StudyMed医師国家試験

乾癬だけは口の中を荒らさない?―粘膜疹で読み解く皮膚疾患の守備範囲

第116回医師国家試験 F問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第9問

粘膜疹が見られる頻度が最も低いのはどれか。

  1. a.扁平苔癬
  2. b.尋常性乾癬
  3. c.膿疱性乾癬
  4. d.尋常性天疱瘡
  5. e.多形滲出性紅斑

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚疾患のうち粘膜に病変が出にくいものを選ぶ問題だ。口腔粘膜、口唇、眼結膜、外陰部などに病変が出る疾患には、病態として共通点がある。そこに注目して考えてみよう。
医学生医学生
粘膜疹といえば、まず尋常性天疱瘡が思い浮かびます。口の中のびらんが最初の症状になることが多いと習いました。
ドクタードクター
その通り。尋常性天疱瘡では、デスモソームを構成するデスモグレイン3に対する自己抗体ができる。デスモグレイン3は口腔粘膜で細胞同士の接着の中心を担っているから、粘膜病変はほぼ必発なんだ。抗デスモグレイン3抗体だけなら粘膜優位型、デスモグレイン1に対する抗体も持つと皮膚にも弛緩性水疱が広がる粘膜皮膚型になる。
医学生医学生
病理実習で、基底層の直上で表皮が裂けて棘融解している標本を見ました。墓石みたいに基底細胞が並んでいるのが印象的でした。
ドクタードクター
よく観察しているね。つまり「粘膜上皮にも存在する分子が標的になる」のが粘膜疹の出やすい理由の一つ。次に扁平苔癬はどうかな。
医学生医学生
皮膚の紫っぽい扁平な丘疹のイメージしかないです。口の中にも出るんでしたっけ。
ドクタードクター
実は粘膜病変の頻度が高い疾患なんだ。T細胞が表皮の基底細胞を攻撃する病気で、皮膚と粘膜の上皮を区別せずに傷害する。頰粘膜に両側性の白いレース状・網目状の線条が出るのが典型だ。びらんを伴うと痛みが強く、まれに扁平上皮癌が生じることもあるので経過観察が必要になる。原因としてC型肝炎ウイルス感染、歯科金属アレルギー、薬剤などが知られているよ。
医学生医学生
多形滲出性紅斑は、標的状の紅斑が手足に出る病気ですよね。粘膜にも出るんですか。
ドクタードクター
軽症型では病変は皮膚に限られるけれど、重症型では発熱とともに口唇や口腔に粘膜病変を伴う。単純ヘルペスウイルスやマイコプラズマ感染、薬剤がきっかけになることが多い。粘膜障害が広く表皮剥離を伴う場合は、Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死症との鑑別が重要だ。現在はこれらを別の疾患群として扱うのが一般的だけど、いずれにせよ口唇や眼の所見の確認は欠かせない。
医学生医学生
残りは乾癬が2つですね。乾癬なら皮膚の病気なので、どちらも粘膜疹は出にくいのかなと思いました。
ドクタードクター
そこが引っかけどころ。汎発性膿疱性乾癬は、発熱や全身倦怠感とともに全身の潮紅した皮膚に無菌性膿疱が多発する重症型で、強い全身性炎症を伴う。地図状舌や溝状舌、口内炎、結膜炎やぶどう膜炎などの粘膜・眼病変を伴うことがあり、尋常性乾癬よりも明らかに粘膜病変が起こりやすいんだ。IL-36受容体拮抗因子をコードする遺伝子の変異が関わる例も知られている。
医学生医学生
同じ乾癬でも、全身性の炎症が強いタイプは粘膜まで巻き込むんですね。ということは、答えは尋常性乾癬ですか。
ドクタードクター
正解。尋常性乾癬は表皮細胞の過剰な増殖と角化を主体とする慢性炎症性疾患で、境界明瞭な紅斑に銀白色の厚い鱗屑が付着する。肘頭、膝蓋、頭部の生え際、腰殿部など、こすれや刺激を受けやすい皮膚に好発し、粘膜疹は通常みられない。
医学生医学生
皮膚科の実習で、正常な皮膚をこすったところに新しい皮疹が出るKöbner現象と、鱗屑を剥がすと点状出血が出るAuspitz現象を教わりました。
ドクタードクター
どちらも尋常性乾癬の大切な所見だね。爪の点状陥凹や乾癬性関節炎を伴うことはあるけれど、粘膜にはほぼ出ない。ついでに乾癬の病型も整理しておこう。溶連菌感染後に小さな皮疹が多発する滴状乾癬、皮疹が全身の大部分に及ぶ乾癬性紅皮症、そして指定難病でもある汎発性膿疱性乾癬などがある。
医学生医学生
粘膜疹を伴う疾患として、ほかに押さえておくべきものはありますか。
ドクタードクター
Behçet病の再発性アフタ性口内炎と外陰部潰瘍、全身性エリテマトーデスの無痛性口腔潰瘍、川崎病の口唇紅潮・苺舌・眼球結膜充血、口唇や陰部に出やすい固定薬疹、眼や口腔に瘢痕を残す粘膜類天疱瘡などだ。臨床では、皮疹を診るときに必ず口の中と眼、外陰部も確認する習慣をつけておこう。特に薬剤投与中の発熱と粘膜疹は、重症薬疹の初期像のことがあるので見逃してはいけない。
医学生医学生
粘膜を診るかどうかで、重症度の判断も変わってくるんですね。

