「明日から産休」はどの法律が守る?―似た名前の法律に惑わされない母性保護の整理術
第114回医師国家試験 C問題 第51問
国試問題にチャレンジ
35歳の初妊婦(1妊0産)。妊娠33週6日。妊婦健康診査のため来院した。これまでの妊娠経過に異常を認めていなかった。脈拍96/分,整。血圧126/68mmHg。尿所見:蛋白(-),糖(-)。子宮底長29cm,腹囲94cm。内診で子宮口は閉鎖している。胎児推定体重2,120g,羊水指数〈AFI〉18cm。胎盤は子宮底部に位置している。職業は事務職である。明日から休業を申請するという。 この妊婦の休業を規定する法律はどれか。
- a.健康増進法
- b.母子保健法
- c.母体保護法
- d.労働基準法
- e.次世代育成支援対策推進法
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
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医学生
ドクター
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ドクターまとめ
経過良好な妊婦が分娩予定日の6週間前(単胎で妊娠34週0日)に申請する休業は、いわゆる産前休業であり、労働基準法第65条に規定されています。産前休業は6週間(多胎妊娠は14週間)で本人の請求が要件となる一方、産後休業は8週間が原則就業禁止で、産後6週間経過後は本人の請求と医師の許可があれば就業できます。母子保健法は母子健康手帳や妊婦健診・乳幼児健診、母体保護法は不妊手術と人工妊娠中絶、健康増進法は国民の健康増進や受動喫煙対策、次世代育成支援対策推進法は事業主の行動計画を定める法律で、いずれも休業の規定はありません。母性健康管理措置は男女雇用機会均等法、育児休業は育児・介護休業法など、制度ごとの根拠法を中身で区別しておくことは、試験対策だけでなく働く妊婦を臨床で支援するうえでも役立ちます。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・35歳の初妊婦(1妊0産)。分娩時35歳以上の初産婦は高年初産婦とされるが、これまでの妊娠経過に異常はない。 ・妊娠33週6日。翌日には妊娠34週0日となる。分娩予定日(妊娠40週0日)までちょうど6週間である。 ・血圧126/68mmHgで高血圧はなく、尿蛋白・尿糖も陰性であり、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病を示唆する所見はない。 ・子宮底長29cm、胎児推定体重2,120gは週数相当であり、羊水指数(AFI: amniotic fluid index)18cmも正常範囲(おおむね5〜24cm)にある。 ・子宮口は閉鎖しており切迫早産の所見はなく、胎盤は子宮底部に付着していて前置胎盤もない。 ・職業は事務職で、明日から休業を申請する予定である。
考え方
以上から、母体・胎児ともに経過良好な単胎妊娠であり、医学的な理由による休業(切迫早産などでの安静・入院)ではない。分娩予定日の6週間前から取得する、いわゆる産前休業(産休)を申請しようとしている場面である。 産前・産後休業は、労働者の労働条件の最低基準を定めた労働基準法(第65条)に規定されている。産前休業は「6週間(多胎妊娠では14週間)以内に出産する予定の女性が請求した場合」に就業させてはならないとするもので、本人の請求が要件となる。本例は翌日に分娩予定日の6週前に達するため、そこから請求に基づいて休業できる。 本問は、母子保健や母性保護に関係する似た名称の法律の中から、労働に関する規定がどの法律に置かれているかを区別できるかを問うている。
選択肢考察
- ×a. 健康増進法
健康増進法(2002年制定)は、国民の健康の増進を総合的に推進するための基本的事項を定めた法律である。国民健康・栄養調査の実施、市町村による健康増進事業(健康相談、がん検診など)、特定給食施設における栄養管理、受動喫煙の防止(2018年改正で原則屋内禁煙を規定)などを定める。妊婦の休業に関する規定はない。
- ×b. 母子保健法
