「ちょっと足りない」が命取り―凝固検査の採血管が規定量にこだわる理由
第115回医師国家試験 B問題 第20問
国試問題にチャレンジ
採取した血液を容器に分注する際,検体量の不足による測定値への影響が大きいのはどれか。
- a.ALT
- b.白血球数
- c.ナトリウム
- d.クレアチニン
- e.活性化部分トロンボプラスチン時間〈APTT〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
採血管への分注で検体量不足が問題になるのは、血液と一定の比率で混ぜることを前提とした液体の抗凝固薬を含む管であり、代表が3.2%クエン酸ナトリウム液を血液と1対9で混和する凝固検査(PT、APTTなど)です。血液量が不足すると血漿が希釈され、さらに過剰なクエン酸が測定時に再添加するカルシウムをキレートするため、凝固時間が見かけ上延長します。血清で測るALT、ナトリウム、クレアチニンなどの生化学検査や、粉末のEDTAを用いる血算は、検体量不足の影響をほとんど受けません。凝固検査では規定量の採血に加え、速やかな転倒混和、高ヘマトクリット時のクエン酸量調整、翼状針使用時のダミー管、ヘパリンラインからの採血回避も重要です。採血管の添加物とその意味を理解しておくことは、偽の検査異常による誤診や不要な検査・治療を防ぐ基本となります。
解答・解説
正解はeです
問われていること
採血した血液を各種の採血管(容器)に分ける際、規定量より少ない血液しか入れなかった場合に、結果が大きく狂ってしまう検査項目を選ぶ問題である。
考え方
検体量の不足が測定値に影響するかどうかは、「その採血管に、血液との量比が決められた添加物(特に液体の抗凝固薬)が入っているか」で判断する。 ・一般生化学検査(ALT、ナトリウム、クレアチニンなど)用の採血管には、抗凝固薬は入っていない(入っていても凝固促進剤や血清分離剤程度)。血液を凝固させて遠心し、血清を測定するので、血液量が少なくても濃度は変わらない。 ・血算(白血球数など)用の採血管には EDTA(エチレンジアミン四酢酸)塩が入っているが、多くは粉末(乾燥)状態であり、血液をほとんど希釈しない。多少量が少なくても細胞数の測定値はほぼ変わらない。 ・凝固検査(PT、APTT、フィブリノゲンなど)用の採血管には、3.2%クエン酸ナトリウム液が入っており、「クエン酸ナトリウム液1:血液9」の容量比で混ぜることが前提となっている。血液量が不足すると、①液体の抗凝固薬で血漿が相対的に強く希釈され、凝固因子濃度が低下する、②検査時に加えるカルシウムに対して過剰なクエン酸が残り、カルシウムが十分に再添加されない、という機序で凝固時間が見かけ上延長する。 したがって、検体量不足の影響が最も大きいのは凝固検査である APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)である。
選択肢考察
- ×a. ALT
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は一般生化学検査の項目で、抗凝固薬を含まない採血管で採取し、血清で測定する。血液量が少なくても血清中の酵素濃度は変わらないため、検体量不足の影響はほとんどない。なお、採血時の溶血では赤血球内に多い AST や LD(乳酸脱水素酵素)、カリウムが偽高値となるが、赤血球中の含有量が少ない ALT は溶血の影響を受けにくい。
- ×b. 白血球数
白血球数は血算(全血球計算)の項目で、EDTA 塩入りの採血管を用いる。EDTA は通常粉末(乾燥)状態で封入されており血液を希釈しないため、血液量が多少少なくても細胞数の測定値はほとんど変わらない。検体量よりも、EDTA 依存性の血小板凝集(偽性血小板減少症)で生じた血小板凝集塊が自動血球計数器で白血球として数えられ、白血球数が見かけ上増加することのほうが問題となる。
- ×c. ナトリウム
ナトリウムなどの電解質は一般生化学検査として抗凝固薬を含まない採血管の血清で測定するため、検体量不足による影響はない。注意すべきは容器の取り違えや混入であり、フッ化ナトリウム入り(血糖用)やクエン酸ナトリウム入り(凝固用)の採血管の内容が混入すると、添加物由来のナトリウムで偽高値となりうる。
- ×d. クレアチニン
クレアチニンも一般生化学検査の項目で、添加物(抗凝固薬)のない採血管の血清で測定する。血液量が少なくても濃度は変わらず、検体量不足の影響は受けない。また溶血による影響も臨床的に問題となるほどではない。
- ○e. 活性化部分トロンボプラスチン時間〈APTT〉
APTT は内因系・共通系の凝固能をみる検査で、3.2%クエン酸ナトリウム液入りの採血管を用いる。例えば抗凝固薬 0.2 mL に対して血液 1.8 mL を加え、1:9 の容量比とするように設計されている。血液量が不足するとクエン酸の比率が高くなり、血漿が希釈されるうえに、測定時に加えるカルシウムが過剰なクエン酸にキレートされて凝固反応が十分に起こらず、APTT は見かけ上延長する。許容される混合比の範囲は狭い(おおむね 1:8〜1:10 程度とされる)ため、凝固検査の採血管は規定の線まで正確に血液を入れる必要がある。
主な採血管と添加物
・凝固促進剤・血清分離剤入り(または添加物なし):一般生化学(AST、ALT、電解質、クレアチニンなど)、免疫血清検査。血清を用いる。 ・EDTA 塩入り(多くは粉末):血算、血液像、HbA1c など。カルシウムをキレートして凝固を防ぐ。細胞形態が保たれやすい。 ・3.2%クエン酸ナトリウム液入り:凝固検査(PT、APTT、フィブリノゲン、D ダイマーなど)は 1:9、赤血球沈降速度(赤沈)は 1:4 で混和する。液体のため、混合比が結果に直結する。 ・フッ化ナトリウム入り:血糖。解糖系酵素(エノラーゼ)を阻害して、採血後に血球がブドウ糖を消費して血糖が低下するのを防ぐ。 ・ヘパリン入り:血液ガス分析など。アンチトロンビンの作用を増強して凝固を防ぐ。
凝固検査の採血で注意すること
・規定量まで採血する(量不足では凝固時間が偽延長)。 ・採血後は速やかに転倒混和し、微小凝固を防ぐ(凝固因子が消費されて結果が狂う)。 ・ヘマトクリットが著しく高い(おおむね 55%超)患者では血漿量が相対的に少ないため、通常量の抗凝固薬では過剰となり、同様に凝固時間が延長する。このような場合はクエン酸量を減らして調整する。 ・翼状針を用いた真空管採血で凝固検査用の管を最初に採ると、チューブ内の空気の分だけ血液量が不足するため、先に別の管(ダミー管)を採取する。 ・ヘパリン投与中のラインからの採血は、ヘパリン混入により APTT が延長するので避ける。
POINT
・検体量不足が問題となるのは、血液と一定の比率で混ぜる「液体」の抗凝固薬を含む採血管である。 ・凝固検査(PT、APTT など)は 3.2%クエン酸ナトリウム液と血液を 1:9 で混合する。血液量が少ないとクエン酸過剰となり凝固時間が偽延長する。 ・生化学検査(血清)や EDTA(粉末)を用いる血算は、検体量不足の影響をほとんど受けない。 ・溶血で偽高値となるのは K、AST、LD など(ALT は受けにくい)。
