StudyMed医師国家試験

溜まると痛く、出すと楽になる―膀胱鏡が映すハンナ病変と水圧拡張術

第120回医師国家試験 A問題 第57問

国試問題にチャレンジ

第120回 A問題 第57問

45歳の女性。6か月前からの下腹部痛と頻尿を主訴に来院した。下腹部痛は尿が膀胱に溜まってくると悪化し,排尿後には疼痛の改善がみられる。排尿回数は,20~25回/日であった。尿細胞診は陰性。膀胱鏡像を下に示す。  適切な治療はどれか。

第120回 A問題 第57問の問題画像
  1. a.膀胱拡大術
  2. b.膀胱水圧拡張術
  3. c.膀胱部分切除術
  4. d.BCG膀胱内注入療法
  5. e.殺細胞性薬膀胱内注入療法

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、慢性の下腹部痛と頻尿をどう解釈し、どう治療するかを問う問題だ。注目してほしいのは、痛みが出るタイミングと膀胱鏡の所見、それに尿細胞診が陰性という点。まず、痛みの性質から何を考えるかな。
医学生医学生
頻尿と下腹部痛なので、最初は細菌性膀胱炎を思い浮かべました。
ドクタードクター
自然な発想だね。ただ、細菌性膀胱炎は排尿の瞬間やその直後にしみるような痛みが出るのが典型で、経過も急性だ。今回は半年続いていて、尿が溜まるにつれて痛みが強くなり、出すと楽になる。これは蓄尿時痛、いわば膀胱そのものの痛みなんだ。
医学生医学生
溜まること自体がつらいから、痛くなる前にトイレへ行って回数が増える、ということですか。
ドクタードクター
その通り。1日20回を超える頻尿には、そうした痛みを避けるための早めの排尿も関わっている。感染や癌といった明らかな原因を除外したうえで、この膀胱痛と頻尿の組み合わせから考えるのが間質性膀胱炎・膀胱痛症候群だ。
医学生医学生
尿細胞診陰性というのは、膀胱上皮内癌を除外する意味ですね。泌尿器科の講義で、上皮内癌も膀胱鏡で発赤粘膜に見えると習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。だからこそ細胞診の情報が大事なんだ。では膀胱鏡を見よう。粘膜の一部に境界のはっきりしない発赤があり、そこでは正常な毛細血管の走行が消え、周囲の血管が発赤部に向かって集まるように走っている。これがハンナ病変だ。
医学生医学生
ハンナ潰瘍と呼ぶのかと思っていました。
ドクタードクター
以前はそう呼ばれていたけれど、本当の潰瘍ではないので今はハンナ病変と呼ぶ。日本のガイドラインでは、ハンナ病変があるものをハンナ型間質性膀胱炎、ないものを膀胱痛症候群と分けていて、ハンナ型は膀胱粘膜の慢性炎症が主体で指定難病にもなっている。
医学生医学生
では治療は、膀胱水圧拡張術でしょうか。
ドクタードクター
正解。麻酔下に膀胱鏡を入れ、生理食塩液を一定の高さから自然落下で注入して膀胱を広げ、しばらく保持する。膀胱内を観察してハンナ病変の有無を確認できるので、診断と治療を兼ねられるのが大きな利点だ。ハンナ病変があれば、同時に電気焼灼や切除を加えると症状が改善しやすい。
医学生医学生
膀胱拡大術も容量を増やす手術なので、頻尿には効きそうに思えたのですが。
ドクタードクター
そこが引っかけだね。膀胱拡大術は腸管を使って膀胱を大きくする手術で、神経因性膀胱で容量が小さく内圧が高い場合などに行う。間質性膀胱炎で検討されるのは、線維化が進んで萎縮膀胱になり、ほかの治療がすべて無効だった難治例に限られる。最初に選ぶ治療ではないんだ。
医学生医学生
膀胱部分切除術も、病変のある部分だけ取ればいいとはいかないのですね。
ドクタードクター
そう。部分切除は膀胱頂部に限局した癌や尿膜管癌などに行う手術だ。間質性膀胱炎の炎症は粘膜に広く及ぶことが多く、一部を切っても残った膀胱で再燃しやすい。最重症例で考えるのは部分切除ではなく、膀胱全摘除術と尿路変向術になる。
医学生医学生
BCGや抗がん薬の膀胱内注入は、臨床実習で筋層非浸潤性膀胱癌のTURBT後に行うのを見ました。
ドクタードクター
まさにそれが本来の適応だ。BCGは膀胱上皮内癌の治療や高リスク膀胱癌の再発予防、抗がん薬注入はTURBT後の再発予防に使う。今回は悪性所見がないので適応外だし、BCGは副作用として膀胱炎症状を起こすから、むしろ症状を悪化させかねない。
医学生医学生
間質性膀胱炎にも膀胱内注入療法はあるんですか。
ドクタードクター
あるよ。ハンナ型にはジメチルスルホキシド、DMSOの膀胱内注入が保険適用になっている。そのほか、刺激物やカフェイン、アルコール、柑橘類を控える生活指導、三環系抗うつ薬や抗ヒスタミン薬の内服なども組み合わせる。水圧拡張の効果は数か月で薄れることもあり、繰り返し行うことがある。
医学生医学生
過活動膀胱との区別も大事そうですね。
ドクタードクター
いい着眼点だ。過活動膀胱は尿意切迫感が中心で、膀胱痛は伴わない。抗コリン薬が効かない頻尿で痛みを訴える患者さんでは、間質性膀胱炎を疑って膀胱鏡を考える、という視点を持っておくと見逃しが減るよ。

