StudyMed医師国家試験

そのクレアチニン、筋肉を映していませんか―加齢・妊娠・マーカーで読み解く腎機能

第118回医師国家試験 E問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第118回 E問題 第17問

腎機能で正しいのはどれか。

  1. a.腎血流量は加齢により増加する。
  2. b.尿濃縮能は加齢により増加する。
  3. c.糸球体濾過量〈GFR〉は妊娠中期に減少する。
  4. d.GFRが低下すると血清シスタチンCは減少する。
  5. e.血清クレアチニンを用いた推算GFRは筋肉量に影響される。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腎機能の基本を横断的に問う問題だ。押さえるべき軸は3つ。加齢で腎臓はどう変わるか、妊娠で腎血行動態はどう変わるか、そしてGFRを評価するマーカーがそれぞれ何に影響されるか。順番に整理していこう。
医学生医学生
加齢については、生理学の講義で「年をとるとネフロンが減る」と習いました。だから腎血流量も減る方向ですよね。
ドクタードクター
その通り。腎動脈や腎内の小動脈に動脈硬化が進み、糸球体硬化で働くネフロンも減るので、腎血流量は低下し、GFRも年齢とともに緩やかに下がっていく。増加するという記述は誤りだ。
医学生医学生
尿濃縮能はどうでしょう。高齢者は夜間頻尿が多いので、濃縮できなくなっているのかなと思いました。
ドクタードクター
いい推論だね。尿を濃くするには、ヘンレループの対向流系で髄質の浸透圧勾配をつくり、バソプレシンに反応して集合管でアクアポリン2を介して水を再吸収する必要がある。高齢者ではこの勾配の形成が弱まり、バソプレシンへの反応性も落ちるから、濃縮能は低下する。さらに口渇感も鈍るので、脱水や高ナトリウム血症になりやすいんだ。
医学生医学生
内科の実習で、夏に脱水で入院してくる高齢の方が多かったのはそういう背景もあるんですね。では妊娠ですが、子宮が大きくなって腎臓を圧迫するなら、GFRは中期に下がりそうな気もします。
ドクタードクター
そこはよくある誤解だね。妊娠中は循環血漿量と心拍出量が大きく増え、血管抵抗も下がるので、腎血漿流量とGFRは妊娠初期から増加し、非妊娠時のおよそ1.5倍に達する。中期もその増加した状態が保たれているから、減少するという記述は誤りだ。
医学生医学生
GFRが上がるということは、妊婦さんの血清クレアチニンは低めになるわけですね。
ドクタードクター
そう。だから非妊娠時なら正常範囲とされるクレアチニン値でも、妊婦では腎機能低下を疑う必要がある。それからGFRが増えると尿細管で再吸収しきれないブドウ糖が尿に出やすく、腎性糖尿もみられやすい。産婦人科で覚えておくと役立つよ。
医学生医学生
次はシスタチンCですね。GFRが下がると減るという記述は、直感的におかしい気がします。
ドクタードクター
その直感で正しい。シスタチンCは全身の有核細胞からほぼ一定の速度で作られる低分子蛋白で、糸球体で濾過されて除かれる。だからGFRが下がれば血中に溜まって上昇する。クレアチニンと同じ方向に動くと考えればいい。
医学生医学生
そうすると正解は、クレアチニンによる推算GFRが筋肉量に影響される、という記述ですね。
ドクタードクター
正解。クレアチニンは筋肉内のクレアチンリン酸の代謝産物で、1日の産生量は筋肉量にほぼ比例する。ところが日本人のeGFRcreatの式は血清クレアチニン、年齢、性別だけで計算していて、個人の筋肉量は入っていない。
医学生医学生
ということは、筋肉の多いスポーツ選手ではクレアチニンが高めに出て、GFRを低く見積もってしまうんですね。
ドクタードクター
そう、過小評価になる。逆に注意が必要なのは、高齢者や長期臥床の人、四肢切断や神経筋疾患、低栄養の人だ。筋肉が少ないとクレアチニンが低めに出て、GFRを過大評価してしまう。
医学生医学生
CBTの勉強のときは数値だけ見て「腎機能正常」と判断していましたが、痩せた高齢者だと見逃しかねないんですね。
ドクタードクター
まさにそこが臨床の落とし穴だ。腎排泄型の薬を過量投与してしまう危険がある。そういう患者ではシスタチンCを用いたeGFRcysを併用すると、筋肉量の影響を受けにくい評価ができる。軽度のGFR低下を拾いやすいのも利点だ。
医学生医学生
シスタチンCなら万能かというと、弱点もありますか。
ドクタードクター
あるよ。甲状腺機能異常や副腎皮質ステロイドの投与で値が変動する。ほかにもBUNは蛋白摂取や消化管出血、脱水でも上がるので特異性が低いし、蓄尿によるクレアチニンクリアランスは尿細管分泌のぶんGFRより高めに出る。GFR測定のゴールドスタンダードは、濾過されるだけで再吸収も分泌もされないイヌリンのクリアランスだ。
医学生医学生
どのマーカーも「何に引っ張られるか」を知った上で使い分けるのが大事なんですね。
ドクタードクター
その通り。数値をうのみにせず、患者の体格や背景と照らし合わせて解釈する習慣をつけておこう。

