夜明け前の血糖を守るのは誰か―空腹時に働く「肝臓の蛇口」
第119回医師国家試験 F問題 第26問
国試問題にチャレンジ
早朝空腹時の主な血糖調節機構はどれか。
- a.肝臓でのブドウ糖放出
- b.腎臓でのブドウ糖再吸収
- c.脳でのブドウ糖取り込み
- d.骨格筋でのブドウ糖取り込み
- e.副腎での糖質ステロイド合成
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
早朝空腹時は腸管からのブドウ糖流入がないため、血糖はほぼ肝臓からのブドウ糖放出(グリコーゲン分解と糖新生)によって保たれ、その量はインスリンとグルカゴンのバランスで調節されます。骨格筋はGLUT4を介して食後に血糖を下げる主役ですが、グルコース-6-ホスファターゼを欠くため血中にブドウ糖を放出できず、脳はインスリン非依存的にブドウ糖を一定に消費する臓器です。腎臓はブドウ糖をほぼ全量再吸収するだけで血糖を調節する仕組みではなく、コルチゾールは作用の遅い補助的な役割にとどまります。2型糖尿病の空腹時高血糖は肝糖新生の過剰が主因で、メトホルミンはこれを抑えます。空腹時と食後で血糖を決める臓器が異なることを理解しておくと、病態の把握や薬剤選択の考え方につながります。
解答・解説
正解はaです
問われていること
夕食後から翌朝までの一晩(おおむね10時間以上)の絶食状態で、血糖値を一定範囲(おおよそ70〜110 mg/dL程度)に保っている主な仕組みは何か、という問題である。
考え方
血糖値は「血中に入ってくるブドウ糖」と「組織に取り込まれて消費されるブドウ糖」のバランスで決まる。食後は腸管から吸収されたブドウ糖が流入源となり、インスリンの作用で骨格筋・脂肪組織・肝臓に取り込まれて血糖が下がる。一方、早朝空腹時には腸管からの流入がないため、血中へのブドウ糖供給源はほぼ肝臓(と一部の腎臓)からの内因性ブドウ糖産生だけになる。 脳や赤血球はブドウ糖を常に消費し続けるので、もし肝臓がブドウ糖を放出しなければ血糖は低下し続ける。肝臓は、貯蔵グリコーゲンの分解(グリコーゲン分解)と、乳酸・アラニンなどのアミノ酸・グリセロールからブドウ糖を新たに作る糖新生によってブドウ糖を作り、肝臓に特有の酵素グルコース-6-ホスファターゼでリン酸を外して血中へ放出する。この肝糖放出の量を、門脈血中のインスリンとグルカゴンのバランスが微調整している。 したがって、早朝空腹時血糖値を決める主因は「肝臓でのブドウ糖放出(肝糖放出)」である。
選択肢考察
- ○a. 肝臓でのブドウ糖放出
空腹時には腸管からのブドウ糖流入がないため、血糖の供給はほぼ肝臓からの放出に依存する。絶食初期はグリコーゲン分解の寄与が大きく、絶食が長くなるにつれ糖新生の比率が高まり、一晩絶食後の朝ではおおよそ両者が半分ずつ程度を担う。放出量はインスリン(放出を抑制)とグルカゴン(放出を促進)の比で調節される。2型糖尿病では肝臓のインスリン抵抗性やグルカゴンの相対的過剰により肝糖放出、特に糖新生が過剰となり、これが早朝空腹時血糖高値の主な原因となる。メトホルミンが主に肝糖新生を抑えて空腹時血糖を下げるのもこの機序による。
- ×b. 腎臓でのブドウ糖再吸収
糸球体で濾過されたブドウ糖は、近位尿細管のナトリウム・グルコース共輸送体(SGLT2が大部分、残りをSGLT1)によってほぼ全量が再吸収される。血糖が腎の糖排泄閾値(おおよそ160〜180 mg/dL)を超えない限り尿糖は出ず、再吸収量を血糖に応じて変えて血糖を調節しているわけではない。したがって空腹時血糖の主な調節機構ではない。なお腎臓自体も糖新生を行い、長時間の絶食ではその寄与が増すが、一晩絶食後の主役は肝臓である。
- ×c. 脳でのブドウ糖取り込み
