StudyMed医師国家試験

「減塩しているつもり」を数字で確かめる―24時間蓄尿で読み解く夜尿と塩分摂取

第117回医師国家試験 C問題 第75問

国試問題にチャレンジ

第117回 C問題 第75問

12歳の男児。来年の中学校進学を前に,夜尿が治らないため両親に連れられて来院した。食生活では減塩するように心がけ,夕食後には水分摂取を控えているという。尿所見:尿比重1.030,蛋白(-),糖(-)。腹部超音波検査で両腎と膀胱に異常を認めない。塩分摂取量を推測するため,蓄尿検査で1日塩分排泄量を測定することとした。後日得られた検体は,尿量1,200mL,尿中Na 150mEq/L,尿中Cl 100mEq/L,尿クレアチニン100mg/dL,尿蛋白18mg/dLであった。  尿中の1日塩分排泄量を求めよ。  ただし,NaCl 1gはNa 17mEqに相当するものとする。  また,小数点以下の数値が得られた場合には,小数第1位を四捨五入すること(単位:g)。 解答:①② g

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は夜尿が続く子どもの背景を探るために、24時間蓄尿から1日の塩分排泄量を計算する問題だ。ポイントは「どの検査値を使い、どれを使わないか」と「Naから食塩への換算」の2つ。まず、なぜ夜尿の評価で塩分摂取量を調べるのか、考えてみようか。
医学生医学生
塩分を摂りすぎると喉が渇いて水を飲むので、夜の尿が増えるから……でしょうか。
ドクタードクター
方向性はいいね。もう少し正確に言うと、食塩を多く摂ると体は余分なNaを尿中に排泄しようとするから、水分摂取とは別に夜間も尿量が増える。夜尿症の主な機序は、夜間の尿量が多いこと、膀胱の容量が小さい・不安定なこと、睡眠中に尿意で目覚められないことの3つで、塩分過多は1つ目の夜間多尿に直結するんだ。
医学生医学生
小児科の臨床実習で、夜尿の子の生活指導で「夕食の味付けを薄く」と話していたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそれ。今回の家族も減塩を心がけているというけれど、本当にそうかを客観的に確かめるのが蓄尿の目的だ。尿蛋白・尿糖が陰性で、超音波でも腎と膀胱に異常がないから、糸球体疾患や糖尿病の浸透圧利尿、先天性の腎尿路異常は考えにくい。だからこそ生活習慣の評価が意味をもつ。では計算に入ろう。蓄尿のデータからまず何を求める?
医学生医学生
Naの濃度に尿量をかけて、1日のNa排泄量を出すんですね。150mEq/Lに1.2Lをかけて180mEqです。
ドクタードクター
正解。摂取した食塩の9割以上は尿中に出るから、安定した状態なら24時間尿中Na排泄量はほぼ1日の食塩摂取量とみなせる。次はmEqをグラムに直す。NaCl 1gがNa 17mEqに相当するとあるね。
医学生医学生
180を17で割って10.588…、小数第1位を四捨五入して11gです。
ドクタードクター
その通り、答えは11gだ。ところで、この17という数字はどこから来ると思う?
医学生医学生
えっと、CBTの勉強で化学の換算を覚えた気がしますが……NaClの分子量でしょうか。
ドクタードクター
そう。NaClの式量はNa 23とCl 35.5で約58.5。1gなら1000÷58.5で約17.1mmolになる。Naは1価の陽イオンだから1mmolが1mEq、つまりNaCl 1gはNa約17mEqというわけだ。覚えにくければ、この導き方ごと押さえておくと忘れにくいよ。
医学生医学生
問題にはClやクレアチニン、尿蛋白の値もありました。Clも食塩の成分なので、Clから計算しても同じになると思ったんですが。
ドクタードクター
そこが引っかけどころだね。実際にClで計算すると100×1.2で120mEq、17で割ると約7gで、Naの値と一致しない。食事中のClはKClなど食塩以外にも由来するし、尿中Clの排泄は酸塩基平衡の影響も受ける。だから食塩摂取量の推定にはNaを使うのが原則なんだ。
医学生医学生
クレアチニンは何のために測っているんですか。
ドクタードクター
尿クレアチニンは筋肉量に応じてほぼ一定量が毎日排泄されるから、蓄尿がきちんと集められているかの目安になる。採り漏れがあると排泄量を過小評価してしまうからね。また、外来で手軽な随時尿から1日のNa排泄量を推定する方法でも、クレアチニンで補正する。ただし今回の答えには関与しない。
医学生医学生
つまり、尿量と尿中Naだけで答えが出て、ほかの値は検体の妥当性確認や紛らわしさのためのもの、ということですね。
ドクタードクター
そういうこと。では、11gという結果をどう解釈するか。日本人の食事摂取基準では、12〜14歳男子の食塩相当量の目標量は1日7.0g未満とされている。
医学生医学生
かなり上回っていますね。家族は減塩しているつもりでも、実際は摂りすぎということでしょうか。
ドクタードクター
そう読み取れる。ここで蓄尿の数字が、具体的な減塩指導の説得力ある根拠になるんだ。夜尿症の初期対応は生活指導が基本で、夕食後の水分制限、塩分や蛋白質の多い夕食を避ける、就寝前に排尿する、夜中に無理に起こさない、叱らない、といったことを伝える。それでも改善しなければ夜尿アラーム療法や、抗利尿ホルモンのアナログであるデスモプレシンを検討する。
医学生医学生
デスモプレシンを使うときは、水分を摂りすぎると低Na血症になる危険がありますよね。
ドクタードクター
よく知っているね。服用中は水中毒を防ぐため、就寝前の水分摂取を控えるよう指導する。夜尿症は年に約15%ずつ自然に治ることが多いけれど、本人の自尊心や生活への影響を考えると、中学進学を前にきちんと向き合う価値は大きい。塩分の評価はそのための大事な一歩だよ。

