測るほど狭くなる視野―らせん状視野が教える「心因性」の見抜き方
第114回医師国家試験 C問題 第15問
国試問題にチャレンジ
視野異常と疾患の組合せで正しいのはどれか。
- a.管状視野 ―― 視神経炎
- b.同名半盲 ―― 黄斑疾患
- c.盲中心暗点 ―― 緑内障
- d.Bjerrum暗点 ―― 視路障害
- e.らせん状視野 ―― 心因性視力障害
対話形式の解説
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ドクターまとめ
視野異常の形は視覚経路の障害部位を反映し、Bjerrum暗点や鼻側階段は緑内障、盲中心暗点は乳頭黄斑線維束を侵す視神経炎や中毒性視神経症、同名半盲は視交叉より後ろの視路障害、黄斑疾患は中心暗点や変視症に対応します。これに対し、測定を重ねるほど視野が狭くなるらせん状視野や、検査距離を変えても見える範囲の実寸が変わらない管状視野は解剖学的に説明できない視野であり、心因性視力障害に特徴的です。心因性視力障害は学童期の女児に多く、レンズ打ち消し法での視力改善や高度の求心性視野狭窄も手がかりになりますが、VEPやERGなどの他覚的検査で器質的疾患を除外することが診断の前提です。視野の形から障害部位を推定する考え方は、眼科のみならず脳神経領域の診療でも欠かせない基本となります。
解答・解説
正解はeです
本問は、視野異常のパターンと、それを生じる代表的な疾患との対応を問う問題である。 視野異常の形は、視覚の経路のどこが障害されたかを反映する。網膜の神経線維(網膜神経節細胞の軸索)は視神経乳頭に集まり、視神経→視交叉→視索→外側膝状体→視放線→後頭葉視覚野へと進む。この経路のどこが障害されるかで、特徴的な視野欠損が生じる。 ・網膜・視神経乳頭レベル:神経線維の走行に沿った欠損(緑内障のBjerrum暗点など)、黄斑の障害による中心暗点 ・視神経レベル:中心暗点・盲中心暗点(視神経炎など) ・視交叉レベル:両耳側半盲(下垂体腺腫など) ・視交叉より後ろ(視索〜後頭葉):同名半盲 また、器質的な障害がないのに視力・視野の異常を訴える心因性視力障害では、解剖学的には説明できない特有の視野パターン(らせん状視野、管状視野)がみられる。各選択肢について、視野異常の形から障害部位を考え、疾患と結びつけて判断する。
選択肢考察
- ×a. 管状視野 ―― 視神経炎
誤り。管状視野とは、視野を測る距離(検査面までの距離)を変えても、見える範囲の大きさ(実寸)が変わらない視野である。筒をのぞいているような状態にたとえられる。本来、器質的な視野狭窄であれば視野は角度で決まるため、遠くで測れば見える範囲は広がるはずであり、管状視野は光学的・解剖学的に説明できない。心因性視力障害に特徴的な所見である。視神経炎では、中心暗点や盲中心暗点がみられる。
- ×b. 同名半盲 ―― 黄斑疾患
誤り。同名半盲は、両眼の同じ側(右または左)の視野が欠ける状態で、視交叉より中枢側(視索、外側膝状体、視放線、後頭葉)の障害で生じる。原因としては脳梗塞・脳出血などの脳血管障害や脳腫瘍が代表的である。後頭葉の障害では黄斑部に対応する中心視野が保たれること(黄斑回避)がある。一方、黄斑疾患(加齢黄斑変性など)では片眼ずつの中心暗点や変視症(ゆがんで見える)を生じる。
- ×c. 盲中心暗点 ―― 緑内障
誤り。盲中心暗点は、固視点(視野の中心)から生理的な盲点(Mariotte盲点)までが連続して欠ける暗点である。視神経乳頭と黄斑を結ぶ乳頭黄斑線維束の障害を意味し、視神経炎、中毒性視神経症(エタンブトールなど)、Leber遺伝性視神経症などでみられる。緑内障では乳頭黄斑線維束は末期まで比較的保たれ、中心視野は最後まで残りやすい。
