食べたら腸が膵臓に合図する―インクレチン「GLP-1とGIP」が血糖を下げるしくみ
第120回医師国家試験 C問題 第34問
国試問題にチャレンジ
食後にインスリン分泌を促進して血糖値を下げるホルモンはどれか。2つ選べ。
- a.グルカゴン
- b.アドレナリン
- c.ソマトスタチン
- d.グルカゴン類似ペプチド〈GLP-1〉
- e.糖依存性インスリン放出ペプチド〈GIP〉
対話形式の解説
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医学生
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医学生まとめ
血糖値を下げるホルモンはインスリンだけであり、食後にその分泌を促すのが、消化管から分泌されるインクレチンであるGLP-1とGIPです。GIPは十二指腸・上部空腸のK細胞、GLP-1は回腸・大腸のL細胞から分泌され、いずれも血糖依存性にインスリン分泌を高めますが、グルカゴン抑制・胃排出遅延・食欲抑制はGLP-1の特徴です。グルカゴンとアドレナリンは血糖を上げるインスリン拮抗ホルモン、ソマトスタチンはインスリンとグルカゴンの両方を抑えるホルモンであり、インスリン分泌を促進しません。両インクレチンはDPP-4で速やかに分解されるため、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬が2型糖尿病治療に用いられ、単独では低血糖を起こしにくい一方、SU薬やインスリンとの併用には注意が必要です。インクレチンの生理を理解することは、現在の糖尿病・肥満症治療を理解する土台になります。
解答・解説
正解はd, eです
血糖値を下げるホルモンは、事実上インスリンだけである。本問は、そのインスリンの分泌を「食後に」促すホルモンを問うている。 食事をとると、栄養素(ブドウ糖や脂肪など)が消化管の内分泌細胞を刺激し、消化管ホルモンが血中に放出される。このうち膵β細胞に働いてインスリン分泌を高めるものをインクレチンと総称し、GLP-1とGIPの2つがある。同じ量のブドウ糖を投与しても、静脈から入れるより口から摂るほうがインスリン分泌が大きくなる(インクレチン効果)。この現象から、腸管由来のインスリン分泌促進因子の存在が明らかにされた。 インクレチンの特徴は、血糖値が高いときにだけインスリン分泌を強めること(血糖依存性)である。食後高血糖を抑えつつ、単独では低血糖を起こしにくい。 選択肢のうち、グルカゴンとアドレナリンは血糖値を上げるホルモン(インスリン拮抗ホルモン)であり、ソマトスタチンはインスリン分泌を抑えるホルモンである。いずれも題意に合わない。
選択肢考察
- ×a. グルカゴン
グルカゴンは膵ランゲルハンス島のα細胞から分泌される。主に空腹時や低血糖時に働き、肝臓でグリコーゲン分解と糖新生を促して血糖値を上げる。インスリンと反対の作用をもつ代表的なインスリン拮抗ホルモンである。膵島内ではβ細胞を刺激する作用もあるが、全身での働きは血糖上昇であり、食後に血糖を下げるホルモンには当たらない。
- ×b. アドレナリン
アドレナリンは副腎髄質から分泌されるカテコールアミンである。肝臓でのグリコーゲン分解と糖新生を促し、さらにβ細胞のα2受容体を介してインスリン分泌を抑える。これらにより血糖値を上げる。低血糖やストレスなど緊急時に、コルチゾールなどとともにグルコースを急いで供給する役割を担う。
- ×c. ソマトスタチン
ソマトスタチンは膵島のδ細胞、視床下部、消化管などから分泌される。インスリンとグルカゴンの両方の分泌を抑え、成長ホルモンや多くの消化管ホルモンの分泌も抑える「抑制性」のホルモンである。インスリン分泌を促すことはないため、題意に合わない。血糖への最終的な影響は、インスリンとグルカゴンのどちらがより抑えられるかで変わる。ソマトスタチン産生腫瘍(ソマトスタチノーマ)では、インスリン分泌の抑制などにより糖尿病をきたすことがある。