まとめ

粘膜疹が出やすい皮膚疾患には、粘膜上皮にも存在する分子が標的となる(尋常性天疱瘡の抗デスモグレイン3抗体)、皮膚と粘膜の上皮を区別せず傷害する炎症反応(扁平苔癬、多形滲出性紅斑重症型、Stevens-Johnson症候群)、強い全身性炎症を伴う(汎発性膿疱性乾癬)といった共通点があります。一方、尋常性乾癬は表皮細胞の過剰な増殖と角化が主体で、肘頭・膝蓋・頭部・腰殿部など刺激を受けやすい皮膚に銀白色鱗屑を伴う紅斑局面をつくり、粘膜疹は通常みられません。同じ乾癬でも汎発性膿疱性乾癬では地図状舌や結膜炎などを伴いうる点が対照的です。Behçet病やSLE、川崎病、重症薬疹なども粘膜病変が手がかりとなるため、皮疹の診察では口腔・眼・外陰部まで確認する姿勢が、診断と重症度判断の両面で重要になります。

解答・解説

正解はbです

問われていること

口腔粘膜、口唇、眼結膜、外陰部などの粘膜に病変(粘膜疹)が出やすい皮膚疾患と、ほとんど出ない皮膚疾患を区別できるかが問われている。

考え方

粘膜疹が目立つ疾患には共通点がある。 ・粘膜上皮にも存在する分子が標的になる:尋常性天疱瘡ではデスモグレイン3(Dsg3)が標的となり、Dsg3は特に口腔粘膜の上皮細胞同士の接着を担うため、粘膜病変が必発に近い。 ・皮膚と粘膜の上皮を区別せずに傷害する炎症反応:扁平苔癬(T細胞による基底細胞の傷害)、多形滲出性紅斑の重症型、Stevens-Johnson症候群など。 ・強い全身性炎症を伴う:汎発性膿疱性乾癬では発熱などの全身症状とともに、舌や結膜などに病変を伴うことがある。 これに対し、尋常性乾癬は皮膚の表皮細胞の過剰な増殖と角化を主体とする慢性炎症性疾患で、病変は肘頭・膝蓋・頭部・腰殿部など、こすれや刺激を受けやすい皮膚に限られ、粘膜にはほぼ生じない。したがって粘膜疹の頻度が最も低いのは尋常性乾癬である。

選択肢考察

  1. ×a.  扁平苔癬

    扁平苔癬はT細胞が表皮の基底細胞を攻撃する慢性炎症性疾患で、皮膚には紫紅色〜灰青色の扁平に隆起した多角形の丘疹・局面が生じ、表面に細かい白い線条(Wickham線条)がみられる。粘膜病変の頻度が高く、特に頰粘膜に白色のレース状・網目状の線条や白斑が両側性に出現しやすい。びらんを伴うと疼痛が強く、口腔扁平苔癬からの癌化(扁平上皮癌)にも注意が必要である。爪では縦溝、菲薄化、爪甲の消失などを生じる。原因としてC型肝炎ウイルス感染、歯科金属アレルギー、薬剤などが知られる。

  2. ○b.  尋常性乾癬

    尋常性乾癬は、境界明瞭な紅斑の上に厚い銀白色の鱗屑が付着する紅斑・局面・丘疹を特徴とする。肘頭、膝蓋、頭部(生え際)、腰殿部など外的刺激を受けやすい部位に好発し、無疹部をこすると新たな皮疹が出るKöbner現象や、鱗屑を剥がすと点状出血がみられるAuspitz現象が知られる。爪の点状陥凹や関節炎(乾癬性関節炎)を伴うことはあるが、粘膜疹は通常みられない。選択肢中で粘膜病変の頻度が最も低い疾患である。

