主役の細胞は誰だ?―病態グループで解く皮膚疾患と浸潤細胞
第112回医師国家試験 D問題 第7問
国試問題にチャレンジ
皮膚疾患と浸潤細胞の組合せで正しいのはどれか。
- a.Sweet病 ―― マクロファージ
- b.固定薬疹 ―― 形質細胞
- c.尋常性狼瘡 ―― 好酸球
- d.色素性蕁麻疹 ―― 肥満細胞
- e.移植片対宿主病〈GVHD〉 ―― 好中球
対話形式の解説
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ドクターまとめ
色素性蕁麻疹は皮膚肥満細胞症の最多病型で、真皮上層で肥満細胞がクローン性に増殖し、病変をこすると膨疹が生じるDarier徴候が特徴です。皮膚疾患の浸潤細胞は病態のグループで整理すると覚えやすく、Sweet病は好中球性皮膚症、固定薬疹と急性GVHDはT細胞による界面皮膚炎、尋常性狼瘡は類上皮細胞とLanghans巨細胞からなる肉芽腫が主体です。好酸球なら水疱性類天疱瘡、形質細胞なら梅毒が代表的な対応になります。成人発症の肥満細胞症は全身性病変を伴うことがあり、血清トリプターゼや骨髄検査での評価が必要です。病態から主役の細胞を推測する考え方は、皮膚病理の理解だけでなく、生検結果を臨床に結びつける力の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
皮膚疾患の病理組織像で、主体となって浸潤(または増殖)している細胞を問う問題である。個々の組織像を丸暗記していなくても、その疾患がどのような病態のグループに属するかを考えると推測できる。 ・腫瘍性増殖:増殖している腫瘍細胞そのものが主役となる(色素性蕁麻疹=肥満細胞の増殖)。 ・好中球性皮膚症:無菌性の好中球浸潤が主体となる(Sweet病)。 ・T細胞が表皮細胞を傷害する反応:リンパ球が表皮内や表皮真皮境界部に浸潤し、角化細胞が変性・壊死する(固定薬疹、GVHD)。これを界面皮膚炎(interface dermatitis)という。 ・抗酸菌などに対する肉芽腫反応:類上皮細胞やLanghans巨細胞から成る肉芽腫を形成する(尋常性狼瘡)。 この整理に当てはめると、正しい組合せは「色素性蕁麻疹 ― 肥満細胞」だけである。
選択肢考察
- ×a. Sweet病 ―― マクロファージ
Sweet病(急性熱性好中球性皮膚症)は、発熱・末梢血好中球増加とともに、顔面・頸部・四肢に有痛性の隆起性紅斑(浮腫性紅斑)が出現する疾患である。組織では、真皮上層の著明な浮腫と、真皮に密に広がる好中球浸潤がみられ、血管炎は伴わないのが原則である。好中球性皮膚症の代表であり、浸潤細胞の主体はマクロファージではない。骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病などの血液疾患に合併することがある点も重要である。
- ×b. 固定薬疹 ―― 形質細胞
固定薬疹は、原因薬剤を服用するたびに同じ部位(口唇・陰部などの皮膚粘膜移行部や四肢)に円形の紅斑や水疱が生じ、治った後に色素沈着を残す薬疹である。病変部の表皮内に常在する細胞傷害性T細胞(CD8陽性のエフェクターメモリーT細胞)が薬剤の再投与で活性化し、角化細胞を傷害する。組織像は表皮真皮境界部から表皮内へのリンパ球浸潤、角化細胞の個細胞壊死、基底層の液状変性を示す界面皮膚炎であり、真皮には色素失調(メラニンを貪食したメラノファージ)を伴う。主体は形質細胞ではない。
- ×c. 尋常性狼瘡 ―― 好酸球