まとめ

蓄尿で増悪し排尿で軽快する膀胱痛と著しい頻尿が慢性に続き、感染や尿路上皮癌が除外される場合は、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群を考えます。膀胱鏡で正常な毛細血管構造が消え、周囲から血管が集まる発赤粘膜(ハンナ病変)を認めればハンナ型間質性膀胱炎と診断され、指定難病に含まれます。治療の中心は診断も兼ねる膀胱水圧拡張術で、ハンナ病変の電気焼灼・切除、DMSO膀胱内注入、生活指導や内服療法を組み合わせます。膀胱拡大術や膀胱全摘除術は難治例の最終手段であり、BCGや抗がん薬の膀胱内注入は膀胱癌の治療・再発予防であって本症には用いません。痛みの性質から膀胱の病態を読み解く視点は、過活動膀胱や細菌性膀胱炎との鑑別を含めた排尿障害診療の基本になります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・45歳女性。6か月に及ぶ慢性の下腹部痛と頻尿。 ・痛みは膀胱に尿が溜まるにつれて強くなり、排尿すると軽くなる(蓄尿時痛・膀胱痛)。排尿の瞬間の痛み(排尿時痛)ではなく、溜まること自体がつらい、という性質である。 ・排尿回数は1日20〜25回と著しい頻尿(昼間頻尿の目安は1日8回以上)。痛みを避けるために早めにトイレへ行くことも頻尿の一因となる。 ・尿細胞診は陰性で、膀胱上皮内癌などの尿路上皮癌を示す所見はない。 ・膀胱鏡像:膀胱粘膜の一部に、境界のはっきりしない発赤した領域がある。その部分では正常な毛細血管の走行が見えなくなり、周囲から血管がこの発赤部に向かって集まるように走っている。これはハンナ病変(Hunner lesion)の典型像である。

診断へのプロセス

頻尿と下腹部痛をみたら、まず細菌性膀胱炎(膿尿・細菌尿、排尿時痛)、膀胱上皮内癌(尿細胞診陽性、膀胱鏡で発赤粘膜)、尿路結石、婦人科疾患などの、原因がはっきりした疾患を除外する必要がある。本例は6か月の慢性経過で、尿細胞診が陰性であり、痛みが蓄尿に伴い排尿で軽快する膀胱痛であることから、間質性膀胱炎・膀胱痛症候群を考える。さらに膀胱鏡でハンナ病変を認めることから、ハンナ型間質性膀胱炎と診断できる。 現在の日本の診療ガイドラインでは、膀胱痛や頻尿などの症状がありハンナ病変を認めるものを「ハンナ型間質性膀胱炎」、ハンナ病変を認めないものを「膀胱痛症候群」と分けて扱う。ハンナ型は膀胱粘膜に慢性炎症があり、指定難病の対象である。

設問の考え方

間質性膀胱炎の治療は、生活指導(刺激物の制限など)や内服療法と並んで、膀胱水圧拡張術が中心的な治療の一つであり、診断(膀胱鏡での観察)と治療を兼ねて行われる。ハンナ病変がある場合には、水圧拡張に加えて病変の電気焼灼や切除を行うと症状が改善しやすい。膀胱拡大術や膀胱全摘除術などの大きな手術は、あらゆる保存的治療が無効な難治例に限られる。

選択肢考察

  1. ×a.  膀胱拡大術

    膀胱拡大術は腸管の一部を膀胱に縫い付けて容量を増やす手術で、神経因性膀胱などで膀胱容量が小さく、膀胱内圧が高い場合に行われる。間質性膀胱炎の症状の主因は膀胱粘膜の炎症と知覚過敏であり、まず行う治療ではない。膀胱の線維化が進んで容量が極端に小さくなり、他の治療がすべて無効となった難治例に限って検討される。病変のある膀胱が残るため、術後も痛みが残ることがある。

  2. ○b.  膀胱水圧拡張術

    腰椎麻酔などの麻酔下に膀胱鏡を挿入し、生理食塩液を一定の高さ(おおむね80〜100cmH2O程度の圧)から自然落下で注入して膀胱を拡張し、数分間保持する治療である。膀胱内の観察によってハンナ病変の有無を確認できるため診断の役割も兼ね、拡張後には点状出血(glomerulation)の確認も行う。知覚神経の障害や膀胱容量の増加を介して症状を和らげると考えられ、間質性膀胱炎に対する代表的な治療で、保険適用もある。ハンナ病変があれば同時に電気焼灼や経尿道的切除を加えることが多い。効果は数か月程度で薄れることもあり、繰り返し行われることがある。

