「野菜の名前を言ってください」―9つの質問で見抜く改訂長谷川式スケール
第114回医師国家試験 C問題 第16問
国試問題にチャレンジ
ある検査の質問内容を以下に示す。 1) お歳はいくつですか。 2) 今日は何年の何月何日ですか。 3) 私たちがいまいるところはどこですか。 4) これから言う3つの言葉を言ってみてください。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。 5) 100から7 を順番に引いてください。 6) 私がこれから言う数字を逆から言ってください 7) 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。 8) これから5つの品物を見せます。それを隠しますのでなにがあったか言ってください。 9) 知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。 この心理・精神機能検査はどれか。
- a.田中・Binet式知能検査
- b.リバーミード行動記憶検査
- c.Wechsler成人知能検査〈WAIS-Ⅲ〉
- d.改訂長谷川式簡易知能評価スケール
- e.簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale〈BPRS〉]
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
年齢、日時と場所の見当識、3単語の記銘と遅延再生、100からの連続7減算、数字の逆唱、5つの物品の記銘、野菜の名前の想起という9項目は、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の構成です。HDS-Rは口頭の質問のみで5〜10分程度で実施でき、30点満点中20点以下で認知症が疑われ、書字や図形模写などを含み23点以下を目安とするMMSEとの違いが鑑別のポイントになります。田中・Binet式は主に小児の知能検査、WAISは成人の詳細な知能検査、リバーミード行動記憶検査は日常場面を模した記憶検査、BPRSは統合失調症などの精神症状の重症度評価尺度であり、目的がそれぞれ異なります。スクリーニング検査の点数だけで診断せず、経過や生活障害、治療可能な病態の除外と合わせて判断する姿勢が、認知症診療の基本となります。
解答・解説
正解はdです
本問は、提示された9つの質問項目から、どの心理・精神機能検査かを特定する問題である。
質問項目の整理
1) 年齢を尋ねる 2) 日付(年・月・日・曜日)を尋ねる:時間の見当識 3) 今いる場所を尋ねる:場所の見当識 4) 3つの言葉を復唱させる:即時記憶(記銘) 5) 100から7を順に引かせる:計算・注意の持続 6) 数字を逆から言わせる(数字の逆唱):注意・作業記憶(情報を一時的に頭に保ちながら操作する能力) 7) 先ほどの3つの言葉を思い出させる:遅延再生(近時記憶) 8) 5つの品物を見せて隠し、何があったかを答えさせる:視覚性の記銘 9) 野菜の名前をできるだけ多く言わせる:言語の流暢性(前頭葉機能を反映する) この9項目の構成は、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)そのものである。HDS-Rは口頭の質問だけで構成され、筆記・描画・動作の課題を含まない点が特徴であり、「野菜の名前」の想起課題や「5つの品物」の記銘課題はHDS-Rに特有の項目である。見当識・記憶・注意・言語流暢性を短時間で調べる、認知症のスクリーニング検査として用いられる。
選択肢考察
- ×a. 田中・Binet式知能検査
誤り。フランスのBinetが開発した知能検査を日本向けに改訂したもので、2歳から成人まで実施できるが、主に子どもの知的発達の評価や知的障害の判定に用いられる。年齢ごとに難易度を並べた問題群があり、どの年齢段階の問題まで正答できるかから精神年齢を求め、知能指数(IQ)を算出する。本問のような見当識や遅延再生を問う短い質問で構成される検査ではない。
- ×b. リバーミード行動記憶検査