まとめ

24時間蓄尿による1日食塩摂取量は「尿中Na(mEq/L)×1日尿量(L)÷17」で求められ、本問では150×1.2=180mEq、180÷17≒10.6から11gとなります。17という係数はNaClの式量約58.5に由来し、NaCl 1gがNa約17mEqに相当することを意味します。食事中のClは食塩以外にも由来し酸塩基平衡の影響も受けるため推定にはNaを用い、尿クレアチニンは蓄尿の適切さの確認や随時尿での補正に使う指標です。夜尿症では塩分や水分の過剰摂取による夜間多尿が一因となり、客観的な塩分摂取量の評価は生活指導の根拠になります。数値の意味を理解して必要なデータを選び出す力は、計算問題だけでなく日常診療での栄養評価にも役立ちます。

解答・解説

正解は11 gです

症例の整理

12歳男児の夜尿である。5歳を過ぎても睡眠中の尿失禁が続く状態を夜尿症と呼び、年齢とともに自然に軽快することが多いが、12歳まで持続している点から背景要因の検討が必要になる。尿蛋白・尿糖は陰性で、腹部超音波でも腎・膀胱に形態異常はなく、糸球体疾患、糖尿病(浸透圧利尿による多尿)、水腎症や膀胱尿管逆流などの先天性腎尿路異常は考えにくい。夜尿症の主な機序は、(1)夜間の尿量が多い(夜間多尿)、(2)膀胱の容量が小さい・不安定、(3)睡眠中に尿意で覚醒できない、の3つであり、(1)には夕食後の水分摂取に加え、塩分の過剰摂取が深く関わる。食塩を多く摂ると、体内の余分なNaを排泄するために夜間も尿量が増えるからである。家族は減塩や水分制限を心がけているというが、実際の摂取量を客観的に確かめるため、24時間蓄尿で1日の塩分排泄量を測定している。