- ×d. Bjerrum暗点 ―― 視路障害
誤り。Bjerrum暗点(弓状暗点)は、盲点から上方または下方に弓を描いて鼻側へ伸びる暗点で、緑内障に特徴的である。緑内障では視神経乳頭の上下極から出入りする神経線維が障害されやすく、その線維が網膜上で弓状に走行するため、この形の欠損となる。緑内障の視野変化は、傍中心暗点や鼻側階段から始まり、Bjerrum暗点を経て視野狭窄が進む。視交叉より後ろの視路障害で生じるのは同名半盲などであり、Bjerrum暗点ではない。
- ○e. らせん状視野 ―― 心因性視力障害
正しい。らせん状視野は、Goldmann視野計などで視標を周辺から中心へ動かして一周ずつ測るうちに、測るほど視野がしだいに狭くなり、記録した等感度線がらせん(渦巻き)状になるものである。検査中に注意の集中が保てず変動することで生じ、器質的疾患では説明できない。心因性視力障害に特徴的な所見であり、管状視野とともに診断の手がかりとなる。心因性視力障害ではこのほか、視野が中心に向かって強く狭まる高度の求心性視野狭窄や、色覚異常の訴えを伴うこともある。ただし、これらの所見があっても、器質的疾患が本当に隠れていないかを丁寧に診察して確かめる必要がある。
主な視野異常と原因
・中心暗点:視野の中心が見えない。黄斑疾患(加齢黄斑変性、黄斑円孔など)、視神経炎 ・盲中心暗点:固視点と盲点がつながった暗点。視神経炎、中毒性視神経症(エタンブトール、メタノールなど)、Leber遺伝性視神経症 ・傍中心暗点、鼻側階段、Bjerrum暗点(弓状暗点):緑内障 ・求心性視野狭窄:網膜色素変性(輪状暗点から進行)、末期緑内障。器質的疾患がないのに高度の求心性視野狭窄を示す場合は心因性視力障害も考える ・両耳側半盲:視交叉の障害(下垂体腺腫、頭蓋咽頭腫など) ・同名半盲:視索〜後頭葉の障害(脳梗塞、脳出血、脳腫瘍)。後頭葉病変では黄斑回避を伴うことがある ・同名上四分盲:側頭葉の視放線(Meyerループ)の障害 ・らせん状視野、管状視野:心因性視力障害
心因性視力障害
眼球や視路に器質的な異常がないのに視力低下や視野異常を訴えるもので、学童期(特に8〜12歳前後)の女児に多い。家庭や学校での心理的ストレスが背景にあることが多い。レンズ打ち消し法(凸レンズと凹レンズを組み合わせて度数をほぼ打ち消し、矯正したように見せる)で視力が改善する、などが手がかりとなる。視野では、検査中にしだいに狭くなるらせん状視野、測定距離を変えても大きさが変わらない管状視野のほか、視野が中心付近まで強く狭まる高度の求心性視野狭窄がみられることがある。色覚検査で異常を示すこともある。こうした所見は心因性を疑う手がかりにはなるが、それだけで診断を確定してはならない。視覚誘発電位(VEP)や網膜電図(ERG)などの他覚的検査が正常であることを確認し、器質的疾患(視神経疾患、網膜疾患、頭蓋内疾患など)が本当にないかを丁寧に診察・検査して除外したうえで診断する。
POINT
・らせん状視野、管状視野 → 心因性視力障害 ・Bjerrum暗点(弓状暗点)、鼻側階段 → 緑内障 ・盲中心暗点、中心暗点 → 視神経炎などの視神経疾患(緑内障では中心視野は末期まで保たれやすい) ・同名半盲 → 視交叉より後ろの視路障害、両耳側半盲 → 視交叉障害 ・黄斑疾患 → 中心暗点・変視症 ・心因性視力障害では高度の求心性視野狭窄や色覚異常を伴うこともある。器質的疾患の除外が診断の前提
