データは「仮説の味方」ではない―学会発表で守るべき3つの約束
第114回医師国家試験 E問題 第14問
国試問題にチャレンジ
医師が学術会議で発表する際,職業倫理に反する行動はどれか。
- a.発表内容に関する利益相反を公表する。
- b.患者の個人情報を特定できないようにする。
- c.データを自分の仮説に合うように改ざんする。
- d.自分が経験した複数の症例をまとめた内容を発表する。
- e.医療機器メーカーから研究助成を受けた研究結果を発表する。
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
研究成果を公表する際に医師が守るべき原則は、データと結果が真正であること、患者のプライバシーを守ること、利益相反を隠さず開示することの3つです。データを仮説に合わせて書き換える「改ざん」は、「捏造」「盗用」と並ぶ特定不正行為(FFP)であり、明確に職業倫理に反します。一方、利益相反は存在すること自体ではなく隠すことが問題で、企業から研究助成を受けた研究も開示を前提に発表できますし、匿名化を行ったうえでの自験例のまとめは正当な研究活動です。二重投稿や不適切なオーサーシップも好ましくない研究行為とされます。研修医になればすぐに学会発表の機会があるため、研究公正の基本を早くから身につけておくことが、医学への社会の信頼を守ることにつながります。
解答・解説
正解はcです
学会発表や論文投稿など、研究成果を公表する場面で医師(研究者)に求められる倫理を問う問題である。 研究成果の公表で守るべき原則は大きく三つに整理できる。第一に、研究データと結果が真正であること(研究公正)。第二に、研究に協力した患者・被験者のプライバシーを守ること(個人情報保護)。第三に、研究の中立性を疑わせうる経済的関係を隠さないこと(利益相反の開示)である。 この三原則に照らして各選択肢を見ると、利益相反の公表や個人情報の匿名化は原則を守るための行動であり、自験例のまとめや企業から助成を受けた研究の発表は、適切な手続き(開示など)を踏んでいれば何ら問題のない通常の研究活動である。一方、データを仮説に合わせて書き換えることは、研究公正の根幹を破る「改ざん」であり、典型的な研究不正にあたる。したがって職業倫理に反する行動を一つ選ぶのは容易である。
選択肢考察
- ×a. 発表内容に関する利益相反を公表する。
利益相反(COI: conflict of interest)とは、研究者が企業などとの間にもつ経済的利益関係(研究費、講演料、株式保有、顧問料など)が、研究の客観性・公正さに影響しているのではないかと疑われうる状態をいう。利益相反があること自体は違法でも不正でもないが、それを隠すと発表の信頼性が損なわれる。そのため、国の指針や各学会の規定により、学会発表では冒頭のスライドなどで、論文では所定の欄で利益相反の有無と内容を開示することが求められており、開示がなければ発表を認めない学会もある。公表は倫理的に求められる正しい行動である。
- ×b. 患者の個人情報を特定できないようにする。
症例や研究データを発表する際には、氏名、住所、生年月日、診療録番号、顔写真など個人を識別できる情報を削除・加工し、本人が特定されないようにする必要がある。これは個人情報保護法や「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」、各学会の症例報告に関する指針で求められている。年齢や詳細な日付、まれな職業などの組合せでも個人が推定されうるため、研究内容に必要のない情報は省くか表現をぼかすのが原則である。匿名化は倫理的に正しい行動である。
- ○c. データを自分の仮説に合うように改ざんする。
研究で実際に得られたデータや結果を、都合のよいように変更・削除・加工して真正でないものにする行為は「改ざん(falsification)」と呼ばれ、存在しないデータを作り出す「捏造(fabrication)」、他人のアイデアやデータ、文章を適切な表示なく流用する「盗用(plagiarism)」とともに、特定不正行為(FFP)として文部科学省のガイドラインで明確に定義・禁止されている。改ざんされた結果は科学的知見を誤らせるだけでなく、医学研究であれば誤った診療につながり患者に害を及ぼしうる。研究者・医師としての職業倫理に反する行動であり、本問の正解である。
- ×d. 自分が経験した複数の症例をまとめた内容を発表する。
自ら診療した複数の症例をまとめて報告すること(症例集積研究、ケースシリーズ)は、まれな疾患や新しい治療経験を共有する手段として、臨床医学で広く行われている正当な研究発表である。もちろん患者情報の匿名化や、施設・倫理指針に従った同意取得などの手続きは必要だが、発表そのものは倫理に反しない。なお、他人が経験・報告した症例を了解なく自分のものとして発表すれば盗用にあたる点とは区別しておく。
- ×e. 医療機器メーカーから研究助成を受けた研究結果を発表する。
大学や病院と企業が協力して研究を進める産学連携は、新しい医療機器や医薬品の開発に欠かせないものであり、企業から研究資金の助成を受けること自体は禁止されていない。助成を受けた研究の結果を発表することも当然認められる。ただし、資金提供元との関係は利益相反に該当するため、発表時にその事実を開示する必要がある(公的資金についても、研究費の出所は謝辞などに明記するのが通例である)。開示を前提とすれば、倫理に反する行動ではない。
研究活動における不正行為(特定不正行為)
文部科学省「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」では、次の三つを特定不正行為と定義している(頭文字からFFPと呼ばれる)。 ・捏造(fabrication): 存在しないデータや研究結果などを作成すること。 ・改ざん(falsification): 研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データや研究活動によって得られた結果などを真正でないものに加工すること。 ・盗用(plagiarism): 他の研究者のアイデア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文または用語を、当該研究者の了解または適切な表示なく流用すること。 このほか、同じ内容を複数の雑誌に投稿する二重投稿や、研究に実質的に関与していない者を著者に加える不適切なオーサーシップなども、好ましくない研究行為とされる。
利益相反(COI)の開示
企業からの研究費、講演料、原稿料、株式、顧問料などの経済的関係は、研究結果の解釈や発表の仕方を偏らせるおそれがある。利益相反は存在すること自体ではなく、隠すことが問題であり、適切に開示・管理することで研究の透明性と社会からの信頼が保たれる。臨床研究法のもとでは、特定臨床研究について利益相反管理が法的に求められている。
個人情報の保護
症例報告や臨床研究の発表では、氏名・イニシャル・住所・診療録番号・詳細な日付・顔貌など、個人の特定につながる情報を除く。必要に応じて本人の同意を得る。
POINT
・研究不正の三つ(FFP): 捏造・改ざん・盗用。いずれも職業倫理に反する。 ・利益相反は「あること」ではなく「隠すこと」が問題。発表・論文では開示が必須。 ・企業からの研究助成を受けた研究も、利益相反を開示すれば発表してよい。 ・発表では患者が特定されないよう個人情報を匿名化する。 ・自験例をまとめた症例報告・ケースシリーズは正当な研究発表である。