誤り。英国のリバーミード・リハビリテーションセンターで開発された記憶検査(RBMT)である。人の顔と名前を覚える、持ち物を隠した場所を覚えておく、約束を思い出す、道順を覚える、物語を思い出すなど、日常生活に近い場面を模した課題で記憶障害を評価する。脳損傷後の記憶障害の評価やリハビリテーションの計画に用いられ、本問の項目構成とは異なる。
- ×c. Wechsler成人知能検査〈WAIS-Ⅲ〉
誤り。16〜89歳を対象とする個別式の知能検査である。複数の下位検査(単語、類似、算数、数唱、積木模様、符号など)を組み合わせ、言語性IQ・動作性IQ・全検査IQと、言語理解・知覚統合・作動記憶・処理速度の4つの群指数を算出する。知能の全体像と得意・不得意の偏りを詳しく評価できるが、実施に1時間以上かかり、本問のような短時間のスクリーニング検査ではない。なお現在は改訂版のWAIS-Ⅳが用いられ、言語性・動作性IQは廃止されて全検査IQと4つの指標得点で評価する。
- ○d. 改訂長谷川式簡易知能評価スケール
正しい。提示された9項目(年齢、日時の見当識、場所の見当識、3単語の記銘、100からの連続7減算、数字の逆唱、3単語の遅延再生、5つの物品の記銘、野菜の名前の想起)は、改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の構成と一致する。30点満点で、20点以下で認知症が疑われる。口頭の質問のみで5〜10分程度で実施でき、認知症のスクリーニングとして広く用いられている。
- ×e. 簡易精神症状評価尺度[Brief Psychiatric Rating Scale〈BPRS〉]
誤り。BPRSは、面接と観察によって精神症状の重症度を評価する尺度である。心気的訴え、不安、感情的引きこもり、思考解体、罪業感、緊張、衒奇症(奇妙なわざとらしい行動や姿勢)、誇大性、抑うつ気分、敵意、猜疑心、幻覚、不自然な思考内容、情動の平板化などの項目を、それぞれ重症度の段階で評点する。主に統合失調症の症状評価や治療効果の判定に用いられ、認知機能を測る検査ではない。
改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の構成と配点
1) 年齢:1点(2年までの誤差は正答) 2) 日時の見当識(年・月・日・曜日):4点 3) 場所の見当識:2点(自発的に答えられれば2点、ヒント付きの正答は1点) 4) 3つの言葉の記銘:3点 5) 100から7を順に引く(2回まで):2点 6) 数字の逆唱(3桁・4桁):2点 7) 3つの言葉の遅延再生:6点(自発的な再生は各2点、ヒントで再生できれば各1点) 8) 5つの物品の記銘:5点 9) 野菜の名前(言語の流暢性):5点(6個以上で得点、10個で満点) 合計30点満点、20点以下で認知症の疑いとする。年齢や教育歴の影響を比較的受けにくいとされる。
MMSE(Mini-Mental State Examination)との比較
MMSEも30点満点の認知機能スクリーニング検査で、23点以下で認知症の疑いとする(27点以下で軽度認知障害を疑う目安もある)。見当識、記銘、計算(連続7減算)、遅延再生などHDS-Rと共通する項目に加え、物品の呼称、文の復唱、3段階の口頭命令、文の読解、文を書く、図形(重なった五角形)の模写といった、言語・読み書き・構成(描画)・動作の課題を含む点がHDS-Rとの違いである。
その他の関連検査
・時計描画テスト(CDT):時計の文字盤と指定された時刻の針を描かせる。視空間認知や遂行機能を評価する。 ・MoCA-J(日本語版Montreal Cognitive Assessment):軽度認知障害の検出に優れ、26点以上が健常範囲の目安とされる。 ・WISC:Wechsler式の児童用知能検査。 ・PANSS(陽性・陰性症状評価尺度):BPRSと同様に統合失調症の症状評価に用いられる。
POINT
・「野菜の名前」「5つの品物」「数字の逆唱」「100から7を引く」「3単語の遅延再生」→ 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R) ・HDS-Rは30点満点、20点以下で認知症疑い。口頭質問のみで構成される ・MMSEは30点満点、23点以下で認知症疑い。書字・描画・動作の課題を含む ・田中・Binet式は主に小児の知能検査、WAISは16歳以上の詳細な知能検査 ・BPRSは統合失調症などの精神症状の重症度評価尺度
