すべての抗精神病薬が通る道―ドパミンD2受容体と4つのドパミン経路
第119回医師国家試験 F問題 第4問
国試問題にチャレンジ
抗精神病薬の作用と関連しているのはどれか。
- a.ドパミン受容体
- b.セロトニン受容体
- c.モノアミンオキシダーゼ
- d.アセチルコリンエステラーゼ
- e.ノルアドレナリントランスポーター
対話形式の解説
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ドクターまとめ
抗精神病薬は第一世代・第二世代を問わず、ドパミンD2受容体の遮断(または部分作動)を共通の主作用とし、中脳辺縁系での遮断により幻覚・妄想などの陽性症状を改善します。SDAやMARTAがもつ5-HT2A遮断は錐体外路症状の軽減などに寄与する付加的な作用であり、作用の中心はあくまでD2です。D2遮断は黒質線条体系で錐体外路症状、漏斗下垂体系で高プロラクチン血症、中脳皮質系で陰性症状の悪化を招くほか、悪性症候群の原因にもなります。MAO-B阻害は抗Parkinson病薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害は抗認知症薬、ノルアドレナリントランスポーター阻害はSNRIや三環系抗うつ薬の作用点であり、標的と薬効群を対応づけて整理することが重要です。作用機序とドパミン経路を結びつけて理解しておけば、効果と副作用を予測し、患者に合った薬剤選択ができるようになります。
解答・解説
正解はaです
本問は、抗精神病薬の作用機序の中心となる標的分子を問う一般問題である。選択肢には向精神薬・神経系作用薬の代表的な標的が並んでおり、それぞれ「どの薬効群の作用点か」を対応づけられるかが問われている。
抗精神病薬の作用の基本
統合失調症の陽性症状(幻覚・妄想など)は、中脳辺縁系ドパミン経路の機能亢進と関連すると考えられている(ドパミン仮説)。抗精神病薬は、第一世代(定型)・第二世代(非定型)を問わず、すべてがドパミンD2受容体の遮断(あるいはアリピプラゾールなどの部分作動)作用を共通にもち、この作用の強さが臨床的な抗精神病効果とよく相関する。したがって「抗精神病薬の作用と関連しているもの」として最もふさわしいのはドパミン受容体である。
セロトニン受容体の扱い
第二世代抗精神病薬の多くはセロトニン5-HT2A受容体遮断作用も併せもつため、紛らわしい選択肢である。しかし5-HT2A遮断はD2遮断に付加される作用であり、錐体外路症状の軽減などに寄与するものの、抗精神病作用の本体ではない。第一世代薬(ハロペリドールなど)は5-HT2A遮断を主作用としない。抗精神病薬全体に共通し、作用の中心となるのはD2受容体であるという点から単一の正解が決まる。
その他の選択肢
モノアミンオキシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ、ノルアドレナリントランスポーターは、それぞれ抗Parkinson病薬(MAO-B阻害薬)、抗認知症薬、抗うつ薬などの標的であり、抗精神病薬の作用点ではない。
選択肢考察
- ○a. ドパミン受容体
正しい。抗精神病薬の主作用はドパミンD2受容体の遮断である。中脳辺縁系経路でのD2遮断により幻覚・妄想などの陽性症状が改善する。一方、他のドパミン経路での遮断は副作用の原因となる。黒質線条体経路の遮断では錐体外路症状(薬剤性パーキンソニズム、急性ジストニア、アカシジア、遅発性ジスキネジア)、漏斗下垂体経路の遮断では高プロラクチン血症(乳汁漏出、無月経、女性化乳房)、中脳皮質経路の遮断では陰性症状や認知機能の悪化が生じうる。悪性症候群もドパミン遮断と関連する重篤な副作用である。アリピプラゾールやブレクスピプラゾールはD2受容体の部分作動薬で、遮断とは異なるが、やはりD2受容体を介して作用する。
- ×b. セロトニン受容体
単一の正解としては選ばない。リスペリドン、パリペリドン、ペロスピロン、ブロナンセリンなどのセロトニン・ドパミン遮断薬(SDA)や、オランザピン、クエチアピン、クロザピンなどの多元受容体作用抗精神病薬(MARTA)は、D2遮断に加えて5-HT2A受容体遮断作用をもつ。5-HT2A遮断は黒質線条体系でのドパミン放出を相対的に保ち、錐体外路症状を起こしにくくすることや、陰性症状への効果に寄与すると考えられている。しかしこれはD2遮断を補う付加的な作用であり、第一世代薬には主作用として備わっていない。セロトニン関連の薬剤として代表的なのは、セロトニントランスポーターを阻害する選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)などの抗うつ薬・抗不安薬である。
