咳で漏れるのはなぜ?―「尿道の締まり」で見分ける腹圧性尿失禁
第118回医師国家試験 A問題 第11問
国試問題にチャレンジ
腹圧性尿失禁の原因はどれか。
- a.尿閉
- b.脳梗塞
- c.過活動膀胱
- d.間質性膀胱炎
- e.前立腺全摘除術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
腹圧性尿失禁は、咳やくしゃみなど腹圧上昇時に尿が漏れるタイプで、膀胱の収縮は正常であり、尿道括約筋や骨盤底筋群による尿道閉鎖機能の低下が原因です。女性では出産・加齢・肥満による骨盤底の脆弱化、男性では前立腺全摘除術による内・外尿道括約筋の障害が代表的な原因となります。一方、過活動膀胱や脳梗塞は膀胱の不随意収縮による切迫性尿失禁、尿閉は多量の残尿からあふれる溢流性尿失禁と結びつき、間質性膀胱炎も腹圧性の原因にはなりません。治療は機序に応じて骨盤底筋訓練やスリング手術、抗コリン薬などを使い分け、残尿の多い例に抗コリン薬を使わないよう注意が必要です。尿失禁を機序で分類して理解することは、問診から原因を推定し適切な治療を選ぶための基本となります。
解答・解説
正解はeです
尿失禁は「意図せずに尿が漏れる」状態で、漏れ方と機序によって腹圧性、切迫性、溢流性、反射性、機能性などに分類される。原因疾患と尿失禁のタイプを結びつけられるかが本問のポイントである。 腹圧性尿失禁は、咳・くしゃみ・笑う・重い物を持ち上げる・走るなど、腹圧が急に上がった瞬間に尿が漏れるタイプである。膀胱の収縮は正常で、問題は尿道を閉じておく側(尿道括約筋や骨盤底筋群、尿道の支持組織)の機能低下にある。腹圧で膀胱内圧が尿道の閉鎖圧を上回ると漏れが起こる。代表的な原因は、女性では出産・加齢・肥満による骨盤底筋の脆弱化や尿道過可動、男性では前立腺全摘除術による尿道括約筋の損傷である。 したがって、選択肢の中から「尿道の閉鎖機能を障害するもの」を選べばよい。残りの選択肢は、膀胱の不随意収縮や知覚過敏による切迫性尿失禁、あるいは排出障害による溢流性尿失禁と関係するもので、腹圧性尿失禁の原因ではない。
選択肢考察
- ×a. 尿閉
尿閉は膀胱に尿がたまっているのに排出できない状態である。慢性的に尿閉が続くと膀胱が過伸展し、膀胱内圧が尿道抵抗を超えたところで尿が少しずつあふれ出る。これが溢流性尿失禁(奇異性尿失禁)で、前立腺肥大症などの下部尿路閉塞や、糖尿病性神経障害などによる低活動膀胱が原因となる。大量の残尿が特徴で、治療は導尿や閉塞の解除であり、腹圧性尿失禁とは機序も対応も異なる。
- ×b. 脳梗塞
脳梗塞など橋より上位の中枢が障害されると、蓄尿期に排尿反射を抑えておく働きが失われ、膀胱が不随意に収縮する(神経因性の排尿筋過活動)。その結果、強い尿意とともに漏れる切迫性尿失禁が中心となる。より広範な障害や意識・認知機能低下を伴う場合には反射性尿失禁や、トイレに行けないことによる機能性尿失禁を伴うこともある。尿道閉鎖機能の障害ではないので腹圧性尿失禁の原因ではない。
- ×c. 過活動膀胱
過活動膀胱は、尿意切迫感(急に起こる我慢しがたい強い尿意)を必須症状とし、通常は頻尿や夜間頻尿を伴う症状症候群である。尿失禁を伴う場合、それは切迫性尿失禁である。膀胱側の蓄尿機能の問題であり、尿道閉鎖不全による腹圧性尿失禁とは別の病態である。なお女性では両者が併存する混合性尿失禁も少なくない。
- ×d. 間質性膀胱炎
間質性膀胱炎は、膀胱の慢性炎症により膀胱痛(蓄尿時に強まり排尿で軽減する痛み)、頻尿、尿意亢進を示す疾患で、中高年女性に多い。膀胱鏡でHunner病変を認めるものがある。病気が進むと膀胱が線維化して容量が小さくなる。尿失禁は必発ではなく、起こる場合は知覚過敏や膀胱容量の低下に伴う切迫性の漏れであり、腹圧性尿失禁の原因とはならない。
- ○e. 前立腺全摘除術
前立腺癌に対する前立腺全摘除術では、前立腺とともに膀胱頸部付近の内尿道括約筋(平滑筋)が切除され、前立腺尖部に接する外尿道括約筋(横紋筋)も損傷を受けやすい。尿道の閉鎖機能が低下するため、術後に腹圧がかかると尿が漏れる腹圧性尿失禁が生じる。多くは骨盤底筋訓練などで時間とともに改善するが、一部は長く残り、重症例では人工尿道括約筋の植込みなどの手術が検討される。
尿失禁の分類
・腹圧性尿失禁:腹圧上昇時に漏れる。尿道閉鎖機能の低下が原因。経産婦・閉経後・肥満女性、前立腺全摘除術後の男性に多い。治療は骨盤底筋訓練、減量、薬物療法(β2刺激薬など)、中部尿道スリング手術(TVT手術、TOT手術)など。 ・切迫性尿失禁:強い尿意(尿意切迫感)とともに我慢できずに漏れる。過活動膀胱、脳血管障害・Parkinson病など上位中枢の障害、膀胱炎などが原因。治療は抗コリン薬、β3作動薬、膀胱訓練など。 ・溢流性尿失禁:多量の残尿があり、あふれるように漏れる。前立腺肥大症などの閉塞や、糖尿病・骨盤内手術後などの低活動膀胱が原因。治療は閉塞の解除や間欠導尿。抗コリン薬は悪化させるので注意する。 ・反射性尿失禁:脊髄損傷など仙髄より上位の脊髄障害で、尿意がないまま反射的に膀胱が収縮して漏れる。 ・機能性尿失禁:排尿機能自体は保たれているが、認知症や運動機能障害のためトイレでの排尿動作ができずに漏れる。高齢化に伴い増加している。 ・混合性尿失禁:腹圧性と切迫性が併存したもので、中高年女性に多い。
男性の尿禁制にかかわる構造
膀胱頸部の内尿道括約筋(平滑筋、自律神経支配)と、膜様部尿道を囲む外尿道括約筋(横紋筋、陰部神経支配)が尿の禁制を保つ。前立腺全摘除術ではこれらが障害されうるため、術後の腹圧性尿失禁は重要な合併症である。
POINT
・腹圧性尿失禁=尿道閉鎖機能の低下。原因は女性の骨盤底筋脆弱化(出産・加齢・肥満)と、男性の前立腺全摘除術後。 ・過活動膀胱・脳梗塞→切迫性尿失禁。 ・尿閉(多量の残尿)→溢流性尿失禁。抗コリン薬は禁忌的。 ・脊髄損傷→反射性尿失禁、認知症・ADL低下→機能性尿失禁。
