「おたふくかぜ」が奪う片耳の聴力―先天性と後天性で分けるウイルス性難聴
第118回医師国家試験 A問題 第12問
国試問題にチャレンジ
後天性の感音難聴を引き起こすウイルスはどれか。
- a.アデノウイルス
- b.Epstein-Barr〈EB〉ウイルス
- c.単純ヘルペスウイルス
- d.風疹ウイルス
- e.ムンプスウイルス
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
ウイルスによる感音難聴は、感染の時期で「先天性」と「後天性」に分けて整理すると理解しやすくなります。先天性ではサイトメガロウイルスと風疹ウイルス(先天性風疹症候群:白内障・先天性心疾患・感音難聴)が代表で、後天性ではムンプスウイルスが最もよく知られ、麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルス(Ramsay Hunt症候群)も原因となります。ムンプス難聴は多くが一側性・高度で回復しにくく、耳下腺腫脹の目立たない不顕性感染でも起こりうるため、小児の一側性高度感音難聴ではムンプスを疑います。アデノウイルス、EBウイルス、単純ヘルペスウイルスは感音難聴の代表的な原因ではありません。ムンプス難聴は治療が難しい一方でワクチンにより予防できるため、日本では任意接種であることも含め、接種歴の確認と予防の啓発が臨床上重要です。
解答・解説
正解はeです
感音難聴は、内耳(蝸牛)から聴神経・中枢の聴覚路のどこかが障害されて起こる難聴であり、外耳・中耳の伝音系の障害による伝音難聴と区別される。ウイルス感染は感音難聴の重要な原因の一つで、感染の時期によって二つに分けて整理すると覚えやすい。 ・先天性(胎内感染):母体の感染が胎盤を通じて胎児に及び、生まれつきの難聴となる。代表は先天性サイトメガロウイルス感染症と先天性風疹症候群である。 ・後天性(出生後の感染):本人がウイルスに感染し、内耳炎などを起こして難聴となる。代表はムンプスウイルス(流行性耳下腺炎)で、麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルス(Ramsay Hunt症候群)も原因となる。 本問は「後天性」の感音難聴の原因ウイルスを問うている。風疹ウイルスも難聴の原因となるが、それは胎内感染による先天性難聴としてである点に注意する。選択肢のなかで出生後の感染で感音難聴を起こすことで最もよく知られているのはムンプスウイルスである。
選択肢考察
- ×a. アデノウイルス
アデノウイルスは咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、出血性膀胱炎、胃腸炎、肺炎などの原因となる。中耳炎に関与することはあるが、内耳を障害して感音難聴を起こすウイルスとしては一般に扱われない。
- ×b. Epstein-Barr〈EB〉ウイルス
EBウイルスは伝染性単核球症(発熱、咽頭・扁桃炎、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球増多)の原因であり、上咽頭癌、Burkittリンパ腫などの腫瘍とも関連する。感音難聴の代表的な原因ウイルスではない。
- ×c. 単純ヘルペスウイルス
単純ヘルペスウイルスは口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、角膜炎、性器ヘルペス、ヘルペス脳炎などを起こし、神経節に潜伏して再活性化を繰り返す。突発性難聴との関連が議論されたことはあるが確立しておらず、後天性感音難聴の原因ウイルスとして代表的なものではない。耳鼻科領域で難聴を伴うヘルペス属ウイルスとして重要なのは、Ramsay Hunt症候群を起こす水痘・帯状疱疹ウイルスである。
- ×d. 風疹ウイルス
風疹ウイルスは感音難聴の原因になるが、それは妊娠初期の母体感染による胎内感染、すなわち先天性風疹症候群としての先天性難聴である。先天性風疹症候群は白内障、先天性心疾患(動脈管開存症など)、感音難聴を3主徴とし、妊娠早期の感染ほど発生頻度が高い。難聴は妊娠20週ごろまでの感染で起こりうる。出生後に風疹にかかって難聴をきたすことは通常なく、「後天性」という設問の条件に合わない。
- ○e. ムンプスウイルス
ムンプスウイルスは流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因で、出生後の感染によって内耳炎を起こし、後天性感音難聴(ムンプス難聴)をきたす。頻度はおよそ1,000人に1人程度と推定されている。多くは一側性で高度の難聴となり、治療しても回復しにくいのが特徴である。耳下腺腫脹が目立たない不顕性感染でも生じうるため、小児の一側性高度感音難聴ではムンプスを疑う。予防にはワクチン接種が有効だが、日本では現在も任意接種である。
難聴の原因となる主なウイルス
・先天性:サイトメガロウイルス(先天性感染による非遺伝性感音難聴の主要原因。出生時は正常で後から難聴が進行する例もある)、風疹ウイルス(先天性風疹症候群)。 ・後天性:ムンプスウイルス(一側性高度難聴が多い)、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス(Ramsay Hunt症候群:耳介・外耳道の帯状疱疹、末梢性顔面神経麻痺、めまい・難聴などの第8脳神経症状)。
感音難聴と伝音難聴の区別
純音聴力検査で、気導と骨導の閾値がともに上昇し差(気骨導差)がないのが感音難聴、骨導は正常で気導のみ上昇するのが伝音難聴である。音叉検査ではWeber試験で健側に偏位するのが感音難聴、患側に偏位するのが伝音難聴である。
ムンプスの合併症
無菌性髄膜炎、睾丸炎・卵巣炎、膵炎、難聴などがある。難聴は永続的となりやすく、ワクチンによる予防が重要である。
POINT
・後天性感音難聴を起こす代表的ウイルス:ムンプス(一側性・高度・回復困難)、麻疹、水痘・帯状疱疹(Ramsay Hunt症候群)。 ・先天性感音難聴を起こすウイルス:サイトメガロウイルス、風疹ウイルス(先天性風疹症候群:白内障・先天性心疾患・難聴)。 ・風疹は「先天性」、ムンプスは「後天性」と区別して覚える。
