StudyMed医師国家試験

「かゆい」か「痛い」か―病変の深さで読み解く結節性紅斑

第117回医師国家試験 B問題 第15問

国試問題にチャレンジ

第117回 B問題 第15問

瘙痒をきたしにくいのはどれか。

  1. a.薬疹
  2. b.蕁麻疹
  3. c.結節性紅斑
  4. d.多形滲出性紅斑
  5. e.アトピー性皮膚炎

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、皮膚疾患の自覚症状として最も身近な「かゆみ」を切り口にした問題だ。考えるヒントは、病変が皮膚のどの深さにあるか。かゆみがどこで生まれるのかを押さえれば、自然に答えが見えてくるよ。
医学生医学生
かゆみといえばヒスタミンですよね。生理学の講義で、ヒスタミンが知覚神経を刺激すると習いました。
ドクタードクター
その通り。かゆみは主にヒスタミンなどの物質が、表皮や真皮浅層にある知覚神経の終末を刺激して生じる。だから炎症が浅いところにある病気ほど、かゆみが目立ちやすいんだ。逆に、病変がもっと深い皮下脂肪組織にあると、かゆみよりも痛みや圧痛が前に出てくる。
医学生医学生
選択肢の中で脂肪組織に病変があるのは、結節性紅斑でしょうか。
ドクタードクター
正解。結節性紅斑は皮下脂肪組織の小葉間の隔壁に炎症が起こる、隔壁性脂肪織炎だ。両下腿の伸側、つまりすねの側に、境界のはっきりしない紅斑と皮下硬結が左右対称に多発し、熱感や痛み、押したときの痛みを伴う。かゆみはほとんどないのが特徴だよ。
医学生医学生
皮膚科の実習で、すねに赤いしこりがある患者さんを診たとき、触ると痛がっていました。あれが結節性紅斑だったのかもしれません。
ドクタードクター
典型的だね。結節性紅斑は通常潰瘍にならず、数週で跡を残さずに消えていく。では、ほかの選択肢がなぜかゆみを伴いやすいのか見ていこう。まず蕁麻疹はどうかな。
医学生医学生
蕁麻疹は肥満細胞からヒスタミンが出て膨疹ができるので、かゆみの代表だと思います。
ドクタードクター
その通り。真皮の肥満細胞からヒスタミンなどが放出され、血管透過性が高まって一過性の膨疹と紅斑が出る。個々の皮疹は通常24時間以内に跡を残さず消え、治療の中心は抗ヒスタミン薬だ。アトピー性皮膚炎はどうだろう。
医学生医学生
アトピー性皮膚炎は、かゆみそのものが診断基準に入っていたはずです。
ドクタードクター
よく覚えているね。日本皮膚科学会の診断基準では、瘙痒、特徴的な皮疹と分布、慢性・反復性の経過の3つを満たすことが必要で、瘙痒は必須項目だ。皮膚のバリア機能の低下と2型炎症が背景にあり、掻くとさらに炎症とかゆみが悪化する悪循環に陥りやすい。
医学生医学生
薬疹は種類が多いので、かゆくないタイプもあるのではと迷いました。
ドクタードクター
迷うのはもっともだね。薬疹は病型がさまざまだけれど、最も多い播種状紅斑丘疹型をはじめ、蕁麻疹型や固定薬疹など多くの病型でかゆみを伴う。ただし、口唇や眼の粘膜疹、発熱、水疱やびらんを伴う場合は、Stevens-Johnson症候群や中毒性表皮壊死症といった重症薬疹を疑って、原因薬の中止と早期の対応が必要だ。
医学生医学生
多形滲出性紅斑は、標的状の皮疹が特徴でしたよね。
ドクタードクター
そう。単純ヘルペスウイルスやマイコプラズマ、薬剤などへの免疫反応で起こり、四肢伸側、特に肘や膝、手背に、辺縁が堤防状に盛り上がって中心が暗赤色になる標的状の紅斑が左右対称に出る。病変は表皮から真皮浅層にあり、かゆみや灼熱感を伴うことが多いんだ。
医学生医学生
病変の深さでかゆみと痛みが分かれる、という考え方はほかの病気にも使えそうですね。
ドクタードクター
その通り。かゆみより痛みが目立つ代表には、結節性紅斑のほか蜂窩織炎、帯状疱疹、皮膚血管炎などがある。そして臨床で大事なのは、結節性紅斑をみたら背景疾患を探すことだ。溶連菌感染、結核、サルコイドーシス、Behçet病、炎症性腸疾患、薬剤、妊娠などが知られている。
医学生医学生
消化器内科の実習で、Crohn病の患者さんの下腿に結節性紅斑が出ていると教わりました。サルコイドーシスでは両側肺門リンパ節腫脹と一緒に出るんでしたっけ。
ドクタードクター
よく結びつけられたね。発熱や関節炎を伴う急性のものはLöfgren症候群と呼ばれる。もう一つ、似た名前の硬結性紅斑にも注意しよう。こちらは下腿の屈側、ふくらはぎ側に好発し、潰瘍化しやすく、結核との関連が知られている。治療は原因疾患への対応が基本で、安静・下肢挙上や非ステロイド性抗炎症薬などを用いるよ。

