が必要ないのはどれか。

  1. a.リン
  2. b.食塩
  3. c.蛋白質
  4. d.カリウム
  5. e.エネルギー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、まだ透析を始めていない末期腎不全、いわゆる保存期の患者さんの食事療法がテーマだ。考え方の軸はシンプルで、「腎臓が排泄できずに溜まるもの、腎臓に負担をかけるものは減らす」「体を維持するのに必要なものはしっかりとる」。この2つに選択肢を振り分けてみよう。
医学生医学生
腎不全の食事というと、とにかく何でも控えめにするイメージがあります。全部制限が必要に見えてしまいました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でも何でも減らすと、かえって患者さんを悪くしてしまうものが1つある。まずは確実に溜まるものから整理しよう。食塩はどうかな。
医学生医学生
腎臓のナトリウム排泄が落ちるので、体液が増えて高血圧や浮腫になります。腎臓内科の講義で、CKDでは減塩が基本だと習いました。
ドクタードクター
その通り。CKDではステージを問わず、食塩は1日3g以上6g未満が目安だ。減塩で血圧が下がれば蛋白尿も減り、レニン・アンジオテンシン系阻害薬も効きやすくなる。ただし3g未満まで極端に減らすと脱水や低ナトリウム血症の心配があるから、下限もあることを覚えておこう。次はカリウムだ。
医学生医学生
カリウムも大部分が尿から出るので、溜まると高カリウム血症で不整脈が怖いですよね。臨床実習で、透析前の患者さんの心電図でテント状T波を見せてもらいました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。高カリウム血症は心室細動や心停止につながりうるから、保存期末期ではおおむね1日1,500mg以下が目安になる。野菜や果物、芋類に多く、野菜は茹でこぼすと減らせる。代謝性アシドーシスやRA系阻害薬もカリウムを上げる方向に働くから注意したい。
医学生医学生
リンも腎臓から出るんでしたっけ。正直、カルシウムのほうが印象に残っていて、リンはあまり意識していませんでした。
ドクタードクター
リンこそ大事なんだ。腎臓から排泄されにくくなると高リン血症になり、二次性副甲状腺機能亢進症や血管石灰化を招く。これがCKDに伴う骨ミネラル代謝異常、CKD-MBDの中心的な病態だ。食事で制限し、必要ならリン吸着薬を使う。加工食品の添加物に含まれる無機リンは吸収率が高いので特に気をつけたい。
医学生医学生
蛋白質はどうでしょう。体をつくる材料なので、減らしすぎるのも怖い気がします。
ドクタードクター
鋭いね。蛋白質を代謝すると尿素などの窒素化合物ができ、腎機能が落ちると蓄積して尿毒症の原因になる。過剰摂取は糸球体の過剰ろ過を起こして腎障害の進行も早める。だから保存期末期では0.6〜0.8g/kg標準体重/日程度に制限するのが目安だ。蛋白質の多い食品にはリンやカリウムも多いから、一石二鳥の効果もある。
医学生医学生
では、残ったエネルギーが制限不要ということですね。でも、蛋白を減らすならカロリーも一緒に減ってしまいませんか。
ドクタードクター
そこがまさに本題だ。エネルギーは健常者と同程度、25〜35kcal/kg標準体重/日を確保するのが推奨で、制限の対象ではない。もしエネルギーが足りないと、体は筋肉の蛋白質を分解して糖新生に回す。これが異化亢進だ。
医学生医学生
筋肉が壊れると、尿素窒素が上がるうえに、細胞内のカリウムも出てきてしまいますね。
ドクタードクター
その通り。せっかく蛋白やカリウムを制限しても、エネルギー不足で台無しになるわけだ。低栄養やサルコペニアも進む。だから蛋白を減らした分は、でんぷん製品などの糖質や脂質で補う。治療用の低蛋白ご飯などはそのためにあるんだ。
医学生医学生
「蛋白は減らすけれど、カロリーは減らさない」がセットなんですね。生化学で習った糖新生の話がここでつながりました。
ドクタードクター
いいまとめだ。臨床での注意点も加えておこう。肥満や糖尿病を合併していればエネルギーは病態に応じて調整するし、高齢者ではフレイルやサルコペニア予防のため蛋白制限を緩めることもある。制限しすぎて起こる低栄養状態はprotein-energy wasting、PEWと呼ばれ、予後にも関わる。
医学生医学生
透析を始めたら、食事の考え方は変わるんですか。
ドクタードクター
透析では蛋白質が失われることもあり、蛋白の目安は0.9〜1.2g/kg標準体重/日程度に増える。一方で食塩、カリウム、リン、そして水分の管理は引き続き必要だ。保存期と透析期で何が変わり、何が変わらないかを対比して覚えると整理しやすいよ。

