健診で高血圧―職場の健康づくり「THP」でできること、できないこと
第115回医師国家試験 C問題 第37問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。職場の定期健康診断を受けた結果,高血圧を指摘された。 その結果を踏まえたトータルヘルスプロモーションプラン〈THP〉に含まれないのはどれか。
- a.禁煙指導
- b.降圧薬の処方
- c.運動の計画立案
- d.塩分制限食の調理指導
- e.生活習慣の改善に伴う精神的ストレスのケア
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
トータルヘルスプロモーションプラン(THP)は、労働安全衛生法に基づく指針に沿って行われる、働く人の心と体の健康づくり活動であり、疾病予防(一次予防)と健康の保持増進を目的とします。具体的な措置は運動指導、栄養指導、禁煙などの保健指導、メンタルヘルスケア、口腔保健指導で、産業医・保健師・管理栄養士などが協力してPDCAサイクルで進めます。降圧薬の処方のような診断・治療は医療機関の主治医が行う医療行為であり、THPには含まれず、職場は受診勧奨や治療と仕事の両立支援を担います。2020年の指針改正では職場全体へのポピュレーションアプローチも重視されるようになりました。予防と治療の役割分担を理解することは、産業保健の問題を解くうえでも、働く患者さんを支える臨床の場でも重要です。
解答・解説
正解はbです
状況の整理
50歳の男性労働者が、事業者に実施が義務づけられた職場の定期健康診断で高血圧を指摘された。設問は、この健診結果を受けて職場で行われるトータルヘルスプロモーションプラン(THP)の中身として「含まれない」ものを問うている。診断や鑑別を考える問題ではなく、THPが何を目的とし、どのような活動から成り立つかを理解しているかが問われている。
THPとは
THPは、労働安全衛生法に基づいて国が定めた「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(1988年策定)に沿って行われる、働く人の心と体の健康づくり活動である。事業者が健康保持増進の方針を示して計画を立て、産業医や保健師・管理栄養士・運動指導の担当者などのスタッフが協力して、労働者の生活習慣の改善を支援する。具体的な健康保持増進措置は、運動指導、栄養指導、保健指導(喫煙・飲酒・睡眠などの生活指導)、メンタルヘルスケア、口腔保健指導などである。
考え方
THPはあくまで「疾病の予防と健康の保持増進」を目的とした指導・支援活動(一次予防・健康づくり)であり、病気の診断・治療を行う場ではない。高血圧に対する薬物療法の開始は、医療機関の主治医が診察・評価のうえで行う診療行為であり、THPの枠組みには入らない。したがって「降圧薬の処方」が含まれないものとなる。高血圧が指摘された労働者には、THPとしての生活習慣改善の支援に加え、必要に応じて医療機関への受診勧奨を行うという役割分担になる。
選択肢考察
- ×a. 禁煙指導
THPに含まれる。喫煙は高血圧とともに脳卒中・虚血性心疾患の重要な危険因子であり、禁煙の働きかけは健康保持増進措置のうちの保健指導(生活習慣に関する指導)に該当する。主に保健師などのスタッフが担当する。
- ○b. 降圧薬の処方
THPに含まれないため、これが正解である。降圧薬の処方は、医師が診察して高血圧の重症度や合併症・臓器障害の有無を評価したうえで行う治療(医療行為)であり、医療機関で主治医が担う。THPは健康づくりのための指導・支援活動であって治療を目的としないため、薬物療法はその範囲外である。職場でできることは、受診勧奨や治療と仕事の両立への配慮である。
- ×c. 運動の計画立案
THPに含まれる。健康保持増進措置の柱の一つが運動指導であり、本人の健康状態や体力に応じて運動プログラムを作成し、実践を支援する。有酸素運動の継続は降圧に有効であり、高血圧を指摘された労働者には特に意義が大きい。
- ×d. 塩分制限食の調理指導
THPに含まれる。食生活の改善を支援する栄養指導に該当し、管理栄養士などが担う。食塩の過剰摂取は高血圧の主要因であり、減塩の工夫を具体的な調理方法として伝えることは、健診結果を踏まえた実践的な指導である。
- ×e. 生活習慣の改善に伴う精神的ストレスのケア
THPに含まれる。THPは身体面だけでなく心の健康づくりも対象としており、メンタルヘルスケアは健康保持増進措置の一つである。禁煙・減塩・運動などの生活習慣の変更は本人にとって負担やストレスとなりうるため、その心理面を支えることは行動変容を継続させるうえでも重要である。
THP(トータルヘルスプロモーションプラン)の要点
・根拠:労働安全衛生法(事業者は労働者の健康の保持増進のための措置を継続的・計画的に講ずるよう努める)と、それに基づく「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」。 ・目的:疾病予防(一次予防)と健康の保持増進。治療は含まない。 ・進め方:事業者による健康保持増進方針の表明 → 推進体制の確立 → 健康課題の把握 → 目標設定と措置の決定 → 健康保持増進計画の作成・実施 → 評価と改善、というPDCAサイクルで行う。 ・健康保持増進措置の例:運動指導、栄養指導、保健指導(喫煙・飲酒・睡眠など)、メンタルヘルスケア、口腔保健指導。 ・関わるスタッフ:産業医、保健師、管理栄養士、運動指導に携わる者、心理相談に携わる者など。 ・2020年の指針改正では、個々の労働者への働きかけ(ハイリスクアプローチ)に加えて、職場全体への働きかけ(ポピュレーションアプローチ)を重視する方向が明確にされ、事業場の実情に応じて柔軟に取り組めるよう見直された。
職場の健康管理における役割分担
・健康診断:事業者に実施義務があり、結果に基づき医師の意見を聴いて就業上の措置(作業転換、労働時間短縮など)を講ずる。 ・保健指導:健診結果に基づき、必要な労働者に医師や保健師による保健指導を行うよう事業者は努める。 ・治療:医療機関の主治医が行う。職場は受診勧奨と、治療と就労の両立支援を担う。
POINT
・THPは労働安全衛生法に基づく職場の心と体の健康づくり(一次予防)である。 ・含まれるもの:運動指導、栄養指導、保健指導(禁煙など)、メンタルヘルスケア、口腔保健指導。 ・薬の処方などの治療は主治医が行う医療行為であり、THPには含まれない。
