抜けた胃管は「長さ」ではなく「先端」で確かめる―経管栄養再開前の安全確認
第118回医師国家試験 B問題 第33問
国試問題にチャレンジ
74歳の男性。食物のつかえ感を主訴に来院した。3か月前から食事中のつかえ感を自覚したが,徐々に増悪し食事摂取が困難になったため受診した。意識は清明。身長170cm,体重46kg(3か月で10kg減少)。体温37.0℃。脈拍64/分,整。血圧100/56mmHg。呼吸数14/分。SpO2 96%(room air)。皮膚は乾燥している。眼瞼結膜に貧血を認める。眼球結膜に黄染を認めない。口腔内は乾燥している。頸部リンパ節を触知しない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦,軟で,肝・脾を触知しない。上部消化管内視鏡検査で中部食道に腫瘍があり,内視鏡下生検の病理検査で扁平上皮癌と診断された。経口摂取が困難なため,経管栄養を行うこととした。胃管を鼻翼から55cmまで挿入し,間欠的な経管栄養を開始した。翌日,経管栄養再開前に胃管が30cm抜けていることに看護師が気付き主治医に報告した。 経管栄養再開前の対応で適切なのはどれか。
- a.そのまま再開する。
- b.胃管を55cmまで挿入し再開する。
- c.胃管を55cmまで挿入し心窩部で空気注入音を聴取し再開する。
- d.胃管を55cmまで挿入し水を注入して胃管の開通を確認し再開する。
- e.胃管を55cmまで挿入し胸部エックス線写真で胃管先端が胃内にあることを確認し再開する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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医学生
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医学生
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ドクターまとめ
経鼻胃管が抜けかけたときは、元の長さまで押し戻しても先端が胃内にあるとは限らず、口腔・咽頭でのたわみや食道内での反転、気管への迷入が起こりえます。特に食道癌による狭窄がある例では、先端が狭窄部を越えられないこともあります。気泡音の聴取は気管内でも陽性になりうるため単独では使えず、水の注入は開通を示すだけで位置の確認にならないばかりか、気管内なら誤嚥を招きます。注入再開前にはエックス線写真で先端が横隔膜下の胃内にあることを確認するのが最も確実で、pH確認などを組み合わせつつ最終的には画像で確かめることが望まれます。経管栄養の事故は重篤な誤嚥性肺炎につながるため、日々の位置確認と、高度低栄養例でのリフィーディング症候群への配慮を含めた安全管理の考え方を身につけることが重要です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・74歳男性。3か月前からの嚥下時のつかえ感が次第に悪化し、食事がとれなくなった。進行性の嚥下障害は、食道の器質的な狭窄を示唆する。 ・身長170cm、体重46kgでBMIは約15.9(低体重)、3か月で10kg(元の体重の約18%)の体重減少があり、高度の低栄養状態である。皮膚・口腔の乾燥は脱水、眼瞼結膜の貧血は慢性的な摂取不良や腫瘍からの出血を反映していると考えられる。 ・上部消化管内視鏡と生検で中部食道の扁平上皮癌と確定している。わが国の食道癌は大部分が扁平上皮癌で、胸部中部食道が最も多い部位である。
経過と問題点
経口摂取が困難なため経鼻胃管を鼻翼から55cmまで挿入し、間欠的な経管栄養を始めた。成人では鼻から胃内までのおおよその距離は45〜55cm程度であり、55cmで先端が胃内に届いていたと考えられる。ところが翌日、胃管が30cm抜けており、先端は鼻から約25cm、すなわち咽頭〜食道上部付近にあることになる。
設問の考え方
経管栄養で最も危険な事故は、栄養剤が気管・肺に入ることである(誤挿入による肺内注入、あるいは食道内注入後の逆流による誤嚥)。いったん抜けた胃管を押し戻しても、途中でとぐろを巻いたり折り返したり、気管に迷入したりする可能性があり、さらに本例では食道内に腫瘍による狭窄があるため先端が狭窄部を越えられないこともある。したがって、再挿入後は注入を始める前に先端が確実に胃内にあることを確かめなければならない。そのために最も信頼できる方法はエックス線撮影であり、気泡音の聴診や水の注入はその代わりにはならない。
