子どもの虐待は「4つ」、高齢者・障害者は「5つ」―経済的虐待が抜けている理由
第119回医師国家試験 C問題 第5問
国試問題にチャレンジ
児童虐待の防止などに関する法律で児童虐待の定義に規定されていないのはどれか。
- a.性的虐待
- b.経済的虐待
- c.身体的虐待
- d.心理的虐待
- e.ネグレクト
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
児童虐待防止法は、保護者がその監護する18歳未満の児童に対して行う身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4類型を児童虐待と定義しており、経済的虐待は含まれません。一方、高齢者虐待防止法と障害者虐待防止法はこれに経済的虐待を加えた5類型で、子どもは通常自ら管理する財産をもたないことがこの違いの背景にあります。面前DVは心理的虐待に当たり、児童相談所の相談対応件数では心理的虐待が最多です。虐待が「疑われる」段階で通告義務が生じ、通告は守秘義務違反にならないことも押さえておきましょう。法律ごとの類型の違いを理解しておくことは、臨床現場で虐待を見逃さず、適切な機関へつなぐための基本となります。
解答・解説
正解はbです
問われていること
児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)は、第2条で「児童虐待」を定義している。本問は、そこで挙げられている虐待の類型に含まれないものを選ばせる問題である。
法律上の定義の要点
同法でいう児童虐待とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するもの)が、その監護する児童(18歳未満の者)に対して行う次の4つの行為である。 ・第1号 身体的虐待 ・第2号 性的虐待 ・第3号 ネグレクト(監護の著しい怠慢) ・第4号 心理的虐待
考え方
児童虐待は4類型、高齢者虐待と障害者虐待はこれに「経済的虐待」を加えた5類型、と対比して覚えておくと迷わない。子どもは通常、自ら管理する財産や収入をもたないため、財産の不当な処分や搾取を独立した類型として定める必要性が乏しく、児童虐待防止法には経済的虐待の規定がない。
選択肢考察
- ×a. 性的虐待
第2条第2号に「児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること」と規定されている。児童への性的接触だけでなく、性行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にするといった行為も含まれる。法律に規定されている類型なので、本問の正解ではない。
- ○b. 経済的虐待
経済的虐待とは、本人の財産を不当に処分したり、本人から不当に財産上の利益を得たりする行為を指す。高齢者虐待防止法や障害者虐待防止法では虐待類型の一つとして定められているが、児童虐待防止法の定義には含まれていない。児童は通常、自ら管理する財産をもたないことが背景にある。なお、食事や衣服など生活に必要なものを与えないといった行為は、児童虐待防止法ではネグレクトとして扱われる。
- ×c. 身体的虐待
第2条第1号に「児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」と規定されている。殴る、蹴る、激しく揺さぶる、熱湯をかける、溺れさせるなどが該当し、実際に外傷が生じていなくても、生じるおそれのある暴行であれば含まれる。法律に規定されている類型である。
- ×d. 心理的虐待
第2条第4号に規定されており、児童に対する著しい暴言や著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭での配偶者に対する暴力(いわゆる面前DV)など、児童に著しい心理的外傷を与える言動が該当する。きょうだい間での著しい差別的扱いなども含まれる。法律に規定されている類型であり、児童相談所の相談対応件数では最も多い類型となっている。
- ×e. ネグレクト
第2条第3号に、児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置、保護者以外の同居人による虐待行為の放置、その他保護者としての監護を著しく怠ることとして規定されている。食事を与えない、ひどく不潔なままにする、病気やけがでも必要な医療を受けさせない、乳幼児を家や車内に置き去りにするなどが該当する。法律に規定されている類型である。
虐待関連法の類型の比較
・児童虐待防止法(対象:18歳未満の児童、行為者:保護者) 身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4類型。経済的虐待の規定はない。 ・高齢者虐待防止法(対象:65歳以上の高齢者、行為者:養護者または養介護施設従事者等) 身体的虐待、ネグレクト(介護等の放棄)、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待の5類型。経済的虐待は、高齢者の財産を不当に処分すること、高齢者から不当に財産上の利益を得ることと定義される。 ・障害者虐待防止法(行為者:養護者、障害者福祉施設従事者等、使用者) 身体的虐待、性的虐待、心理的虐待、ネグレクト(放棄・放置)、経済的虐待の5類型。 ・配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法) 法律上は「配偶者からの身体に対する暴力又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」と包括的に定義される。実務上は身体的、精神的、性的、経済的、社会的(交友の制限など)暴力などに分けて説明されることが多い。
児童虐待防止法のその他の重要事項
・通告義務:児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに市町村、福祉事務所または児童相談所に通告しなければならない。虐待の確証がなくても「思われる」段階で通告対象となる。 ・医師、保健師、教職員などは児童虐待を発見しやすい立場にあるとして、早期発見に努める義務が明記されている。 ・通告は守秘義務違反に当たらない。 ・2019年の法改正(2020年施行)で、親権者などによる体罰の禁止が明文化された。
相談対応件数の傾向
児童相談所の児童虐待相談対応件数は増加が続いており、内訳は心理的虐待が最も多く(過半数)、次いで身体的虐待、ネグレクト、性的虐待の順である。心理的虐待の増加には、面前DVについての警察からの通告が増えたことが影響している。
POINT
・児童虐待防止法の児童虐待は4類型:身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待。 ・経済的虐待は児童虐待の定義にはないが、高齢者虐待・障害者虐待の定義には含まれる(5類型)。 ・面前DVは心理的虐待に当たる。 ・虐待が「疑われる」段階で通告義務があり、守秘義務違反にはならない。
