StudyMed医師国家試験

「ためる」ホルモン、インスリン―ひとつだけ逆向きの作用を見抜け

第118回医師国家試験 F問題 第29問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第29問

インスリンの作用で誤っているのはどれか。

  1. a.肝臓での糖新生抑制
  2. b.肝臓でのグリコーゲン合成促進
  3. c.脂肪細胞での中性脂肪分解促進
  4. d.骨格筋でのアミノ酸取り込み促進
  5. e.骨格筋でのグルコース取り込み促進

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、インスリンが肝臓・骨格筋・脂肪細胞でそれぞれ何をしているかを問う問題だ。個々の作用を丸暗記するより、「インスリンはどんな状況で出て、体に何をさせたいホルモンなのか」という全体像をつかむと一気に解けるよ。
医学生医学生
インスリンは唯一の血糖低下ホルモン、と生化学の講義で何度も言われました。
ドクタードクター
その通り。もう一歩踏み込むと、インスリンは食後など栄養が十分なときに膵Langerhans島のβ細胞から分泌される。だから役割は「入ってきたエネルギーを細胞に取り込ませ、グリコーゲン・中性脂肪・蛋白質という貯蔵型に変える」こと。つまり同化ホルモンなんだ。
医学生医学生
合成や取り込みは促進、分解や放出は抑制、という一方向のルールで考えればいいということですね。
ドクタードクター
そう。その物差しで選択肢を順に見ていこう。まず肝臓での糖新生はどうかな。
医学生医学生
糖新生はアミノ酸や乳酸から糖を作って血中に出す仕組みなので、血糖を下げたいインスリンなら抑制するはずです。
ドクタードクター
正解。インスリンはPEPCKやグルコース-6-ホスファターゼといった糖新生の鍵酵素の発現を抑えて、肝臓からの糖放出を減らす。2型糖尿病で空腹時血糖が上がる大きな理由の一つは、肝臓のインスリン抵抗性で糖新生が抑えきれないことなんだ。
医学生医学生
肝臓のグリコーゲン合成促進も、「ためる」方向なので正しいですね。
ドクタードクター
うん。インスリンはグリコーゲン合成酵素を活性化し、同時に分解側のグリコーゲンホスホリラーゼを不活性化する。合成のアクセルと分解のブレーキを同時に踏むイメージだね。骨格筋の2つはどうだろう。
医学生医学生
グルコース取り込み促進はGLUT4ですよね。アミノ酸取り込みは……インスリンって糖のホルモンという印象が強くて、少し迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。でもインスリンは蛋白代謝にも同化的に働いて、筋へのアミノ酸取り込みと蛋白合成を促し、蛋白分解を抑える。だからインスリン作用が不足すると筋が痩せて体重が減るんだ。グルコースのほうは、インスリンが受容体に結合するとGLUT4が細胞内の小胞から細胞膜へ移動して取り込みが増える。骨格筋は食後のブドウ糖処理の主役だよ。
医学生医学生
となると、脂肪細胞での中性脂肪分解促進だけが「分解」で逆向きです。これが誤りですね。
ドクタードクター
正解。インスリンはホスホジエステラーゼを活性化してcAMPを下げ、ホルモン感受性リパーゼを抑えることで脂肪分解を抑制する。一方でリポ蛋白リパーゼを活性化して中性脂肪の取り込み・貯蔵を進める。脂肪分解を促進するのは、むしろグルカゴン、カテコールアミン、コルチゾール、成長ホルモンといったインスリン拮抗ホルモンのほうだ。
医学生医学生
内科の臨床実習で糖尿病ケトアシドーシスの患者さんを担当したとき、インスリンが切れると脂肪が分解されてケトン体ができると教わりました。つながりました。
ドクタードクター
まさにその裏返しなんだ。インスリンが欠乏すると脂肪分解が止まらず、遊離脂肪酸が肝臓でケトン体に変わってアシドーシスになる。同時に糖新生とグリコーゲン分解が亢進し、末梢での糖取り込みも落ちて高血糖になり、浸透圧利尿で脱水が進む。だからDKAの治療は補液とインスリン投与が柱になるんだね。
医学生医学生
インスリンを使うと血清カリウムが下がるので注意、というのも聞きました。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。インスリンはNa+/K+-ATPaseを活性化してK+を細胞内に取り込ませる。高K血症の緊急治療でグルコース・インスリン療法を使うのはこのためだし、逆にDKAの治療中は低K血症に注意してカリウムを補充しながら進める。作用の理解がそのまま臨床の注意点につながる好例だよ。
医学生医学生
インスリンは「ためる・取り込む」、拮抗ホルモンは「分解して放出する」と対比して覚えます。
ドクタードクター
それで十分戦える。臓器ごとに「肝臓は糖を出さずにためる、筋は糖とアミノ酸を取り込む、脂肪は脂肪をためて分解しない」と整理しておけば、表現を変えて出題されても迷わないはずだ。

まとめ

インスリンは膵β細胞から分泌される唯一の血糖低下ホルモンで、食後の栄養をグリコーゲン・中性脂肪・蛋白質として貯蔵させる同化ホルモンです。肝臓では糖新生とグリコーゲン分解を抑えてグリコーゲン合成を促し、骨格筋ではGLUT4の膜移動によるグルコース取り込みとアミノ酸取り込み・蛋白合成を促進します。脂肪細胞ではホルモン感受性リパーゼを抑制して中性脂肪の分解を抑えるため、「中性脂肪分解促進」は誤りです。インスリンが欠乏すると脂肪分解の亢進からケトン体が増え糖尿病ケトアシドーシスに至り、またK+を細胞内に移す作用は高K血症治療やDKA治療中の低K血症の注意点に直結します。「合成・取り込みは促進、分解・放出は抑制」という原則で整理すると、代謝の理解と臨床判断の両方に役立ちます。

