ネフロンの地図を描けるか―利尿薬は「どこで何を止めるか」で覚える
第119回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
薬剤と尿細管作用部位の組合せで正しいのはどれか。
- a.SGLT2阻害薬 ―― 近位尿細管
- b.抗アルドステロン薬 ―― Henleの上行脚
- c.サイアザイド系利尿薬 ―― 集合管
- d.バソプレシンV2受容体拮抗薬 ―― 遠位尿細管
- e.ループ利尿薬 ―― Henleの下行脚
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
腎作用薬は、ネフロンの部位ごとに異なる輸送体や受容体を標的にしており、SGLT2阻害薬は近位尿細管のSGLT2を阻害して尿糖排泄を促す薬です。ループ利尿薬はHenleループの太い上行脚のNKCC2、サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管のNCCを阻害し、抗アルドステロン薬は遠位尿細管後半〜集合管主細胞のミネラルコルチコイド受容体を、バソプレシンV2受容体拮抗薬は集合管のV2受容体を遮断します。Henleの下行脚は水の再吸収が主体で、ここを標的とする利尿薬はありません。作用部位がわかれば、ループやサイアザイドによる低カリウム血症、抗アルドステロン薬による高カリウム血症、V2受容体拮抗薬による急速なNa上昇といった副作用も論理的に予測できます。ネフロンの地図と薬を結びつけて理解することは、心不全・高血圧・低ナトリウム血症などの日常診療で薬を安全に使いこなす土台になります。
解答・解説
正解はaです
ネフロン(腎臓の機能単位)は、糸球体でろ過された原尿が、近位尿細管 → Henle(ヘンレ)ループ(下行脚 → 上行脚)→ 遠位尿細管 → 接合尿細管 → 集合管 の順に流れる間に、部位ごとに異なる輸送体によって水や電解質・ブドウ糖などが再吸収される構造になっている。利尿薬をはじめとする腎作用薬は、それぞれ特定の部位の特定の輸送体・受容体を標的としており、「どの部位の何を阻害するか」を整理しておくと、作用の強さや副作用(電解質異常)まで理解しやすい。 本問の5薬剤の作用部位と標的を整理すると次のようになる。 ・SGLT2阻害薬:近位尿細管のNa+-グルコース共輸送体2(SGLT2) ・ループ利尿薬:Henleループの太い上行脚のNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC2) ・サイアザイド系利尿薬:遠位尿細管のNa+-Cl-共輸送体(NCC) ・抗アルドステロン薬(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬):遠位尿細管後半〜接合尿細管・集合管の主細胞にあるミネラルコルチコイド受容体 ・バソプレシンV2受容体拮抗薬:集合管主細胞のV2受容体 この対応と照らし合わせると、組合せとして正しいのは「SGLT2阻害薬 ― 近位尿細管」のみである。
選択肢考察
- ○a. SGLT2阻害薬 ―― 近位尿細管
正しい。SGLT2(sodium-glucose cotransporter 2)は近位尿細管の起始部(S1〜S2分節)の管腔側膜に存在し、糸球体でろ過されたブドウ糖の大部分(約90%)をNa+と共に再吸収する輸送体である。残りは近位尿細管後半のSGLT1が再吸収する。SGLT2阻害薬はこの再吸収を阻害して尿中へのブドウ糖排泄を増やし、インスリンに依存せずに血糖を下げる。インスリン分泌を直接促進しないため単独では低血糖を起こしにくい。Na+排泄の増加による軽度の浸透圧利尿・ナトリウム利尿作用も持ち、近年は糖尿病の有無を問わず心不全や慢性腎臓病(CKD)の治療薬としても用いられている。副作用として性器・尿路感染症、脱水、正常血糖ケトアシドーシスに注意する。
- ×b. 抗アルドステロン薬 ―― Henleの上行脚
誤り。アルドステロンは遠位尿細管後半から接合尿細管・集合管の主細胞にあるミネラルコルチコイド受容体に結合し、上皮型Na+チャネル(ENaC)やNa+/K+-ATPaseを増やしてNa+の再吸収とK+の排泄を促進する。抗アルドステロン薬(スピロノラクトン、エプレレノンなど)はこの受容体を遮断し、Na+と水の排泄を増やす一方でK+の排泄を減らす(カリウム保持性利尿薬)。このため高カリウム血症に注意が必要であり、K+を低下させるループ利尿薬と併用されることが多い。Henleの上行脚はループ利尿薬の作用部位である。
