StudyMed医師国家試験

「ライン」とは誰のこと?―職場のメンタルヘルスを支える4つのケア

第120回医師国家試験 D問題 第10問

国試問題にチャレンジ

第120回 D問題 第10問

事業場における労働者の心の健康づくりのために推進されている4つのケアのうち,ラインによるケアに該当するのはどれか。

  1. a.家族によるケア
  2. b.上司によるケア
  3. c.産業医によるケア
  4. d.精神科医によるケア
  5. e.労働者自身によるケア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は職場のメンタルヘルス対策、いわゆる「4つのケア」の問題だ。着眼点はシンプルで、それぞれのケアを「誰が担うのか」で整理できるかどうか。まず「ライン」という言葉から何を連想するかな。
医学生医学生
製造業の生産ラインのイメージしか浮かびません……。現場の同僚同士で支え合う、という意味でしょうか。
ドクタードクター
惜しいけれど違うんだ。ここでいう「ライン」は職場の指揮命令系統、つまり部長、課長、係長と続く上司と部下の縦のつながりを指す。だからラインによるケアの担い手は、部下を直接管理する上司、すなわち管理監督者だよ。
医学生医学生
なるほど、縦の線なんですね。じゃあ正解は上司によるケアですか。
ドクタードクター
その通り。土台になっているのは厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」、通称メンタルヘルス指針だ。事業者が心の健康づくり計画を立てて、4つのケアを継続的・計画的に行うことが求められている。4つを挙げられるかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習ったはずです。セルフケア、ラインによるケア、それから……産業医が関わるものと、外部の病院でしょうか。
ドクタードクター
よく覚えているね。正確には、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つだ。では、上司は具体的に何をするんだと思う?
医学生医学生
部下の様子がおかしいことに気付いて、声をかけることでしょうか。
ドクタードクター
それが中心だね。遅刻や欠勤が増えた、ミスが目立つといった「いつもと違う」変化に気付くこと、相談に応じること、作業量や人間関係など職場環境を把握して改善すること、必要に応じて産業保健スタッフや医療機関につなぐこと、そして休職者の職場復帰を支えること。日常的に部下と接している上司だからこそ担える役割なんだ。
医学生医学生
産業医によるケアも職場の中のケアなので、ラインに入るのかと一瞬迷いました。
ドクタードクター
そこは引っかけやすいところだね。産業医は、衛生管理者や保健師、人事労務管理スタッフと並んで「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」の担い手だ。専門的な立場から、セルフケアやラインによるケアがうまく機能するよう支援したり、高ストレス者の面接指導や就業上の措置への意見を述べたりする。指揮命令系統の上司とは役割が違うんだ。
医学生医学生
精神科医は、職場の外の医療機関なので事業場外資源によるケアですね。
ドクタードクター
正解。事業場外資源には医療機関のほか、地域産業保健センター、EAPと呼ばれる従業員支援プログラムの機関、精神保健福祉センターなども含まれる。なお、精神科医が嘱託として事業場内で活動する場合には内部スタッフ側に位置付けられることもあるけれど、いずれにせよラインによるケアには当たらない。
医学生医学生
労働者自身によるケアはセルフケアですね。では家族によるケアはどこに入るんでしょう。
ドクタードクター
実は家族は4つのケアのどれにも含まれないんだ。家族の支えが回復や再発予防に大切なのは間違いないけれど、4つのケアは事業場が計画的に取り組む体制として整理されたもの。家族は事業場の組織の一員でも、事業場が連携する専門機関でもないからね。
医学生医学生
つまり「誰がケアの主体か」で振り分ければ迷わないわけですね。
ドクタードクター
そういうこと。発展として、ストレスチェック制度も押さえておこう。2015年12月から、常時50人以上の労働者を使用する事業場では年1回の実施が義務付けられた。結果は本人に直接通知され、本人の同意なく事業者に渡してはいけない。高ストレスと判定されて本人が申し出たら、医師による面接指導を行い、その意見を聴いて就業上の措置を講じる。申出を理由とする不利益な取扱いは禁止だ。
医学生医学生
精神科の臨床実習で、適応障害で休職中の会社員の方を担当しました。復職のときに主治医と産業医、上司が連携していたのが印象的でした。
ドクタードクター
まさに4つのケアが連動している場面だね。メンタルヘルス対策は、一次予防の未然防止、二次予防の早期発見・対応、三次予防の職場復帰支援と再発防止という3段階で考える。上司の気付きは二次予防の要だし、復職支援には「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」がある。将来、産業医や主治医として関わるとき、上司がどんな役割を担っているかを知っておくと連携がぐっとスムーズになるよ。

まとめ

職場のメンタルヘルス対策は、厚生労働省のメンタルヘルス指針に基づき、セルフケア、ラインによるケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケアの4つのケアを組み合わせて進めます。「ライン」とは職場の指揮命令系統を指し、ラインによるケアの担い手は部下を直接管理する上司(管理監督者)で、部下の変化への気付き、相談対応、職場環境の改善、専門職へのつなぎ、職場復帰支援を担います。産業医は事業場内産業保健スタッフ等、外部の精神科医療機関やEAPは事業場外資源、労働者本人はセルフケアに該当し、家族はどの区分にも含まれません。ストレスチェック制度や3段階の予防とあわせて「誰がケアの主体か」で整理しておくと、試験だけでなく将来産業医や主治医として職場と連携する際にも役立ちます。