解答・解説

正解はcです

テーマ

インスリンは膵Langerhans島のβ細胞から分泌されるペプチドホルモンで、生体で唯一の血糖低下ホルモンである。食後など栄養が十分にある状態で分泌が増え、「エネルギー基質を細胞に取り込み、貯蔵型(グリコーゲン・中性脂肪・蛋白質)に変える」同化ホルモンとして働く。

考え方

インスリンの作用は「合成・取り込み・貯蔵は促進、分解・放出は抑制」と一方向にまとめられる。 ・糖代謝:骨格筋・脂肪細胞へのグルコース取り込み促進、肝・筋でのグリコーゲン合成促進、肝での糖新生とグリコーゲン分解の抑制 ・脂質代謝:脂肪酸・中性脂肪合成の促進、脂肪細胞での中性脂肪分解(脂肪分解)の抑制 ・蛋白代謝:アミノ酸取り込みと蛋白合成の促進、蛋白分解の抑制 この原則に照らすと、「中性脂肪分解促進」だけが逆向き(異化)の作用であり、誤っているのは c である。中性脂肪分解を促進するのは、インスリンが欠乏した状態や、グルカゴン・カテコールアミン・コルチゾール・成長ホルモンなどのインスリン拮抗ホルモンが優位な状態である。

選択肢考察

  1. ×a.  肝臓での糖新生抑制

    正しい作用である。インスリンは肝細胞でホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ〈PEPCK〉やグルコース-6-ホスファターゼなど糖新生の鍵となる酵素の遺伝子発現を抑え、乳酸・アミノ酸・グリセロールからのブドウ糖産生を抑制する。肝糖放出の抑制は特に空腹時血糖の調節に重要で、2型糖尿病で空腹時血糖が上昇する主因の一つは肝のインスリン抵抗性による糖新生の亢進である。

  2. ×b.  肝臓でのグリコーゲン合成促進

    正しい作用である。インスリンはグリコーゲン合成酵素を活性化(脱リン酸化)し、同時にグリコーゲンホスホリラーゼを不活性化する。これにより肝でのグリコーゲン合成が進み、グリコーゲン分解は抑えられる。食後に吸収されたブドウ糖を肝に貯蔵する仕組みである。

  3. ○c.  脂肪細胞での中性脂肪分解促進

    誤った記述であり、これが正解である。インスリンは脂肪細胞でホスホジエステラーゼを活性化してcAMPを低下させ、ホルモン感受性リパーゼの活性を抑えることで中性脂肪の分解(脂肪酸とグリセロールの放出)を抑制する。またリポ蛋白リパーゼの活性化やグルコース取り込みの促進により、中性脂肪の合成・貯蔵を進める。インスリンが欠乏すると脂肪分解が亢進し、遊離脂肪酸が肝でケトン体に代謝されて糖尿病ケトアシドーシスを生じる。

  4. ×d.  骨格筋でのアミノ酸取り込み促進

    正しい作用である。インスリンは骨格筋へのアミノ酸取り込みを増やし、蛋白合成を促進するとともに蛋白分解(異化)を抑制する。インスリン作用が不足すると筋蛋白の分解が進み、体重減少や筋量低下を来す。

  5. ×e.  骨格筋でのグルコース取り込み促進

    正しい作用である。インスリンが受容体(チロシンキナーゼ型)に結合すると、細胞内シグナルを介してグルコース輸送体GLUT4が細胞内の小胞から細胞膜へ移動し、骨格筋や脂肪細胞へのグルコース取り込みが増加する。骨格筋は食後のブドウ糖処理の主要な臓器である。なお運動時の筋収縮もインスリン非依存的にGLUT4を細胞膜へ移動させる。

インスリンの作用のまとめ

肝臓:グリコーゲン合成↑、グリコーゲン分解↓、糖新生↓、脂肪酸合成↑、ケトン体産生↓ 骨格筋:グルコース取り込み(GLUT4)↑、グリコーゲン合成↑、アミノ酸取り込み・蛋白合成↑、蛋白分解↓ 脂肪組織:グルコース取り込み(GLUT4)↑、中性脂肪合成↑、リポ蛋白リパーゼ活性↑、ホルモン感受性リパーゼ活性↓(脂肪分解↓) その他:細胞内へのK+取り込み促進(Na+/K+-ATPase活性化)。高K血症の治療にグルコース・インスリン療法が用いられる根拠である。

インスリン拮抗ホルモン

グルカゴン、カテコールアミン、コルチゾール、成長ホルモンは血糖を上昇させ、脂肪分解や糖新生を促進する。低血糖時にはこれらが分泌され血糖を回復させる。

インスリン欠乏時の代謝

脂肪分解亢進→遊離脂肪酸増加→肝でケトン体産生増加→ケトアシドーシス。糖新生とグリコーゲン分解の亢進、末梢での糖取り込み低下により高血糖となり、浸透圧利尿による脱水を来す。

POINT

・インスリンは唯一の血糖低下ホルモンで、同化(合成・貯蔵)を促し異化(分解)を抑える。 ・脂肪細胞ではホルモン感受性リパーゼを抑制し、中性脂肪分解を抑える。 ・肝では糖新生・グリコーゲン分解を抑え、グリコーゲン合成を促す。 ・骨格筋・脂肪細胞ではGLUT4の膜移動によりグルコース取り込みを促進する。 ・インスリン欠乏では脂肪分解亢進からケトアシドーシスに至る。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。