StudyMed医師国家試験

女性に多い精神疾患はどれ?―性差で整理する精神科の疫学

第117回医師国家試験 A問題 第5問

国試問題にチャレンジ

第117回 A問題 第5問

女性に多いのはどれか。

  1. a.双極Ⅰ型障害
  2. b.アルコール依存症
  3. c.自閉スペクトラム症
  4. d.神経性食思〈欲〉不振症
  5. e.反社会性パーソナリティ障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は精神疾患の「性差」を問う知識問題だ。精神疾患の多くは発症頻度に男女差があって、国試でも繰り返し問われる。一つひとつ暗記するより、「女性に多いグループ」「男性に多いグループ」「ほぼ差がないもの」の3つに分けて整理するのがコツだよ。
医学生医学生
気分障害は女性に多いイメージがあるので、双極Ⅰ型障害が一番それっぽく見えてしまいました。
ドクタードクター
そこが典型的な引っかけだね。女性に多い気分障害は「うつ病」で、女性は男性の約2倍とされる。一方、双極Ⅰ型障害は男女比がほぼ1対1で、性差がほとんどない代表例なんだ。
医学生医学生
うつ病と双極性障害をひとまとめに考えていました。性差なしなんですね。
ドクタードクター
ただし病像には違いがあって、女性ではうつ病エピソードが目立ちやすい、急速交代型が多いといった指摘はある。でも発症頻度そのものには大きな差がない、と押さえておこう。では、アルコール依存症はどうかな。
医学生医学生
精神科の臨床実習で入院していたアルコール依存症の患者さんは、ほとんどが男性でした。
ドクタードクター
その印象どおり、アルコール依存症を含む物質使用障害は男性に多い。ただ、女性は体格が小さく体内の水分量も少ないため、同じ量を飲んでも血中濃度が上がりやすい。少ない飲酒量・短い期間で依存症や肝障害に進みやすいことは臨床的に大事なポイントだよ。
医学生医学生
自閉スペクトラム症は、小児科の講義で男の子に多いと習いました。
ドクタードクター
そうだね、男女比はおよそ4対1。注意欠如多動症も小児期は男児に多く、神経発達症はまとめて男性優位と覚えておくといい。最近は、女性では周囲に合わせて特性を隠すカモフラージュによって見逃されやすい可能性も指摘されている。
医学生医学生
反社会性パーソナリティ障害も男性に多そうです。でもパーソナリティ障害って女性に多いものもありませんでしたか。
ドクタードクター
いいところに気づいたね。反社会性は男性に明らかに多い。同じB群でも、境界性パーソナリティ障害や演技性パーソナリティ障害は臨床場面で女性に多いとされる。同じ群の中で性差が逆になる点は対比して覚えておこう。なお、反社会性の診断には18歳以上であることと、15歳以前に素行症があったことが必要だ。
医学生医学生
となると、残る神経性食思不振症が正解ですね。摂食障害は若い女性のイメージがあります。
ドクタードクター
正解。神経性食思不振症、いわゆる神経性やせ症は思春期から青年期の女性に好発し、男女比はおよそ1対10と圧倒的に女性に多い。痩せを理想とする社会文化的背景や完璧主義的な性格傾向、思春期の心理的葛藤などが関わるとされる。神経性過食症や過食性障害も含め、摂食障害全般が女性優位なんだ。
医学生医学生
女性に多いのはうつ病、不安症、PTSD、摂食障害、境界性パーソナリティ障害。男性に多いのは物質使用障害、神経発達症、反社会性パーソナリティ障害。性差なしが双極Ⅰ型障害、という整理でいいですか。
ドクタードクター
完璧だ。補足すると、統合失調症も生涯有病率はほぼ性差なしだけど、男性のほうが発症年齢が早く、予後不良例がやや多いとされる。強迫症も成人ではほぼ差がない。
医学生医学生
神経性やせ症は、身体面でも気をつけることが多いと聞きました。
ドクタードクター
そうなんだ。精神疾患の中でも死亡率が高い疾患の一つで、徐脈、低血圧、低体温、無月経、産毛の増加、骨粗鬆症などがみられる。嘔吐や下剤乱用があれば低カリウム血症にも注意が必要だ。そして治療で栄養を再開するとき、急に栄養を入れると低リン血症などを起こすリフィーディング症候群が危険なので、少量から慎重に増やしていく。
医学生医学生
本人に病識が乏しいことも多いので、内科や小児科で身体症状から見つかることもありそうですね。
ドクタードクター
その通り。体重減少や無月経で受診した若い女性では、背景に摂食障害がないか常に意識しておきたい。疫学の知識は、そうした「気づき」の入り口になるんだ。

まとめ

精神疾患の多くには発症頻度の性差があり、女性に多いのはうつ病、不安症、PTSD、摂食障害、境界性パーソナリティ障害など、男性に多いのはアルコール依存症などの物質使用障害、自閉スペクトラム症やADHDなどの神経発達症、反社会性パーソナリティ障害などです。神経性食思不振症(神経性やせ症)は思春期〜青年期の女性に好発し、男女比はおよそ1対10と女性に圧倒的に多い疾患です。一方、双極Ⅰ型障害は性差がほとんどなく、女性に多いうつ病と区別して覚える必要があります。神経性やせ症は死亡率が高く、徐脈や無月経、低カリウム血症などの身体合併症や、再栄養時のリフィーディング症候群に注意が必要です。性差を3グループで整理しておくことは、国試対策だけでなく、日常診療で背景にある精神疾患に気づく助けにもなります。