- ×c. モノアミンオキシダーゼ
誤りである。モノアミンオキシダーゼ(MAO)はドパミン、セロトニン、ノルアドレナリンなどのモノアミンを分解する酵素で、A型とB型がある。MAO-B阻害薬(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド)は脳内のドパミン分解を抑え、Parkinson病の治療薬として用いられる。MAO阻害薬は海外では抗うつ薬としても使われてきたが、日本では抗うつ薬として承認されたMAO阻害薬は現在ない。いずれにしてもモノアミン濃度を高める方向の薬であり、ドパミン作用を抑える抗精神病薬とは逆向きである。
- ×d. アセチルコリンエステラーゼ
誤りである。アセチルコリンエステラーゼはシナプス間隙でアセチルコリンを分解する酵素である。これを阻害するドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンは脳内のアセチルコリン濃度を高め、Alzheimer型認知症(ドネペジルはLewy小体型認知症にも)の症状進行を抑える抗認知症薬として用いられる。末梢作用型のコリンエステラーゼ阻害薬(ネオスチグミン、ピリドスチグミンなど)は重症筋無力症の治療に用いられる。抗精神病薬の作用点ではない。なお、抗精神病薬による錐体外路症状に対しては、逆に抗コリン薬(ビペリデンなど)が用いられる。
- ×e. ノルアドレナリントランスポーター
誤りである。ノルアドレナリントランスポーターはシナプス前終末へのノルアドレナリンの再取り込みを担う。これを阻害する薬剤には、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI:デュロキセチン、ベンラファキシン、ミルナシプラン)や三環系抗うつ薬などの抗うつ薬、注意欠如・多動症(ADHD)治療薬のアトモキセチンがある。いずれもノルアドレナリン作用を高める薬であり、抗精神病薬の作用機序とは関係しない。
抗精神病薬の分類
・第一世代(定型)抗精神病薬:ハロペリドール(ブチロフェノン系)、クロルプロマジン(フェノチアジン系)など。D2遮断が主作用。高力価薬は錐体外路症状が出やすく、低力価薬は抗コリン作用・抗ヒスタミン作用・α1遮断作用による鎮静、口渇、便秘、起立性低血圧が出やすい。 ・第二世代(非定型)抗精神病薬 SDA:リスペリドン、パリペリドン、ペロスピロン、ブロナンセリン、ルラシドン MARTA:オランザピン、クエチアピン、アセナピン、クロザピン(体重増加・耐糖能異常に注意。オランザピンとクエチアピンは糖尿病に禁忌) DSS(ドパミン受容体部分作動薬):アリピプラゾール、ブレクスピプラゾール ・クロザピンは治療抵抗性統合失調症に用いられ、無顆粒球症や心筋炎などのリスクから、登録制の血液モニタリング下で使用する。
ドパミン経路とD2遮断の効果
・中脳辺縁系:陽性症状の改善(治療効果) ・中脳皮質系:陰性症状・認知機能の悪化(副作用) ・黒質線条体系:錐体外路症状(副作用) ・漏斗下垂体系:高プロラクチン血症(副作用)
選択肢の標的と代表薬の対応
・ドパミンD2受容体遮断:抗精神病薬、制吐薬(メトクロプラミド、ドンペリドン) ・セロトニントランスポーター阻害:SSRI(抗うつ薬・抗不安薬) ・MAO-B阻害:抗Parkinson病薬 ・アセチルコリンエステラーゼ阻害:抗認知症薬、重症筋無力症治療薬 ・ノルアドレナリントランスポーター阻害:SNRI、三環系抗うつ薬、アトモキセチン
補足
近年、ドパミン受容体を直接遮断しない作用機序(ムスカリン受容体作動薬など)をもつ統合失調症治療薬が海外で承認されているが、現在臨床で用いられている抗精神病薬の大部分はD2受容体を作用の中心としている。
POINT
・抗精神病薬に共通する主作用はドパミンD2受容体遮断(または部分作動)である。 ・第二世代薬(SDA、MARTA)は5-HT2A遮断も併せもち、錐体外路症状が出にくいが、作用の中心はD2である。 ・D2遮断の副作用:錐体外路症状、高プロラクチン血症、悪性症候群。 ・MAO-B阻害=抗Parkinson病薬、AChE阻害=抗認知症薬、NAT阻害=SNRI・三環系抗うつ薬・アトモキセチン。