まとめ

加齢によりネフロン数が減少し、腎血流量・GFR・尿濃縮能はいずれも低下するため、高齢者は脱水や高ナトリウム血症をきたしやすくなります。妊娠中は循環血漿量と心拍出量の増加によりGFRが初期から約1.5倍に増加し、血清クレアチニンは低値になるため、非妊娠時の正常値でも腎機能低下を疑う必要があります。血清クレアチニンもシスタチンCもGFR低下で上昇しますが、クレアチニンは筋肉由来のため、eGFRcreatは筋肉量の影響を受け、筋肉量の少ない高齢者や長期臥床者ではGFRを過大評価しやすくなります。このような場合はeGFRcysを併用するなど、各マーカーの特性を理解して解釈することが、薬剤投与量の調整を含む安全な診療につながります。

解答・解説

正解はeです

腎機能に関する基本事項として、(1)加齢に伴う腎機能の変化、(2)妊娠に伴う腎血行動態の変化、(3)腎機能(GFR)の評価に用いるマーカーの特性、の3点が問われている。 加齢によりネフロン数は減少し、腎血流量・GFR・尿濃縮能・希釈能などの腎予備能はいずれも低下する。妊娠中は循環血漿量と心拍出量が増え、腎血漿流量とGFRは妊娠初期から増加して非妊娠時の約1.5倍に達する。 GFRの指標である血清クレアチニンや血清シスタチンCは、主に糸球体で濾過されて排泄される物質であるため、GFRが低下すると血中に蓄積して濃度が上昇する。ただし、クレアチニンは筋肉で産生されるため、その血中濃度は腎機能だけでなく筋肉量にも左右される。したがって血清クレアチニンから算出する推算GFR(eGFRcreat)は筋肉量の影響を受ける、という記述が正しい。

選択肢考察

  1. ×a.  腎血流量は加齢により増加する。

    誤り。加齢に伴い腎動脈・腎内小動脈の動脈硬化が進み、糸球体硬化によって機能するネフロン数も減少するため、腎血流量は低下する。腎血流量の低下は特に皮質で目立ち、それに伴ってGFRも年齢とともに緩やかに低下する。高齢者で腎排泄型薬剤の投与量調整が必要になるのはこのためである。

  2. ×b.  尿濃縮能は加齢により増加する。

    誤り。尿濃縮能は加齢により低下する。尿の濃縮には、髄質の浸透圧勾配の形成(ヘンレループの対向流系)と、バソプレシンに対する集合管の反応(アクアポリン2を介した水の再吸収)が必要であるが、高齢者ではネフロン数の減少、髄質の浸透圧勾配の形成不全、バソプレシンへの反応性低下が生じる。さらに口渇感も鈍くなるため、高齢者は脱水や高ナトリウム血症をきたしやすく、夜間多尿の一因にもなる。

