StudyMed医師国家試験

妊娠から乳幼児期までをつなぐ法律―母子保健法の守備範囲を見極める

第119回医師国家試験 C問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第119回 C問題 第19問

母子保健法で規定されているのはどれか。

  1. a.定期予防接種
  2. b.児童虐待に係る通告
  3. c.人工妊娠中絶の要件
  4. d.低出生体重児の届出
  5. e.就学時健康診断の実施

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、子どもや妊産婦に関わる制度が「どの法律に書かれているか」を見分ける問題だ。母子保健の分野は法律がいくつにも分かれているから、それぞれの法律の目的と守備範囲をつかんでおくことが着眼点になるよ。まず、母子保健法がどんな法律か、イメージはあるかな。
医学生医学生
公衆衛生の講義で、母子健康手帳の交付の根拠になる法律だと習いました。妊婦さんや赤ちゃんの健康を守る法律、という理解です。
ドクタードクター
その理解で大丈夫。母子保健法は母性と乳幼児の健康の保持・増進を目的にした法律で、妊娠の届出、母子健康手帳の交付、妊産婦や乳幼児の健康診査、保健指導や訪問指導など、「妊娠期から乳幼児期まで」の保健サービスを一続きに定めている。実施主体は原則として住民に一番身近な市町村だ。
医学生医学生
乳幼児健診で予防接種歴を確認していたので、定期予防接種も母子保健法なのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
そこはよくある混同だね。健診の場で接種歴の確認や勧奨はするけれど、定期予防接種そのものの根拠は予防接種法なんだ。予防接種法は、集団予防を主な目的とするA類疾病と、個人の重症化予防を主な目的とするB類疾病に分けて定期接種の対象を定めている。高齢者のインフルエンザのように、子どもに限らない制度だという点も手がかりになるよ。
医学生医学生
児童虐待の通告はどうでしょう。小児科実習で、虐待が疑われる子の対応についてカンファレンスで話を聞きました。
ドクタードクター
児童虐待の通告は児童虐待防止法に規定されていて、児童福祉法にも要保護児童の通告義務がある。大事なのは、虐待を受けたと「思われる」段階、つまり確証がなくても通告義務が生じること。そしてこの通告は医師の守秘義務違反には当たらないとされている。臨床に出たら必ず役立つ知識だよ。
医学生医学生
人工妊娠中絶の要件は、母体保護法でしたよね。名前が「母子」と似ていて紛らわしいです。
ドクタードクター
その通り、母体保護法だ。母体保護法指定医師が、本人と配偶者の同意を得て行うことができ、要件は身体的または経済的理由で母体の健康を著しく害するおそれがある場合と、暴行や脅迫などによって妊娠した場合の2つ。胎児の異常そのものは要件に含まれていない点も、よく問われるポイントだね。
医学生医学生
就学時健康診断も子どもの健診なので、乳幼児健診の延長で母子保健法かと迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいけれど、就学時健康診断は学校保健安全法に基づくもので、市町村の教育委員会が翌年度に小学校へ入学する子どもを対象に行う。「学校」に関わる健診は学校保健安全法、と整理するといいよ。
医学生医学生
そうすると残るのは低出生体重児の届出で、これが母子保健法ということですね。
ドクタードクター
正解。出生体重が2,500g未満の低出生体重児が生まれたら、保護者は速やかに市町村に届け出ることになっている。届出によって市町村は支援が必要な子を早い段階で把握でき、保健師による未熟児訪問指導や、入院治療が必要な未熟児への養育医療の給付につなげられるんだ。
医学生医学生
届出は、NICUを退院したあとの支援への入り口になるわけですね。
ドクタードクター
まさにそう。ちなみに届出先はかつて都道府県や保健所だったけれど、2013年度から市町村に移管された。妊娠の届出も市町村長に行うし、1歳6か月児健診と3歳児健診は市町村に実施義務がある。母子保健のサービスは市町村に集約されている、と覚えておくと整理しやすいよ。
医学生医学生
出生届も市町村に出しますけど、あれも母子保健法ですか。
ドクタードクター
いい質問だね。出生届は戸籍法に基づくもので、出生後14日以内に市町村長に届け出る。届出先は同じ市町村でも、根拠法は違うんだ。それから最近の動きとして、母子保健法には産後ケア事業も位置づけられていて、2024年度からはこども家庭センターの設置が市町村の努力義務になった。妊娠期から子育て期まで切れ目なく支える方向に制度が進んでいるんだ。
医学生医学生
法律名だけで暗記するより、「誰を、どの時期に、どんな目的で守るか」で分けると覚えやすそうです。
ドクタードクター
その整理の仕方はとても大事だよ。臨床では、ハイリスク妊婦や低出生体重児、虐待が疑われる家庭など、医療だけでは支えきれない場面にたくさん出会う。どの制度を使って、どの機関につなげばいいかを知っていることが、患者さんと家族を守る力になるんだ。