選択肢考察
- ×a. そのまま再開する。
30cm抜けた状態では先端は鼻翼から約25cm、咽頭から食道上部あたりにあり、胃に届いていない。この位置で注入すれば栄養剤は食道内に入り、腫瘍による狭窄部で停滞・逆流して気道へ流れ込み、誤嚥性肺炎や窒息を起こしうる。患者に重大な害を及ぼす対応であり、絶対に行ってはならない。
- ×b. 胃管を55cmまで挿入し再開する。
挿入の長さを元に戻しても、先端が胃内にあるとは限らない。盲目的な挿入では、口腔・咽頭や食道内で管がたわんだり反転したりして長さだけ稼いでいることや、気管へ誤って入っていることがある。特に本例は食道癌による狭窄があり、先端が狭窄部の手前で折れ返る可能性もある。位置を確認せずに注入を始めるのは危険である。
- ×c. 胃管を55cmまで挿入し心窩部で空気注入音を聴取し再開する。
シリンジで空気を送り込み、心窩部で気泡音(ゴボゴボという音)を聴く方法は簡便で臨床でよく用いられてきたが、確実性に欠ける。胃管が気管・気管支や食道下部にあっても音が心窩部に伝わって聴こえることがあり、聴く人の主観にも左右されるため、気泡音のみで胃内留置と判断してはならないとされている。あくまで補助的な確認法である。
- ×d. 胃管を55cmまで挿入し水を注入して胃管の開通を確認し再開する。
水がスムーズに入ることは管が閉塞・屈曲していないことを示すだけで、先端の位置は分からない。先端が食道内や気管内にあっても水は注入できてしまう。さらに、気管内にあった場合には注入した水そのものが誤嚥となり、肺炎の原因になる。
- ○e. 胃管を55cmまで挿入し胸部エックス線写真で胃管先端が胃内にあることを確認し再開する。
胃管は造影ラインを含んでおり、エックス線写真で走行と先端位置を直接確認できる。管が気管・気管支に入っていないこと、食道に沿って縦隔正中を下行していること、横隔膜を越えて先端が左上腹部の胃内に位置することを確かめられるため、先端位置の確認法として最も確実である。誤挿入による肺内注入という重大事故を防ぐため、再挿入後は注入再開前に画像で確認する。撮影範囲は横隔膜下の胃まで含める必要がある。
経鼻胃管の先端位置の確認法
・エックス線撮影: 最も確実な方法(ゴールドスタンダード)。特に初回挿入時、抜けかけた管の再挿入時、位置に疑いがあるときに行う。 ・吸引物の性状とpHの確認: 胃液が引けてpHが酸性(目安として5.5以下)なら胃内の可能性が高い。ただし制酸薬(プロトンポンプ阻害薬など)の服用中は胃液のpHが上がり判定しにくい。 ・気泡音の聴取: 簡便だが信頼性が低く、単独では判定しない。 ・水の注入、患者が咳き込まないことなど: 位置確認の根拠にはならない。意識障害や嚥下反射の低下があると、気管に入っても咳が出ないことがある。 確認は複数の方法を組み合わせ、最終的にはエックス線での確認が望ましい。注入前には毎回、鼻翼部のマーキングや固定位置がずれていないかを確かめる。
経管栄養の経路の選び方
消化管が機能しているなら静脈栄養より経腸栄養を優先する(腸管の免疫・バリア機能を保てる)。経腸栄養が4週間程度以上の長期になる見込みなら、経鼻胃管より胃瘻・腸瘻が勧められる。経鼻胃管は自己抜去や位置のずれ、鼻・咽頭の潰瘍、違和感などの問題が起こりやすいためである。食道癌による狭窄では、治療方針によって食道ステント留置や、胃瘻・空腸瘻の造設も選択肢となる。
リフィーディング症候群
本例のような高度の低栄養状態の患者に急に栄養を再開すると、インスリン分泌の増加に伴いリン・カリウム・マグネシウムが細胞内に移動して低下し、心不全、不整脈、呼吸不全などを起こすことがある。少量から開始し、電解質(特にリン)とビタミンB1を補充しながら徐々に増量する。
食道癌の概要
わが国では扁平上皮癌が約9割を占め、好発部位は胸部中部食道である。危険因子は喫煙と飲酒(特に飲酒で顔が赤くなるアルデヒド脱水素酵素2〈ALDH2〉の活性が低い人)、熱い飲食物などである。症状は進行性の嚥下障害(つかえ感)、体重減少、胸骨後部痛など。
POINT
・経鼻胃管を挿入し直したら、注入を始める前に先端位置をエックス線で確認するのが最も確実である。 ・気泡音の聴取は気管内誤挿入でも陽性になりうるため、単独で位置の確認に使わない。 ・水が注入できることは開通の確認にすぎず、先端位置の確認にはならない。 ・抜けかけた胃管で注入を続けると、誤嚥・肺内注入という重大な事故につながる。 ・成人で鼻から胃までの距離はおよそ45〜55cm。
