StudyMed医師国家試験

血圧の急上昇と壊れた赤血球―強皮症腎クリーゼは「小さな血管」の病気だ

第115回医師国家試験 A問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第115回 A問題 第1問

 強皮症腎の患者で認められるのはどれか。

  1. a.大動脈瘤
  2. b.仙腸関節炎
  3. c.サーモンピンク疹
  4. d.ネフローゼ症候群
  5. e.血栓性微小血管障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、全身性強皮症に合併する強皮症腎で何が起こるかを問う問題だ。着眼点は「腎臓のどこが障害されるのか」。障害の場所がわかれば、どんな所見が出るかは自然に導けるよ。
医学生医学生
腎臓の病気というと、糸球体腎炎やネフローゼ症候群をまず思い浮かべてしまいます。
ドクタードクター
腎臓内科の講義ではまず糸球体疾患を習うから、そう考えるのは自然だね。でも強皮症腎の主座は糸球体の濾過膜ではなく、腎内の小葉間動脈や輸入細動脈といった小さな動脈なんだ。ここの内皮が傷つき、内膜がむくんで厚くなり、血管の内腔が狭くなる。
医学生医学生
血管が狭くなると腎血流が減るので、傍糸球体装置からレニンが出ますよね。腎血管性高血圧と似た仕組みでしょうか。
ドクタードクター
その通り。レニン-アンジオテンシン系が一気に活性化して血圧が急上昇し、その高血圧がさらに血管を傷めるという悪循環で、腎機能が急速に落ちていく。これが強皮症腎クリーゼだ。では、内皮が傷ついた細い血管の中では何が起こると思う?
医学生医学生
傷ついた内皮には血小板がくっついて、血栓ができそうです。
ドクタードクター
いいね。血小板血栓ができて血小板は消費され、さらに狭い血管を無理やり通る赤血球が機械的に壊されて破砕赤血球が出る。血小板減少、破砕赤血球を伴う溶血性貧血、そして臓器障害。この組み合わせが血栓性微小血管障害、つまりTMAだ。だから正解は血栓性微小血管障害になる。
医学生医学生
TMAといえば、小児科の実習でO157による溶血性尿毒症症候群の子を見ました。強皮症でも同じ病態が起こるんですね。
ドクタードクター
そう、TMAは原因を問わない「病態の名前」なんだ。TTPやHUSのほか、強皮症腎、SLE、抗リン脂質抗体症候群、悪性高血圧、薬剤なども二次性TMAの原因になる。機械的溶血だからCoombs試験は陰性で、LDH上昇とハプトグロビン低下を伴うのも押さえておこう。
医学生医学生
ネフローゼ症候群はやはり違うんですか。腎臓の病気なので蛋白尿は出そうですが。
ドクタードクター
蛋白尿が出ることはあるけれど、多くは軽度にとどまる。濾過膜そのものが主に壊れる病気ではないからだ。高血圧による腎硬化症で尿蛋白が軽いのと同じ発想で理解できるよ。ただ、かつて強皮症に使われたD-ペニシラミンで膜性腎症を起こすような、薬剤性のネフローゼはあり得る。
医学生医学生
残りの大動脈瘤、仙腸関節炎、サーモンピンク疹は、別の疾患の特徴ですよね。
ドクタードクター
そうだね。大動脈瘤は動脈硬化や高安動脈炎などの大型血管の病気、仙腸関節炎はHLA-B27と関連する強直性脊椎炎などの脊椎関節炎、サーモンピンク疹は発熱に一致して出没する成人Still病の皮疹だ。強皮症腎は「小さな血管」の病気だから、大動脈のような太い血管の拡張とは結びつかない。
医学生医学生
CBTの勉強では膠原病の特徴的所見を丸暗記していましたが、障害部位から考えると整理しやすいです。
ドクタードクター
それが大事なポイントだよ。最後に臨床での注意点だ。強皮症腎クリーゼはびまん皮膚硬化型の発症早期、皮膚硬化が急速に進む時期、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性の患者で起こりやすい。それから中等量以上の副腎皮質ステロイドも危険因子なんだ。
医学生医学生
膠原病なのにステロイドが悪化の引き金になるんですか。意外です。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。だから強皮症の患者にステロイドを使うときは、血圧と腎機能をこまめに確認する。治療の第一選択はACE阻害薬で、レニン-アンジオテンシン系が病態の中心だからこそ劇的に効き、予後を大きく改善させた。透析が必要になっても、ACE阻害薬を続けて離脱できる例もあるんだ。
医学生医学生
病態がレニン依存性だから治療もACE阻害薬、とつながると忘れにくいですね。
ドクタードクター
その通り。なお、血圧が正常のまま進行する正常血圧性腎クリーゼもあるから、「血圧が高くないから大丈夫」と油断しないこと。強皮症の患者で急な腎機能低下や血小板減少を見たら、まずこの病気を思い浮かべよう。

