StudyMed医師国家試験

「許容濃度」は誰が決めて何のため?―産業衛生の似た用語をすっきり整理

第115回医師国家試験 C問題 第2問

国試問題にチャレンジ

第115回 C問題 第2問

許容濃度で正しいのはどれか。

  1. a.労働者に悪影響がみられないと判断する濃度
  2. b.維持することが望ましいと国が定めた濃度
  3. c.食品添加物の1日当たりの最大摂取濃度
  4. d.作業場の管理区分決定のための濃度
  5. e.毒性が認められない最大生体内濃度

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の用語問題だ。許容濃度、管理濃度、環境基準、ADI、NOAELと、名前の似た指標がずらりと並んでいるね。コツは「誰が定めるか」「何に使うか」「誰を守るか」の3点で整理すること。まず、許容濃度はどんな場面で使う数字だと思う?
医学生医学生
名前からすると、有害物質にさらされても大丈夫な上限の濃度、というイメージです。
ドクタードクター
大筋はいいね。もう少し正確に言うと、許容濃度は日本産業衛生学会が勧告する、職場の空気中の有害物質濃度の目安だ。1日8時間、週40時間程度、激しくない労働強度で曝露される場合に、平均曝露濃度がこの値以下なら、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度、と定義されている。
医学生医学生
ということは、労働者に悪影響がみられないと判断する濃度、という選択肢がそのまま定義ですね。でも国が決めた値だと思い込んでいました。
ドクタードクター
そこがよくある誤解なんだ。許容濃度は学会の勧告であって、法的な規制値ではない。逆に、国が決める濃度もちゃんとあって、それが紛らわしい選択肢の正体だよ。作業場の管理区分を決めるための濃度は何だろう?
医学生医学生
社会医学の講義で作業環境測定を習いました。測定結果を比べる基準は確か管理濃度でしたよね。
ドクタードクター
その通り。管理濃度は許容濃度などを参考に、行政的な観点も加えて厚生労働大臣が定める。作業環境測定で得た「場」の値と比べて、第1管理区分は適切、第2管理区分はなお改善の余地あり、第3管理区分は適切でない、と評価するんだ。つまり個々の労働者の曝露限界ではなく、作業場の環境を評価するための物差しだね。
医学生医学生
じゃあ、維持することが望ましいと国が定めた濃度、というのも管理濃度ですか。
ドクタードクター
惜しい、それは環境基準だ。環境基本法に基づいて、人の健康の保護と生活環境の保全のうえで「維持されることが望ましい」として国が定める行政目標で、大気、水質、土壌、騒音について決められている。対象が職場の労働者ではなく一般住民、という点も許容濃度との大きな違いだよ。
医学生医学生
食品添加物の1日当たりの摂取の話は、ADIのことでしょうか。CBTの問題集で見た気がします。
ドクタードクター
そう、一日摂取許容量だね。毎日一生涯摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日当たりの量で、体重1kg当たりのmgで表す。そもそも濃度ではなく摂取量の指標で、空気中濃度を扱う許容濃度とは別物だ。
医学生医学生
最後の、毒性が認められない最大の量というのはNOAELですね。
ドクタードクター
正解。無毒性量は動物実験などで有害な影響が認められなかった最大の投与量のことで、生体内濃度ではなく投与量で表すことが多い。そしてNOAELを安全係数で割るとADIになる。安全係数は種差10と個体差10を掛けた100が通常だ。
医学生医学生
NOAELからADIを出す、という流れでつながっているんですね。用語がバラバラに見えていたのが少し整理できました。
ドクタードクター
いいね。ここで許容濃度について臨床的に大事な注意点を加えておこう。許容濃度以下なら絶対安全、というわけではないんだ。個人の感受性には差があるから、許容濃度以下でも不快感や既存疾患の悪化、職業病の発生を完全には防げない場合がある。安全と危険をきっぱり分ける境界線ではないと理解しておこう。
医学生医学生
産業医実習で工場の巡視に同行したとき、有機溶剤の濃度は基準内なのに頭痛を訴える作業者がいると聞きました。そういうことなんですね。
ドクタードクター
まさにそういう場面だね。値だけで判断せず、作業者の訴えや健康診断の結果とあわせて評価するのが産業医の役割だ。ちなみに許容濃度は8時間の時間加重平均で示すのが基本で、物質によっては短時間でも超えてはならない天井値が設定されている。米国ではACGIHのTLVが近い位置づけの値だ。また、発がん性物質のように明確な閾値を設定しにくい物質もある。
医学生医学生
作業環境管理、作業管理、健康管理の3管理の中で、管理濃度は作業環境管理の道具という位置づけですね。
ドクタードクター
その通り。総括管理と労働衛生教育を加えて5管理と呼ぶことも覚えておこう。食品分野でも、食品添加物や残留農薬のように意図的に使う物質にはADI、ダイオキシン類や重金属のように意図せず混入する汚染物質にはTDIと使い分けるから、セットで整理しておくといい。

まとめ

許容濃度は日本産業衛生学会が勧告する値で、1日8時間・週40時間程度の曝露で平均曝露濃度がこれ以下なら、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度です。法的な規制値ではなく、個人差により許容濃度以下でも健康影響を完全には防げない点に注意が必要です。作業場の管理区分を決めるために国が定めるのは管理濃度、環境基本法で「維持されることが望ましい」と定めるのは環境基準、食品添加物などの1日摂取量の目安はADI、動物実験で有害影響のない最大投与量はNOAELであり、ADIはNOAELを安全係数(通常100)で割って求めます。「誰が定め、何に使い、誰を守るか」で整理すると、産業保健・環境保健・食品衛生の指標を混同せずに理解でき、産業医業務や健康相談の場面でも役立ちます。

