StudyMed医師国家試験

「妻にだけ」がカギ―訴えの一言から心因性勃起障害を見抜く

第109回医師国家試験 A問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第109回 A問題 第2問

性機能障害のうち心因性勃起障害の可能性が最も高い訴えはどれか。

  1. a.「自慰でも勃起しません」
  2. b.「射精しても快感がありません」
  3. c.「妻に対してだけ勃起しません」
  4. d.「性欲がなくなってしまいました」
  5. e.「性的な興奮を感じたことがありません」

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は男性の性機能障害の問題だ。ポイントは2段階。まず、訴えが性反応のどの段階の障害なのかを見極めること。そのうえで、勃起障害なら心因性か器質性かを判断することだ。
医学生医学生
性機能障害って、全部まとめて「EDっぽい」と思ってしまいがちです。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。男性の性反応は、おおまかに「性欲」→「性的興奮、つまり勃起」→「射精・オルガズム」と進む。どこでつまずいているかで、障害の名前も原因も変わってくるんだ。
医学生医学生
そうすると、性欲がなくなったという訴えは、最初の段階の障害ですね。
ドクタードクター
その通り。性欲低下は勃起障害とは別物で、うつ病やテストステロンの低下、抗うつ薬や抗精神病薬などの薬剤が原因になりうる。同じように、性的な興奮を一度も感じたことがないという訴えは、生来の性欲・性的関心の欠如で、先天的な性腺機能低下症などの内分泌疾患も考える必要がある。
医学生医学生
射精しても快感がない、というのは射精はできているので、勃起は保たれていますよね。
ドクタードクター
いい推論だ。障害されているのは射精・オルガズムに伴う快感で、オルガズムの障害にあたる。勃起障害ではないね。これで勃起の訴えに絞れた。残るのは「自慰でも勃起しない」と「妻に対してだけ勃起しない」の2つだ。
医学生医学生
どちらも勃起しないので、正直どちらも心因性に見えてしまいます。
ドクタードクター
ここが考えどころ。心因性と器質性の違いは、勃起を起こす仕組みそのものが壊れているかどうかなんだ。器質性なら神経・血管・ホルモンのどこかが障害されているから、相手や場面が変わっても勃起しにくい。一方、心因性では仕組みは保たれているから、状況によって勃起できたりできなかったりする。
医学生医学生
なるほど。妻に対してだけということは、自慰や他の場面では勃起できる、つまり仕組みは正常ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。相手や状況に依存する勃起障害は心因性の典型だ。背景には夫婦間の葛藤、過去の失敗による予期不安、子づくりのための性交へのプレッシャーなどが考えられる。
医学生医学生
逆に、自慰でも勃起しないとなると、場面を選ばないので器質性を先に考えるべき、ということですか。
ドクタードクター
その通り。糖尿病や動脈硬化による血流障害、神経障害、加齢に伴うテストステロン低下などをまず疑う。もちろん重い心因性を完全には否定できないから断定はできないけれど、心因性を最も示唆する訴えではないね。
医学生医学生
生理学の講義で勃起はNOとcGMPが関わると習いました。そこが器質性の障害部位になるんですね。
ドクタードクター
よく覚えているね。性的刺激で骨盤神経を介して陰茎海綿体にNOが放出され、cGMPが増えて海綿体平滑筋が弛緩し、動脈血が流れ込む。膨らんだ海綿体が静脈を圧迫して血液の流出を妨げることで勃起が維持される。この流れのどこかが傷めば器質性になるわけだ。
医学生医学生
心因性かどうかを客観的に確かめる方法はありますか。
ドクタードクター
夜間陰茎勃起現象、NPTが手がかりになる。レム睡眠に一致して起こる生理的な勃起で、これが保たれていれば勃起の仕組みは正常と考えられ、心因性の可能性が高まる。早朝勃起があるかどうかを問診で聞くのも同じ発想だね。
医学生医学生
泌尿器科の実習で、外来の先生が早朝勃起の有無をさりげなく確認していたのはそういう意味だったんですね。
ドクタードクター
そうなんだ。治療では、PDE5阻害薬がcGMPの分解を抑えて勃起を助け、器質性にも心因性にも用いられる。ただし硝酸薬との併用は過度の血圧低下を招くので禁忌だ。心因性ではカウンセリングやパートナーを含めた性心理療法も大切になる。実際の臨床では器質性と心因性が混ざった混合性も少なくないから、生活習慣病の評価も忘れずにね。

