「許容濃度」は誰が決めて何のため?―産業衛生の似た用語をすっきり整理
第115回医師国家試験 C問題 第2問
国試問題にチャレンジ
許容濃度で正しいのはどれか。
- a.労働者に悪影響がみられないと判断する濃度
- b.維持することが望ましいと国が定めた濃度
- c.食品添加物の1日当たりの最大摂取濃度
- d.作業場の管理区分決定のための濃度
- e.毒性が認められない最大生体内濃度
対話形式の解説
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ドクターまとめ
許容濃度は日本産業衛生学会が勧告する値で、1日8時間・週40時間程度の曝露で平均曝露濃度がこれ以下なら、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度です。法的な規制値ではなく、個人差により許容濃度以下でも健康影響を完全には防げない点に注意が必要です。作業場の管理区分を決めるために国が定めるのは管理濃度、環境基本法で「維持されることが望ましい」と定めるのは環境基準、食品添加物などの1日摂取量の目安はADI、動物実験で有害影響のない最大投与量はNOAELであり、ADIはNOAELを安全係数(通常100)で割って求めます。「誰が定め、何に使い、誰を守るか」で整理すると、産業保健・環境保健・食品衛生の指標を混同せずに理解でき、産業医業務や健康相談の場面でも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
本問は、有害物質の量や濃度に関する似た用語を区別できるかを問うている。それぞれの用語について「誰が定めるか」「何に使うか」を押さえると整理しやすい。
許容濃度
日本産業衛生学会が勧告する、職場の有害物質の空気中濃度の目安である。「労働者が1日8時間、週40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質に曝露される場合に、平均曝露濃度がこの値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度」と定義される。学会の勧告であって法的な規制値ではない。
紛らわしい用語
・管理濃度:作業環境測定の結果から作業場の管理区分(第1〜第3管理区分)を決めるために、国(厚生労働大臣)が定める濃度。 ・環境基準:環境基本法に基づき、人の健康を保護し生活環境を保全するうえで「維持されることが望ましい」として国が定める基準(大気、水質、土壌、騒音など)。 ・一日摂取許容量(ADI: acceptable daily intake):食品添加物や残留農薬などを、毎日一生涯摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量(体重1kg当たり)。 ・無毒性量(NOAEL: no observed adverse effect level):動物実験などで有害な影響が認められなかった最大の投与量。ADIは、NOAELを安全係数(通常100)で割って求める。 許容濃度の定義の中心は「ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される」という部分であり、これに一致する選択肢を選べばよい。
選択肢考察
- ○a. 労働者に悪影響がみられないと判断する濃度
許容濃度の定義に一致する。許容濃度は日本産業衛生学会が勧告する値で、1日8時間・週40時間程度、強くない労働強度で曝露された場合に、平均曝露濃度がこの値以下なら、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度である。ただし、個人の感受性には差があるため、許容濃度以下でも不快感や既存疾患の悪化、職業病の発生を完全には防げない場合があるとされている。安全と危険を分ける明確な境界線ではない点にも注意する。
- ×b. 維持することが望ましいと国が定めた濃度
「維持されることが望ましい」として国が定めるのは環境基準である。環境基準は環境基本法に基づき、人の健康を保護し生活環境を保全するための行政上の目標として、大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、騒音について定められている。一方、許容濃度は国ではなく日本産業衛生学会が勧告するもので、職場で働く労働者を対象とする点でも異なる。
- ×c. 食品添加物の1日当たりの最大摂取濃度
食品添加物や残留農薬について用いられるのは一日摂取許容量(ADI)である。ADIは、ヒトが毎日一生涯摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日当たりの摂取量で、体重1kg当たりの量(mg/kg体重/日)で表す。濃度ではなく摂取量の指標であり、職場の空気中濃度を扱う許容濃度とは別の概念である。
- ×d. 作業場の管理区分決定のための濃度
作業場の管理区分を決めるのに使うのは管理濃度である。管理濃度は、許容濃度などを参考に行政的な観点も加えて国が定める。作業環境測定の結果(場の測定値)をこれと比較し、作業環境の状態を第1管理区分(適切)、第2管理区分(なお改善の余地あり)、第3管理区分(適切でない)に区分する。管理濃度は作業場の環境を評価する指標であり、個々の労働者の曝露限界を示す許容濃度とは目的が異なる。
- ×e. 毒性が認められない最大生体内濃度
毒性試験で有害な影響が認められなかった最大の量を示すのは無毒性量(NOAEL)であり、生体内濃度ではなく投与量(mg/kg体重/日)で表されることが多い。NOAELはADIなどの基準値を導く出発点となる値である。許容濃度は職場の空気中濃度であり、生体内の濃度を指すものではない。
許容濃度のもう少し詳しい内容
・日本産業衛生学会が毎年「許容濃度等の勧告」として公表している。米国ではACGIH(米国産業衛生専門家会議)が定めるTLV(threshold limit value)がこれに近い位置づけの値である。 ・時間加重平均値(8時間平均)として示されるのが基本である。物質によっては、短時間でも超えてはならない最大許容濃度(天井値)が示されている。 ・発がん性物質のように、明確な閾値を設定しにくい物質もある。
作業環境管理と管理区分
労働衛生管理の基本は、作業環境管理・作業管理・健康管理の3管理(これに総括管理と労働衛生教育を加えて5管理)である。作業環境管理では、作業環境測定の結果を管理濃度と比べて評価する。 ・第1管理区分:作業環境管理が適切である。 ・第2管理区分:作業環境管理になお改善の余地がある。 ・第3管理区分:作業環境管理が適切でない。直ちに改善措置を講じる必要がある。
食品の安全性に関する指標
・NOAEL(無毒性量):動物実験などで有害影響がみられなかった最大の投与量。 ・ADI(一日摂取許容量):NOAEL ÷ 安全係数(種差10 × 個体差10 = 通常100)。食品添加物・残留農薬などのように、意図的に使用される物質に用いる。 ・TDI(耐容一日摂取量):ダイオキシン類や重金属など、意図せず混入する汚染物質に用いる。
POINT
・許容濃度:日本産業衛生学会が勧告。1日8時間・週40時間程度の曝露で、ほとんどすべての労働者に健康上の悪影響がみられないと判断される濃度。 ・管理濃度:国が定める。作業環境測定結果から管理区分(第1〜第3)を決めるための濃度。 ・環境基準:環境基本法に基づき、国が「維持されることが望ましい」として定める基準。 ・ADI(一日摂取許容量)=NOAEL(無毒性量)÷ 安全係数(通常100)。
