StudyMed医師国家試験

「おたふくかぜ」が奪う片耳の聴力―先天性と後天性で分けるウイルス性難聴

第118回医師国家試験 A問題 第12問

国試問題にチャレンジ

第118回 A問題 第12問

後天性の感音難聴を引き起こすウイルスはどれか。

  1. a.アデノウイルス
  2. b.Epstein-Barr〈EB〉ウイルス
  3. c.単純ヘルペスウイルス
  4. d.風疹ウイルス
  5. e.ムンプスウイルス

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、ウイルスが原因の感音難聴を「いつ感染したか」で整理する問題だ。胎内で感染して生まれつき難聴になるものと、生まれてから感染して難聴になるもの。この2つを区別できるかが勝負どころだよ。まず、感音難聴はどこの障害だったかな。
医学生医学生
内耳の蝸牛から聴神経、中枢の聴覚路までの障害です。外耳や中耳の障害なら伝音難聴でしたよね。
ドクタードクター
その通り。純音聴力検査では、気導と骨導の閾値がともに上がって気骨導差がないのが感音難聴、骨導は正常で気導だけ上がるのが伝音難聴だ。ウイルスは内耳に炎症を起こすことで感音難聴の原因になる。
医学生医学生
ウイルス性難聴と聞くと、真っ先に風疹が浮かびました。小児科の講義で、先天性風疹症候群の3主徴に難聴が入っていると習ったので。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴だね。風疹ウイルスは確かに感音難聴を起こすけれど、それは妊娠初期の母体感染による胎内感染、つまり先天性の難聴なんだ。白内障、動脈管開存症などの先天性心疾患、感音難聴が3主徴で、難聴は妊娠20週ごろまでの感染で起こりうる。生まれてから風疹にかかって難聴になることは通常ない。
医学生医学生
設問は「後天性」なので、風疹は条件に合わないわけですね。だとすると、答えはムンプスウイルスでしょうか。
ドクタードクター
正解。ムンプスウイルスは流行性耳下腺炎、いわゆるおたふくかぜの原因で、出生後の感染で内耳炎を起こし、ムンプス難聴と呼ばれる後天性感音難聴をきたす。頻度はおよそ1,000人に1人程度と推定されている。特徴は、多くが一側性で高度、しかも治療しても回復しにくいことだ。
医学生医学生
片耳だけだと、小さい子どもは自分で聞こえにくさを訴えないかもしれませんね。
ドクタードクター
鋭いね。片耳が聞こえていれば日常会話はこなせるから、気づかれるのが遅れることがある。しかも耳下腺の腫れが目立たない不顕性感染でも起こりうるから、「おたふくかぜにかかった覚えがない」からといって否定はできない。小児の一側性高度感音難聴をみたら、ムンプスを疑うのが基本だ。
医学生医学生
ほかの選択肢も確認させてください。アデノウイルスはプール熱のイメージですが、耳とは関係ありますか。
ドクタードクター
アデノウイルスは咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、出血性膀胱炎、胃腸炎などの原因で、中耳炎に関与することはあっても、内耳を障害して感音難聴を起こすウイルスとしては一般に扱われない。EBウイルスはどうかな。
医学生医学生
伝染性単核球症ですね。微生物学の講義で、上咽頭癌やBurkittリンパ腫との関連も習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。EBウイルスも感音難聴の代表的な原因ではない。単純ヘルペスウイルスは突発性難聴との関連が議論されたことはあるけれど確立しておらず、代表的な原因とは言えない。耳鼻科領域で難聴を伴うヘルペス属ウイルスとして重要なのは、むしろ水痘・帯状疱疹ウイルスだ。
医学生医学生
Ramsay Hunt症候群ですね。耳鼻咽喉科の実習で、耳介の水疱と顔面神経麻痺のある患者さんを見ました。めまいや難聴も伴うことがあるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。後天性の感音難聴を起こすウイルスとしては、ムンプスのほかに麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルスも挙げられる。一方、先天性ではサイトメガロウイルスが非遺伝性の感音難聴の主要な原因で、生まれたときは正常でも後から難聴が進行する例があることも押さえておきたい。
医学生医学生
先天性はサイトメガロと風疹、後天性はムンプス、麻疹、水痘・帯状疱疹と、感染の時期で分けて覚えます。
ドクタードクター
完璧だ。最後に臨床での注意点を。ムンプスは無菌性髄膜炎、睾丸炎・卵巣炎、膵炎なども起こすけれど、難聴は永続しやすく、後遺症として特に重い部類に入る。だからワクチンによる予防が大切なんだ。日本ではムンプスワクチンは現在も任意接種だから、外来で接種歴を確認し、接種を勧める姿勢が求められる。
医学生医学生
予防できる難聴があるのに任意接種というのは、公衆衛生の授業で予防接種スケジュールを調べたときにも気になっていました。
ドクタードクター
その問題意識は大事にしてほしい。治りにくい病気ほど予防の価値は大きい。難聴の原因を知ることは、診断だけでなく予防の説明にも直結するんだ。

