「研修医だから無制限」は本当か―当直明けに考える医師の働き方改革
第120回医師国家試験 E問題 第27問
国試問題にチャレンジ
研修医と指導医との会話を以下に示す。 研修医:「昨日の救急当直では,重症の患者さんが搬入されて,そのまま入院になったので大変でした。少し,頑張りすぎました」 指導医:「疲れているようだね。体調は大丈夫かな。最近は医師の働き方も見直されているね」 研修医:「そうなんですね。一緒に当直した先生から①『研修医には労働時間の制限がない』と教わったんですが,ほかの先輩は②『働き方改革は医師のためでもある』とも言ってました。別の先生は,③『指導医の指示による学会発表の準備は業務と認められる』って言ってましたし…あと,私自身も④『研修医も働き方改革の対象である』ってずっと思ってました。それに⑤『労働基準法に違反する労働をさせると病院管理者に対して罰則がある』なんて言ってた人もいて,もう何が正しいのか分からなくなってきました」 下線部のうち,研修医の話の内容で誤っているのはどれか。
- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
研修医は病院に雇用され給与を受けて診療に従事する労働基準法上の労働者であり、「研修医には労働時間の制限がない」という考えは誤りです。2024年4月から医師にも時間外・休日労働の上限規制が適用され、原則のA水準は年960時間、研修医・専攻医に主に適用されるC-1水準などは年1,860時間で、連続勤務時間制限や勤務間インターバルなどの健康確保措置も求められます。労働時間か否かは使用者の指揮命令下にあるかで判断され、指導医の指示による学会発表準備は労働時間に当たり、労働基準法違反には使用者への罰則があります。宿日直許可やタスク・シフト/シェアも含めて制度を理解しておくことは、医師自身の健康と医療安全を守るための基礎知識です。
解答・解説
正解はaです
問われていること
当直明けで疲れた研修医と指導医の会話を題材に、医師の働き方改革と労働法制の基本を問う問題である。5つの下線部の中から、内容が誤っているものを1つ選ぶ。
考え方の軸
判断の土台になるのは次の3点である。 1. 研修医は「労働者」である 臨床研修は教育の場であると同時に、研修医は病院の指揮命令のもとで診療に従事し、その対価として給与を受け取っている。したがって労働基準法上の労働者に当たる。この点は、研修医の過労死をきっかけに争われた裁判で、最高裁判所が2005年に研修医の労働者性を認めたことで確立している。 2. 2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制が適用された 一般の労働者には2019年4月(中小企業は2020年4月)から罰則付きの時間外労働の上限規制が導入されたが、医師は地域医療への影響を考慮して5年間猶予され、2024年4月から適用が始まった。研修医も当然この対象に含まれる。 3. 労働時間かどうかは「使用者の指揮命令下にあるか」で決まる 自己研鑽のように見える活動でも、上司の指示による場合や、行わないと業務上の不利益がある場合は労働時間と判断される。 この3点に照らすと、「研修医には労働時間の制限がない」という①だけが明らかに誤りであり、②〜⑤はいずれも正しい内容である。
選択肢考察
- ○a. ①
「研修医には労働時間の制限がない」は誤りである。研修医は病院に雇用され給与を受ける労働者であり、労働基準法の労働時間規制が適用される。さらに2024年4月からは医師にも時間外・休日労働の上限が設けられ、臨床研修医や専攻医には主にC-1水準(年1,860時間が上限)が適用される。加えて、連続勤務時間の制限や勤務間インターバル(勤務と勤務の間に一定の休息時間を確保すること)などの健康確保措置が義務づけられており、特に初期研修医ではこれらの措置がより厳格に運用される。したがって「制限がない」という教示は明確に誤っている。
- ×b. ②
正しい内容である。医師の働き方改革の目的は、長時間労働を是正して医師自身の心身の健康を守ること、そして疲労による医療安全上のリスクを減らし、医療の質を維持・向上させることにある。医師の健康確保は患者の利益にもつながるため、「医師のためでもある」という説明は妥当である。
- ×c. ③
正しい内容である。学会発表の準備は一見すると自己研鑽だが、労働時間に該当するかどうかは、使用者の指揮命令下に置かれているかで判断される。指導医から指示されて行う準備は業務命令に基づく作業であり、労働時間として扱われる。反対に、本人の自由意思で行い、上司の指示もなく、行わなくても不利益のない学習は自己研鑽として労働時間に含まれない。
- ×d. ④
正しい内容である。研修医は医療機関と雇用関係にある労働者であり、2024年4月に始まった医師の時間外労働上限規制の対象に含まれる。研修医を想定したC-1水準が設けられていること自体が、研修医が働き方改革の対象であることを示している。
- ×e. ⑤
正しい内容である。労働基準法には罰則規定があり、法定労働時間や時間外労働の上限を超えて働かせた場合、使用者は6か月以下の拘禁刑(2025年6月の刑法改正前は懲役)または30万円以下の罰金に処せられうる。ここでいう使用者には、法人としての病院や病院管理者のほか、実際に労働を命じる立場にある者も含まれる。
医師の時間外・休日労働の上限(2024年4月〜)
・A水準:すべての医師に原則として適用。年960時間以下、月100時間未満(休日労働を含む)。 ・B水準:地域医療の確保のため、救急医療などを担う医療機関で必要な医師に適用。年1,860時間以下。 ・連携B水準:医師派遣を通じて地域医療を支える医療機関の医師に適用(通算で年1,860時間以下)。 ・C-1水準:臨床研修医・専攻医が短期間で集中的に症例経験を積むための水準。年1,860時間以下。 ・C-2水準:専攻医を修了した医師が高度な技能を習得するための水準。年1,860時間以下。 B水準・連携B水準は暫定的な特例であり、2035年度末までの解消が目標とされている。
追加的健康確保措置
月100時間以上の時間外・休日労働が見込まれる医師には、面接指導の実施が義務づけられている。また、B・連携B・C水準の対象医師には、連続勤務時間の制限(原則28時間まで)と勤務間インターバル(原則9時間)の確保が義務とされ、これらが確保できなかった場合は代償休息を与える。初期研修医については、連続勤務時間を24時間までとするなど、より厳しい基準が設けられている。
労働時間と自己研鑽の区別
・労働時間に当たる例:上司の指示による学会発表準備、参加が事実上強制されるカンファレンスや勉強会、診療に必要な準備行為。 ・自己研鑽に当たる例:自由意思による論文の閲覧や学習、指示のない学会参加など。
その他の関連事項
・宿日直のうち、ほとんど労働する必要のない軽度・短時間の業務のみのものは、労働基準監督署長の許可(宿日直許可)を受ければ労働時間規制の適用除外となる。一方、本問の研修医のように重症患者の対応で実質的に通常業務を行った時間は労働時間となる。 ・タスク・シフト/シェア(医師の業務の一部を看護師、薬剤師、臨床検査技師などに移管・共同化すること)も、働き方改革の重要な柱である。
POINT
・研修医は労働基準法上の労働者であり、働き方改革(時間外労働上限規制)の対象 ・医師の上限規制は2024年4月から適用(A水準:年960時間、B・連携B・C水準:年1,860時間) ・研修医・専攻医に主に適用されるのはC-1水準 ・労働時間か否かは「使用者の指揮命令下にあるか」で判断し、指示による学会準備は労働時間 ・労働基準法違反には使用者に対する罰則がある