まとめ

性機能障害の訴えは、まず「性欲→勃起→射精・オルガズム」のどの段階の障害かを判断し、性欲の低下・欠如や射精時の快感欠如は勃起障害とは区別します。勃起障害のうち、特定の相手や状況でのみ勃起しないものは、勃起の神経・血管・内分泌の仕組みが保たれていることを示し、心因性勃起障害を強く示唆します。一方、自慰を含めどんな状況でも勃起しない場合は、糖尿病や動脈硬化、神経障害、テストステロン低下などの器質性をまず考えます。夜間陰茎勃起現象や早朝勃起が保たれていれば心因性を支持し、治療ではPDE5阻害薬(硝酸薬との併用禁忌)とカウンセリングが柱となります。訴えの一言から障害の段階と原因を推論する姿勢は、デリケートな問診を的確に行う臨床力の基盤になります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

男性の性機能障害の訴えを聞いて、それがどの段階の障害か、また勃起障害であれば心因性か器質性かを見分ける力が問われている。

性反応の段階で整理する

男性の性反応は、おおまかに「性欲(したいという欲求)→ 性的興奮(勃起)→ 射精・オルガズム(快感)」の順に進む。訴えがどの段階の障害にあたるかをまず判断する。 ・性欲の障害:性的な関心・欲求そのものが低い、または失われている ・勃起の障害:性欲はあるが、性交に十分な勃起が得られない、または維持できない ・射精・オルガズムの障害:早漏、射精遅延、射精時の快感の欠如など 本問は「心因性勃起障害」を問うので、まず勃起の障害にあたる訴えに絞り、そのうえで心因性らしさを判断する。

心因性か器質性かの見分け方

勃起障害(erectile dysfunction:ED)は、原因によって器質性(血管性・神経性・内分泌性・陰茎そのものの異常など)、心因性(機能性)、両者が合わさった混合性に分けられる。 器質性の場合、勃起を起こす仕組み(神経・血管・ホルモン)が障害されているため、相手や状況が変わっても勃起しにくい。一方、心因性の場合は勃起の仕組み自体は保たれているので、「特定の相手や場面でだけ勃起しない」「自慰や早朝の勃起は問題ない」といった状況依存性がみられる。発症が急であることや、きっかけとなる出来事(初回の失敗、パートナーとの不和など)があることも心因性を示唆する。 したがって、特定の相手に限って勃起しないという訴えが、心因性勃起障害を最も強く示唆する。

選択肢考察

  1. ×a.  「自慰でも勃起しません」

    勃起の障害ではあるが、相手のいない自慰の場面でも勃起が得られないということは、状況を問わず勃起しない全般的な勃起障害を示す。この場合、糖尿病や動脈硬化による陰茎への血流障害、神経障害、テストステロン(男性ホルモン)の低下(加齢男性性腺機能低下症候群:LOH症候群)など、器質的な原因をまず考える必要がある。重度の心因性の場合も否定はできないため、この訴えだけで器質性・心因性を断定することはできないが、少なくとも心因性を最も強く示唆する訴えではない。

  2. ×b.  「射精しても快感がありません」

    射精はできているので勃起の段階は保たれており、障害されているのは射精・オルガズムに伴う快感である。これはオルガズムの障害(射精時の快感欠如)にあたり、勃起障害ではない。なお、DSM-5(米国精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)では、男性の射精・オルガズムの障害は早漏と射精遅延として分類されている。