まとめ

強皮症腎クリーゼは、全身性強皮症で腎内の小動脈・細動脈の内皮が障害され、腎血流低下からレニン-アンジオテンシン系が亢進し、急激な高血圧と急速な腎機能低下を来す病態です。内皮障害部位に血小板血栓が生じ、血小板減少と破砕赤血球を伴う溶血性貧血を示す血栓性微小血管障害(TMA)をしばしば伴います。濾過膜の障害が主体ではないため尿所見は軽度で、ネフローゼ症候群は来しにくい点も重要です。びまん皮膚硬化型の早期、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性、ステロイド使用が危険因子で、治療の第一選択はACE阻害薬です。「どの血管が障害されるか」から所見と治療を導く考え方は、膠原病の腎病変全般を理解する土台になります。

解答・解説

正解はeです

テーマ

強皮症腎(強皮症腎クリーゼ:scleroderma renal crisis, SRC)は、全身性強皮症(systemic sclerosis, SSc)に合併する腎の急性合併症である。腎臓の小葉間動脈・輸入細動脈といった小さな動脈の内皮が障害され、内膜が浮腫状・増殖性に厚くなって血管内腔が狭くなる。その結果、腎血流が低下し、傍糸球体装置からのレニン分泌が亢進してレニン-アンジオテンシン系が活性化する。これにより急激に血圧が上昇(しばしば悪性高血圧の様相)し、高血圧がさらに血管障害を悪化させるという悪循環で急速に腎機能が低下する。

正解を導く考え方

障害の主座は「小動脈・細動脈の内皮障害」であり、糸球体の濾過膜(足細胞など)が主に障害される病態ではない。内皮が傷ついた微小血管では血小板が活性化して血栓が形成され、狭くなった血管を通過する赤血球が機械的に破壊される。こうして、微小血管内の血小板血栓・血小板減少・破砕赤血球を伴う溶血性貧血・臓器障害(腎障害)からなる血栓性微小血管障害(TMA:thrombotic microangiopathy)の像を呈しうる。したがって、強皮症腎で認められる所見として選ぶべきは血栓性微小血管障害である。 他の選択肢は、強皮症腎とは別の疾患の特徴的所見(大動脈瘤=動脈硬化や大型血管炎、仙腸関節炎=脊椎関節炎、サーモンピンク疹=成人Still病など)や、強皮症腎では典型的でない尿所見(ネフローゼ症候群)である。

選択肢考察

  1. ×a.  大動脈瘤

    誤り。強皮症腎は腎内の小動脈・細動脈の障害であり、大動脈のような太い血管の拡張は伴わない。大動脈瘤の原因として最も多いのは動脈硬化で、高血圧・脂質異常症・喫煙・糖尿病などが危険因子となる。そのほか、高安動脈炎(大動脈炎症候群)や巨細胞性動脈炎などの大型血管炎、Marfan症候群などの結合組織疾患、感染(感染性大動脈瘤)、梅毒などが原因となる。

  2. ×b.  仙腸関節炎

    誤り。仙腸関節炎は強直性脊椎炎を代表とする脊椎関節炎(乾癬性関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎などを含む)の特徴的所見で、HLA-B27との関連が知られる。全身性強皮症でも関節痛や関節炎がみられることはあるが、末梢関節が中心であり、強皮症腎と仙腸関節炎との間に関連はない。

  3. ×c.  サーモンピンク疹

    誤り。サーモンピンク疹は、成人Still病や全身型若年性特発性関節炎で、発熱に一致して体幹・四肢に出現し解熱とともに消える、淡いピンク色の斑状皮疹である。かゆみは通常乏しい。強皮症の皮膚所見は皮膚硬化、手指の浮腫・硬化(ソーセージ様手指)、Raynaud現象、指尖潰瘍、毛細血管拡張、皮膚の色素沈着・脱失などであり、サーモンピンク疹はみられない。

