「一度陽性なら一生陽性」―TPHAとRPRの使い分けで読み解く梅毒の基本
第118回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
梅毒で誤っているのはどれか。
- a.TPHAは疾患活動性の指標となる。
- b.他の性感染症の合併について検索する。
- c.神経梅毒は感染からの期間を問わず起こる。
- d.妊婦が未治療の場合,児の先天梅毒の原因となる。
- e.日本では10年前と比較して報告数が増加している。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
梅毒の血清学的検査には、カルジオリピンを抗原とする非トレポネーマ検査(RPR法など)と、菌体成分を抗原とするトレポネーマ検査(TPHA、TPLA、FTA-ABSなど)があります。前者は病勢を反映して治療により低下するため活動性評価や治癒判定に用い、後者は治癒後もほぼ生涯陽性が続くため活動性の指標にはなりません。梅毒を診断したらHIVなど他の性感染症とパートナーの検索を行い、神経梅毒は晩期に限らず早期にも眼梅毒・耳梅毒・髄膜炎などとして起こりうることに注意します。未治療妊婦からは経胎盤感染で先天梅毒が生じ、国内の報告数は2011年ごろから急増して2022年には年間1万件を超えました。検査の使い分けと疫学の変化を理解することは、増加する梅毒を見逃さず適切に治療・説明するための基盤になります。
解答・解説
正解はaです
梅毒は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)による感染症で、主に性的接触で感染し、母子間では経胎盤的にも感染する。本問は梅毒の検査・合併症・疫学に関する基本知識を問う「誤っているもの」を選ぶ問題である。 鍵となるのは血清学的検査の2系統の使い分けである。梅毒の血清反応には、カルジオリピン(ウシ心筋由来のリン脂質)を抗原とする非トレポネーマ検査(RPR法など、いわゆるSTS)と、トレポネーマそのものの菌体成分を抗原とするトレポネーマ検査(TPHA法、TPLA法、FTA-ABS法など)がある。前者は病勢を反映して治療により抗体価が低下するため、活動性の評価や治療効果判定に用いる。後者は感染の有無を確認する特異性の高い検査だが、一度陽性になると治癒後もほぼ生涯陽性が続くため、活動性の指標にはならない。この区別ができれば、TPHAを活動性の指標とする記述が誤りであると判断できる。 そのほかの選択肢は、梅毒診療で必ず押さえるべき事項(性感染症の重複感染、神経梅毒が病期を問わず起こること、先天梅毒、近年の国内報告数の急増)を述べた正しい記述である。
選択肢考察
- ○a. TPHAは疾患活動性の指標となる。
誤った記述であり、本問の正解である。TPHA(Treponema pallidum hemagglutination:梅毒トレポネーマ感作血球凝集法)はトレポネーマ抗原に対する抗体を検出する検査である。感染の確認には有用だが、いったん陽性化すると治療が成功しても多くはほぼ一生陽性のまま残る。そのため治療の要否や効果、現在の病勢を判断する材料にはならない。疾患活動性や治療効果の指標として用いるのは、RPR(rapid plasma reagin)法などの非トレポネーマ検査で、治療が奏効すると抗体価が低下していく。
- ×b. 他の性感染症の合併について検索する。
正しい記述である。梅毒は性的接触で感染するため、同じ経路でうつるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症、B型・C型肝炎、淋菌感染症、性器クラミジア感染症などを同時に持っていることがある。さらに、第1期梅毒の硬性下疳のような性器潰瘍があると粘膜のバリアが破綻し、HIVの感染・伝播が起こりやすくなる。したがって梅毒と診断したら、他の性感染症のスクリーニングを行うのが原則であり、パートナーの検査・治療も勧める。
- ×c. 神経梅毒は感染からの期間を問わず起こる。
