「疑い」で動くのが医師の責務―虐待を見つけたとき、まず連絡すべき場所
第115回医師国家試験 B問題 第21問
国試問題にチャレンジ
生命の危険はないが,虐待が疑われる児童が来院した際に,まず通報すべき機関はどれか。
- a.警察署
- b.小学校
- c.保健所
- d.児童相談所
- e.市町村保健センター
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
虐待が疑われる児童を診察した場合、医師は確証がなくても疑いの段階で通告する義務があり、通告先は児童虐待防止法第6条と児童福祉法第25条が定める市町村、都道府県の設置する福祉事務所、児童相談所です。生命の危険がない状況では、まず児童福祉の専門機関である児童相談所へ通告し、児童相談所は安全確認や立入調査、一時保護などを行います。警察は生命の危険が切迫している場合などに並行して関わることがあるものの法定の通告先ではなく、学校は通告する側、保健所や市町村保健センターも通告先そのものではありません。通告は守秘義務違反に当たらず、通告者の情報も保護されます。虐待の4類型や疑うべき所見とあわせて理解しておくことが、医療現場での早期発見と子どもの安全確保につながります。
解答・解説
正解はdです
問われていること
生命の危険が差し迫っていない児童に虐待の疑いを認めたとき、医療機関がまず連絡(通告)すべき先はどこかを問う問題である。
考え方
児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)第6条は、「児童虐待を受けたと思われる児童」を発見した者に対し、速やかに「市町村、都道府県の設置する福祉事務所、または児童相談所」へ通告する義務を課している。児童福祉法第25条も、保護を必要とする児童(要保護児童)を発見した者に同じ通告先への通告を義務づけている。 ここで重要なのは次の2点である。 ・虐待が「確定」している必要はなく、「疑い」の段階で通告する。結果的に虐待でなかったとしても、通告者が責任を問われることはない。 ・医師には守秘義務があるが、虐待の通告は守秘義務違反には当たらないと法律で明記されている(児童虐待防止法第6条第3項)。 選択肢のうち法定の通告先に該当するのは児童相談所であり、これが正解である。なお、生命に危険が迫っている場合や明らかな犯罪行為が疑われる場合は、警察への通報を並行して行うこともあるが、本問は「生命の危険はない」と明示されており、まず福祉の専門機関である児童相談所へ通告する。
選択肢考察
- ×a. 警察署
警察署は児童虐待防止法上の通告先として定められていない。児童相談所が安全確認や立入調査、一時保護を行う際に、必要に応じて警察に援助を求める(同法第10条)という形で関わる機関である。生命の危険が切迫しているときなどは警察への通報も考慮されるが、本問の状況で「まず」連絡すべき先ではない。
- ×b. 小学校
学校は通告先ではない。学校や教職員は医師と同様に虐待を発見しやすい立場にあり、早期発見の努力義務を負う「通告する側」である。実際、学校から児童相談所や市町村への通告は多い。医療機関が学校に連絡しても法的な通告にはならず、児童の保護にはつながらない。
- ×c. 保健所
保健所は都道府県・政令指定都市などが設置する公衆衛生の拠点で、感染症の届出の受理、食品衛生、精神保健などの広域・専門的業務を担う。児童虐待の通告先とは定められていない。
- ○d. 児童相談所
児童相談所は児童福祉法に基づき都道府県・政令指定都市などに設置される児童福祉の専門機関で、児童虐待防止法第6条・児童福祉法第25条に定める通告先の一つである。通告を受けると、原則48時間以内に児童の安全を目視で確認するとされ、必要に応じて保護者への出頭要求や立入調査、児童の一時保護(児童相談所長の判断で実施できる)、施設入所措置などを行う。虐待の疑いの段階で、まず通告すべき機関である。
- ×e. 市町村保健センター
市町村保健センターは地域保健法に基づき市町村が設置し、乳幼児健診、母子保健、健康相談・保健指導など住民に身近な対人保健サービスを行う施設である。乳幼児健診などを通じて虐待の早期発見に関わることはあるが、法定の通告先そのものではない。法律上の通告先である「市町村」とは、市町村の児童福祉担当窓口(子ども家庭福祉の部署など)を指す。
児童虐待の定義(児童虐待防止法第2条)
保護者がその監護する18歳未満の児童に対して行う次の4類型を指す。 ・身体的虐待:殴る、蹴る、やけどを負わせるなど ・性的虐待:性的行為の強要、性的な行為を見せるなど ・ネグレクト:食事を与えない、ひどく不潔にする、病院に連れて行かない、同居人による虐待を放置するなど ・心理的虐待:暴言、無視、きょうだい間の差別、児童の面前での配偶者への暴力(面前DV)など 近年の児童相談所の対応件数は心理的虐待が最も多い。
医療者に関わる規定
・医師、看護師、教職員、保育士などは虐待を発見しやすい立場にあるとして、早期発見に努めなければならない(同法第5条)。 ・通告は守秘義務に優先する(同法第6条第3項)。 ・通告を受けた機関は通告者を特定させる情報を漏らしてはならない(同法第7条)。 ・児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」がある。
虐待を疑う所見の例
説明と合わない外傷、新旧混在する多発外傷・骨折、乳幼児の頭蓋内出血と網膜出血(乳幼児揺さぶられ症候群)、たばこによる円形熱傷、受診の遅れ、体重増加不良、不潔な身なりなど。
POINT
・虐待が「疑われる」段階で通告義務が生じる(確証は不要)。 ・通告先は「市町村」「福祉事務所」「児童相談所」(児童虐待防止法第6条、児童福祉法第25条)。 ・警察、学校、保健所、市町村保健センターは法定の通告先ではない。 ・通告は医師の守秘義務違反に当たらない。 ・児童相談所長は一時保護を行うことができる。
