今すぐ楽にしたい花粉症―「即効性」で選ぶ鼻噴霧用ステロイド
第118回医師国家試験 A問題 第43問
国試問題にチャレンジ
21歳の女性。2週間前からの鼻漏,鼻閉およびくしゃみを主訴に来院した。3年前の春から鼻漏,鼻閉およびくしゃみを自覚していた。自宅近くの診療所で抗ヒスタミン薬が処方されていた。症状は一時改善したが,3月初旬から症状が悪化した。両側鼻粘膜は腫脹しており,水様性鼻汁を認めた。鼻汁好酸球検査は陽性。今の症状をできるだけ早く改善したいと訴えている。 治療で適切なのはどれか。
- a.抗菌薬内服
- b.減感作療法
- c.免疫抑制薬内服
- d.鼻内レーザー手術
- e.副腎皮質ステロイド点鼻
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
くしゃみ・水様性鼻漏・鼻閉の3主徴と鼻汁好酸球陽性はアレルギー性鼻炎を示し、毎年春に悪化するならスギ花粉症が最も考えられます。抗ヒスタミン薬で効果不十分な場合は、3症状すべてに有効で効果発現が早く、全身性副作用の少ない鼻噴霧用ステロイド薬を追加するのが基本です。アレルゲン免疫療法は効果発現に時間がかかり花粉飛散期には開始せず、鼻内レーザー手術は術後一時的に症状が悪化するため飛散期を避け、抗菌薬や免疫抑制薬はアレルギー性鼻炎の治療ではありません。重症例では薬剤の組み合わせや短期の経口ステロイド、抗IgE抗体も選択肢となり、血管収縮薬点鼻の連用は薬剤性鼻炎に注意が必要です。診断後に「即効性」と「実施できる時期」という視点で治療を選ぶ考え方は、患者の希望に沿った治療計画を立てるうえで欠かせません。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・21歳女性。鼻漏(水様性)、鼻閉、くしゃみの3症状がそろっている。これはアレルギー性鼻炎の3主徴である。 ・3年前から毎年春に同じ症状が出ており、今年も3月初旬から悪化している。症状が特定の季節に限って繰り返す点から、花粉を抗原とする季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)、特に日本で最も多い2〜4月のスギ花粉症が考えられる。 ・抗ヒスタミン薬で一時は改善しており、ヒスタミンを介したⅠ型アレルギーの関与を裏付ける。 ・鼻粘膜は両側性に腫脹し、水様性鼻汁がある。鼻汁好酸球検査が陽性であることは、局所でアレルギー性炎症が起きていることを示す。発熱や膿性鼻汁はなく、細菌感染を示す所見はない。
診断
季節性アレルギー性鼻炎(スギ花粉症と推定)。花粉飛散がピークを迎えて、抗ヒスタミン薬だけでは症状を抑えきれなくなった状態である。
設問の考え方
患者は「今の症状をできるだけ早く改善したい」と希望している。したがって、効果発現まで数か月〜年単位を要する治療や、花粉飛散期に行うとかえって症状を悪化させる処置ではなく、花粉飛散期の今すぐ始められて数日以内に効果が出る薬物療法を選ぶ。鼻アレルギー診療ガイドラインでは、抗ヒスタミン薬で効果が不十分な場合や症状が中等症以上の場合、鼻噴霧用ステロイド薬(副腎皮質ステロイド点鼻)を併用・追加することが推奨されている。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬内服
抗菌薬は細菌感染症に対する治療である。本例は発熱がなく、鼻汁は膿性ではなく水様性で、鼻汁中に増えているのは好中球ではなく好酸球であり、細菌性の鼻副鼻腔炎を示す所見はない。アレルギー性鼻炎の症状には効果がなく、不要な抗菌薬投与は耐性菌を増やす原因にもなるため適切でない。
- ×b. 減感作療法
減感作療法(アレルゲン免疫療法)は、原因抗原を少量から長期にわたって投与し、体を抗原に慣らしてアレルギー反応を弱める治療で、皮下免疫療法と舌下免疫療法がある。体質そのものを改善しうる唯一の治療だが、効果が現れるまでに数か月以上かかり、通常3〜5年間継続する。スギ花粉の舌下免疫療法は、花粉飛散期には過敏性が高まっていて副作用が出やすいため新たに開始せず、飛散開始の少なくとも3か月前から始める必要がある。すぐに症状を改善したいという本例の希望には合わない。ただし、来シーズン以降に向けた治療としては検討する価値がある。
- ×c. 免疫抑制薬内服
シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制薬内服は、アレルギー性鼻炎の治療としては用いられない。全身の免疫を抑えることで感染症や腎障害などの重い副作用のリスクがあり、良性疾患である鼻炎に使う利益はない。
- ×d. 鼻内レーザー手術
鼻内レーザー手術は、主に下鼻甲介の粘膜をレーザーで焼灼・蒸散させ、粘膜を縮小・変性させて鼻閉やアレルギー反応を軽減する処置である。施術後しばらくは粘膜が腫れ、かさぶたが付くなどして一時的に症状が悪化するため、花粉飛散期には通常行わず、飛散前に行う。また、保存的治療で改善しない鼻閉の強い例(主に通年性)がよい適応であり、即効性を求める本例には適さない。
- ○e. 副腎皮質ステロイド点鼻
鼻噴霧用ステロイド薬(フルチカゾン、モメタゾンなど)は、鼻粘膜局所で強い抗炎症作用を発揮し、くしゃみ・鼻漏・鼻閉の3症状のいずれにも効果がある。特に抗ヒスタミン薬が効きにくい鼻閉にも有効である。効果は1〜2日ほどで現れ始めるため即効性が期待できる。局所投与のため全身への吸収はごくわずかで、全身性の副作用はほとんどない。抗ヒスタミン薬で効果不十分な本例では、抗ヒスタミン薬を続けながら鼻噴霧用ステロイド薬を追加するのが最も適切である。
アレルギー性鼻炎の概要
・吸入した抗原(花粉、ハウスダスト、ダニなど)に対するⅠ型アレルギー(IgE介在型)による鼻粘膜の炎症である。 ・抗原が肥満細胞上のIgEに結合すると、ヒスタミンやロイコトリエンなどが放出される。ヒスタミンは主に知覚神経を刺激してくしゃみや鼻漏を起こし、ロイコトリエンなどは血管を拡張・透過性を亢進させて粘膜を腫脹させ、鼻閉の原因となる。 ・通年性(主にダニ・ハウスダスト)と季節性(スギ、ヒノキ、イネ科、ブタクサなどの花粉)に分けられる。
診断
・3主徴(くしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉) ・鼻鏡検査:鼻粘膜の腫脹、水様性鼻汁。通年性では蒼白、季節性では発赤していることが多い。 ・鼻汁好酸球検査陽性 ・抗原の同定:皮膚テスト(スクラッチテスト・皮内テスト)、血清特異的IgE抗体、鼻誘発テスト
治療の柱
①抗原の除去と回避(マスク・眼鏡の着用、掃除など) ②薬物療法:第2世代抗ヒスタミン薬、鼻噴霧用ステロイド薬、抗ロイコトリエン薬、抗プロスタグランジンD2・トロンボキサンA2薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬、Th2サイトカイン阻害薬、血管収縮薬との配合剤など。 ③アレルゲン免疫療法(皮下・舌下) ④手術療法(鼻内レーザー手術、下鼻甲介手術、後鼻神経切断術など)
花粉症の重症度に応じた薬物療法(鼻アレルギー診療ガイドラインの考え方)
・初期療法:花粉飛散開始前(または症状が軽いうち)から薬を始めると、シーズン中の症状を軽くできる。 ・軽症:第2世代抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬などのいずれか。 ・中等症:くしゃみ・鼻漏型では第2世代抗ヒスタミン薬+鼻噴霧用ステロイド薬、鼻閉型(または鼻閉が主体の充全型)では抗ロイコトリエン薬などに鼻噴霧用ステロイド薬を組み合わせる。 ・重症〜最重症:鼻噴霧用ステロイド薬+第2世代抗ヒスタミン薬に、抗ロイコトリエン薬などや血管収縮薬配合剤を組み合わせる。症状が非常に強い場合は経口ステロイド薬を短期間(4〜7日程度)併用することがある。 ・重症・最重症のスギ花粉症で、既存治療で効果不十分な場合には、抗IgE抗体(オマリズマブ)の皮下注射が保険適用となっている。
鼻閉への注意
血管収縮薬の点鼻は鼻閉を速やかに改善するが、連用すると反跳性の鼻閉(薬剤性鼻炎)を起こすため、短期間の使用にとどめる。
POINT
・くしゃみ、水様性鼻漏、鼻閉+鼻汁好酸球陽性 → アレルギー性鼻炎。毎年春に悪化 → スギ花粉症 ・抗ヒスタミン薬で効果不十分なときは鼻噴霧用ステロイド薬を追加する。3症状すべてに有効で効果発現が早く、全身性副作用が少ない ・アレルゲン免疫療法は即効性がなく、花粉飛散期には開始しない(スギでは飛散開始の3か月以上前から始める) ・鼻内レーザー手術は施術後に一時的に症状が悪化するため、花粉飛散期には行わない ・抗菌薬や免疫抑制薬はアレルギー性鼻炎の治療ではない