まとめ

かゆみは主にヒスタミンなどが表皮・真皮浅層の知覚神経終末を刺激して生じるため、蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、多くの薬疹、多形滲出性紅斑など浅い層に炎症がある疾患ではかゆみが目立ちます。一方、結節性紅斑は皮下脂肪組織の隔壁性脂肪織炎で、両下腿伸側に有痛性の紅斑・皮下硬結を生じ、かゆみはほとんど伴いません。結節性紅斑をみたら、溶連菌感染、結核、サルコイドーシス、Behçet病、炎症性腸疾患、薬剤などの背景疾患を検索することが重要です。「かゆい皮疹」か「痛い皮疹」かを病変の深さと結びつけて考える視点は、皮膚疾患の鑑別や全身疾患の手がかりをつかむうえで役立ちます。

解答・解説

正解はcです

瘙痒(かゆみ)は皮膚疾患の代表的な自覚症状である。主にヒスタミンなどのかゆみを起こす物質が表皮・真皮浅層の知覚神経終末を刺激して生じる。そのため、炎症が表皮や真皮浅層にある湿疹・皮膚炎、蕁麻疹、多くの薬疹などではかゆみが目立つ。 これに対し、病変の主座が皮下脂肪組織(脂肪織)にある疾患では、かゆみよりも深部の炎症による疼痛・圧痛(押すと痛むこと)が前景に立つ。結節性紅斑はその代表で、下腿伸側に痛みを伴う紅斑・皮下硬結を生じ、かゆみはほとんど伴わない。 したがって、選択肢のうち瘙痒をきたしにくいのは結節性紅斑である。「かゆい皮疹」か「痛い皮疹」かという自覚症状の区別は、皮膚疾患の鑑別に役立つ基本的な視点である。

選択肢考察

  1. ×a.  薬疹

    誤り。薬疹は、薬剤やその代謝産物によって引き起こされる皮膚・粘膜の発疹の総称である。最も多い播種状紅斑丘疹型(麻疹のような細かい紅斑・丘疹が全身に広がる型)をはじめ、蕁麻疹型、固定薬疹など多くの病型で瘙痒を伴う。なお、口唇・口腔・眼などに粘膜疹を伴う場合や、発熱・水疱・びらんを伴う場合には、重症薬疹であるStevens-Johnson症候群(SJS)や中毒性表皮壊死症(TEN)を疑い、原因薬の中止と早期の対応が必要である。

  2. ×b.  蕁麻疹

    誤り。蕁麻疹は、何らかの刺激によって真皮の肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出され、血管透過性の亢進による一過性・限局性の皮膚の浮腫(膨疹)と紅斑が出現する疾患である。ヒスタミンはかゆみを引き起こす代表的な物質であり、強い瘙痒を伴うのが特徴である。個々の皮疹は通常24時間以内に跡を残さず消える。治療の中心は抗ヒスタミン薬である。

  3. ○c.  結節性紅斑

    正しい。結節性紅斑は、皮下脂肪組織の小葉間の隔壁に炎症が起こる隔壁性脂肪織炎で、さまざまな刺激に対する反応性の病態と考えられている。原因・背景として、上気道感染(A群溶血性レンサ球菌など)、結核、薬剤、Behçet病、サルコイドーシス、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・Crohn病)、妊娠などがある。両下腿伸側に、左右対称性に境界が不明瞭な紅斑と皮下硬結が多発し、熱感や疼痛・圧痛を伴うのが特徴である。病変が深い脂肪織にあるため瘙痒はほとんど生じない。通常は潰瘍化せず、数週で瘢痕を残さずに消退する。

