精子をつくる場所を守れるか―男性不妊を「造精・通過・性機能」で整理する
第116回医師国家試験 D問題 第12問
国試問題にチャレンジ
男性不妊症の原因となるのはどれか。3つ選べ。
- a.乳幼児期の流行性耳下腺炎
- b.Klinefelter症候群
- c.両側停留精巣
- d.精索静脈瘤
- e.真性包茎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
男性不妊症は造精機能障害、精路通過障害、性機能障害に分けて考えると整理しやすく、大部分は造精機能障害が占めます。Klinefelter症候群は精細管の硝子化によりほぼ全例が無精子症となる高ゴナドトロピン性性腺機能低下症で、両側停留精巣と精索静脈瘤は精巣温度の上昇などを通じて造精機能を障害します。特に精索静脈瘤は治療可能な男性不妊の原因として最も多く、停留精巣では早期の精巣固定術が重要です。一方、ムンプス精巣炎は思春期以降の罹患で問題となり、乳幼児期の罹患や真性包茎は不妊の原因になりません。原因を病態ごとに分類し、年齢条件などの細部まで吟味する姿勢は、不妊診療の評価と治療選択の基礎になります。
解答・解説
正解はb, c, dです
男性不妊症とは、避妊をせずに一定期間(一般に1年)性交渉をもっても妊娠に至らないカップルのうち、男性側に原因があるものをいう。原因は大きく、(1)造精機能障害(精子をつくる働きの障害。男性不妊の大部分を占める)、(2)精路通過障害(精子の通り道の閉塞)、(3)性機能障害(勃起障害や射精障害)に分けて考えると整理しやすい。 本問では、各選択肢がこれらのどれかに当てはまり、かつ実際に妊孕性(妊娠させる能力)を低下させるかを判断する。Klinefelter症候群、両側停留精巣、精索静脈瘤はいずれも精巣そのものの造精機能を障害する代表的な原因である。一方、流行性耳下腺炎(ムンプス)は「罹患した年齢」が鍵であり、精巣炎を起こしやすいのは思春期以降である。真性包茎は陰茎の皮膚の問題であって、精子の産生や輸送を妨げるものではない。
選択肢考察
- ×a. 乳幼児期の流行性耳下腺炎
ムンプスウイルスによる精巣炎(ムンプス精巣炎)は、思春期以降の男性が罹患した場合に起こりやすく、成人男性の罹患者の2〜3割程度にみられる。精巣炎が両側に及ぶと精細管が障害され、精巣萎縮から造精機能障害をきたしうる。しかし思春期前の乳幼児期には精巣炎はまれであり、乳幼児期のムンプス罹患は男性不妊症の原因とはならない。年齢条件が付いている点に注意する。
- ○b. Klinefelter症候群
Klinefelter症候群は性染色体にX染色体が1本以上過剰な状態(代表的な核型は47,XXY)で、男性の原発性性腺機能低下症の代表である。精細管の硝子化・線維化が進行し、精巣は小さく硬くなり、成人ではほぼ全例が無精子症を呈する。ホルモン所見ではテストステロン低値、LH・FSH高値(高ゴナドトロピン性性腺機能低下症)となる。男性不妊症の原因として正しい。なお、精巣内に残存する精子を顕微鏡下精巣内精子採取術(micro-TESE)で回収し、顕微授精により挙児を得られる場合がある。
- ○c. 両側停留精巣
停留精巣は精巣が陰嚢内まで下降せず、鼠径部や腹腔内にとどまった状態である。陰嚢内は体温より2〜3℃低く保たれており、これが正常な精子形成に必要である。停留精巣では精巣が体温に近い環境に置かれるため、胚細胞が障害され造精機能が低下する。両側性の場合は妊孕性低下の程度が大きく、男性不妊症の原因として正しい。停留部位が高いほど、また手術時期が遅いほど障害は強いため、生後6か月〜1歳頃(遅くとも2歳まで)に精巣固定術を行うことが推奨される。精巣腫瘍のリスク上昇も合併症として重要である。
- ○d. 精索静脈瘤
精索静脈瘤は精巣からの静脈還流路である蔓状静脈叢が拡張・蛇行した状態で、解剖学的理由(左精巣静脈が左腎静脈に直角に流入する、静脈弁の欠如など)から左側に多い。静脈血のうっ滞により精巣温度の上昇、低酸素、酸化ストレスなどが生じ、造精機能障害をきたす。男性不妊症患者の約3〜4割にみられ、治療可能な男性不妊の原因として最も頻度が高い。男性不妊症の原因として正しい。精索静脈の高位結紮術や顕微鏡下低位結紮術により精液所見の改善が期待できる。
- ×e. 真性包茎
真性包茎は包皮口が狭く、包皮を翻転しても亀頭を露出できない状態である。亀頭包皮炎の反復や排尿障害、陰茎癌のリスクなどが問題になるが、精巣での精子産生や精路での精子輸送には影響しない。勃起・射精も通常は可能であり、真性包茎そのものは男性不妊症の原因とはならない。
男性不妊症の原因の分類
1. 造精機能障害(最多、男性不妊の約8割) ・精索静脈瘤 ・停留精巣(とくに両側性) ・染色体異常: Klinefelter症候群(47,XXY)、Y染色体微小欠失(AZF領域欠失) ・思春期以降のムンプス精巣炎 ・視床下部・下垂体性: Kallmann症候群(嗅覚障害を伴う低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)、Prader-Willi症候群、下垂体腫瘍、高プロラクチン血症など ・内分泌疾患(甲状腺・副腎疾患、糖尿病など)、抗癌薬・放射線治療、高温環境、蛋白同化ステロイド使用など ・原因不明(特発性)も多い 2. 精路通過障害 ・精巣上体炎・精管炎後の閉塞(淋菌、クラミジア、結核など) ・先天性両側精管欠損(嚢胞性線維症の原因遺伝子CFTRの変異と関連) ・鼠径ヘルニア手術時の精管損傷、精管結紮術後 3. 性機能障害 ・勃起障害、射精障害(逆行性射精など。糖尿病による神経障害や後腹膜リンパ節郭清後など) ・尿道下裂など外性器の形態異常による腟外射精
評価の基本
精液検査(WHO基準下限値の目安: 精液量1.4 mL、精子濃度1,600万/mL、総運動率42%)に加え、LH・FSH・テストステロン・プロラクチンなどの内分泌検査、陰嚢の触診・超音波検査、必要に応じて染色体検査を行う。FSH高値は精巣自体の障害(原発性)を、FSH低値は視床下部・下垂体の障害を示唆する。
POINT
・男性不妊の大部分は造精機能障害で、治療可能な原因として最も多いのは精索静脈瘤である。 ・Klinefelter症候群(47,XXY)はほぼ全例が無精子症となり、高ゴナドトロピン性性腺機能低下症を示す。 ・停留精巣は精巣温度の上昇で造精機能が障害され、両側性ほど不妊のリスクが高い。早期の精巣固定術が重要。 ・ムンプス精巣炎は思春期以降の罹患で起こる。乳幼児期の罹患は不妊の原因にならない。 ・真性包茎は男性不妊の原因にならない。