まとめ

保存期末期腎不全の食事療法では、腎臓から排泄されにくくなる食塩・カリウム・リンと、窒素代謝産物を生み糸球体に負担をかける蛋白質を制限します。一方、エネルギーは25〜35kcal/kg標準体重/日を確保すべきで制限の対象ではなく、不足すると体蛋白の異化が亢進して尿素窒素やカリウムが上昇し、低栄養やサルコペニアを招きます。目安として食塩は3g以上6g未満、蛋白質は0.6〜0.8g/kg標準体重/日とし、減らした分のエネルギーは糖質や脂質で補います。透析導入後は蛋白質の目安が増える一方、食塩・カリウム・リン・水分の管理は継続されます。「何を減らし、何を守るか」を病態から説明できることが、腎臓病患者の栄養指導の基本となります。

解答・解説

正解はeです

保存期とは、慢性腎臓病(CKD)が進行しているが、まだ透析や腎移植などの腎代替療法を始めていない時期をいう。保存期末期腎不全(おおむねCKDステージG4〜G5)では、腎臓が処理しきれなくなった物質が体内に溜まるため、食事でそれらの摂取を減らすことが治療の柱の一つとなる。 考え方の軸は「腎臓が排泄できなくなって溜まるもの(あるいは腎臓に負担をかけるもの)は制限し、体を維持するために必要なものは十分にとる」である。 ・溜まるもの・負担になるもの:食塩(ナトリウム)→体液過剰・高血圧、カリウム→高カリウム血症、リン→高リン血症・CKD-MBD、蛋白質→窒素代謝産物(尿素窒素など)の蓄積と糸球体の過剰ろ過。 ・十分にとるべきもの:エネルギー。蛋白質を制限する分、エネルギーが不足すると、体は筋肉などの蛋白質を分解してエネルギー源にしてしまう(異化亢進)。その結果、尿素窒素やカリウムがかえって増え、低栄養・サルコペニアも進む。 したがって、エネルギーは健常者と同程度(25〜35kcal/kg標準体重/日)を確保することが推奨され、制限の対象ではない。ただし肥満や糖尿病を合併する場合は、それぞれの病態に応じた調整を行う。

選択肢考察

  1. ×a.  リン

    リンは主に腎臓から排泄されるため、腎機能が低下すると高リン血症が顕在化する。高リン血症は二次性副甲状腺機能亢進症や血管石灰化を招き、慢性腎臓病に伴う骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD)の中心的な病態となる。末期腎不全では血清リン値を定期的に測定し、食事からのリン摂取を制限するとともに、必要に応じてリン吸着薬を用いる。リンは蛋白質を多く含む食品に多いため、蛋白制限によってもリン摂取は減る。加工食品に添加される無機リンは吸収率が高く、特に注意が必要である。よって制限が必要である。

  2. ×b.  食塩

    腎機能が低下するとナトリウムの排泄能が落ち、体液量の増加、高血圧、浮腫をきたしやすくなる。高血圧はさらに腎機能を悪化させる。CKDではステージを問わず、食塩摂取量を3g/日以上6g/日未満とすることが基本である。減塩によって血圧が下がり、蛋白尿の減少や降圧薬(特にレニン・アンジオテンシン系阻害薬)の効果の増強も期待できる。よって制限が必要である。なお、3g/日未満の過度の減塩は脱水や低ナトリウム血症などのリスクがあり推奨されない。

