鎮痛薬で喘息、両側の鼻茸、消えた嗅覚―好酸球性副鼻腔炎は内視鏡で開く
第117回医師国家試験 A問題 第52問
国試問題にチャレンジ
48歳の女性。鼻閉を主訴に来院した。数年前から鼻閉と嗅覚低下があり,風邪をひくと悪化した。鎮痛薬で気管支喘息を起こしたことがあった。左鼻腔の内視鏡像(A)を示す。右鼻腔も同様の所見である。副鼻腔単純CTの水平断像(B)と冠状断像(C)とを示す。 治療として最も適切なのはどれか。

- a.減感作療法
- b.抗真菌薬投与
- c.抗ウイルス薬投与
- d.拡大上顎全摘出術
- e.内視鏡下鼻副鼻腔手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
成人発症の両側性鼻茸、早期からの嗅覚障害、篩骨洞優位の副鼻腔陰影に気管支喘息、特にNSAIDsで発作が誘発されるアスピリン喘息を合併していれば、好酸球性副鼻腔炎を考えます。鼻茸が鼻腔を充満している場合は薬物療法だけでは改善しにくく、鼻茸切除と副鼻腔の開放を行う内視鏡下鼻副鼻腔手術が治療の中心となります。減感作療法はアレルギー性鼻炎、抗真菌薬は浸潤性副鼻腔真菌症、拡大上顎全摘出術は上顎洞癌などの悪性腫瘍に対する治療であり、片側性病変か両側性病変かが鑑別の重要な手がかりです。本症は2型炎症を基盤とし、マクロライドが効きにくくステロイドが有効で、術後も再発しやすいため、ステロイド点鼻や鼻洗浄の継続、難治例での生物学的製剤の使用が必要です。上気道と下気道を一体として捉えるこの考え方は、喘息診療や鎮痛薬の安全な処方にも直結します。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・48歳女性。数年来の鼻閉と嗅覚低下があり、かぜ(上気道感染)を契機に悪化する。慢性に経過する鼻・副鼻腔疾患を考える。 ・鎮痛薬で気管支喘息を起こした既往がある。アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)で喘息発作が誘発される、アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、N-ERD)と考えられる。 ・左鼻腔の内視鏡像(A)では、鼻腔内を表面平滑で半透明の浮腫状腫瘤(鼻茸=鼻ポリープ)が埋めている。右側も同様で、両側性の鼻茸である。 ・副鼻腔CT(B:水平断、C:冠状断)では両側の副鼻腔に広範な軟部組織陰影があり、特に篩骨洞に強い(篩骨洞優位)。
診断
両側性の鼻茸を伴い、篩骨洞優位に陰影が広がる慢性副鼻腔炎で、嗅覚障害が早期から目立ち、気管支喘息(特にアスピリン喘息)を合併している。これらは好酸球性副鼻腔炎の典型像である。確定には末梢血好酸球増多や、鼻茸組織中の著明な好酸球浸潤の確認を行う。 鑑別として、片側性であれば真菌性副鼻腔炎、乳頭腫、上顎洞癌などの腫瘍を考えるが、本例は両側性・長期経過で、骨破壊を示唆する記載もなく、腫瘍性病変は考えにくい。
設問の考え方
好酸球性副鼻腔炎では、鼻茸が鼻腔を充満して鼻閉・嗅覚障害を来しており、薬物療法だけでは改善が難しい。鼻茸を切除し、閉塞した副鼻腔の自然口を開放して換気・排泄路を確保する内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)が治療の中心となる。術後は再発しやすいため、副腎皮質ステロイド(点鼻・必要時は短期内服)や鼻洗浄を継続し、喘息の管理も並行して行う。
選択肢考察
- ×a. 減感作療法
減感作療法(アレルゲン免疫療法)は、原因アレルゲンを少量から投与して体を慣らし、IgE抗体を介したⅠ型アレルギー反応を弱める治療である。スギ花粉症やダニによる通年性アレルギー性鼻炎などが対象となる(舌下免疫療法、皮下免疫療法)。好酸球性副鼻腔炎は特定の吸入抗原に対するIgE反応が主体の病態ではなく、アスピリン喘息も抗原特異的な反応ではないため、減感作療法の対象にならない。
- ×b. 抗真菌薬投与