計算の考え方

摂取した食塩(NaCl)の大部分(9割以上)は尿中に排泄されるため、定常状態では「24時間尿中Na排泄量 ≒ 1日食塩摂取量」とみなせる。必要なのは尿量と尿中Na濃度だけである。 (1) 1日の尿中Na排泄量を求める。  尿中Na 150mEq/L × 尿量 1.2L/日 = 180mEq/日 (2) Na量を食塩量に換算する(NaCl 1g = Na 17mEq)。  180mEq ÷ 17mEq/g = 10.588…g (3) 小数第1位を四捨五入する。  10.588… → 11g したがって、尿中の1日塩分排泄量は11gである。

換算係数17の由来

NaClの式量は約58.5(Na 23+Cl 35.5)であり、NaCl 1gは1000÷58.5≒17.1mmolである。Naは1価の陽イオンなので1mmol=1mEqとなり、NaCl 1gはNa約17mEqに相当する。

使わない数値について

尿中Cl、尿クレアチニン、尿蛋白は計算に用いない。食塩摂取量の推定にNaを用いるのは、食事中のClにはNaCl以外(KClなど)に由来するものも含まれ、また尿中Cl排泄は酸塩基平衡の影響も受けるためである。ちなみにCl 100mEq/L×1.2L=120mEqを17で割ると約7gとなり、Naから求めた値とは一致しない。尿クレアチニン(100mg/dL×12dL=1.2g/日)は蓄尿が適切に行われたかの目安や、随時尿で推定する際の補正に用いる指標であり、本問の答えには関与しない。

夜尿症の概要

夜尿症は、5歳以上の小児が睡眠中に不随意に排尿する状態が、月1回以上・3か月以上続くものをいう。7歳で約10%にみられ、年に約15%ずつ自然に治癒するが、成人まで持続する例もわずかにある。昼間の尿失禁を伴わないものを単一症候性夜尿症、昼間の排尿症状を伴うものを非単一症候性夜尿症と分ける。

病態のタイプ

・夜間多尿型:睡眠中の抗利尿ホルモン(ADH、バソプレシン)分泌の不足、夕方以降の水分・塩分の過剰摂取などによって夜間尿量が増える。 ・膀胱容量減少型:機能的な膀胱容量が小さい、または排尿筋の過活動がある。 ・混合型:両者を合併する。 いずれにも、尿意による覚醒が起こりにくい睡眠中の覚醒障害が関わる。

初期対応

まず生活指導(夕食後の水分制限、塩分・蛋白質の多い夕食を避ける、就寝前の排尿、夜間に無理に起こさない、叱らない)を行い、効果が不十分なら夜尿アラーム療法や、デスモプレシン(ADHのアナログ、口腔内崩壊錠)による薬物療法を検討する。デスモプレシン服用中は水中毒(低Na血症)を防ぐため、就寝前の水分摂取を控えるよう指導する。

塩分摂取量の推定法

・24時間蓄尿法:推定食塩摂取量(g/日)=尿中Na(mEq/L)×1日尿量(L)÷17。最も信頼性が高いが、蓄尿の手間がかかり、採り漏れがあると過小評価になる。 ・随時尿による推定法(田中の式など):随時尿のNa濃度とクレアチニン濃度、および体重・身長・年齢から予測した24時間尿クレアチニン排泄量を用いて、24時間尿中Na排泄量を推定する。外来で簡便に行えるが、本来は成人を対象に作られた式で、個人の推定値には誤差が大きい。

食塩摂取の目標

日本人の食事摂取基準では、12〜14歳男子の食塩相当量の目標量は1日7.0g未満とされている。本症例の11gはこれを大きく上回り、家族の「減塩しているつもり」と実際の摂取量とのずれが示唆される。塩分過多による夜間多尿が夜尿の一因である可能性があり、具体的な減塩指導の根拠になる。

POINT

・24時間蓄尿による1日食塩摂取量(g)=尿中Na(mEq/L)×尿量(L/日)÷17 ・NaCl 1g=Na約17mEq(NaClの式量約58.5から) ・食塩摂取量の推定にはClではなくNaを用いる。尿クレアチニンや尿蛋白は本計算には不要 ・本問:150×1.2=180mEq、180÷17=10.59→11g ・夜尿症では塩分・水分の過剰摂取による夜間多尿が一因となり、生活指導が治療の第一歩である

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。