まとめ

母子保健法は、妊娠の届出、母子健康手帳の交付、妊産婦・乳幼児の健康診査、訪問指導、低出生体重児(2,500g未満)の届出、未熟児への養育医療など、妊娠期から乳幼児期までの保健サービスを定めた法律で、実施主体は原則として市町村です。一方、定期予防接種は予防接種法、児童虐待の通告は児童虐待防止法(および児童福祉法)、人工妊娠中絶の要件は母体保護法、就学時健康診断は学校保健安全法、出生届は戸籍法と、似た領域でも根拠法が異なります。低出生体重児の届出は、市町村が支援の必要な児を早期に把握し、未熟児訪問指導や養育医療につなげるための仕組みです。制度を「誰を、どの時期に、何の目的で守るか」で整理しておくと、試験対策だけでなく、臨床で患者や家族を適切な支援につなぐ力にもなります。

解答・解説

正解はdです

母子保健と子どもの健康に関わる制度は、いくつもの法律に分かれて定められている。本問では、各選択肢の制度がどの法律に基づくかを正しく対応づけられるかが問われている。 母子保健法(1965年制定)は、母性と乳幼児の健康の保持・増進を目的とした法律で、妊娠の届出から母子健康手帳の交付、妊産婦・乳幼児の健康診査、保健指導・訪問指導、低出生体重児の届出、未熟児に対する養育医療など、「妊娠期から乳幼児期まで」の一連の保健サービスを定めている。実施主体は原則として、住民に最も身近な市町村である。 選択肢を法律ごとに整理すると、定期予防接種は予防接種法、児童虐待の通告は児童虐待防止法(および児童福祉法)、人工妊娠中絶の要件は母体保護法、就学時健康診断は学校保健安全法に規定されており、母子保健法に規定されているのは低出生体重児の届出である。

選択肢考察

  1. ×a.  定期予防接種

    定期予防接種は予防接種法に規定されている。予防接種法では、市町村長が実施主体となる定期接種の対象疾病を、集団予防を主な目的とするA類疾病(ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、結核、Hib感染症、小児の肺炎球菌感染症、ヒトパピローマウイルス感染症、B型肝炎、水痘、ロタウイルス感染症など)と、個人の重症化予防を主な目的とするB類疾病(高齢者のインフルエンザ、高齢者の肺炎球菌感染症など)に分けて定めている。乳幼児健診の場などで接種歴の確認や勧奨は行われるが、制度そのものの根拠は母子保健法ではない。

  2. ×b.  児童虐待に係る通告

    児童虐待に係る通告は、児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)に規定されている。同法では、児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに市町村、都道府県の設置する福祉事務所または児童相談所に通告しなければならないとされ、「思われる」段階、つまり虐待の確証がなくても通告義務が生じる。また、この通告は医師などの守秘義務違反には当たらないとされている。児童福祉法でも、保護者のいない児童や保護者に監護させることが不適当な児童(要保護児童)を発見した者の通告義務が定められている。児童相談所虐待対応ダイヤル「189」も設けられている。