脳は1日に100g以上のブドウ糖を消費し、安静空腹時には全身のブドウ糖利用の大部分を占める主要な消費臓器である。脳のブドウ糖取り込みはインスリン非依存性の輸送体(GLUT1、GLUT3)を介し、血糖値の高低にかかわらずほぼ一定に行われる。血糖を「消費」する側であり、血糖値を一定に保つよう取り込み量を変える調節機構ではない。
- ×d. 骨格筋でのブドウ糖取り込み
骨格筋はインスリン依存性の糖輸送体GLUT4を持ち、食後にインスリンが分泌されるとGLUT4が細胞膜へ移動してブドウ糖を大量に取り込む。食後に取り込まれるブドウ糖の大部分は骨格筋が処理しており、骨格筋は食後高血糖を下げる主要な臓器である。また運動時には筋収縮自体がインスリン非依存的に取り込みを大きく増やす。一方、空腹時はインスリン濃度が低く、骨格筋の取り込みは少なく、空腹時血糖の主な規定因子ではない。また筋にはグルコース-6-ホスファターゼがないため、筋グリコーゲンを分解してもブドウ糖として血中に放出できない。
- ×e. 副腎での糖質ステロイド合成
糖質コルチコイド(コルチゾール)は糖新生酵素の誘導や末梢での糖利用抑制により血糖を上げる、インスリン拮抗ホルモン(カウンターレギュラトリーホルモン)の一つである。コルチゾールには早朝に高くなる日内変動があり空腹時血糖に一定の影響はあるが、作用発現は遅く(数時間単位)、日々の早朝空腹時の血糖を規定しているのはあくまで肝臓のブドウ糖放出であり、コルチゾールはそれを下支えする補助的・許容的な役割にとどまる。急な低血糖への防御では、まずグルカゴンとアドレナリンが速やかに働き、コルチゾールや成長ホルモンは遅れて作用する。
食後と空腹時の血糖調節の違い
・食後:腸管から吸収されたブドウ糖が門脈を経て流入する。インスリン分泌が増え、肝臓での糖放出が抑制されるとともに、骨格筋(GLUT4)・脂肪組織への取り込みと肝臓でのグリコーゲン合成が促進されて血糖が下がる。食後血糖を主に規定するのは末梢(骨格筋)での取り込みと肝糖放出の抑制である。 ・空腹時:インスリンが低下しグルカゴンが相対的に優位となり、肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生が進んでブドウ糖が放出される。空腹時血糖を主に規定するのは肝糖放出である。
絶食時間による供給源の変化
・絶食初期(数時間):主に肝グリコーゲン分解。 ・一晩絶食後:グリコーゲン分解と糖新生がほぼ同程度に寄与する。 ・絶食が1日以上続く:肝グリコーゲンはほぼ枯渇し、糖新生が主体となる。腎臓の糖新生の比率も増える。さらに長期化すると脂肪酸由来のケトン体を脳もエネルギー源として利用するようになり、糖の消費を節約する。
糖新生の材料
乳酸(筋や赤血球の嫌気的解糖由来、コリ回路)、アミノ酸(主にアラニン、グルコース-アラニン回路)、グリセロール(脂肪分解由来)。脂肪酸そのものからはブドウ糖を作れない。
血糖を上げるホルモン
グルカゴン、アドレナリン(カテコラミン)、コルチゾール、成長ホルモン。低血糖時にはグルカゴンとアドレナリンが即効性の防御を担い、コルチゾールと成長ホルモンは遅れて作用する。血糖を下げるホルモンはインスリンのみである。
糖尿病との関係
2型糖尿病では肝臓のインスリン抵抗性とグルカゴン分泌の不適切な亢進により、夜間から早朝にかけて肝糖放出が過剰となり空腹時血糖が上昇する。早朝に成長ホルモンやコルチゾールの分泌が高まって血糖が上がる現象は暁現象と呼ばれる。
POINT
・早朝空腹時血糖を規定する主な機構は肝臓からのブドウ糖放出(グリコーゲン分解+糖新生)である。 ・食後血糖は主に骨格筋での取り込み(インスリン依存性GLUT4)と肝糖放出の抑制で下がる。 ・血中にブドウ糖を放出できるのはグルコース-6-ホスファターゼを持つ肝臓(と腎臓)であり、骨格筋はできない。 ・腎臓はブドウ糖をほぼ全量再吸収するだけで、血糖を調節する仕組みではない(閾値約160〜180 mg/dL)。 ・2型糖尿病の空腹時高血糖は肝糖新生の過剰が主因で、メトホルミンはこれを抑える。