解答・解説

正解はdです

精神疾患の疫学的な性差を問う問題である。精神疾患の多くは、発症率や有病率に男女差がみられ、国家試験でも頻繁に問われる。 大まかな傾向として、女性に多いのは「うつ病(大うつ病性障害)、不安症(パニック症、全般不安症など)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、摂食障害、境界性パーソナリティ障害、身体症状症」などである。一方、男性に多いのは「アルコール・薬物などの物質使用障害、自閉スペクトラム症や注意欠如多動症(ADHD)などの神経発達症、反社会性パーソナリティ障害、統合失調症の早期発症例」などである。双極Ⅰ型障害は性差がほとんどない代表例である。 この整理に当てはめれば、選択肢の中で明らかに女性に多いのは摂食障害の一型である神経性食思〈欲〉不振症(神経性やせ症)であり、他はいずれも男性に多いか、性差がほとんどない疾患である。

選択肢考察

  1. ×a.  双極Ⅰ型障害

    双極Ⅰ型障害は、少なくとも1回の躁病エピソード(気分の高揚や易怒性、活動性の亢進、睡眠欲求の減少などが1週間以上続く状態)を認める気分障害である。発症頻度の男女比はほぼ1:1で、明らかな性差はない。なお、女性ではうつ病エピソードが目立ちやすい、急速交代型(1年に4回以上のエピソード)が多いなど病像の違いは指摘されているが、発症頻度自体に差はほとんどない。女性に多い気分障害はうつ病(大うつ病性障害)であり、こちらは女性が男性の約2倍とされる。

  2. ×b.  アルコール依存症

    アルコール依存症(アルコール使用障害)は男性に多い。日本の調査でも患者数は男性が女性を大きく上回る。ただし女性は体格が小さく、体内の水分量が少ないため同じ飲酒量でも血中アルコール濃度が高くなりやすく、エストロゲンの影響もあって、少ない飲酒量・短い飲酒期間で依存症やアルコール性肝障害に至りやすい(いわゆるテレスコーピング現象)。近年は女性の飲酒者・患者の増加も問題となっているが、頻度としては男性に多い疾患である。

  3. ×c.  自閉スペクトラム症

    自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションや対人相互作用の持続的な障害と、限定された反復的な行動・興味・活動を特徴とする神経発達症である。男女比はおよそ4:1で男性に多い。女性では症状が目立ちにくく、周囲に合わせて特性を隠す傾向(カモフラージュ)があるため診断されにくい可能性も指摘されているが、男性に多いという点は変わらない。同じ神経発達症である注意欠如多動症(ADHD)も小児期には男児に多い。

  4. ○d.  神経性食思〈欲〉不振症

    神経性食思〈欲〉不振症(神経性やせ症)は、肥満への強い恐怖や体重・体型に関する認知の歪み(ボディイメージの障害)から摂食を制限し、年齢・身長に比して著しい低体重をきたす摂食障害である。思春期から青年期の若い女性に好発し、男女比はおよそ1:10と女性に圧倒的に多い。痩せを理想とする社会文化的背景、完璧主義的な性格傾向、思春期の心理的葛藤などが発症に関与するとされる。神経性過食症(神経性大食症)や過食性障害も女性に多く、摂食障害全般が女性優位の疾患群である。

  5. ×e.  反社会性パーソナリティ障害

    反社会性パーソナリティ障害は、他者の権利を無視・侵害する行動パターン(違法行為の反復、虚偽、衝動性、攻撃性、無責任、良心の呵責の欠如など)が持続するパーソナリティ障害で、B群(劇的・感情的・移り気な群)に属する。男性に明らかに多い。診断には18歳以上であること、15歳以前に素行症(素行障害)の証拠があることが必要とされる。同じB群でも、境界性パーソナリティ障害や演技性パーソナリティ障害は臨床的に女性に多いとされる点と対比して覚えるとよい。

主な精神疾患の性差の整理

女性に多い:うつ病(約2倍)、気分変調症、パニック症・全般不安症・限局性恐怖症などの不安症、PTSD、神経性やせ症・神経性過食症・過食性障害などの摂食障害、身体症状症、境界性パーソナリティ障害(臨床場面で女性が多い)、演技性パーソナリティ障害 男性に多い:アルコール・薬物などの物質使用障害、自閉スペクトラム症、注意欠如多動症(小児期)、限局性学習症、チック症・トゥレット症、素行症、反社会性パーソナリティ障害、ギャンブル障害、窃視症などのパラフィリア ほぼ性差なし:双極Ⅰ型障害、強迫症(成人)、統合失調症(生涯有病率。ただし男性の方が発症年齢が早く、予後不良例がやや多い)

神経性やせ症の要点

・好発:10代〜20代前半の女性 ・症状:著しい低体重、体重増加への強い恐怖、ボディイメージの障害、病識の乏しさ。摂食制限型と過食・排出型がある ・身体所見:徐脈、低血圧、低体温、無月経、産毛の増加(うぶ毛密生)、低カリウム血症(嘔吐や下剤乱用による)、骨粗鬆症など ・注意点:精神疾患の中でも死亡率が高く、再栄養時のリフィーディング症候群(低リン血症など)に注意が必要である

POINT

・神経性食思〈欲〉不振症(神経性やせ症)は若い女性に多く、男女比はおよそ1:10である。摂食障害はいずれも女性に多い。 ・女性に多い:うつ病、不安症、PTSD、摂食障害、境界性パーソナリティ障害。 ・男性に多い:物質使用障害(アルコール依存症など)、自閉スペクトラム症・ADHDなどの神経発達症、反社会性パーソナリティ障害。 ・双極Ⅰ型障害は男女差がほとんどない(うつ病が女性に多いことと区別する)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。