  3. ×c.  人工妊娠中絶の要件

    人工妊娠中絶の要件は母体保護法に規定されている。都道府県の医師会が指定する医師(母体保護法指定医師)が、本人および配偶者の同意を得て行うことができ、その要件は (1) 妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの、(2) 暴行・脅迫によって、または抵抗・拒絶できない間に姦淫されて妊娠したもの、とされる。法律上、人工妊娠中絶は「胎児が母体外において生命を保続することのできない時期」に行うものとされ、この時期は現在、通知により妊娠満22週未満とされている。胎児の異常そのものは中絶の要件に含まれていない。

  4. ○d.  低出生体重児の届出

    母子保健法では、出生時の体重が2,500g未満の乳児(低出生体重児)が出生したときは、その保護者が速やかに乳児の現在地の市町村に届け出なければならないと定めている(かつての届出先は都道府県・保健所であったが、2013年度から市町村に移管された)。届出によって市町村は支援が必要な児を早期に把握でき、保健師などによる未熟児訪問指導や、入院治療が必要な未熟児に対する養育医療の給付など、退院後も含めた継続的な支援につなげることができる。

  5. ×e.  就学時健康診断の実施

    就学時健康診断は学校保健安全法に規定されている。市町村の教育委員会が、翌年度に小学校へ入学する予定の子どもを対象に、学齢簿が作成された後、原則として就学の4か月前(11月30日)までに実施する。栄養状態、脊柱・胸郭、視力・聴力、眼・耳鼻咽喉・皮膚・歯および口腔の疾病、知能などを検査し、その結果をもとに治療の勧告や保健上の助言、就学に関する指導(特別支援学校などへの就学の検討を含む)を行う。乳幼児健診と同様に子どもの健康診断であるが、根拠法は母子保健法ではない。

母子保健法に規定される主な事項

・母子保健に関する知識の普及 ・妊娠の届出(妊娠した者は速やかに市町村長に届け出る) ・母子健康手帳の交付(届出に基づき市町村が交付する) ・妊産婦・乳幼児の健康診査(1歳6か月児健診と3歳児健診は市町村に実施義務がある) ・妊産婦・乳幼児に対する保健指導 ・新生児の訪問指導、妊産婦の訪問指導、未熟児の訪問指導 ・低出生体重児(2,500g未満)の届出 ・未熟児に対する養育医療の給付 ・産後ケア事業 ・こども家庭センター(2024年度から、母子健康包括支援センターと子ども家庭総合支援拠点を統合する形で市町村に設置が努力義務とされた)

関連法規と主な規定内容の対応

・母体保護法:人工妊娠中絶、不妊手術、受胎調節の実地指導 ・児童福祉法:要保護児童の通告、児童相談所、小児慢性特定疾病の医療費助成、助産施設・乳児院 ・児童虐待防止法:児童虐待の定義(身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待)、通告義務、立入調査 ・予防接種法:定期接種(A類・B類疾病)、臨時接種、予防接種健康被害救済制度 ・学校保健安全法:就学時健康診断、児童生徒の定期健康診断、学校感染症による出席停止 ・戸籍法:出生届(出生後14日以内に市町村長に届け出る)

POINT

・低出生体重児(出生体重2,500g未満)の届出は母子保健法に基づき、保護者が市町村に行う。 ・母子保健法は、妊娠の届出・母子健康手帳・妊産婦と乳幼児の健診・訪問指導・養育医療など、妊娠期から乳幼児期までの保健サービスを定める。 ・人工妊娠中絶は母体保護法、定期予防接種は予防接種法、児童虐待の通告は児童虐待防止法、就学時健康診断は学校保健安全法と、根拠法を対応させて覚える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。