  3. ○c.  「妻に対してだけ勃起しません」

    妻という特定の相手に対してだけ勃起しないということは、ほかの場面(自慰、他の相手、早朝勃起など)では勃起できることを意味する。つまり、勃起を起こす神経・血管・内分泌の仕組みは保たれており、器質的な異常は考えにくい。このように相手や状況に依存して起こる勃起障害は、心理的な要因による心因性(機能性)勃起障害の典型である。背景には、夫婦間の不和や葛藤、過去の失敗体験による予期不安(「また失敗するのでは」という緊張)、子づくりのための性交へのプレッシャーなどが考えられる。

  4. ×d.  「性欲がなくなってしまいました」

    性的な欲求そのものが失われたという訴えであり、性反応の最初の段階である性欲の障害(性欲低下・性欲喪失)にあたる。DSM-5では男性の性欲低下障害に相当する。うつ病、テストステロン低下、薬剤(抗うつ薬、抗精神病薬など)の影響などが原因となりうるが、勃起障害の訴えではない。

  5. ×e.  「性的な興奮を感じたことがありません」

    これまで一度も性的な興奮や関心を感じたことがないという訴えで、生来性に性欲・性的関心が欠如している状態を示す。性欲の障害(性欲欠如)に分類され、勃起という身体反応の障害を訴えているものではない。先天的な性腺機能低下症などの内分泌疾患の可能性も考慮される。

勃起の仕組み

性的刺激が加わると、骨盤神経(副交感神経)を介して陰茎海綿体の血管内皮や神経終末から一酸化窒素(NO)が放出される。NOは平滑筋細胞内のcGMP(環状グアノシン一リン酸)を増やし、海綿体平滑筋を弛緩させる。その結果、海綿体に動脈血が流入し、膨らんだ海綿体が静脈を圧迫して血液の流出が妨げられ(静脈閉鎖機構)、勃起が維持される。この仕組みのどこかに異常があれば器質性勃起障害となる。

勃起障害の分類

・器質性:血管性(動脈硬化、高血圧、糖尿病、喫煙など)、神経性(脊髄損傷、糖尿病性神経障害、骨盤内手術後など)、内分泌性(テストステロン低下、高プロラクチン血症など)、陰茎性(陰茎の変形など) ・心因性(機能性):不安、ストレス、うつ状態、パートナーとの関係、失敗体験など ・混合性:器質的要因に心理的要因が加わったもの。実際の臨床では少なくない ・その他:薬剤性(降圧薬の一部、抗うつ薬、抗精神病薬など)

心因性を示唆する所見

・発症が急で、きっかけとなる出来事がある ・特定の相手や状況でのみ勃起しない(状況依存性) ・自慰では勃起する ・早朝勃起や夜間睡眠中の勃起(夜間陰茎勃起現象:NPT)が保たれている NPTはレム睡眠に一致して起こる生理的な勃起であり、これが正常であれば勃起の仕組みそのものは保たれていると判断でき、心因性の可能性が高まる。

治療

ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬(シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル)はcGMPの分解を抑えて勃起を助け、器質性・心因性のいずれにも用いられる。ただし硝酸薬との併用は過度の血圧低下を招くため禁忌である。心因性では、カウンセリングやパートナーを含めた性心理療法も重要である。

POINT

・性機能障害の訴えは「性欲 → 勃起 → 射精・オルガズム」のどの段階の障害かをまず判断する。 ・特定の相手や状況でのみ勃起しない(自慰や早朝勃起は保たれる)→ 心因性勃起障害を示唆する。 ・どんな状況でも勃起しない → 器質性(血管性・神経性・内分泌性)をまず考える。 ・夜間陰茎勃起現象(NPT)が保たれていれば心因性を支持する。 ・性欲の低下・欠如、射精時の快感欠如は勃起障害とは別の障害である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。