尋常性狼瘡は、結核菌が皮膚に病変を形成する真性皮膚結核の代表的な病型で、顔面に好発する褐色の結節や局面として現れ、硝子圧法でリンゴゼリー様の色調を示す。組織では真皮に類上皮細胞とLanghans型巨細胞を主体とした結核結節(類上皮細胞肉芽腫)が形成され、周囲にリンパ球が浸潤する。乾酪壊死は目立たないことが多いが、潰瘍を形成する病変などでは伴うことがある。好酸球浸潤が主体となる疾患ではない。
- ○d. 色素性蕁麻疹 ―― 肥満細胞
色素性蕁麻疹は皮膚肥満細胞症(cutaneous mastocytosis)の最も多い病型で、肥満細胞が皮膚(主に真皮上層)でクローン性に増殖する疾患である。小児期、特に乳幼児期に発症することが多く、体幹を中心に褐色の色素斑や丘疹が多発する。病変部をこすると肥満細胞からヒスタミンなどが放出されて膨疹・発赤が生じ、これをDarier徴候という。組織では真皮に肥満細胞の集簇を認め、トルイジンブルー染色で異染性を示す顆粒、あるいはc-KIT(CD117)やトリプターゼの免疫染色で肥満細胞を同定する。浸潤(増殖)細胞の主体は肥満細胞であり、組合せとして正しい。
- ×e. 移植片対宿主病〈GVHD〉 ―― 好中球
移植片対宿主病(GVHD:graft-versus-host disease)は、移植片に含まれるドナー由来のT細胞が、宿主(患者)の組織を異物として攻撃する病態である。急性GVHDでは皮膚・肝・消化管が標的となり、皮膚には手掌・足底や耳介などから始まる紅斑・丘疹が出現する。組織像はリンパ球の表皮内浸潤と基底層の液状変性を示す界面皮膚炎で、個細胞壊死に陥った角化細胞をリンパ球が取り囲む satellite cell necrosis が特徴的である。浸潤細胞の主体はリンパ球(T細胞)であり、好中球ではない。
肥満細胞症(mastocytosis)
・肥満細胞が皮膚や骨髄などでクローン性に増殖する疾患群である。成人例や全身性肥満細胞症ではKIT遺伝子の活性化変異(D816Vなど)が高率にみられる。 ・皮膚肥満細胞症には、多発する色素斑・丘疹型(色素性蕁麻疹)、単発の結節を作る肥満細胞腫(孤立性肥満細胞腫)、皮膚全体がびまん性に侵される型などがある。 ・小児発症の色素性蕁麻疹は思春期ごろまでに自然軽快することが多い。一方、成人発症例は全身性肥満細胞症を伴うことがあり、血清トリプターゼ測定や骨髄検査で評価する。 ・ヒスタミンなどの放出により、瘙痒、潮紅、腹痛・下痢、ときにアナフィラキシー様症状を起こす。治療は誘因(摩擦、急激な温度変化、一部の薬剤など)の回避と抗ヒスタミン薬が基本である。
皮膚疾患と主体となる浸潤細胞の整理
・好中球:Sweet病、壊疽性膿皮症、Behçet病の皮膚病変、角層下膿疱症、膿疱性乾癬(Kogoj海綿状膿疱)。 ・リンパ球(界面皮膚炎):固定薬疹、多形紅斑、Stevens-Johnson症候群・中毒性表皮壊死症、GVHD、扁平苔癬、エリテマトーデス。 ・類上皮細胞・巨細胞(肉芽腫):尋常性狼瘡などの皮膚結核、サルコイドーシス、Hansen病、環状肉芽腫。 ・好酸球:水疱性類天疱瘡(好酸球性海綿状態や水疱内の好酸球)、Wells症候群(好酸球性蜂窩織炎)、好酸球性膿疱性毛包炎。 ・肥満細胞:色素性蕁麻疹などの肥満細胞症。 ・形質細胞:梅毒(第2期・第3期の病変)、形質細胞腫など。
POINT
・色素性蕁麻疹は皮膚肥満細胞症であり、真皮に肥満細胞が増殖する。病変をこすると膨疹を生じるDarier徴候が特徴である。 ・Sweet病は真皮への好中球浸潤(好中球性皮膚症)である。 ・固定薬疹と急性GVHDはリンパ球(T細胞)による界面皮膚炎である。GVHDではsatellite cell necrosisがみられる。 ・尋常性狼瘡は真性皮膚結核であり、類上皮細胞とLanghans巨細胞から成る肉芽腫を形成する。
