「自分が悪い」と確信してしまう心―罪業妄想から読み解く妄想と疾患の対応表
第114回医師国家試験 E問題 第13問
国試問題にチャレンジ
うつ病でみられるのはどれか。
- a.誇大妄想
- b.罪業妄想
- c.追跡妄想
- d.被毒妄想
- e.物盗られ妄想
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
妄想は根拠がないのに強く確信され訂正できない考えで、その内容は背景疾患と結びつきやすい特徴があります。うつ病では抑うつ気分に一致して自分を過小評価する微小妄想がみられ、罪業妄想・心気妄想・貧困妄想が三大微小妄想とされます。これに対し、誇大妄想は躁状態、追跡妄想や被毒妄想などの被害妄想は統合失調症、物盗られ妄想はAlzheimer型認知症、嫉妬妄想はアルコール依存症で代表的です。妄想を伴ううつ病は重症で自殺の危険が高く、自殺念慮の確認が不可欠であり、抗うつ薬と抗精神病薬の併用や電気けいれん療法が治療選択肢となります。妄想の内容と気分との一致を手がかりに疾患を推定する視点は、精神科診療の基本として身につけておきたい知識です。
解答・解説
正解はbです
妄想とは、根拠がなく誤っているにもかかわらず強く確信され、周囲が論理的に説明しても訂正できない考えのことである。妄想は内容によって分類され、どのような内容の妄想が出るかは背景にある疾患と結びつきやすい。 本問は、妄想の内容と疾患の対応を整理しておけば解ける。 ・うつ病(うつ状態):自己を過小評価する「微小妄想」。罪業妄想・心気妄想・貧困妄想が代表で、三大微小妄想とよばれる。 ・躁状態:自己を過大評価する「誇大妄想」。 ・統合失調症:他者から害を加えられるという「被害妄想」(追跡妄想、被毒妄想、注察妄想など)が代表。 ・認知症(特にAlzheimer型):物盗られ妄想。 うつ病で妄想がみられる場合、その内容は抑うつ気分に沿った(気分に一致した)ものになるのが特徴で、自分は罪深い、重い病気にかかっている、お金がなくなって破滅する、といった悲観的な確信となる。したがって、選択肢のうちうつ病でみられるのは罪業妄想である。
選択肢考察
- ×a. 誇大妄想
誤り。誇大妄想は自分の能力・地位・財産・血筋などを実際よりはるかに大きく確信する妄想で、「自分は特別な力をもっている」「高貴な家柄の出である(血統妄想)」「自分は神の使いである(宗教妄想)」などの形をとる。双極性障害の躁状態で典型的にみられ、統合失調症や神経梅毒の進行麻痺でもみられる。うつ病の微小妄想とは方向が正反対である。
- ○b. 罪業妄想
正しい。罪業妄想は「自分は取り返しのつかない悪いことをした」「家族や周囲に迷惑をかけた罪深い人間だ」と、事実に反して確信する妄想である。うつ病でみられる微小妄想の代表であり、心気妄想・貧困妄想とともに三大微小妄想とされる。強い自責感と結びつき自殺の危険を高めるため、この妄想を伴うときは自殺念慮を必ず確認する。
- ×c. 追跡妄想
誤り。追跡妄想は「誰かに後をつけられている」「組織に追われている」と確信する妄想で、被害妄想の一種である。統合失調症で多くみられる。覚醒剤などの物質による精神病性障害でもみられることがある。
- ×d. 被毒妄想
誤り。被毒妄想は「食事や飲み物に毒を入れられている」と確信する妄想で、被害妄想の一種である。統合失調症で多く、認知症でもみられる。妄想のために食事や服薬を拒否することがあり、栄養状態や治療継続に影響する点に注意が必要である。
- ×e. 物盗られ妄想
誤り。物盗られ妄想は、財布や通帳などをしまった場所を忘れたことを自覚できず、「誰かに盗まれた」と確信する妄想で、被害妄想の一種である。認知症、特にAlzheimer型認知症の初期から中期に多く、身近で世話をしている家族や介護者が「犯人」とされやすい。
妄想の内容による分類と主な疾患
・微小妄想(うつ病・うつ状態) 罪業妄想:自分は罪深い、悪いことをした 心気妄想:自分は重い病気(がんなど)にかかっている 貧困妄想:お金がなくなり破産する、生活できなくなる さらに重症になると、「自分の内臓はもうない」「自分は死ぬこともできない」といった虚無妄想(Cotard症候群)がみられることがあり、高齢者の重症うつ病で知られる。 ・誇大妄想(躁状態、統合失調症、進行麻痺) 血統妄想、宗教妄想、発明妄想など ・被害妄想(統合失調症に多い) 追跡妄想、被毒妄想、注察妄想(見張られている)、迫害妄想など ・物盗られ妄想(認知症、特にAlzheimer型) ・嫉妬妄想(配偶者が浮気していると確信する):アルコール依存症で有名である。
精神病性の特徴を伴ううつ病
うつ病に妄想を伴う場合は重症で、自殺の危険が高い。治療は抗うつ薬に抗精神病薬を併用するほか、電気けいれん療法(ECT)が有効である。
気分に一致した妄想
うつ病の微小妄想や躁病の誇大妄想のように、気分の状態と内容が一致する妄想を「気分に一致した精神病性の特徴」とよぶ。気分と無関係な被害妄想が目立つ場合は、統合失調症などの他疾患も鑑別に挙げる。
POINT
・うつ病では微小妄想(罪業妄想・心気妄想・貧困妄想)がみられる。 ・躁状態では誇大妄想(血統妄想・宗教妄想など)がみられる。 ・統合失調症では被害妄想(追跡妄想・被毒妄想・注察妄想など)が多い。 ・物盗られ妄想は認知症(Alzheimer型)、嫉妬妄想はアルコール依存症が有名。 ・妄想を伴ううつ病は自殺リスクが高い。