  3. ×c.  糸球体濾過量〈GFR〉は妊娠中期に減少する。

    誤り。妊娠中は循環血漿量の増加(約40〜50%)と心拍出量の増加(約30〜50%)、血管抵抗の低下により腎血漿流量が増加し、GFRは妊娠初期から上昇して非妊娠時の約1.5倍となり、妊娠中期にはその増加した状態が保たれている。その結果、妊婦の血清クレアチニンや血中尿素窒素(BUN)は非妊娠時より低値となり、非妊娠時には正常範囲とされる値(例えば血清クレアチニン0.9 mg/dL程度)でも、妊婦では腎機能低下を疑う必要がある。また、GFR増加により尿細管で再吸収しきれないブドウ糖が尿中に出やすくなり、妊娠中は腎性糖尿がみられやすい。

  4. ×d.  GFRが低下すると血清シスタチンCは減少する。

    誤り。シスタチンCは全身の有核細胞でほぼ一定の速度で産生される低分子蛋白で、糸球体で自由に濾過された後、近位尿細管で再吸収・分解される。血中からの除去はほぼGFRに依存するため、GFRが低下すると血清シスタチンCは上昇する。クレアチニンと比べて筋肉量・食事・性別の影響を受けにくく、クレアチニンが上昇し始める前の軽度のGFR低下(いわゆるクレアチニンブラインド領域)を検出しやすい利点がある。一方で、甲状腺機能異常や副腎皮質ステロイド投与などで値が変動する点に注意が必要である。

  5. ○e.  血清クレアチニンを用いた推算GFRは筋肉量に影響される。

    正しい。クレアチニンは、主に肝臓で合成されたクレアチンが筋肉内でクレアチンリン酸として利用された後に生じる代謝産物であり、1日の産生量は筋肉量にほぼ比例する。eGFRcreatは血清クレアチニン、年齢、性別から算出する式であり、個々の筋肉量は考慮されていない。そのため、筋肉量の多い人(スポーツ選手など)では血清クレアチニンが高めになってGFRが過小評価され、筋肉量の少ない人(高齢者、長期臥床、四肢切断、神経筋疾患、低栄養など)では血清クレアチニンが低めになってGFRが過大評価される。後者では腎機能障害を見逃すおそれがあるため、シスタチンCを用いた推算GFR(eGFRcys)を併用するとよい。

腎機能評価のマーカー

・血清クレアチニン:筋肉由来。糸球体で濾過され、一部は尿細管から分泌される。筋肉量・性別・年齢・食事(肉類の摂取)の影響を受ける。GFRが正常の約半分程度まで低下しないと明らかな上昇を示しにくい。 ・血清シスタチンC:全有核細胞由来。筋肉量の影響を受けにくく、軽度のGFR低下を反映しやすい。甲状腺機能、ステロイド、妊娠などで変動する。 ・BUN(血中尿素窒素):腎機能以外に蛋白摂取量、消化管出血、脱水、異化亢進でも上昇するため、腎機能の指標としての特異性は低い。 ・クレアチニンクリアランス(Ccr):蓄尿で測定する。尿細管分泌分だけGFRより高めに出る。 ・イヌリンクリアランス:糸球体で濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされないため、GFR測定のゴールドスタンダードである。

日本人のeGFR推算式

・eGFRcreat(mL/分/1.73 m²)=194×Cr^(−1.094)×年齢^(−0.287)(女性は×0.739)

生理的条件と腎機能

・加齢:腎血流量、GFR、尿濃縮能・希釈能、Na保持能はいずれも低下する。 ・妊娠:腎血漿流量、GFRは約1.5倍に増加する。血清クレアチニン・BUN・尿酸は低下し、腎性糖尿がみられやすい。

POINT

・加齢で腎血流量・GFR・尿濃縮能はすべて低下する。 ・妊娠中はGFRが約1.5倍に増加し、血清クレアチニンは低下する。 ・GFRが低下すると、血清クレアチニンも血清シスタチンCも上昇する。 ・クレアチニンは筋肉由来のため、eGFRcreatは筋肉量の影響を受ける(筋肉量の少ない高齢者・長期臥床者ではGFRを過大評価しやすい)。 ・シスタチンCは筋肉量の影響を受けにくく、eGFRcysはその補完に用いられる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。