まとめ

ウイルスによる感音難聴は、感染の時期で「先天性」と「後天性」に分けて整理すると理解しやすくなります。先天性ではサイトメガロウイルスと風疹ウイルス(先天性風疹症候群:白内障・先天性心疾患・感音難聴)が代表で、後天性ではムンプスウイルスが最もよく知られ、麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルス(Ramsay Hunt症候群)も原因となります。ムンプス難聴は多くが一側性・高度で回復しにくく、耳下腺腫脹の目立たない不顕性感染でも起こりうるため、小児の一側性高度感音難聴ではムンプスを疑います。アデノウイルス、EBウイルス、単純ヘルペスウイルスは感音難聴の代表的な原因ではありません。ムンプス難聴は治療が難しい一方でワクチンにより予防できるため、日本では任意接種であることも含め、接種歴の確認と予防の啓発が臨床上重要です。

解答・解説

正解はeです

感音難聴は、内耳(蝸牛)から聴神経・中枢の聴覚路のどこかが障害されて起こる難聴であり、外耳・中耳の伝音系の障害による伝音難聴と区別される。ウイルス感染は感音難聴の重要な原因の一つで、感染の時期によって二つに分けて整理すると覚えやすい。 ・先天性(胎内感染):母体の感染が胎盤を通じて胎児に及び、生まれつきの難聴となる。代表は先天性サイトメガロウイルス感染症と先天性風疹症候群である。 ・後天性(出生後の感染):本人がウイルスに感染し、内耳炎などを起こして難聴となる。代表はムンプスウイルス(流行性耳下腺炎)で、麻疹ウイルスや水痘・帯状疱疹ウイルス(Ramsay Hunt症候群)も原因となる。 本問は「後天性」の感音難聴の原因ウイルスを問うている。風疹ウイルスも難聴の原因となるが、それは胎内感染による先天性難聴としてである点に注意する。選択肢のなかで出生後の感染で感音難聴を起こすことで最もよく知られているのはムンプスウイルスである。

選択肢考察

  1. ×a.  アデノウイルス

    アデノウイルスは咽頭結膜熱(プール熱)、流行性角結膜炎、出血性膀胱炎、胃腸炎、肺炎などの原因となる。中耳炎に関与することはあるが、内耳を障害して感音難聴を起こすウイルスとしては一般に扱われない。

  2. ×b.  Epstein-Barr〈EB〉ウイルス

    EBウイルスは伝染性単核球症(発熱、咽頭・扁桃炎、頸部リンパ節腫脹、肝脾腫、異型リンパ球増多)の原因であり、上咽頭癌、Burkittリンパ腫などの腫瘍とも関連する。感音難聴の代表的な原因ウイルスではない。

  3. ×c.  単純ヘルペスウイルス

    単純ヘルペスウイルスは口唇ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、角膜炎、性器ヘルペス、ヘルペス脳炎などを起こし、神経節に潜伏して再活性化を繰り返す。突発性難聴との関連が議論されたことはあるが確立しておらず、後天性感音難聴の原因ウイルスとして代表的なものではない。耳鼻科領域で難聴を伴うヘルペス属ウイルスとして重要なのは、Ramsay Hunt症候群を起こす水痘・帯状疱疹ウイルスである。

  4. ×d.  風疹ウイルス

    風疹ウイルスは感音難聴の原因になるが、それは妊娠初期の母体感染による胎内感染、すなわち先天性風疹症候群としての先天性難聴である。先天性風疹症候群は白内障、先天性心疾患(動脈管開存症など)、感音難聴を3主徴とし、妊娠早期の感染ほど発生頻度が高い。難聴は妊娠20週ごろまでの感染で起こりうる。出生後に風疹にかかって難聴をきたすことは通常なく、「後天性」という設問の条件に合わない。

  5. ○e.  ムンプスウイルス

    ムンプスウイルスは流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因で、出生後の感染によって内耳炎を起こし、後天性感音難聴(ムンプス難聴)をきたす。頻度はおよそ1,000人に1人程度と推定されている。多くは一側性で高度の難聴となり、治療しても回復しにくいのが特徴である。耳下腺腫脹が目立たない不顕性感染でも生じうるため、小児の一側性高度感音難聴ではムンプスを疑う。予防にはワクチン接種が有効だが、日本では現在も任意接種である。

難聴の原因となる主なウイルス

・先天性:サイトメガロウイルス(先天性感染による非遺伝性感音難聴の主要原因。出生時は正常で後から難聴が進行する例もある)、風疹ウイルス(先天性風疹症候群)。 ・後天性:ムンプスウイルス(一側性高度難聴が多い)、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス(Ramsay Hunt症候群:耳介・外耳道の帯状疱疹、末梢性顔面神経麻痺、めまい・難聴などの第8脳神経症状)。

感音難聴と伝音難聴の区別

純音聴力検査で、気導と骨導の閾値がともに上昇し差(気骨導差)がないのが感音難聴、骨導は正常で気導のみ上昇するのが伝音難聴である。音叉検査ではWeber試験で健側に偏位するのが感音難聴、患側に偏位するのが伝音難聴である。

ムンプスの合併症

無菌性髄膜炎、睾丸炎・卵巣炎、膵炎、難聴などがある。難聴は永続的となりやすく、ワクチンによる予防が重要である。

POINT

・後天性感音難聴を起こす代表的ウイルス:ムンプス(一側性・高度・回復困難)、麻疹、水痘・帯状疱疹(Ramsay Hunt症候群)。 ・先天性感音難聴を起こすウイルス:サイトメガロウイルス、風疹ウイルス(先天性風疹症候群:白内障・先天性心疾患・難聴)。 ・風疹は「先天性」、ムンプスは「後天性」と区別して覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。