- ○d. グルカゴン類似ペプチド〈GLP-1〉
GLP-1(glucagon-like peptide-1)は、主に下部小腸(回腸)から大腸にあるL細胞から、食事摂取に反応して分泌されるインクレチンである。β細胞のGLP-1受容体に結合し、血糖値が高いときに限ってインスリン分泌を促す。さらにα細胞からのグルカゴン分泌を抑え、胃から腸への内容物の排出を遅らせ、脳に働いて食欲を抑える。これらが合わさって食後の血糖上昇を抑える。血中では蛋白分解酵素DPP-4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)で速やかに分解されるため、作用時間は短い。
- ○e. 糖依存性インスリン放出ペプチド〈GIP〉
GIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)は、主に十二指腸から上部空腸にあるK細胞から、ブドウ糖や脂肪の摂取に反応して分泌されるインクレチンである。名前のとおり、血糖値に依存してβ細胞からのインスリン分泌を促し、食後の血糖上昇を抑える。GLP-1とともにDPP-4で分解される。ただしGLP-1と異なり、グルカゴン分泌を抑えず、血糖が低めのときにはむしろグルカゴン分泌を促す。胃排出の遅延作用も目立たない。脂肪細胞への脂肪蓄積を促す作用もある。かつては胃酸分泌を抑える作用から gastric inhibitory polypeptide と呼ばれていた。
血糖を調節するホルモン
・血糖を下げる: インスリン(膵β細胞)のみ。 ・血糖を上げる(インスリン拮抗ホルモン): グルカゴン(膵α細胞)、アドレナリン(副腎髄質)、コルチゾール(副腎皮質)、成長ホルモン(下垂体前葉)、甲状腺ホルモン。グルカゴンは空腹時の血糖維持を、アドレナリンとコルチゾールは低血糖やストレス時の大きな血糖上昇を主に担う。 ・インスリン分泌を促す消化管ホルモン(インクレチン): GLP-1、GIP。 ・インスリン・グルカゴンの両方を抑える: ソマトスタチン(膵δ細胞)。
GLP-1とGIPの比較
・分泌細胞と部位: GLP-1は回腸・大腸のL細胞、GIPは十二指腸・上部空腸のK細胞。 ・インスリン分泌: どちらも血糖依存性に促進する。 ・グルカゴン分泌: GLP-1は抑制、GIPは抑制しない(低血糖時はむしろ促進)。 ・胃排出の遅延・食欲抑制: 主にGLP-1の作用。 ・分解: どちらもDPP-4で速やかに分解される。
インクレチン関連薬(2型糖尿病の治療薬)
・DPP-4阻害薬(シタグリプチンなど): 内因性のGLP-1・GIPの分解を防ぎ、作用を強める。経口薬。 ・GLP-1受容体作動薬(リラグルチド、セマグルチド、デュラグルチドなど): DPP-4で分解されにくいように設計された薬。主に注射薬で、経口のセマグルチドもある。体重減少作用があり、一部は肥満症の治療にも使われる。 ・GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド): 両方の受容体に作用する注射薬。 いずれも血糖依存性にインスリン分泌を促すため単独では低血糖を起こしにくいが、スルホニル尿素薬やインスリンと併用すると低血糖のリスクが高まる。GLP-1受容体作動薬では、悪心などの消化器症状が代表的な副作用である。
POINT
・インクレチン=食事に反応して消化管から分泌され、インスリン分泌を促すホルモン(GLP-1とGIP)。 ・作用は血糖依存性で、単独では低血糖を起こしにくい。 ・GLP-1: L細胞(回腸・大腸)、グルカゴン抑制・胃排出遅延・食欲抑制。GIP: K細胞(十二指腸・上部空腸)。 ・両者ともDPP-4で分解される → DPP-4阻害薬・GLP-1受容体作動薬などが糖尿病治療薬。 ・グルカゴン・アドレナリンは血糖を上げ、ソマトスタチンはインスリンとグルカゴンの両方を抑える。
