液体は低いところへ流れる―S状結腸切除後のドレーンはなぜDouglas窩なのか
第115回医師国家試験 A問題 第2問
国試問題にチャレンジ
S状結腸切除後の腹腔内ドレナージを目的としたドレーン先端の留置部位として適切なのはどれか。
- a.Douglas窩
- b.Morrison窩
- c.Winslow孔
- d.左横隔膜下
- e.右横隔膜下
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
腹部手術後のドレーン先端は、手術操作を行った部位の近く、かつ仰臥位で液体が自然に集まる腹腔の低い部位に置くのが原則です。S状結腸切除では骨盤内で吻合を行うため、腹膜腔の最下部であるDouglas窩が術後出血や縫合不全の早期発見とドレナージに最も適します。Morrison窩は胆嚢・肝の手術、Winslow孔は胃・胆道・膵頭部の手術、左横隔膜下は胃全摘・脾・膵体尾部の手術、右横隔膜下は肝切除で用いられます。ドレーンには予防的・情報・治療的の役割がある一方、逆行性感染の経路にもなるため、近年は必要性を見極めて早期抜去する傾向にあります。腹腔内の解剖と液体の流れを結びつけて理解することは、術後管理や画像での液体貯留の評価にも役立ちます。
解答・解説
正解はaです
テーマ
腹部手術の後には、術野にたまる血液・滲出液・リンパ液などを体外へ排出する目的や、縫合不全・出血・膵液瘻などの合併症を早く見つける目的(情報ドレーン)で、腹腔内にドレーンを留置することがある。ドレーンの先端は、①手術操作を行った部位(吻合部・切離面)の近く、かつ②仰臥位で液体が自然に集まりやすい腹腔の低い場所、に置くのが原則である。
正解を導く考え方
仰臥位の患者で腹腔内の液体がたまりやすいのは、骨盤腔の最も深い部分であるDouglas窩、右上腹部ではMorrison窩(肝腎陥凹)、そして左右の横隔膜下腔である。 S状結腸は左下腹部から骨盤腔に位置し、S状結腸切除では骨盤内で腸管の吻合(結腸-直腸吻合など)を行う。術野と吻合部はDouglas窩に近く、骨盤内の滲出液・血液はDouglas窩に集まる。さらに、縫合不全が起きたときに漏れた腸内容もここに貯留しやすい。したがって、S状結腸切除後のドレーン先端はDouglas窩に留置するのが適切である。 それ以外の選択肢は、いずれも上腹部(肝・胆・胃・膵・脾)の手術で用いられる留置部位であり、S状結腸の術野からは遠い。
選択肢考察
- ○a. Douglas窩
正しい。Douglas窩は女性では直腸と子宮の間の腹膜のくぼみ(直腸子宮窩)を指し、男性では相当する直腸膀胱窩を便宜的にこう呼ぶことが多い。立位・仰臥位のいずれでも腹膜腔の最も低い部位であり、骨盤内の血液・滲出液が集まる。S状結腸切除の術野・吻合部に近いため、術後出血や縫合不全の早期発見とドレナージの両方の目的にかなう。直腸切除後もここに留置する。
- ×b. Morrison窩
誤り。Morrison窩(肝腎陥凹)は肝右葉の下面と右腎の前面の間にある腹膜のくぼみで、仰臥位で上腹部の最も低い部位となる。胆嚢摘出術や肝切除術の後にドレーンを置く部位であり、骨盤内のS状結腸の術野からは離れている。なお、外傷初期診療で行うFAST(迅速超音波検査)で腹腔内出血を確認する部位の一つでもある。
- ×c. Winslow孔
誤り。Winslow孔(網嚢孔)は肝十二指腸間膜の背側にある開口部で、腹膜腔の大部分(大嚢)と胃の背側にある網嚢(小嚢)をつなぐ入口である。胃切除術、胆道手術、肝切除術、膵頭十二指腸切除術など上腹部の手術後にドレーンを留置する部位であり、S状結腸切除には用いない。
- ×d. 左横隔膜下
誤り。左横隔膜下腔は横隔膜と脾臓・胃底部の間の空間である。胃全摘術、脾摘出術、膵体尾部切除術などの後にドレーンを置く部位である。消化管穿孔による汎発性腹膜炎の手術では、腹腔内を洗浄したあと、Douglas窩とともに左右の横隔膜下にドレーンを置くこともあるが、通常のS状結腸切除後の留置部位ではない。
- ×e. 右横隔膜下
誤り。右横隔膜下腔は横隔膜と肝右葉の上面の間の空間である。主に肝切除術の後に、切離面からの出血や胆汁漏の観察・排出のためにドレーンを置く。骨盤内のS状結腸の術野とは離れており、適切ではない。
腹腔内で液体がたまりやすい部位
仰臥位では、腹腔内の液体は重力に従って低い部位に集まる。代表的なのは次の部位である。 ・Douglas窩(直腸子宮窩/直腸膀胱窩):腹膜腔の最下部。 ・Morrison窩(肝腎陥凹):上腹部で最も低い部位。 ・右横隔膜下腔・左横隔膜下腔:呼吸運動による陰圧で液体が引き込まれやすい。 ・左右の傍結腸溝:上腹部と骨盤腔をつなぐ通り道となる。
手術とドレーン留置部位の対応
・Douglas窩:S状結腸切除、直腸切除(低位前方切除など)、骨盤内の手術 ・Morrison窩:胆嚢摘出、肝切除 ・Winslow孔:胃切除、胆道手術、肝切除、膵頭十二指腸切除 ・左横隔膜下:胃全摘、脾摘出、膵体尾部切除 ・右横隔膜下:肝切除 ・汎発性腹膜炎(消化管穿孔など):腹腔内洗浄後にDouglas窩や左右横隔膜下などに複数留置することが多い
ドレーンの目的による分類
・予防的ドレーン:術後の縫合不全や出血に備えて留置する。 ・情報ドレーン:排液の性状(血性、腸液様、膵液など)から合併症を早期に発見する。 ・治療的ドレーン:すでにある膿瘍や腹水を排出する。 近年は、術後回復強化(ERAS)の考え方から、必要性の低い予防的ドレーンは留置しないか早期に抜去する傾向にある。ドレーンは逆行性感染の経路にもなるため、不要になれば速やかに抜去する。
POINT
・ドレーン先端は「術野の近く」かつ「液体がたまりやすい低い部位」に置く。 ・S状結腸・直腸の手術後はDouglas窩(腹膜腔の最下部)に留置する。 ・Morrison窩は肝胆道手術、Winslow孔は胃・胆道・肝・膵の手術、左横隔膜下は胃・脾・膵の手術、右横隔膜下は肝の手術で用いる。
