「増える」か「減る」か―月経量の向きで見抜く過多月経の原因
第116回医師国家試験 F問題 第8問
国試問題にチャレンジ
過多月経の原因となるのはどれか。
- a.子宮腺筋症
- b.子宮腔癒着症
- c.Sheehan症候群
- d.多嚢胞性卵巣症候群
- e.高プロラクチン血症
対話形式の解説
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医学生まとめ
過多月経は1回の月経出血量が異常に多い状態で、子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープなどの器質性疾患や、無排卵周期、出血性素因が原因となります。子宮腺筋症は内膜様組織が筋層内で増殖して子宮がびまん性に腫大し、内膜面積の増加と子宮収縮の障害により過多月経と強い月経困難症をきたします。一方、子宮腔癒着症は内膜の喪失による子宮性無月経、Sheehan症候群・多嚢胞性卵巣症候群・高プロラクチン血症は視床下部-下垂体-卵巣系の障害による稀発月経・無月経の原因であり、月経が減る方向の異常です。月経異常を「量が増える病態か、減る・止まる病態か」という軸で整理しておくと、鑑別の見通しが立ちやすくなり、外来で貧血や月経痛を訴える患者を診る際にも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
過多月経とは
過多月経は、1回の月経での出血量が異常に多い状態をいう(目安として140 mL以上)。臨床的には、レバー状の凝血塊が出る、夜用ナプキンでも頻回に交換が必要、といった訴えや、鉄欠乏性貧血の存在から疑われる。
原因の考え方
過多月経の原因は大きく二つに分けて考えるとよい。 1. 器質性:子宮そのものに病変があり、子宮内膜の面積が広がる、子宮筋の収縮による止血がうまくいかない、などの理由で出血量が増える。子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮内膜増殖症、子宮体癌など。 2. 機能性・全身性:無排卵周期で黄体ホルモンの作用を受けない内膜が厚くなり破綻出血を起こすもの、出血性素因(von Willebrand病、血小板減少)、抗凝固薬の使用、子宮内避妊具(銅付加IUDなど)など。 一方、本問の他の選択肢は、子宮内膜そのものが失われる(子宮腔癒着症)、あるいは視床下部・下垂体・卵巣系の機能が抑制され月経が来にくくなる(Sheehan症候群、多嚢胞性卵巣症候群、高プロラクチン血症)病態であり、典型的には月経が少なくなる・来なくなる方向の異常をきたす。月経量が「増える」病態か「減る・なくなる」病態かを見分けることが本問の要点である。
選択肢考察
- ○a. 子宮腺筋症
子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が子宮筋層内に入り込んで増殖し、子宮がびまん性に腫大する疾患である。子宮が大きくなることで内膜の面積が増えること、筋層内の病変により子宮筋の収縮が妨げられて止血が不十分になることなどから、出血量が増えて過多月経をきたす。強い月経痛(続発性月経困難症)を伴うことが多く、30〜40歳代の経産婦に好発する。過多月経の結果として鉄欠乏性貧血を合併することもある。
- ×b. 子宮腔癒着症
子宮腔癒着症(Asherman症候群)は、人工妊娠中絶や流産後の子宮内容除去術などの過度な掻爬、感染により子宮内膜の基底層が損傷し、子宮腔の前後壁が癒着する病態である。月経のたびに剥がれ落ちる機能層が再生できず、癒着の範囲に応じて過少月経から無月経(子宮性無月経)をきたす。不妊症や習慣流産の原因にもなる。過多月経とは逆の方向の異常である。
- ×c. Sheehan症候群
Sheehan症候群は、分娩時の大量出血やショックにより、妊娠中に腫大していた下垂体前葉が虚血性壊死に陥り、下垂体前葉機能低下症をきたす疾患である。性腺刺激ホルモン(LH・FSH)の分泌が低下するため卵巣が刺激されず、エストロゲンも低下して無月経となる(ゲスターゲン試験で消退出血がみられない第2度無月経)。産後の乳汁分泌不全が初発症状となることが多く、甲状腺・副腎皮質機能低下も伴いうる。過多月経の原因にはならない。
- ×d. 多嚢胞性卵巣症候群
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、LH(黄体形成ホルモン)の分泌亢進やアンドロゲン過剰、インスリン抵抗性などを背景に排卵障害が起こり、卵巣に多数の小卵胞が並ぶ疾患である。主な月経異常は稀発月経、無月経、無排卵周期症であり、典型的には月経回数が減る方向の異常である。なお、長期の無排卵ではエストロゲンのみが作用し続けるため子宮内膜増殖症のリスクが高まり、不規則な破綻出血を起こすこともあるが、過多月経の代表的な原因として挙げられる疾患ではない。
- ×e. 高プロラクチン血症
プロラクチンが過剰になると、視床下部からのGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)のパルス状分泌が抑えられ、LH・FSHの分泌が低下して排卵が障害される。そのため稀発月経や無月経、乳汁漏出をきたす(産後の授乳中に月経が止まるのと同じしくみ)。原因にはプロラクチン産生下垂体腺腫、ドパミン拮抗作用をもつ薬剤(スルピリド、メトクロプラミドなど)、原発性甲状腺機能低下症などがある。過多月経の原因にはならない。
月経の量・周期に関する用語
・過多月経:出血量が異常に多いもの(140 mL以上が目安)。 ・過少月経:出血量が異常に少ないもの(20 mL未満が目安)。 ・正常周期は25〜38日、出血持続は3〜7日。周期が39日以上〜3か月未満で稀発月経、24日以内で頻発月経、出血が8日以上続くものを過長月経という。
過多月経の主な原因
・子宮筋腫:特に粘膜下筋腫で出血が多い。 ・子宮腺筋症:過多月経と強い月経痛。子宮はびまん性に腫大する。 ・子宮内膜ポリープ、子宮内膜増殖症、子宮体癌。 ・出血性素因:von Willebrand病、特発性血小板減少性紫斑病、抗凝固療法など。思春期の過多月経では出血性素因の検索が重要である。 ・無排卵周期による機能性出血。
子宮腺筋症の要点
・子宮内膜症の類縁疾患で、エストロゲン依存性に増悪する。 ・MRIのT2強調画像で、筋層内に境界不明瞭な低信号域と、その中の点状高信号(異所性内膜腺の出血や拡張腺管)を認める。境界明瞭な子宮筋腫との鑑別に有用である。 ・治療は鎮痛薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬、ジエノゲスト、GnRHアゴニスト・アンタゴニスト、レボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)、手術(子宮全摘術など)。
無月経の分類(参考)
・第1度無月経:ゲスターゲン(黄体ホルモン)投与で消退出血あり。エストロゲンはある程度保たれている(多嚢胞性卵巣症候群、軽症の視床下部性など)。 ・第2度無月経:ゲスターゲンでは出血せず、エストロゲン・ゲスターゲン併用で出血する。エストロゲン分泌が高度に低下している(Sheehan症候群など)。 ・子宮性無月経:いずれの投与でも出血しない(子宮腔癒着症など)。
POINT
・過多月経の代表的原因は、子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、出血性素因。 ・子宮腺筋症は過多月経+強い月経困難症+子宮のびまん性腫大。 ・子宮腔癒着症(Asherman症候群)は過少月経・無月経(子宮性)。 ・Sheehan症候群、PCOS、高プロラクチン血症は月経が来にくくなる(稀発月経・無月経)方向の異常。