  3. ×c.  膿疱性乾癬

    汎発性膿疱性乾癬は、発熱や全身倦怠感などの全身症状とともに、全身の潮紅した皮膚に無菌性膿疱が多発する重症型の乾癬である。皮膚病変に加えて、地図状舌や溝状舌などの口腔病変、口内炎、結膜炎・ぶどう膜炎などの眼症状、関節炎を伴うことがあり、粘膜病変は尋常性乾癬よりも明らかに起こりやすい。検査では白血球増多、CRP上昇、低アルブミン血症、低カルシウム血症などがみられる。IL-36受容体拮抗因子をコードするIL36RN遺伝子の変異が関与する例が知られている。

  4. ×d.  尋常性天疱瘡

    尋常性天疱瘡は、表皮細胞同士を接着させるデスモソームの構成タンパクであるデスモグレイン3(Dsg3)に対する自己抗体(IgG)によって、表皮内に水疱が生じる自己免疫性水疱症である。Dsg3は口腔粘膜で接着の中心的役割を担うため、ほぼ全例で口腔粘膜や口唇に難治性の疼痛を伴うびらんがみられ、これが初発症状となることが多い。抗Dsg3抗体のみの場合は粘膜優位型、抗Dsg1抗体も併せもつ場合は皮膚にも弛緩性水疱・びらんが広がる粘膜皮膚型となる。Nikolsky現象陽性、組織で表皮内(基底層直上)の棘融解を認める。

  5. ×e.  多形滲出性紅斑

    多形滲出性紅斑は、感染症(単純ヘルペスウイルス、マイコプラズマなど)や薬剤に対する免疫反応で生じ、四肢伸側などに左右対称性に境界明瞭な浮腫性紅斑が出現する。典型例では中心部が暗紫色で周囲が淡く、さらに外側が紅色となる三重の環状構造をもつ標的状病変(target lesion)を呈する。軽症型(minor)では病変は皮膚に限られるが、重症型(major)では発熱とともに口唇・口腔などの粘膜病変を伴う。さらに広範な粘膜障害と表皮剥離をきたすStevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)との鑑別が重要である。粘膜疹をきたしうる点で、尋常性乾癬より頻度は高い。

粘膜病変を伴いやすい主な皮膚疾患

・自己免疫性水疱症:尋常性天疱瘡(口腔粘膜のびらんがほぼ必発)、粘膜類天疱瘡(眼・口腔粘膜の瘢痕を残す)、腫瘍随伴性天疱瘡(重篤な口内炎)。水疱性類天疱瘡でも一部に口腔病変がみられる。 ・炎症性角化症など:扁平苔癬(頰粘膜のレース状白色線条)。 ・薬疹・中毒疹:多形滲出性紅斑重症型、Stevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症、固定薬疹(口唇・陰部に好発)。 ・全身疾患の皮膚粘膜症状:Behçet病(再発性アフタ性口内炎、外陰部潰瘍)、全身性エリテマトーデス(無痛性口腔潰瘍)、川崎病(口唇の紅潮、苺舌、眼球結膜充血)。

乾癬の病型

・尋常性乾癬:最も多い病型。銀白色鱗屑を伴う紅斑局面、Köbner現象、Auspitz現象。粘膜疹は通常ない。 ・滴状乾癬:溶連菌感染後などに小型の皮疹が多発する。 ・乾癬性紅皮症:皮疹が全身の大部分に及ぶ。 ・膿疱性乾癬(汎発型):発熱と全身の無菌性膿疱。地図状舌などの口腔病変や眼症状を伴うことがある。指定難病。 ・乾癬性関節炎:末梢関節炎、付着部炎、指趾炎、脊椎炎などを伴う。

多形滲出性紅斑とSJSの関係

かつては多形滲出性紅斑の重症型とStevens-Johnson症候群を一連のものとする考え方があったが、現在では病因や皮疹の性状が異なる別の疾患群として扱うのが一般的である。いずれも粘膜病変を伴いうるため、口唇・眼の所見の確認が重要である。

POINT

・尋常性天疱瘡:抗Dsg3抗体により口腔粘膜のびらんがほぼ必発で、初発症状となることが多い。 ・扁平苔癬:頰粘膜のレース状白色線条が特徴的。 ・汎発性膿疱性乾癬:全身症状とともに地図状舌、口内炎、結膜炎などの粘膜・眼病変を伴いうる。 ・多形滲出性紅斑:重症型では粘膜病変を伴い、SJS/TENとの鑑別が重要。 ・尋常性乾癬:皮疹は皮膚(肘頭・膝蓋・頭部・腰殿部)に限られ、粘膜疹は通常みられない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。