正しい記述である。神経梅毒はトレポネーマが中枢神経系へ侵入して生じる病態で、脊髄癆や進行麻痺のように感染後長い年月を経て現れる晩期型がよく知られている。しかしトレポネーマは感染早期から中枢神経に到達しうるため、早期にも髄膜炎(頭痛、悪心など)、髄膜血管型梅毒による脳梗塞、ぶどう膜炎・虹彩炎・視神経炎などの眼梅毒、難聴などの耳梅毒として発症することがある。つまり神経梅毒は第何期という病期とは独立に、どの時期でも起こりうる。HIV合併例では特に起こりやすい。
- ×d. 妊婦が未治療の場合,児の先天梅毒の原因となる。
正しい記述である。トレポネーマは胎盤を通過するため、未治療の梅毒妊婦からは胎児へ感染が起こり、流産・死産・早産や先天梅毒の原因となる。母体が早期梅毒の時期ほど感染率は高いが、いずれの病期でも起こりうる。早期先天梅毒では、出生時から乳児期に肝脾腫、黄疸、皮疹・紫斑、鼻炎(鼻閉)、骨軟骨炎、脈絡網膜炎、低出生体重などがみられる。晩期先天梅毒ではHutchinson 3徴(Hutchinson歯、実質性角膜炎、内耳性難聴)が知られる。このため妊婦健診では梅毒血清反応が必須項目となっており、妊娠中に診断されればペニシリンで治療する。
- ×e. 日本では10年前と比較して報告数が増加している。
正しい記述である。梅毒は感染症法の5類感染症(全数把握)で、診断した医師は届け出る義務がある。国内の報告数は2010年前後には年間1,000件を下回る程度だったが、2011年ごろから増加に転じ、2022年には年間1万件を超えた。10年前と比べて10倍以上に増えており、若年女性や異性間性的接触での増加が目立つ。この増加に伴い先天梅毒の報告も増えている。
梅毒の病期と症状
・第1期(感染後約3週):感染部位の初期硬結、硬性下疳(無痛性潰瘍)、無痛性の鼠径リンパ節腫脹。 ・第2期(感染後約3か月):血行性に全身へ広がり、バラ疹、梅毒性乾癬(手掌・足底の皮疹)、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛、粘膜疹などがみられる。 ・潜伏梅毒:症状がなく血清反応のみ陽性の時期。 ・晩期(第3期・第4期):ゴム腫、心血管梅毒(大動脈炎、大動脈瘤)、脊髄癆(Argyll Robertson瞳孔、深部感覚障害)、進行麻痺など。
血清学的検査の解釈
・非トレポネーマ検査(RPR法など)陽性・トレポネーマ検査(TPHA、TPLAなど)陽性:活動性梅毒、または治療後間もない状態。 ・非トレポネーマ陽性・トレポネーマ陰性:生物学的偽陽性(BFP)の可能性。SLE、抗リン脂質抗体症候群、妊娠などでみられる。ただし感染極早期では非トレポネーマ検査が先に陽性化することもある。 ・非トレポネーマ陰性・トレポネーマ陽性:梅毒の既往(治癒後)。 ・両者陰性:非感染、または感染直後で抗体産生前(window期)。
治療と治癒判定
・神経梅毒以外の早期・晩期梅毒では、ベンジルペニシリンベンザチン(持続性ペニシリン製剤)の筋注、またはアモキシシリン内服を用いる。 ・神経梅毒ではベンジルペニシリンカリウムの大量点滴静注を行う。 ・治療開始後数時間で発熱、悪寒、皮疹の増悪などが起こることがあり、Jarisch-Herxheimer反応と呼ばれる(菌体の破壊に伴う反応で、治療を中止する必要は通常ない)。 ・治癒判定にはRPR法などの非トレポネーマ検査を用いる。用手法(倍数希釈法)では治療前値の1/4以下に、自動化法ではおおむね1/2以下に低下し、その後再上昇がなければ治癒と判断する。
POINT
・活動性・治療効果の指標は非トレポネーマ検査(RPR法など)。トレポネーマ検査(TPHA、TPLA、FTA-ABS)は治癒後も陽性が続くため活動性の指標にならない。 ・梅毒を診断したらHIVなど他の性感染症を検索し、パートナーも検査・治療する。 ・神経梅毒は晩期だけでなく早期にも起こる(髄膜炎、眼梅毒、耳梅毒など)。 ・トレポネーマは経胎盤感染し、未治療妊婦から先天梅毒が生じる。 ・国内の梅毒報告数は2011年ごろから急増し、2022年以降は年間1万件を超えている。
