傷口は凶器を語る―創縁と創角から片刃の刃物を見抜く
第117回医師国家試験 D問題 第1問
国試問題にチャレンジ
救急外来を受診した患者の損傷の写真(A)と創部を寄せ合わせた状態の写真(B)とを示す。 この創の原因となったものとして最も考えられるのはどれか。

- a.釘
- b.包丁
- c.はさみ
- d.かなづち
- e.のこぎり
対話形式の解説
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ドクターまとめ
創縁が平滑で直線的、周囲に表皮剥脱や挫滅がなく、寄せ合わせると欠損なく一直線に閉じる創は、鋭い刃による鋭器損傷と判断できます。皮膚の張力によって創口は紡錘形に開き、創角の一方が鋭く他方が鈍い場合は片刃の刃物を示唆するため、本例の成傷器としては包丁が最も考えられます。釘では点状の刺創や引き裂かれた不整な創、かなづちでは創縁不整で組織架橋を伴う挫創、のこぎりでは鋸歯状で欠損を伴う創、はさみでは挫滅を伴う創や両端の鋭い創となりやすく、本例とは合致しません。創の観察は深部損傷や異物の評価、縫合方針の決定に加え、受傷機転の推定や虐待・暴行の発見にもつながる、救急診療と法医学の双方で重要な技能です。
解答・解説
正解はbです
画像所見の整理
写真Aでは、皮膚に紡錘形(両端がすぼまった木の葉のような形)に口を開いた創がある。創縁は滑らかでまっすぐであり、周囲の皮膚に擦過(表皮剥脱)や皮下出血、組織の挫滅は見られない。創の両端(創角)を比べると、一方(写真の右端)は細く鋭く尖っているのに対し、もう一方(左端)はやや丸みを帯びて鈍い。 写真Bで創縁を寄せ合わせると、創はほぼ一直線の細い線になり、組織の欠損や創縁のギザギザは認めない。
考え方
創の性状から原因となった物体(成傷器)を推定するには、(1)創縁が鋭利か不整か、(2)創周囲に挫滅・表皮剥脱があるか、(3)創角の形、(4)創洞(創の奥)に組織の架橋(切れ残った線維や血管)があるか、(5)寄せ合わせたときに欠損があるか、を確認する。 本例は、創縁が平滑で挫滅がなく、寄せると直線になって欠損がないことから、鋭い刃によって組織が切り離された鋭器損傷(切創・刺創)と判断できる。皮膚は弾性線維の張力によって引っ張られているため、刃で直線状に切られると創口は紡錘形に開く。さらに創角の一方が鋭く、他方が鈍いことは、刃が片側にだけついた「片刃」の刃物の特徴である。鋭い側が刃先(刃の側)、鈍い側が峰(刃の背)の側にあたる。日常的に入手しやすい片刃の刃物として包丁が最も考えやすい。
選択肢考察
- ×a. 釘
釘は先端が尖った細い円柱状の物体で、刃をもたない。刺さった場合は小さな円形〜点状の刺創となり、本例のように直線的で一定の長さをもつ紡錘形の創にはならない。釘で皮膚を引っかけて裂いた場合でも、組織は切られるのではなく引き裂かれるため、創縁は不整となり周囲に擦過を伴う。
- ○b. 包丁
創縁が平滑で直線的、周囲に挫滅がなく、寄せると欠損のない一本の線になることから、鋭利な刃による創と判断できる。加えて創角の一方が鋭く他方が鈍いのは片刃の刃物に特徴的な所見で、鋭い創角は刃の側、鈍い創角は峰の側に対応する。包丁は代表的な片刃の刃物であり、本例の創の原因として最も考えられる。
- ×c. はさみ
はさみの刃は2枚の刃で挟み込んで切る構造で、1枚ずつの刃は包丁ほど薄く鋭くない。閉じたはさみで刺した場合は刃の幅が狭いため小さな創となり、刃の背が厚いので創縁に挫滅を伴いやすい。挟んで切った場合も、刃先が押しつぶすように作用するため、創縁の圧挫を伴う浅い創になりやすい。両刃の形になって創の両端がともに鋭くなることもあり、一端のみが鈍い本例の形とは合わない。
- ×d. かなづち
かなづちは鈍器であり、打撃によって皮膚が押しつぶされ裂ける挫創・挫裂創をつくる。挫創では創縁が不整で、周囲に表皮剥脱や皮下出血(打撲痕)を伴い、創の奥には切れ残った神経・血管などの組織架橋がみられる。本例のような滑らかで直線的な創縁にはならない。
- ×e. のこぎり
のこぎりは多数の歯が並んだ刃をもつため、接触すると小さな傷が線状に並んだり、引くことで組織が削られ欠損を伴ったりする。創縁は鋸歯状で不整となり、擦過や挫滅を伴う。本例のように創縁が平滑で、寄せると欠損なく一直線に閉じる創とは異なる。
機械的損傷の分類
・鋭器損傷:刃や尖端をもつ物体による損傷。 切創:刃を皮膚面に沿って引いてできる創。長さが深さより大きく、創縁は平滑、創角は鋭い。 刺創:尖った物体を突き刺してできる創。深さが長さ(創口の大きさ)より大きい。刃物による刺創では創口の形から刃の形(片刃か両刃か)を推定できる。 割創:斧や鉈など重い刃物を打ちつけてできる創。鋭器と鈍器の性質を併せ持ち、創縁に挫滅を伴い骨損傷を伴いやすい。 ・鈍器損傷:表皮剥脱(擦過傷)、皮下出血、挫創・裂創など。創縁は不整で周囲に挫滅や皮下出血を伴い、創洞内に組織架橋がみられる。
創角による刃物の推定
・片刃の刃物(包丁、ナイフの多く):刃側の創角は鋭く、峰側の創角は鈍い(丸い、あるいは小さな裂けを伴う)。 ・両刃の刃物(両刃のナイフ・短剣):両端の創角がともに鋭い。
切創・刺創が紡錘形に開く理由
皮膚には弾性線維による張力(皮膚割線、ランゲル線に沿った方向性)があり、線維が切断されると創縁が左右に引っ張られて口を開ける。そのため直線的な切創・刺創は紡錘形を呈し、寄せ合わせると元の一直線に戻る。逆に寄せても閉じない場合は組織の欠損を考える。
臨床上の意義
救急外来で創の性状を記録・評価することは、異物残存や深部損傷(神経・腱・血管・臓器)の可能性の判断、縫合の方法の選択だけでなく、事故か自傷か暴行かなどを推測する手がかりにもなる。刺創では創口が小さくても深部損傷が大きいことがあり、注意を要する。受傷の状況と創の性状が合わない場合は、虐待や暴行も念頭に置く。
POINT
・鋭器損傷:創縁が平滑・直線的、挫滅なし、寄せると欠損なく一直線になる ・鈍器損傷(挫創):創縁不整、表皮剥脱・皮下出血を伴い、創洞に組織架橋がある ・創角の一方が鋭く他方が鈍い→片刃の刃物(包丁など)。両端とも鋭い→両刃の刃物 ・切創・刺創は皮膚の張力により紡錘形に開く