解答・解説

正解はbです

職場のメンタルヘルス対策は、厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(メンタルヘルス指針。平成18年策定、平成27年にストレスチェック制度の創設に合わせて改正)に基づいて進められている。この指針は、事業者が「心の健康づくり計画」を立て、次の4つのケアを継続的かつ計画的に行うことを求めている。 ①セルフケア:労働者自身が行うケア ②ラインによるケア:管理監督者が行うケア ③事業場内産業保健スタッフ等によるケア:産業医、衛生管理者、保健師、人事労務管理スタッフなどが行うケア ④事業場外資源によるケア:医療機関、地域産業保健センター、EAP(従業員支援プログラム)など事業場の外の機関や専門家が行うケア 「ライン」とは、職場の指揮命令系統、すなわち部下を直接管理する上司(管理監督者)の系列を指す言葉である。したがって「ラインによるケア」の担い手は上司であると理解していれば、正解は容易に選べる。各選択肢を「誰がケアの主体か」で4区分に当てはめていけばよい。

選択肢考察

  1. ×a.  家族によるケア

    家族の理解や支えは、労働者の回復や再発予防にとって大切である。しかし4つのケアは、事業場が計画的に取り組む体制として整理された区分であり、家族は事業場の組織の一員でも事業場が連携する専門機関でもない。そのため4つのケアのいずれにも含まれず、ラインによるケアにも当たらない。

  2. ○b.  上司によるケア

    ラインによるケアは、部下を直接管理する上司(管理監督者)が行うケアである。具体的には、遅刻・欠勤の増加や仕事ぶりの変化など「いつもと違う」部下の様子に気付くこと、部下からの相談に応じること、作業量・人間関係などの職場環境を把握して改善すること、必要に応じて産業保健スタッフや医療機関につなぐこと、休職者の職場復帰を支援することなどが含まれる。上司は日常的に部下と接し、職場の状況を最もよく把握できる立場にあるため、この役割を担う。

  3. ×c.  産業医によるケア

    産業医は、衛生管理者や保健師、心の健康づくり専門スタッフ、人事労務管理スタッフなどとともに「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」の担い手である。専門的な立場から、セルフケアやラインによるケアが有効に行われるよう支援するほか、高ストレス者への面接指導、就業上の措置についての意見、職場復帰の判断への関与などを行う。管理監督者が行うラインによるケアとは区別される。

  4. ×d.  精神科医によるケア

    精神科医は通常、事業場の外にある医療機関で専門的な診断・治療を担う存在であり、「事業場外資源によるケア」に位置付けられる。事業場外資源には、医療機関のほか、地域産業保健センター(産業保健総合支援センターの地域窓口)、EAP機関、都道府県の精神保健福祉センターなども含まれる。ラインによるケアではない。

  5. ×e.  労働者自身によるケア

    労働者自身がストレスやその原因に気付き、自分で対処したり、必要なときに自ら相談したりすることは「セルフケア」である。4つのケアの一つであるが、ラインによるケアではない。事業者は、セルフケアを促すために教育研修や情報提供を行い、ストレスチェックの結果を本人に通知して気付きを促すことが求められている。

メンタルヘルス指針の3段階の予防

・一次予防:メンタルヘルス不調の未然防止(ストレスチェック、職場環境改善、教育研修) ・二次予防:不調の早期発見と適切な対応(相談体制の整備、上司による気付き) ・三次予防:不調となった労働者の職場復帰支援と再発防止 4つのケアは、これらすべての段階で連携して機能することが期待されている。

ストレスチェック制度

平成27年(2015年)12月から、労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場では年1回のストレスチェックの実施が義務付けられた(50人未満の事業場は当面努力義務とされている)。結果は本人に直接通知され、本人の同意なく事業者に提供してはならない。高ストレスと判定され本人が申し出た場合、事業者は医師による面接指導を実施し、医師の意見を聴いて必要な就業上の措置を講じる。面接指導の申出を理由とした不利益な取扱いは禁止されている。

職場復帰支援

休業した労働者の職場復帰については「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が示されており、休業開始から職場復帰後のフォローアップまでを段階的に支援する。ここでも上司(ライン)、産業医などの産業保健スタッフ、主治医が連携して対応する。

POINT

・4つのケア:セルフケア(労働者自身)、ラインによるケア(上司=管理監督者)、事業場内産業保健スタッフ等によるケア(産業医・保健師・衛生管理者・人事労務担当など)、事業場外資源によるケア(医療機関・EAP・地域産業保健センターなど)。 ・「ライン」は職場の指揮命令系統を意味し、ラインによるケアの主体は上司である。 ・家族によるケアは4つのケアに含まれない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。