  3. ×c.  膀胱部分切除術

    膀胱部分切除術は、膀胱頂部などに限局した膀胱癌、尿膜管癌、隣接臓器の癌の膀胱浸潤など、切除範囲が限られる病変に行われる。間質性膀胱炎の炎症は膀胱粘膜に広く及ぶことが多く、一部を切除しても残った膀胱で症状が再燃しやすいため適応とならない。保存的治療がすべて無効な最重症例では、部分切除ではなく膀胱全摘除術と尿路変向術が検討される。

  4. ×d.  BCG膀胱内注入療法

    BCG(弱毒化したウシ型結核菌)の膀胱内注入は、膀胱内に強い免疫反応を起こして癌細胞を排除する治療で、膀胱上皮内癌の治療や、再発・進展リスクの高い筋層非浸潤性膀胱癌の術後再発予防に用いられる。本例は尿細胞診が陰性で、膀胱癌の診断ではない。BCG注入は副作用として膀胱炎症状(頻尿・排尿痛)を起こすため、間質性膀胱炎の症状をむしろ悪化させるおそれがある。

  5. ×e.  殺細胞性薬膀胱内注入療法

    マイトマイシンCやアントラサイクリン系薬などの抗がん薬の膀胱内注入は、筋層非浸潤性膀胱癌の経尿道的膀胱腫瘍切除術〈TURBT〉後の再発予防に用いられる。悪性腫瘍の所見のない本例には適応がない。なお間質性膀胱炎に対する膀胱内注入療法としては、抗がん薬ではなくジメチルスルホキシド〈DMSO〉がハンナ型間質性膀胱炎に対して用いられている。

間質性膀胱炎・膀胱痛症候群の概念

・膀胱に関連する慢性の骨盤部の痛み・圧迫感・不快感があり、尿意亢進や頻尿などの下部尿路症状を伴い、感染症や癌などの明らかな原因疾患がない状態をいう。 ・中高年女性に多い。 ・日本のガイドラインでは、膀胱鏡でハンナ病変を認めるものを「ハンナ型間質性膀胱炎」、認めないものを「膀胱痛症候群」と分類する。両者は病態が異なり、ハンナ型は膀胱粘膜の慢性炎症(リンパ球・形質細胞の浸潤、上皮の剥離)が主体である。ハンナ型間質性膀胱炎は指定難病に含まれる。

ハンナ病変

正常な毛細血管構造が失われた、境界不明瞭な発赤した粘膜病変で、周囲から血管が病変に向かって集まる像を伴う。水圧拡張後には病変部が裂けて出血することがある。かつては「ハンナ潰瘍」と呼ばれたが、真の潰瘍ではないため現在はハンナ病変と呼ばれる。

症状の特徴と鑑別

・膀胱痛は蓄尿で増悪し、排尿で軽快する。細菌性膀胱炎の排尿時痛とは性質が異なる。 ・著しい頻尿(1日20回以上になることもある)、夜間頻尿、強い尿意切迫感がある。 ・過活動膀胱は尿意切迫感が主体で、膀胱痛は伴わない点が異なる。 ・除外すべき疾患:細菌性膀胱炎、膀胱癌(特に上皮内癌)、尿路結石、放射線性膀胱炎、薬剤性膀胱炎、尿路結核、婦人科疾患(子宮内膜症など)。

治療

・保存的療法:病状についての説明、ストレスの軽減、症状を悪化させやすい食品(香辛料、柑橘類、カフェイン、アルコールなど)の制限、膀胱訓練。 ・内服療法:三環系抗うつ薬(アミトリプチリン)、抗ヒスタミン薬、鎮痛薬などが用いられる。 ・膀胱水圧拡張術:診断を兼ねて行う代表的な治療。 ・ハンナ病変の電気焼灼・経尿道的切除:ハンナ型で効果が高い。 ・膀胱内注入療法:DMSO(ハンナ型に対して保険適用)、ヘパリン、リドカインなど。 ・最終手段:保存的療法・内視鏡治療が無効で、高度の萎縮膀胱となった例では、膀胱拡大術や膀胱全摘除術+尿路変向術が検討される。

POINT

・蓄尿で増悪し排尿で軽快する膀胱痛+著しい頻尿、感染・癌の除外 → 間質性膀胱炎・膀胱痛症候群。 ・膀胱鏡でハンナ病変(正常血管構造が消失した発赤粘膜、周囲から血管が集中)→ ハンナ型間質性膀胱炎。中高年女性に多い。 ・治療の中心は膀胱水圧拡張術(診断も兼ねる)と、ハンナ病変の焼灼・切除。膀胱内注入はDMSO。 ・膀胱拡大術・膀胱全摘除術は難治例の最終手段。 ・BCG・抗がん薬の膀胱内注入は膀胱癌の治療・再発予防であり、間質性膀胱炎には用いない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。