  4. ×d.  多形滲出性紅斑

    誤り。多形滲出性紅斑(多形紅斑)は、単純ヘルペスウイルスやマイコプラズマなどの感染症、薬剤などに対する免疫反応で生じる。四肢伸側(とくに肘・膝などの関節部や手背)に、類円形で境界明瞭な浮腫性紅斑が左右対称性に多発し、辺縁が堤防状に盛り上がり中心が暗赤色になる標的状(target lesion)や環状の皮疹を呈するのが特徴である。病変は表皮・真皮浅層にあり、瘙痒や灼熱感を伴うことが多い。粘膜症状を伴う重症型はSJSとの鑑別が問題となる。

  5. ×e.  アトピー性皮膚炎

    誤り。アトピー性皮膚炎は、瘙痒のある湿疹が増悪と軽快を繰り返す慢性疾患である。日本皮膚科学会の診断基準では、①瘙痒、②特徴的な皮疹とその分布(左右対称性、年齢により好発部位が異なる)、③慢性・反復性の経過(乳児では2か月以上、その他では6か月以上)の3項目を満たすものとされ、瘙痒は必須項目である。皮膚のバリア機能の低下とアレルギー炎症(2型炎症)が背景にあり、かゆみのために掻くとさらに皮膚が傷んで炎症とかゆみが増す悪循環(itch-scratch cycle)が生じる。

かゆみを伴いやすい疾患・伴いにくい疾患

・かゆみが強い:蕁麻疹、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎などの湿疹・皮膚炎群、疥癬、水痘、類天疱瘡、多くの薬疹など。 ・かゆみより痛みが目立つ:結節性紅斑、蜂窩織炎、帯状疱疹、壊死性筋膜炎、皮膚血管炎(結節性多発動脈炎の皮膚病変など)。 ・皮膚病変がなくてもかゆみが出る全身疾患(皮膚瘙痒症):慢性腎臓病(透析患者)、胆汁うっ滞性肝疾患(原発性胆汁性胆管炎など)、糖尿病、甲状腺疾患、悪性リンパ腫、真性多血症など。

結節性紅斑の要点

・病理:隔壁性脂肪織炎(脂肪小葉間の結合組織に炎症)。 ・好発:若年〜中年の女性、両下腿伸側。 ・症状:有痛性の紅斑・皮下硬結、発熱や関節痛を伴うこともある。 ・原因検索が重要:溶連菌感染(ASOなど)、結核、サルコイドーシス(両側肺門リンパ節腫脹と結節性紅斑、発熱、関節炎を伴う急性型はLöfgren症候群と呼ばれる)、Behçet病、炎症性腸疾患、薬剤、妊娠など。 ・治療:原因疾患の治療、安静・下肢挙上、非ステロイド性抗炎症薬など。 ・鑑別:硬結性紅斑(Bazin硬結性紅斑)は下腿屈側(ふくらはぎ側)に好発し、小葉性脂肪織炎で潰瘍化しやすく、結核との関連がある。

多形滲出性紅斑とSJS/TEN

多形紅斑は標的状の典型的な皮疹が四肢に分布するのに対し、SJS/TENは非典型的な標的状皮疹や紅斑が体幹中心に広がり、高熱と重い粘膜疹、表皮の壊死・剥離を伴う。表皮剥離が体表面積の10%未満をSJS、10%以上をTENとする。

POINT

・結節性紅斑は皮下脂肪組織の炎症(隔壁性脂肪織炎)で、下腿伸側の有痛性紅斑・皮下硬結が特徴。瘙痒はほとんどない。 ・結節性紅斑をみたら、溶連菌感染、結核、サルコイドーシス、Behçet病、炎症性腸疾患、薬剤などの背景を検索する。 ・蕁麻疹(ヒスタミン)、アトピー性皮膚炎(瘙痒は診断の必須項目)、薬疹、多形滲出性紅斑はいずれも瘙痒を伴いやすい。 ・薬疹で粘膜疹・発熱・水疱を伴えばSJS/TENを疑う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。