母子保健法(1965年制定)は、母性ならびに乳児・幼児の健康の保持・増進を目的とする法律である。妊娠の届出、母子健康手帳の交付、妊産婦・乳幼児の健康診査(1歳6か月児健診、3歳児健診など)、保健指導・訪問指導、低出生体重児(2,500g未満)の届出、未熟児養育医療などを定めている。本例が受けている妊婦健康診査はこの法律に基づくものであるが、産前休業の規定は含まれていない。
- ×c. 母体保護法
母体保護法は、1996年に優生保護法から優生思想に関する規定を削除して改称された法律である。不妊手術および人工妊娠中絶に関する事項(人工妊娠中絶を行えるのは都道府県医師会が指定する医師であることなど)や、受胎調節の実地指導などを定め、母性の生命・健康を保護することを目的とする。名称は似ているが、妊婦の就労や休業に関する規定はない。
- ○d. 労働基準法
労働基準法は、労働時間、休日、賃金、年次有給休暇など、労働条件の最低基準を定めた法律である。第65条で、使用者は6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性が休業を請求した場合には就業させてはならないこと(産前休業)、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないこと(産後休業)を定めている。本例は翌日に妊娠34週0日となり、分娩予定日まで6週間となるため、本人の請求により産前休業を取得できる。このほか同法は、妊婦の請求による軽易な業務への転換、妊産婦の危険有害業務の就業制限、妊産婦が請求した場合の時間外労働・休日労働・深夜業の制限、生後1年未満の子を育てる女性の育児時間(1日2回、各30分以上)なども規定している。
- ×e. 次世代育成支援対策推進法
次世代育成支援対策推進法(2003年制定)は、少子化の進行を背景に、次代の社会を担う子どもが健やかに生まれ育つ環境の整備を目的とする法律である。国が行動計画策定指針を示し、地方公共団体や事業主(常時雇用する労働者が101人以上の企業は義務、100人以下は努力義務)に、仕事と子育ての両立支援などに関する行動計画の策定を求めている。基準を満たした企業は「くるみん」として認定される。個々の労働者の産前休業そのものを規定する法律ではない。
妊娠・出産・育児と働く女性を守る主な法律
・労働基準法: 産前休業(6週間、多胎14週間、本人の請求による)、産後休業(8週間は原則就業禁止。ただし産後6週間を経過し、本人が請求して医師が支障ないと認めた業務への就業は可能)、軽易業務への転換、危険有害業務の就業制限、時間外・休日・深夜労働の制限、育児時間、生理日の休暇。 ・男女雇用機会均等法: 妊娠・出産を理由とする不利益取扱いの禁止、妊娠中・出産後の健康管理に関する措置(保健指導・健康診査を受けるための時間の確保、医師などの指導事項を守るための通勤緩和・休憩・勤務時間短縮などの措置)。医師などの指導内容を事業主に伝えるために「母性健康管理指導事項連絡カード」が用いられる。 ・育児・介護休業法: 子が原則1歳になるまでの育児休業(保育所に入れないなどの事情があれば最長2歳まで延長可能)、産後パパ育休(出生時育児休業)、短時間勤務制度など。 ・健康保険法: 産前産後休業中の出産手当金、出産育児一時金。 ・雇用保険法: 育児休業給付金。 ・母子保健法: 妊娠の届出、母子健康手帳、妊婦健康診査、乳幼児健診、低出生体重児の届出。 ・母体保護法: 不妊手術、人工妊娠中絶。
産前休業の期間の数え方
産前休業は出産予定日を基準とし、単胎では予定日の6週間前(42日前)から取得できる。妊娠40週0日を予定日とすると、34週0日から取得可能となる。実際の出産が予定日より遅れた場合、遅れた期間も産前休業に含まれる。産後休業は実際の出産日の翌日から起算する。
本例の妊娠経過の評価
子宮底長は妊娠週数におおむね相関し(妊娠後半ではおよそ「妊娠週数−5」cm前後が目安)、本例の29cmは34週相当として妥当である。AFIは5cm未満で羊水過少、24cm(または25cm)以上で羊水過多とされ、本例の18cmは正常範囲である。
POINT
・産前・産後休業は労働基準法(第65条)で規定される。 ・産前休業: 出産予定日前6週間(多胎妊娠は14週間)、本人の請求が必要。 ・産後休業: 8週間は原則就業禁止。産後6週間経過後は本人の請求と医師の許可があれば就業可。 ・母子保健法(母子健康手帳・妊婦健診・乳幼児健診)、母体保護法(不妊手術・人工妊娠中絶)、男女雇用機会均等法(母性健康管理措置)、育児・介護休業法(育児休業)との区別が頻出。