- ×c. サイアザイド系利尿薬 ―― 集合管
誤り。サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管(遠位曲尿細管)の管腔側にあるNa+-Cl-共輸送体(NCC)を阻害する。この部位でのNa+再吸収はろ過量の5〜7%程度と少ないため、利尿効果はループ利尿薬より弱いが、持続的な降圧作用があり高血圧治療に広く使われる。副作用として低カリウム血症、低ナトリウム血症、高尿酸血症、耐糖能低下、高カルシウム血症(Ca2+再吸収の促進による)がある。集合管は抗アルドステロン薬やバソプレシンV2受容体拮抗薬の作用部位である。
- ×d. バソプレシンV2受容体拮抗薬 ―― 遠位尿細管
誤り。バソプレシン(抗利尿ホルモン、ADH)は集合管主細胞の基底膜側にあるV2受容体に結合し、水チャネルであるアクアポリン2を管腔側膜へ移動させて水の再吸収を促す。V2受容体拮抗薬(トルバプタン)はこれを阻害し、電解質をほとんど排泄させずに自由水のみを排泄させる(水利尿)。そのため、ほかの利尿薬で効果不十分な心不全や肝硬変の体液貯留、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)などによる低ナトリウム血症、常染色体顕性(優性)多発性嚢胞腎の進行抑制に用いられる。急激な血清Na上昇による浸透圧性脱髄症候群を避けるため、導入時は血清Na値の綿密なモニタリングが必要である。
- ×e. ループ利尿薬 ―― Henleの下行脚
誤り。ループ利尿薬(フロセミドなど)の作用部位はHenleループの太い上行脚であり、管腔側のNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC2)を阻害する。この部位はろ過されたNa+の約25%を再吸収するため、ループ利尿薬は最も強力な利尿薬であり、腎機能が低下した例でも効果が期待できる。副作用は低カリウム血症、低ナトリウム血症、代謝性アルカローシス、高尿酸血症、聴器毒性などで、長期投与では電解質の定期的なモニタリングが必要である。なお、Henleの下行脚は水の透過性が高く主に水が再吸収される部位で、ここを標的とする利尿薬はない。
ネフロンの部位別の主な輸送と作用薬
・近位尿細管:ろ過Na+の約60〜70%、ブドウ糖・アミノ酸のほぼ全量、HCO3-の大部分を再吸収。作用薬はSGLT2阻害薬、炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)、浸透圧利尿薬(マンニトール:近位尿細管とHenleループで水の再吸収を抑える)。 ・Henleループ下行脚:水の再吸収が主体(溶質はほとんど通さない)。 ・Henleループ太い上行脚:水を通さず、NKCC2でNa+・K+・Cl-を再吸収(ろ過Na+の約25%)。尿の希釈と髄質の浸透圧勾配形成を担う。作用薬はループ利尿薬。 ・遠位尿細管:NCCでNa+・Cl-を再吸収(約5〜7%)。Ca2+再吸収の調節部位でもある。作用薬はサイアザイド系利尿薬。 ・接合尿細管〜集合管:主細胞のENaCによるNa+再吸収とK+分泌(アルドステロンで促進)、アクアポリン2による水再吸収(バソプレシンで促進)。作用薬は抗アルドステロン薬、トリアムテレン(ENaC阻害)、バソプレシンV2受容体拮抗薬。
利尿薬とカリウム
・K+を下げる:ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬(集合管へのNa+到達量の増加とアルドステロン分泌亢進によりK+分泌が増える)。 ・K+を上げる(K保持性):抗アルドステロン薬、トリアムテレン。 ・ほぼ影響しない:バソプレシンV2受容体拮抗薬(自由水のみ排泄)。
POINT
・SGLT2阻害薬:近位尿細管のSGLT2を阻害し尿糖排泄を促進。低血糖を起こしにくく、心不全・CKDにも用いる。 ・ループ利尿薬:Henleの太い上行脚のNKCC2を阻害。最も強力。 ・サイアザイド系利尿薬:遠位尿細管のNCCを阻害。低K、高尿酸、高Ca血症。 ・抗アルドステロン薬:集合管(接合尿細管)のミネラルコルチコイド受容体を遮断。高K血症に注意。 ・バソプレシンV2受容体拮抗薬:集合管のV2受容体を遮断し水利尿。低Na血症に用いるが急速補正に注意。