解答・解説

正解はaです

本問は、有害物質の量や濃度に関する似た用語を区別できるかを問うている。それぞれの用語について「誰が定めるか」「何に使うか」を押さえると整理しやすい。

許容濃度

日本産業衛生学会が勧告する、職場の有害物質の空気中濃度の目安である。「労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に曝露される場合に、平均曝露濃度がこの値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度」と定義される。学会の勧告であって法的な規制値ではない。

紛らわしい用語

・管理濃度:作業環境測定の結果から作業場の管理区分(第1〜第3管理区分)を決めるために、国(厚生労働大臣)が定める濃度。 ・環境基準:環境基本法に基づき、人の健康を保護し生活環境を保全するうえで「維持されることが望ましい」として国が定める基準(大気、水質、土壌、騒音など)。 ・一日摂取許容量(ADI: acceptable daily intake):食品添加物や残留農薬などを、毎日一生涯摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量(体重1kg当たり)。 ・無毒性量(NOAEL: no observed adverse effect level):動物実験などで有害な影響が認められなかった最大の投与量。ADIは、NOAELを安全係数(通常100)で割って求める。 許容濃度の定義の中心は「ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される」という部分であり、これに一致する選択肢を選べばよい。

選択肢考察

  1. ○a.  労働者に悪影響がみられないと判断する濃度

    許容濃度の定義に一致する。許容濃度は日本産業衛生学会が勧告する値で、1日8時間・週40時間程度、強くない労働強度で曝露された場合に、平均曝露濃度がこの値以下なら、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度である。ただし、個人の感受性には差があるため、許容濃度以下でも不快感や既存疾患の悪化、職業病の発生を完全には防げない場合があるとされている。安全と危険を分ける明確な境界線ではない点にも注意する。

  2. ×b.  維持することが望ましいと国が定めた濃度

    「維持されることが望ましい」として国が定めるのは環境基準である。環境基準は環境基本法に基づき、人の健康を保護し生活環境を保全するための行政上の目標として、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について定められている。一方、許容濃度は国ではなく日本産業衛生学会が勧告するもので、職場で働く労働者を対象とする点でも異なる。

  3. ×c.  食品添加物の1日当たりの最大摂取濃度

    食品添加物や残留農薬について用いられるのは一日摂取許容量(ADI)である。ADIは、ヒトが毎日一生涯摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量で、体重1kg当たりの量(mg/kg体重/日)で表す。濃度ではなく摂取量の指標であり、職場の空気中濃度を扱う許容濃度とは別の概念である。

  4. ×d.  作業場の管理区分決定のための濃度

    作業場の管理区分を決めるのに使うのは管理濃度である。管理濃度は、許容濃度などを参考に行政的な観点も加えて国が定める。作業環境測定の結果(場の測定値)をこれと比較し、作業環境の状態を第1管理区分(適切)、第2管理区分(なお改善の余地あり)、第3管理区分(適切でない)に区分する。管理濃度は作業場の環境を評価する指標であり、個々の労働者の曝露限界を示す許容濃度とは目的が異なる。

  5. ×e.  毒性が認められない最大生体内濃度

    毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の量を示すのは無毒性量(NOAEL)であり、生体内濃度ではなく投与量(mg/kg体重/日)で表されることが多い。NOAELはADIなどの基準値を導く出発点となる値である。許容濃度は職場の空気中濃度であり、生体内の濃度を指すものではない。

許容濃度のもう少し詳しい内容

・日本産業衛生学会が毎年「許容濃度等の勧告」として公表している。米国ではACGIH(米国産業衛生専門家会議)が定めるTLV(threshold limit value)がこれに近い位置づけの値である。 ・時間加重平均値(8時間平均)として示されるのが基本である。物質によっては、短時間でも超えてはならない最大許容濃度(天井値)が示されている。 ・発がん性物質のように、明確な閾値を設定しにくい物質もある。

作業環境管理と管理区分

労働衛生管理の基本は、作業環境管理・作業管理・健康管理の3管理(これに総括管理と労働衛生教育を加えて5管理)である。作業環境管理では、作業環境測定の結果を管理濃度と比べて評価する。 ・第1管理区分:作業環境管理が適切である。 ・第2管理区分:作業環境管理になお改善の余地がある。 ・第3管理区分:作業環境管理が適切でない。直ちに改善措置を講じる必要がある。

食品の安全性に関する指標

・NOAEL(無毒性量):動物実験などで有害影響がみられなかった最大の投与量。 ・ADI(一日摂取許容量):NOAEL ÷ 安全係数(種差10 × 個体差10 = 通常100)。食品添加物・残留農薬などのように、意図的に使用される物質に用いる。 ・TDI(耐容一日摂取量):ダイオキシン類や重金属など、意図せず混入する汚染物質に用いる。

POINT

・許容濃度:日本産業衛生学会が勧告。1日8時間・週40時間程度の曝露で、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度。 ・管理濃度:国が定める。作業環境測定結果から管理区分(第1〜第3)を決めるための濃度。 ・環境基準:環境基本法に基づき、国が「維持されることが望ましい」として定める基準。 ・ADI(一日摂取許容量)=NOAEL(無毒性量)÷ 安全係数(通常100)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。