  3. ×c.  蛋白質

    蛋白質の代謝で生じる尿素などの窒素化合物は腎臓から排泄されるため、腎機能が落ちると蓄積して尿毒症の原因となる。また、蛋白質の過剰摂取は糸球体の過剰ろ過を招き、腎障害の進行を早める。CKDステージG3b以降(保存期末期腎不全を含む)では、0.6〜0.8g/kg標準体重/日の蛋白制限が目安とされる。蛋白制限は高窒素血症の是正に加え、リン・カリウム・尿酸・酸の摂取量も減らす効果がある。制限下でも必須アミノ酸を確保するため、アミノ酸スコアの高い良質な蛋白質(肉、魚、卵、乳製品など)を選ぶ。ただし高齢者やサルコペニアのある患者では、過度の制限で低栄養にならないよう個別に判断する。

  4. ×d.  カリウム

    摂取したカリウムの大部分は腎臓から排泄されるため、末期腎不全では高カリウム血症をきたしやすい。高カリウム血症は心室細動などの致死的不整脈や心停止の原因となりうる。目安としてCKDステージG3bでは2,000mg/日以下、G4〜G5では1,500mg/日以下に制限する。カリウムは野菜、果物、芋類、豆類などに多く、野菜を茹でこぼすことで減らせる。代謝性アシドーシスやレニン・アンジオテンシン系阻害薬の使用も高カリウム血症を助長するため注意する。よって制限が必要である。

  5. ○e.  エネルギー

    保存期CKDでも、エネルギーは健常者と同程度の25〜35kcal/kg標準体重/日を確保することが推奨され、制限は必要ない。蛋白制限を行う際にエネルギーが不足すると、体は筋肉などの体蛋白を分解してアミノ酸を糖新生に使うようになる(異化亢進)。その結果、尿素窒素の上昇や筋肉からのカリウム放出が起こり、尿毒症や高カリウム血症がむしろ悪化し、低栄養やサルコペニアも進む。そこで、蛋白質を減らした分は糖質(でんぷん製品など)や脂質で補い、十分なエネルギーを確保する。肥満や糖尿病を合併する場合には、性別・年齢・身体活動量に応じて適宜調整する。

CKDの食事療法の目安(ステージG3b〜G5、保存期)

・エネルギー:25〜35kcal/kg標準体重/日(制限しない。十分に確保する) ・蛋白質:0.6〜0.8g/kg標準体重/日(G3aでは0.8〜1.0g/kg標準体重/日) ・食塩:3g/日以上6g/日未満(全ステージ共通) ・カリウム:G3bで2,000mg/日以下、G4〜G5で1,500mg/日以下 ・リン:血清リン値をみながら制限し、必要に応じてリン吸着薬を併用する ※標準体重は身長(m)×身長(m)×22で求める。

蛋白制限の意義と注意点

蛋白制限は高窒素血症の是正、高リン血症・高カリウム血症・高尿酸血症・代謝性アシドーシスの改善、糸球体過剰ろ過の軽減による腎保護を目的とする。一方、エネルギー不足や過度の制限は異化亢進と低栄養(protein-energy wasting:PEW)を招くため、エネルギーの確保と良質な蛋白質の選択が不可欠である。高齢者ではフレイル・サルコペニア予防の観点から、蛋白制限を緩めることもある。

透析導入後との違い

透析導入後は蛋白質が透析で失われることもあり、蛋白摂取量の目安は0.9〜1.2g/kg標準体重/日程度に増える。一方、食塩・カリウム・リン・水分の管理は引き続き必要である。

POINT

・保存期CKDの食事療法で制限するのは、食塩・蛋白質・カリウム・リン(腎臓から排泄されにくくなるもの)。 ・エネルギーは制限せず、25〜35kcal/kg標準体重/日を確保する。 ・エネルギー不足は体蛋白の異化を招き、尿素窒素やカリウムの上昇、低栄養を悪化させる。 ・食塩は3g/日以上6g/日未満、蛋白質はG3b以降で0.6〜0.8g/kg標準体重/日が目安。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。