  4. ×d.  ネフローゼ症候群

    誤り。強皮症腎の本態は腎内小動脈の狭窄と腎血流低下であり、糸球体濾過膜の障害が主体ではない。そのため尿所見は軽度の蛋白尿や顕微鏡的血尿にとどまることが多く、高度蛋白尿・低アルブミン血症・浮腫を呈するネフローゼ症候群を来すことはまれである。高血圧性の腎障害(腎硬化症)で尿蛋白が軽度にとどまるのと同様の考え方で理解できる。なお、強皮症の治療薬として使われていたD-ペニシラミンによる膜性腎症など、薬剤性にネフローゼを来す場合はある。

  5. ○e.  血栓性微小血管障害

    正しい。強皮症腎では、輸入細動脈から糸球体に至る微小血管の内皮障害、内膜の増殖・肥厚、フィブリノイド壊死が生じ、病変血管内に血小板血栓が形成される。狭窄した血管で赤血球が機械的に壊されて破砕赤血球(schistocyte)が出現し、LDH上昇・ハプトグロビン低下を伴う溶血性貧血と、血小板の消費による血小板減少を来す。この一連の病態が血栓性微小血管障害(TMA)であり、強皮症腎クリーゼではしばしばこの像を伴う。

強皮症腎クリーゼの特徴

・全身性強皮症のうち、特にびまん皮膚硬化型で、発症早期(数年以内)に起こりやすい。 ・危険因子として、急速に進行する皮膚硬化、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性、副腎皮質ステロイドの中等量以上の投与などが知られる。強皮症患者にステロイドを使用する際は血圧と腎機能の慎重な観察が必要である。 ・臨床像:急激な血圧上昇(頭痛、視力障害、高血圧性網膜症、高血圧性脳症、痙攣、心不全)、急速な腎機能低下、血漿レニン活性の著明な上昇。少数ながら血圧が正常のまま進行する例(正常血圧性腎クリーゼ)もある。 ・病理:腎の小葉間動脈・弓状動脈・輸入細動脈の内膜のムコイド肥厚による同心円状の内腔狭窄(タマネギ様の外観)、フィブリノイド壊死、血栓。 ・治療:ACE阻害薬が第一選択である。レニン-アンジオテンシン系の亢進が病態の中心であるため、早期からACE阻害薬で血圧を下げることで予後が大きく改善した。腎不全が進行すれば透析を要するが、ACE阻害薬の継続により透析から離脱できる例もある。

血栓性微小血管障害(TMA)

・特徴:①微小血管内の血小板血栓、②消費性の血小板減少、③破砕赤血球を伴う溶血性貧血(機械的溶血でありCoombs試験は陰性)、④臓器障害(腎、中枢神経など)。 ・代表的な病型:血栓性血小板減少性紫斑病(TTP:ADAMTS13活性の著減による)、志賀毒素産生性大腸菌(O157など)による溶血性尿毒症症候群(STEC-HUS)、補体制御異常による非典型HUS(aHUS)。 ・二次性TMAの原因:強皮症腎、SLE、抗リン脂質抗体症候群、悪性高血圧、悪性腫瘍、薬剤(カルシニューリン阻害薬、抗がん剤など)、造血幹細胞移植、妊娠関連(HELLP症候群など)、感染症(HIVなど)。 ・かつてTTPとHUSを合わせて「TTP/HUS」と表記されたが、現在はこれらを包括する概念としてTMAの語が用いられる。

選択肢に関連する疾患

・仙腸関節炎:強直性脊椎炎などの脊椎関節炎(HLA-B27関連)。 ・サーモンピンク疹:成人Still病、全身型若年性特発性関節炎。 ・大動脈瘤:動脈硬化、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、Marfan症候群など。

POINT

・強皮症腎クリーゼは、腎の小動脈の内皮障害→腎血流低下→レニン-アンジオテンシン系亢進→急激な高血圧と急速な腎機能低下を来す。 ・しばしば血栓性微小血管障害(TMA:血小板減少、破砕赤血球を伴う溶血性貧血)を伴う。 ・尿所見は軽度で、ネフローゼ症候群は来しにくい。 ・危険因子:びまん皮膚硬化型の早期、抗RNAポリメラーゼIII抗体、ステロイド使用。 ・治療の第一選択はACE阻害薬。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。