抗真菌薬の全身投与が必要となるのは、免疫不全患者(コントロール不良の糖尿病、好中球減少など)に起こる浸潤性副鼻腔真菌症(ムーコル症、アスペルギルス症など)である。非浸潤性の副鼻腔真菌症(真菌塊)は通常片側の上顎洞に起こり、手術で真菌塊を除去すれば治る。本例は両側性の鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎で、真菌感染を示す所見はなく、抗真菌薬の適応はない。
- ×c. 抗ウイルス薬投与
かぜを契機に症状が悪化するのは、ウイルス感染で鼻粘膜の炎症が強まるためであり、ウイルスが慢性副鼻腔炎の原因というわけではない。好酸球性副鼻腔炎は2型炎症(Th2細胞や2型自然リンパ球が産生するIL-4、IL-5、IL-13が関与する好酸球性炎症)による慢性疾患であり、抗ウイルス薬は効果がない。
- ×d. 拡大上顎全摘出術
拡大上顎全摘出術は、上顎骨全体に加えて周囲組織(眼窩内容など)まで含めて切除する術式で、進行した上顎洞癌などの悪性腫瘍に対して行われる。顔面の変形や機能障害を伴う侵襲の大きい手術である。上顎洞癌は通常片側性で、CTで骨破壊を伴うことが多い。本例は両側性の炎症性疾患であり、このような拡大切除の適応はない。
- ○e. 内視鏡下鼻副鼻腔手術
内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS:endoscopic sinus surgery)は、鼻孔から内視鏡を挿入して鼻茸を切除し、各副鼻腔の隔壁や自然口を開放して換気と排泄を改善する手術である。顔面に切開を加えず低侵襲で行える。本例は両側の鼻茸と汎副鼻腔の陰影を認める高度の好酸球性副鼻腔炎であり、鼻閉と嗅覚障害を改善するには手術による鼻茸の除去と副鼻腔の開放が必要である。好酸球性副鼻腔炎は術後再発率が高いため、術後もステロイド点鼻や鼻洗浄などの継続治療と定期的な経過観察を要し、再発を繰り返す場合には生物学的製剤(抗IL-4受容体α抗体のデュピルマブなど)が用いられる。
慢性副鼻腔炎の2つのタイプ
・非好酸球性副鼻腔炎(従来型):好中球性炎症が主体。膿性鼻漏・後鼻漏が多く、上顎洞優位の陰影。鼻茸は片側性のことも多い。マクロライド少量長期療法が有効で、手術後の経過も比較的良好。 ・好酸球性副鼻腔炎:成人発症。両側性・多発性の鼻茸、篩骨洞優位の陰影、早期からの嗅覚障害、粘稠な鼻汁(ニカワ状)が特徴。気管支喘息(特にアスピリン喘息)の合併が多い。末梢血・鼻茸組織の好酸球増多を示す。マクロライドは効きにくく、ステロイドが有効。術後再発しやすい難治性疾患で、中等症・重症は指定難病に含まれる。
好酸球性副鼻腔炎の診断(JESRECスコア)
両側性病変、鼻茸の存在、CTで篩骨洞優位の陰影、末梢血好酸球比率をスコア化し、一定点数以上で疑い、鼻茸組織で多数の好酸球浸潤(400倍視野で70個以上)を確認して確定診断とする。
アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息、N-ERD)
シクロオキシゲナーゼ(COX)-1阻害作用をもつNSAIDsの使用により、システイニルロイコトリエンが過剰に産生され、喘息発作や鼻症状を誘発する。成人発症喘息の約5〜10%を占め、好酸球性副鼻腔炎・鼻茸を高率に合併する。アスピリン以外のNSAIDsでも起こるため、鎮痛薬の選択に注意する。NSAIDs過敏症には、喘息・鼻症状を主とする気道型と、蕁麻疹・血管性浮腫を主とする皮膚型がある。
好酸球性副鼻腔炎の治療
・薬物療法:ステロイド点鼻、短期の経口ステロイド、ロイコトリエン受容体拮抗薬、鼻洗浄 ・手術:内視鏡下鼻副鼻腔手術(鼻茸切除と副鼻腔の開放) ・難治例:生物学的製剤(デュピルマブなど)
POINT
・成人の両側性鼻茸+嗅覚障害+気管支喘息(特にアスピリン喘息)+篩骨洞優位の陰影 → 好酸球性副鼻腔炎。 ・鼻茸が充満した慢性副鼻腔炎の治療の中心は内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)。 ・好酸球性副鼻腔炎は術後再発しやすく、ステロイドなどの術後管理が重要。難治例には生物学的製剤を用いる。 ・減感作療法はアレルギー性鼻炎、抗真菌薬は浸潤性副鼻腔真菌症、拡大上顎全摘出術は上顎洞癌などの悪性腫瘍に対する治療である。
